ほたるのうんめい

ruki

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簡単な挨拶から始まったそのメッセージはなんの自己紹介もなく、すぐに『いつ会えますか?』の文字が綴られていた。

『いつ会えますか?』
・・・え?
もう会うの?

正直オレは驚いた。こう言うのは何度かメッセージでやり取りし、それで相性が良さそうだと分かったら、初めて会う約束をするものではないのだろうか。なのにこの相手は挨拶もそこそこにもう会う約束をしようとしている。

大丈夫なのか?

この手のサイトはピンキリで、いかがわしい目的や詐欺まがいの行為も行われるようなところもあるが、このサイトは初めにIDを登録しなければいけないので安全なサイトだ・・・と思っていたけど、本当に大丈夫なのか?

あまりに唐突に会おうとする相手に警戒心が芽生える。けれど、プロフィールを見た感じではそんな風には思えず、とりあえずオレはまずはメッセージでやり取りをしましょうと返した。その上で良ければ会いましょう、と。

これで拒否られるかもしれない。でもそれで拒否るなら、やっぱり怪しいと言うことなのだろう。そう思っていたけど、Kからは同意の返事が来た。だからオレたちは改めて自己紹介からはじめることにした。

Kは『朝倉蛍一あさくらけいいち』と名乗った。その名前にオレは驚く。このKも蛍という漢字だったからだ。

オレはほたるに縁があるのかな。

そう思いながら何度かメッセージを交わしたオレたちだけど、その度に朝倉さんから『もう会えますか?』という言葉が送られてくる。

初めはその問いにもう少しお話しましょうとかわしていたけど、あまりに毎回言われるので、オレもさすがに変に思う。

なんでそんなに会いたがるのだろうか。

そんな朝倉さんにオレの警戒心が働き、何度かメッセージのやり取りをしているにもかかわらず、オレはプライベートのことは一切話さなかった。

やめた方がいいだろうか。

メッセージの最後に必ず書かれる『もう会えますか?』の文字に、オレの中で朝倉さんへの不信感が芽生える。なのにその反面なんだか放っておけない気持ちもあり、ずるずると身のない話をし続けていた。

やっぱり名前が『ケイ』だからだろうか。

歳だけ見ればいい加減いい大人だ。放っておけないも何もない。そもそも朝倉さんのことはほとんど知らないのだ。なのに切ることが出来ない。なんだか気になってしまうのだ。

今日も取り留めのないメッセージのやり取りをして、オレはスマホを消した。朝倉さんとメッセージをし始めてどれくらい経っただろうか。その割に全くお互いを知ることのない、意味のないやり取りばかりだ。

だったらいっそ、会ってしまおうか。そうすればこんな無駄なやり取りで時間を無駄にすることもない。

そう思ってオレは遂に、次のメッセージで、会う約束をすることにした。

そして迎えた週末の午後のカフェ。そこで会うことにしたオレたちは、つい5分ほど前に初めましての挨拶をし、オーダーしていたコーヒーが来たところだ。そのコーヒーを脇によせ、いまオレの前には白い紙が広げられている。

「僕のことを気に入ってくださって、ありがとうございます。僕とお付き合いしてくださるのなら、ここにサインをお願いします」

そう言ってペンを渡される。

目の前で妖艶に微笑む朝倉さんは実物もかなりの美人だ。

写真では分かりにくかったが、左の目尻の下に小さなほくろがある。泣きぼくろだ。それがとても色っぽい。それに声も落ち着いていて耳に心地よく、なんと言っても香りがとても上品だ。

見た目も香りもパーフェクト。
話し方も仕草も品がある。

ここまで来ると、本当になぜこの年まで結婚に縁がなかったのかと真剣に悩むところだが、オレの前に広げられた紙を見て、その答えがすぐにわかった。

「オレたちはメッセージのやり取りはしていたけど会ったのはこれが初めてで、まだ5分しか経っていないよね?」

思わず確認する声がうわずる。

「はい。でも僕は結婚を希望しているんです」

そう言って朝倉さんは艶やかに笑う。

「・・・だからと言って、これはまだ早くないか?もう少し話をして付き合って、互いのことを知ってからの方が・・・」

「お付き合いをして結婚するのなら、結婚してからお付き合いをしても変わらないですよね?」

ね?と小首を傾げる姿はかわいらしい。かわいらしいけれども、それ、全然違うから・・・!

お付き合いをしてやっぱり縁がなかった、と言うこともあるだろう。その場合、結婚はしない。しないのだけど、オレは朝倉さんを見た。

きっと彼の中で、付き合った人と結婚することは決まっているのだろう。
つまり、結婚しないのなら付き合わない。

彼に会ってまだ5分。だけどオレには十分だった。

『蛍』と付くやつはみんな変わったヤツばかりなのか?

なぜオメガなのにこうも無防備なのか。よく今まで何事もなく過ごせて来たものだ。

蛍と同じでこの朝倉蛍一も放っておけない。

オレはペンを手に取ると、目の前の紙を埋めていく。

これを書くのは二度目だ。

名前や住所など必要な欄を埋めていき、最後にバッグから取り出した判子を押した。
社会人になって、つねに持ち歩くようにしている判子は普段あまり出番がないけれど、こうしてたまに役に立つ。

しかし、こんなに早くまたこれを書くことになるとは・・・。

オレがいま判を押したものは『婚姻届』。

初対面でこれを出す人も大概だが、それを書くオレもどうかしている。
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