ほたるのうんめい

ruki

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ほたるのしあわせ

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こんなに幸せでいいのだろうかと思う。

激しい恋と絶望に嵐のように襲われたあと、僕は抜け殻のようになっていた。それでも時が心を癒し、ようやく前へ進めるようになって間もなく、彼に出会った。

第一印象は優しい人。

彼の前にも何人かメッセージを送り、実際会ったけれど、彼ほど僕を気にかけてくれる人はいなかった。

そんな彼の印象は会ってみても変わらず・・・いや、もっと良くなった。

初対面にも関わらず出した婚姻届にも引くどころか僕を心配してくれる。直接言葉で表さなくても、彼の香りが教えてくれた。
結婚にがっついたオメガを利用しようとも、頭がおかしいと突っぱねることも無く、僕のことを考え、署名までしてくれた。

この用紙にサインをしてくれたのはこの人が初めてだ。しかも捺印まで押したそれを僕に渡してくれたのだ。だから身体の相性を確かめたいと言われても、その言葉どおりに受け取ることができた。ただやりたいだけじゃない。本当に確かめたいのだと・・・。

だけど正直、そのままホテルに向かったのには驚いた。でも、その困惑に気付いた彼がすぐに予定を変えようとしてくれた時には、彼の誠実さが本物だって分かっていたから、僕はそのままホテルへ向かってもらった。

誰と結婚しても良かった。
本当に結ばれたい人は他の人を選び、けれど僕はその人に縛られたまま身動きが取れない。それでも誰かの番になってしまえば、この呪縛から開放される。
だけど心はそのままあの人しか愛せなかったから、たとえ番になってあの人への思いが消えたとしても、もう誰も僕の心を染めることは出来ない。だからうなじを噛んでもらえれば誰でも良かった。そして叶うなら、そのまま僕のそばにいて欲しかった。

だって一人は寂しいから。
この先の長い人生、一人で過ごすのは嫌だった。
だからうなじを噛んでもらうなら、一生を添い遂げてくれる人がいい。たとえ愛することが出来なくても、いい人で尊敬できる相手がいいと思った。

この人なら、尊敬できるかも。

初めてのメッセージで僕を気遣ってくれた彼は、会ってもなお変わらず、僕を思いやり、優しくしてくれた。
そして聞かなくても、彼は離婚の理由や番の有無を教えてくれた。

だから僕は、この人と肌を合わせることを受け入れた。

誰かの車に二人きりで乗るのも初めてなら、ホテルに行くのも初めてだった。
僕は今まで、誰とも付き合ったことは無かった。

どこかにいるという運命の番。
それを本当に信じていた訳では無いけれど、それでも心を通じ合える人と出会い、番いたいとずっと思ってきた。だから、本当に運命の番に出会う奇跡が僕の身に訪れたときは本当にうれしかった。けれどそれはすぐに絶望に変わり、僕を闇の底へと突き落とした。

そして気がつくとこの年まで僕の身体は清いままだった。

だから正直怖かった。
誰かとすることが・・・身体を開き他人を受け入れる事が怖かったのだ。

でもその人はそんな僕の心も分かってくれた。
何も言わないのにそれを感じ取り、僕に聞いてくれた。そして言ったのだ。全てを委ねればいい、と。

この人なら大丈夫。

不思議とそう思えた。

何もわからず動けない僕に苛立ちもせず、全てが全て優しかった。僕が怖くないように、痛くないように、ずっと僕のことを考えて動いてくれた彼でこの身がいっぱいになった時、いつの間にか心も彼でいっぱいになっていた。

もう誰も染めることの出来ないと思った心が、彼でいっぱいに満たされていく。

もっと深く繋がりたい。
ずっとこの人と一緒にいたい。

だけど、もし僕の身体が彼を満たせなかったら?
身体の相性が悪かったら、結婚してもらえない。このうなじを噛んでもらえない。

だけどそんな思いは杞憂だった。

彼は僕の身体を気に入ってくれて、その上で僕の事を心配してくれた。

知るはずのない僕の事情を感じ取り、僕の背中を押そうとしてくれた。

だけど、たとえまだ運命の番の彼とのチャンスが残っていたとしても、そのときにはもう、僕の心は彼で染まっていた。

もう彼以外は考えられない。たとえ運命の番が再び現れたとしても・・・。

そう思った彼も僕を好きになってくれて、初めて会ったその時に僕達は結ばれ、偶然訪れた発情期によって番になることが出来た。そして、さらにその一月後には妊娠が分かる。

あの時あの瞬間僕達は恋に落ち、そして結ばれて子供を授かった。

それはどんな奇跡よりもすごいことだと思う。

運命の番に出会ったことより、僕にとっては奇跡だ。

そして愛する彼の傍らで、大きなお腹を揺らしながら歩く僕はこの世で一番の幸せ者のように思える。

自然とこぼれる微笑み。
大きなお腹を気遣って腰に手を回してくれている彼と歩いている人混みの中、微かに知っている香りを嗅いだような気がした。

その香りにふと横を見ると、その人もこちらを見ている。

すれ違う僕達。

彼の隣には同じ年くらいのオメガの女性。

彼は驚いた顔をして僕を見ながら通り過ぎていく。そんな彼に僕はほんの少し目を細めて笑った。

その人を横目で見送り、僕は隣の愛しい人を見上げた。すると彼・・・誠也さんも僕を見ている。

「彼のオメガより蛍一の方が美人だな」

ふわりと笑った誠也さんに僕も笑って言う。

「誠也さんも、ずっとずっとかっこいいです」

僕のもと・・運命の番さん。
もう僕はあなたの香りを嗅いでも、その姿を見ても少しも心をかき乱されたりはしません。

ありがとう。
あなたのおかげで僕は今とても幸せです。

僕は愛おしくてたまらない彼に身体を擦り寄せて、愛する人の子が宿るお腹をそっと撫でた。



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