Condense Nation

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2章 関東統一編

第2話  痛み入る同盟

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ホッカイドウCN拠点 ロビー

「では、東北連合と合併する方針で決定ですか?」
「ええ、天主殻と相談した結果、1:1法の分布に影響するとの事。
 これからはもっと臨機応変に変更するつもりです。
 向こうも警戒心をもち続けていると思いますが、
 私の方から呼びかけを試みます」

 ロビー中央にいるヨハンはレイチェル司令とテーブルで
今後の相談をしていた。
1:1法、味方と敵のどちらも成り立たせるという法の下、
部隊の再編成とともに、ここホッカイドウCNは独立を終えて
南部の東北連合と同盟を組む方針を打ち出した。
しかし、地元の界隈だけで不利益が出たとはいえ、
急いで南側と連結する必要はないと思うが。

「それにしても、このタイミングで試みるのも意外ですね」
「追従性を未然に防ぐ危険を回避するためです。
 自然災害からの立て直し直後にやってくる線も・・・。
 この件は向こうに筒抜けている可能性があります。
 よって、早計ながらも先んじて決めようと思います」
「Aクラスに大打撃が生じたものの、敵性への対応は
 十分に起こせると思いますが?」
「確かに今期の動向に迷いはありました。
 私は同盟システムに疑問をもちつつも、
 リソース分配の心配もありますが、人と手を繋ぐ事が
 より大きな保存や保全をもたらされると思っています」
「・・・確かに」

彼女はホッカイドウのリソースを南部へ提供して、
陣地交易を拡大するという。
CNは壊滅しかける時、他への統合でリソースも差し出す。
相手がすんなりと応じてくれれば良いが、白い物にまれて
南にも白い物を流す状態。雪崩よりも厳しそうだ。
話し合いは終わり、ヘルマンが来る。

「ちょっとしゃくに障るが、司令が言うんならしょうがないっす」
「Bクラスではちゃんとやれてるか?
 あんまり部下達と騒動を起こすなよ」
「大丈夫だ、んな事ばかりする俺じゃないっての」

あの事故以来、クラス編成も多少変更。
ヘルマンは会議により、Bクラスの隊員へと格下げされた。
営倉行きと思われたが、エリザベート救助理由で身柄は酌量され、
1つ下のチームで留まれた。
それでも、ヨハン達は普段と変わらなく接している。
彼らは忌々しい経験がぶり返さない様に明るい顔色で
いつもの日常を過ごしていた。1人を除いては。

 (これも運命なんだろうか)

長年にわたって東北を拒絶し続けてきたが、司令の方針により
とうとう手を組む事になった。現状、他のCNと争っている
余裕はなく、先の遭難事で精鋭を大半失ってしまったのだ。
あの後、メンバー達の遺体は回収されてきちんと葬られたが、
1人だけ見つからなかった遺体があった。

「ムスティの遺体だけは見つからなかったんです」
「あいつが死んだ川の位置は憶えていたんですが、
 周辺にはどうしてもなかったんです」

ムスティスラフの遺体だけ分からなくなっていた。
どこかに流されてしまったのであろうか。捜索も難攻し、
司令も危険と判断してそれ以上の散策指示をしなかった。
彼もそうだが、氷漬けの仲間達を回収する度に
エリート意識など自然界で通用しないのが思いやられる。

「ただいま戻りました!」

ミロンが戻ってきて、手に持っていた果物を差し出す。
市場で手に入れた網目状で緑色の球体を見せた。

「ん、それは?」
「街の人から朝張メロンをもらってきたから、食べて下さい」
「まあ、ありがとう。彼女にも一切れ差し上げるわ」
「はい、今のお嬢をさとせられるのは司令だけです。
 ぜひ、彼女を元気づけてあげて下さい」
「そうね、行ってみてくるわ」

司令は見違いなく均等に切り取って、1つを食べさせようと
エリザベートの部屋へとおもむく。


エリザベート個室

 彼女の個室はいつも無音に等しい。
もう夕暮れになるのに、明かりもいていない。

「エリザさん、入るわよ」
「・・・・・・」

ベッドで毛布にくるまっている。
あれからエリザベートは寝たきり状態が続いていた。
バイタル検査でも特に重い病気にかかっているわけではない。
任務もろくに出ず、自室にこもりっぱなしで現場に行かない。
一部の兵士からはラボリ放棄とまで言われる始末だ。
自分は彼女を気にかけながら、度々部屋に来る。
少しでも早く復帰させるよう、こうして差し入れするのだ。

「まだ、お身体が優れない?」
「・・・・・・」

彼女は答えない。
優れていないのは心情の方だろう。
起きているのは分かっていたので、彼女は淡々と話し続けた。

「今日は報告が1つあります。
 会議により、ここホッカイドウCNは東北と同盟を組む事にしました」
「・・・・・・」
「前回の件についても、私の失態です。
 その責任、及び対応はキチンと行わなくてはなりません。
 もうあの様な事にならないよう、編成を考え直した結果です」
「・・・・・・ええ」

この時だけ返事をした。
それなりの状況だけは把握しておきたい心理があるんだろう。
もう一度、彼女の活躍を叶える復帰を願い、追言するように
さらに彼女に1つの話をし始めた。

「私はまだまだあなたを必要としています。
 離縁の苦しみをこれ以上重ねないためにも、
 ホッカイドウを再編しなければなりません。
 例のライオットギアの点検も全て終えました。
 お父様の御力によって、早く完成させました。
 あなたも是非、伺って下さい」
「・・・・・・」

ホッカイドウ開発の新型兵器を彼女に伝える。
父という背景を借りて後押ししてみた。
そして、メロンの切れ端と共に一言告げる。

「メロンを頂いたわ。ここに置いておくので、召し上がってね。
 それではまた」

レイチェルはそう言って部屋を後にした。
反応をうかがっても見えない。
まだエリザベートは布団の中にくるまって寝ていたままだ。


1週間後 イワテCN拠点

 拠点にはかつてない規模の兵士達がいる。
あのホッカイドウCNを迎える為に、複数のCNが集い
東北連合の重役達がこぞって待機していた。
同盟式をあげる会場を整えようと護衛、待ち受け役などにより
ロックはメンバー達と一緒に談合している。

「あの北の悪魔も、とうとうこっちに下ってくんのか」
「下るというより、一応“対等な立場の同盟”という
 名目になってるんだって」
「まあ、司令官の若干2名は支配したという感覚でいるけど、
 むやみに命の取り合いをするよりかはマシよ」

最初に反対していたサラ司令が珍しく同盟に賛同していた。
アドルフの死後、イワテCNが空洞化しつつあったが、
周りのCNが協力し合って補っていた。
市民達も乗じて助け合う周囲の影響か、リソース不足の事情を
度外視する以上に彼女の心境も変わったらしい。
俺からすれば、我慢比べに折れたくらいしか思えないが。

「母ちゃん司令も共同組合に前向きになったんだな」
「まあ、私自身も変えていかなきゃって思うけど、
 今回の同盟の件で一番強く推したのはクリーズ司令なの」
「そうなのか?」
「ホッカイドウと一番近いのがアオモリさ。
 正直、怖かったから手を組みたいが・・・」

クリーズは出来るだけ早く北と結びたいと施策していたようで、
東北の身を強固にしたかったらしい。
デイビッドも意外そうな顔をする。
ともあれ、非戦闘という方向へ変化するのは良い事だ。

「ホッカイドウ兵、入国しました!」

そして、ホッカイドウCNがイワテに入国してくる。
サラが先頭に立ち、敵意をもたせないよう対応。
自然と緊張が走る。今の季節にふさわしく空気が静まり返った。

「私はアオモリCNの司令を務めるクリーズと申します。
 皆さま、よくおいでになられました!」
「ホッカイドウCNの司令を務めます、
 レイチェル・エバンスと申します。
 今日はご招待頂き誠にありがとうございます」

ベレー帽をかぶったブロンドロングヘアーの女性が代表で
ホッカイドウの宣言役で参じた。女性陣にとって意味はないが、
東北の男兵達の鼻の下がびている。

「ほほお・・・」
 (び、美人・・・お嫁さんにしたひよおおぉぉ)

ホッカイドウのリーダーが清楚せいそだったのが意外だが、
白い悪魔とよばれるだけあり、偵察兵の眼光で戻らされる。
張り詰めた一瞬の空気の後、クリーズ司令が同盟の声をあげる。
監査委員担当の承認後、両陣営の司令官が宣言した瞬間に
成立した事になるのだ。

「では、天主殻より我らが東北とホッカイドウによる同盟が受理されたので、
 共同は許可された。
 これより6つのCNは統一する事を宣言する!」

東北 ホッカイドウ 同盟

「わおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

同盟成立、式は異変なく緩やかな流れに終わる。
こうして、ホッカイドウCNは東北連合の1部に加わった。
というわけで、早速お互いに歩み寄り交流をかわす両陣。
俺達一同はあるグループに視線をやると。

「キャー、カワイイ子がいる!」
「あ、あのー、僕も一応兵士ですよ?」
「こんな子も前線に出るなんて、北もシビアなのね。
 今までロストしなくて良かったわね!」
「彼はこう見えても、Aクラスの上級兵だ。
 スナイパーの使い手なんだぞ」
「あれだけ恐れられてた白い悪魔なんていう名も
 あまり当てにならないものだな。」
「こんな可愛い悪魔なら、大歓迎だわね」

東北メンバー(女)はマスコットの様に彼に注目している。
頭を撫でたり、頬をつねる。
ファーストコンタクトらしからぬ、馴れ馴れしい交流の間、
ロックもなんとなく見回していた。
その時、グループの中にいる大柄な男と目があった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

特に意味はない。
目つき、威圧感、どちらかといえば自分と同類な感じがする。
ただ、目が合っただけのシンプルな理由。
次の行動はなく、立ち止まるにらみ合いに近い静止。
ヨハンは先早に勘づいて忠告する。

「ヘルマン、やめとけ。同盟早々揉め事を起こすな」
「あ~あ、活躍する場も無くなっちまうな」

男はため息をついてその場を後にする。
他のホッカイドウCNの兵達も少しの交流を楽しんで、
それぞれの持ち場に戻っていった。


20:00 イワテCNシェルター街

 今日の予定は終わり、相変わらずロックはシェルター街で
ヒマをつぶして歩いていた。ときどき仲間に言われるが、
“隊長だから市民への見回りも大事”と言い訳交じりに説得している。
時々1人になりたいと思わない事もない。
隊長という重荷を抱えてしまった今になっても、
まだまだ精神的に慣れていない自分もいるからだ。
それを務めていたあいつに笑われるだろう。
少しずつでも、皆から任せられる存在になるためにも、
自分なりの数歩でやっていく。
またいつか会えるだろうか。
そう思い歩いていたときだ、手前に何かが動いていた。

コロコロ

「ん?」

リンゴが1つ転がってきた。
屋台から転がってきたのかもったいなく拾うとすると、
目の前には190cm程の大きな影が立ちふさがった。










「てめえは・・・」
「また会ったなぁ」


イワテCN駐屯地

「大変さ、隊長がホッカイドウ兵と喧嘩してるって!」
「ええっ!?」

 市街地で2人の騒ぎが知れ渡ってしまった。
近くにいたトモキもそれを目撃して、止めさせようと皆に知らせる。

「あの人、また街でブラブラしてるの!?」
「よりによって、あのホッカイドウの兵士と!」
「と、とにかく行ってみましょうよ!」


イワテCN 市民街

 予想通り、この2人は争ってしまった。
本意ではなくとも、昔ながらの闘争気質は隊長になっても
消えていなかった。

「ふうっ、ふうっ」
「ほぉ、東北にもここまでやれる奴がいたとはな」

ヘルマンの豪快な拳はロックのそれより有利で強かった。
この男のパンチ力は体感でも350kgはある。
今の様子からでも本気すらだしていないだろう。
ゴリ押しで勝てる見込みはない。

「ふんっ!」
「しぇあっ!」

ストレートと見せかけてフックを放つ。
だが、男はそれを読んでいたのか、身体を踏み入れてきた。

「カウンター狙ってるのはバレてんだよ!」

拳を顔面に当てる前に態勢をまるごと崩される。
体格の大きな者は前進する傾向が高く、
己の行動範囲を過信して見誤るのが多い。
男の目線は自分の頭部を追ってばかりいた。

「ッ!?」

しかし、自分はさらに行動を変化させる。
ヘルマンの頬を打つと見せかけて、姿勢を低く態勢。
相手の方が身長が高い、その分底部の視界はおろそかになる。
かつて、受けたあいつの戦法を習って大技を狙った。

「アキラはもういない、俺がここを張らなきゃならねえんだよ!」
「!?」

サマーソルトキックだ。
元隊長のアキラの動きを取り入れていた。
今度は自分がここを守る。
だから、少しでも多く経験を活かして張っていきたい。
地を蹴って飛び出す様に半円状に描く脚を回し、
男のあごをめがけて打とうとした瞬間だ。が。


「ロック!?」
「え!?」
「ぐおっ!」

ドサッ  ゴツン

メンバー達がやって来て、声をかけられた拍子で打点がずれて
自分は着地に失敗して頭を打ってしまう。
ヘルマンは思わず尻をついた。
結局その蹴りは当たらず、たじろかせただけだ。
お互い静止したその次にゆらっとヘルマンが近づいてきた。
その影がロックの体を覆っていく。
そして。

ガシッ

「東北へようこそ、俺はアキタの分隊長ロックだ」
「ホッカイドウのBクラス分隊員、ヘルマンだ」

お互いに握手を交わした。安息するメンバー達。
きっかけも、騒乱がすぐに治まったのもまったく分からずに鎮静。
後に他のイワテ兵がやって来て、抑えられる。
たっぷり事情聴取を受けたのは言うまでもなかった。

 (これも、俺の悪い癖だ。早く治さねえとな・・・)

似た者同士というのは、お互いに接近する傾向にある。
アキラといい、ヘルマンといい、自信や野心を秘めた行動を見せたがるのか。
見たくれ、個人間によるただの喧嘩ではあったが、
ここにも、ある意味で1つになれた同盟だったのかもしれない。
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