Condense Nation

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3章 東西都市国家大戦編

第22話  フォーミダブルレングス

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ニイガタCN 魚池エリア

 チバ兵達はヘリでニイガタCN付近の上空まで近づいていた。
全部隊ではなく1~10+49分隊が中部探索に参加して
全てのチバ兵ではなく、一部のみの分隊での展開で進軍。
黒兵製造工房を抑えて原因CNを追及するために実行。
中にはレッドの姿もあった。

「「伝令、関東各CNより、チバは中部地方に進軍!
  配置は作戦通り偵察を先にやりなさい!」」
「了解ッ!」

カオリが指令室から無線連絡して地理情報を伝える。
中部の北部は寒くて氷が多く張り詰める場所らしい、
近日の貿易より色々な物品も与えてもらい、こうした別区域での
専用服をすぐ用意できて現場に備えられた。
CNが広がれば物もそうだけど、生活のうるおいや幅も大きくなる。
ただ、どこまで広がろうと敵性も必ず外側にいるのが皮肉だ。

「防寒具が間に合ったのは良かったけど、他の皆の分まで
 多めに持ってきたな。そっちは大丈夫か?」
「「こっちも大丈夫、東北は普段から多く作ってるから受注できるし。
  寒さなら向こうだってもっと低温らしいから大丈夫なはず。
  どう、あんまり寒くないでしょ?」」
「俺は大丈夫だ、中部に来たのは初めて・・・いや、連行で二度目か。
 さらに北側でもこんなに温度が違うもんだな」
「「情報だとそっちも降雪量がかなり多いみたい。
  彼らの言ってる相手がどんなのかよく分からないけど、
  環境にやられないのが先決よ」」
「まあ、人の事言えないけどな。もう、あんな失態はしないぞ」
「「どんな理由があってもラボリ内容は同じ。
  レッド、もうアブダクトされないようにそっちも気をつけてよ!」」
「同じく了解だ」

カオリが偵察報告交じりに伝える。
自分はこれから黒兵製造元探索で中部地方の北、
例の“怪物”がいるというニイガタCNへ出向く事になった。
もちろん、救出要請への解決を主として現地に向かう。
怪物の所業を直に体験したシズオカ兵達も同行していたのだ。

「「ううっ・・・」」
「大丈夫だ、なんとかしてみせる」

ひざを抱えてうなだれるシズオカ兵。
これから彼らにとって凶地へと向かうのだから無理もない。
今回同行しにきたのは地理情報で土地勘が詳しく、
マップ以外について伝える事があるという。
ルートはヘリでグンマCNへ向かい、国境手前で一度降りてから
地上展開する事にした。体調としては問題ないと思うが、気持ちの方か。
例の化け物がいる地域に白兵戦というのも無理があるけど、
データや情報もきちんと把握しなければ対策もろくに行えない。
誰もが不安の言葉ばかり放ち、仲間への安否を気遣う。

「市民街の皆は無事かな・・・?」
「あれから散り散りになったしな・・・」
「散り散り・・・独断でチバに来たのか?」
「仕方なかったんです、仲間と通信する余裕もなく、
 見えない弾から逃げるだけで精一杯だったので」
「そういえば、あんた達の司令官は何を指示しているんだ?」
「・・・ロストしました」
「なんだって!?」

ニイガタの精鋭に急襲されて命を落としてしまったという。
統制崩壊以来、関わっていた兵は皆分散。
市民も兵もシズオカCNから逃げ出す者も増えて、
彼らがチバCNに来たのはたまたま流れ着いた者達の一部だ。

 (こっちと同じか、似た様な状況で流れ着く。
 住処すみかを追われてまったく違う場所に行かなければならない時もある)

関東CNの対策として、ニイガタを攻略する方針という事だが
報復という形で挑んでも、必ず事態が解決するとは限らない。
それに、シズオカとは正式な同盟も行っていない。
攻略の一貫としても、当の問題エリアに同行させるのも気が引けないが、
今の情勢を考えるとそうも言ってられなかった。

「空中分解寸前だったのか・・・ならしょうがない」
「「く、悔しい・・・あれだけ長く一緒に過ごしていた同士なのに。
  うああああああああああああああああっ!」
「・・・・・・」

叫ぶシズオカ兵。兵士らしい態度とはいえないが、無理もない。
長年共に行動していた者に裏切られたのだ。
前を向いていると後ろは見られず、明日は我が身とばかり
環境の違いであっけなく人の動向は変わる。
場所によってズレが生まれて簡単に仲の線が途切れてしまうのか。
自分は彼らを今の現状とこれからになだめて説得する。

「まあ、こんな所で言うのもなんだけどな・・・」
「?」
「そこって元から訳ありなCNだったらしい。
 よっぽど危険な何か出来事があって仕方なくそうしたとか。
 緊急避難っていうだろ?
 ニイガタ兵も、何かしら理由があったんじゃないか?」
「・・・・・・」
「前に、中部地方について少し教えてもらったけど
 食料事情が不安定なところがあったそうだ。
 ワタルがそんな事を言ってた」
「「・・・その通りです」」
「限られた物を奪い取る、今はそんな歪な世界で今日を生き抜くために、
 側にいる者すら手にかける恐ろしさをもつのが、また生き物なんだろう。
 だから、ニイガタ全てに否を押し付けても意味はないと思う。
 どこかで火の粉の引き金になって同じ事をひたすら繰り返すだけだ。
 全ての人がいなくなるまでな」

適当な言葉が浮かばないが、緊急回避と言いたかった。
当事者と言えない自分だけど、生きられない程にまで追いやられて
そんな道を塞がれた者達を相手にするわけだから因縁を一度置いて、
前もって計画を立てていく大事さを意識していこうという部分を
どうにか伝えておきたいのだ。きちんと説得したつもりだが反応はどうか、
彼らはここで中部の事情を打ち明けた。

「分かってはいたんです、ニイガタは促成栽培のどこかに異常があって
 こちらとは違って思うようにはいかなくて、シズオカはもちろん
 ナガノやイシカワもできる限りサポートをしてきました。
 だけど、地元だって食料が必要で配分もよく揉めていた事もあって
 いつまで経っても解決しきれずにいて。
 かつての中心であったアイチも策を見出さずにそのまま」
「やっぱりそうなのか、食糧だって向き不向きがあるもんだな。
 そして、今回もあくまで黒兵を見つける事が一番だから、
 ただやり返す報復のためだけじゃないしな」
「「確かに・・・そうです」」
「とにかく今、直接襲っている証拠を押さえていくのが先。
 もうす、ぐ・・・もう中部近くだ。
 みん、なできょうりょ、くしていこ・・・って、アレ?」
「?」
「いや、なんでもない・・・立ちくらみだ。
 あんまり躍起やっきになりすぎて、目立ってはダメだ。
 冷静に行こう」
「「はい・・・」」

一瞬、何を言いかけたのか自分でも分からなくなりそうだったが、
落ち着いて言い直す。そして、現地にたどり着いた今
ヘリが空から地上に向かってゆっくりと垂直に降下していく中、
シズオカ兵達の怯えをなんとかなだめて現地に着いた。


トヤマCN 白部エリア駐屯地

「こちら第7部隊、中部CNに到着。周囲を捜索する」

 トヤマCNにあるエリアに侵入してきたサガ兵達がいた。
北側から侵入してきたものの、幸い右方のニイガタCNが
手薄だった事もあり交戦せずに済み、セーフティゾーンの確保に成功する。
そして、一角に着いてから情報収集を行う策にでた。
隊員が黒兵関連のありそうな施設を探索、一軒見つけたようだ。

「隊長、建造物を発見」
「駐屯地の1つか、事務所で工房は見当たらんな」

少し高めの丘陵地に建造物があるのを見つけた。
CNの駐屯地の1つで、それ以外に変わったところはなく
人気ひとけすらしない。物を造っていそうな場所もないようで、
人が駐留するだけの建物のようだ。

「「3階建ての建築物・・・」」

誰もいないのは気にかかるが、敵対勢力の一駐屯地だ。
このエリアは山岳地帯ばかりで死角になる所に建ててある傾向。
もしかすると黒兵に関する物というより情報があるかもしれない。
通常ならCN拠点に重要機密を隠すのが最もだが、
人目に付きにくい場所などにも隠しておく方法もある。
根拠はなくとも無視するのはプロとして失格。
隊長は部下達に屋上からの攻略を指示した。

「ラベリングで一旦屋上に向かうぞ!」
「はい!」

ヒュルッ パシッ

先に取り付けた小さないかりで、屋上へ上がっていく。
一階はかなり危険で奇襲しやすい上部から入る。
空中でアクロバットな動きはとれず、下から地道にうので
この登っている間は無防備になりがちだ。
周囲を確認しても、緊張と恐怖が消える事はない。
人にとって縦長移動は重力によって自由が狭くなる時。
壁に足を運び、登り終えて勝手口のドアから顔をのぞかせた時だ。










ドスン

「コンタクトォ!」

灰色の大きな人影が突然伸びてきた。
だが、場違いと思いたくなるそれは規格を超える異様なモーションだ。

「ライオットギアか!?」
「直接、ここまでやって来ただと!?」

建造物の反対側から現れる。
脚部に強硬なスプリングを装着した人型は、この屋上まで
一跳ひととびでたどり着いた。ジャンプ力を強化した型の機体だ。

「入口に気をつかうのは悪くないけど、
 上もキッチリ見ておかないとダメだぞ」

バキッ

「ぶべぉ!」

トヤマ兵の言葉と同時に鉄鋼の拳が振りかぶる。
1人落とされて位置的に不利と判断、サガ兵は変更を指示した。

「散開、ここから下りろ!」

危険と察知してすぐにラベリング降下。
地上へ戻って改めて陣形を立て直そうとする。
ナガノ兵のライオットギアは機銃を装着してなく、接近戦の型で
さらに機体がサガ兵を打撃しようとするが。


ブンッ  スカッ

「うわっと!?」

壁を蹴ってエビシュリンプぞりモーションでどうにか回避。
詳しく語る余裕はないが、九州さながらの独特な動きでアクロバットに
金属の手を空中でかわした。
急な展開でも、しっかりと見据えて部下に指示をだす。
屋上から一斉に飛び出したサガ兵達で追撃を回避したが、
1人がラベリングに戸惑っていたのか、不注意を起こしてしまう。

ドスン

「グギャオオ!」

1機が1人踏み倒す、建物からあわてたサガ兵が見誤って
上部のライオットギアの動きに対応できなかった。

「まずい!?」
「隊長おおおお!」

ガシッ

部下をかばおうと隊長が視界をそれて、腕部をつかむ。
不意にマニュピレータ部からの攻撃を受けようとした時、
茂み奥から動力音が聴こえた。

「うおおおおお!!」

ブウウゥゥン ドゴン

なんと、奥からサガ兵のビークルが1機突進してきたのだ。
元から待機していた者が交戦に気付いて追ってきて、
ビークルにコックルバーを取り付けてライオットギアに向かって
体当たり寸前に爆発させた。
破損して足が傾いた機体、搭乗者のトヤマ兵は急いで抜け出そうとする。

「制御不能、脱出・・・わ、わああっ!?」

ボゴォン

機体から這い出ようとした直前に機体が爆発。
電力変換バッテリー破裂に巻き込まれて、搭乗者はロストしてしまった。
残る者達はサガ兵の位置を全て把握しようと、センサーでサーチをかける。

「上にはいない・・・駐屯地裏か!?」

検知しても機体内部の前方から観た先にはいなかった。
実はその通りでサガ兵は建物背後に逃げ込んでいたのだが、
トヤマ兵の機体の特徴をつかみ、迅速な行動をとっている。

「あの型、歩行速度があまり高くありません」
「縦長の移動には特化しとるが、横にはさほど素早く動けないから問題ない」
「くっ、周辺も気を付けろ!」

回り込み戦法で横や背後から奇襲しようと練る。
下手に地上に降りるよりも建設物を盾にして戦った方が有利。
対するナガノ兵は機体損傷を起こして劣勢。
機転を利かせたサガ兵隊長の作戦で、対応されてしまった。
サガ兵の地形把握によりトヤマ兵の戦況がゆらぎだしていく。
その時である。

「ナガノ兵到着したぞ、敵兵覚悟しろ!」
「待っていたぞおおおおお!」

操縦者、ヨゼフィーネ率いるナガノ新鋭が新たにやって来た。
合計3機の人型はトヤマのピンチを援護するために加勢、
関西兵の侵入を捉えて援軍に駆けつけてくれた。
トヤマ兵も顔色が良くなって助け舟(?)に歓喜。
しかし、すぐに引き下がる様子もない。
サガ兵はまだ戦闘を継続する姿勢を表し、正面きって再開する。

「「機械、だろうと・・・無敵じゃ、ねえんだよォ」」

先に吹っ飛ばされたサガ兵が仰向けになりながらドラゴンフライを放つ。
まだ意識が残っていてライオットギアにめがけて撃ち出した。

バシュッ           ガキィン  ドゴォン

「なっ!?」

なんと、裏拳で砲弾を弾いて横に逸らしていた。
弾道が読まれていたか、いや、常人が判断してできる行動には思えず、
意外なところで関東の特技を目に入れる。
ヨゼフィーネは機体の手を滑らかに動作させて主張。

ウィィン シュシュシュ

「遅いな、メンバー達の突きの方が速い!
 ランチャーの挙動なんて昔から訓練して慣れてるのさ!」
「「くっ・・・」」

ガクッ

撃ち放ったサガ兵は喪失してダウン。
地上の射撃はこれ以上期待をもてなくなって次はこちらの出番のみ。
建物にぶら下がっていた兵はグレネードを投げて機体破損を狙う。

ドゴォン

直撃はしなかったが破片が関節部に少し挟まったようで鈍る。
ライオットギアの腕でもとどかない位置で動きを止めた方が良い。
もう1人も手応えを感じて同じ行動をとろうと真似する。
ナガノ兵も遠距離用の兵器を所持していないのですぐに動けず。
相手の作戦が何をしようとしているのか見定めて、
ヨゼフィーネは瞬間に察知して片足を上げた。

「ふんっ!」

グシュッ  ドゴムッ

グレネードを破裂と同時に踏みつぶす、鋼鉄の圧力なら破片も飛び散らずに
足底だけでダメージを最小限に抑えられる。
まるで事前に読まれているかのモーションに恐怖。
それを見た1人のサガ兵はおびえ始めて懐から次々とばらまき始めた。

「効かない・・・きかいにきかなひいぃぃっ!!
 他に爆破、ばくはぶきはこれこれこれええええぇぇぇぇ!」
「落ち着け!」

錯乱しかけたサガ兵が所持していたコックルバーを全て投げつけてしまう。
だが、引っ付かずに今度は避けられて間合いを遠ざけられた。

「一体化は何を操縦するにも大切な事だぞ!
 人の中に居る人が完璧だと手も足も出なくなるんだ!」
「ぐうっ」

凄まじい反応の操縦者に対抗の手段が薄れてゆく。
やはり、そう簡単に討伐できそうにはない。
形勢逆転を迎えたトヤマ兵に対して、サガ兵は撤退する気もなく
絶体絶命に相応しいこんな場でも、彼らは諦めないようだ。

「ここで退いたら全て無駄になる・・・お前らのやった事は、絶対。
 黒兵の在処ありかをつかむまで、御用させてもらうッ!」
「まだやるつもりか!?」
「俺達の仲間がお前達に奪われたんだ・・・これ見よがしに、撤退など、
 グシュシュウ、このまま終わってたまるかァ!」

グワッ

改めて臨戦態勢に戻り、根性を見せて相手を試みる。
まだ武器を手にして何かを遂げようとするつもりだ。
ここ以外でも高所で一斉に煙が吹きあがる。
関西兵はあらゆる地域に迫り、赤い点が一斉に散開しつつ侵入。
さらに飛び散る火薬による火花は輝き、森林の緑がより鮮明になり
遠間から屋上の様子が観えなくなる程に舞い上がっていった。
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