Condense Nation

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3章 東西都市国家大戦編

第38話  疑惑の隣界

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トヤマCN 座山エリア

 時刻は夕方を迎える前、トヤマ兵とイバラギ兵が共同作戦により
侵入されないよう山側近辺の防衛を共に行っていた。
わずかながらイバラギ軍の中にワタルの分隊もいて、
任務がてら黒兵に関する情報収集を始めている。
こんな戦地にいながらも、互いの報告をおこたっていなかったのだ。
関西のどこに目標があるのか、見定めるべくわずかな合間の
食事時間に交じって、同盟の者と共に詳しく聞いてみた。

「ミエ・・・あ~、関西のとこか。そいつらと交戦中に割り込まれたと」
「川の間から真っ黒なビークルごと真っ二つにして乱入されたんだ。
 素材が同じではとそこが最疑惑だと思っていたらあれだ」
「最近になってから色々とおかしいと思い始めました。
 あいつは関西の連中すら攻撃して味方もへったくれもないですよ。
 先週末にも奴はここにやって来ていて、うちの部隊からも1人・・・」
「まさに無差別攻撃だな」

相変わらず各地のCNを容赦なく襲っているようだ。
どこのCNでも黒兵を聞かないなんていう話がない程に被害を受けている。
未だに西側からの証拠も動機も見つかっていない。
ちまたでは捕らえた敵兵の発言で“お前らが黒兵を送ってきた”とまで
言われる程までに、突っね返されていた。
最初は悔し紛れの負け惜しみと思っていたものの、どうやらウソっぱちな
話と安易に捨てるようにも思いにくくなってきた。
文字通りの暗な状況下において、こんな目撃例もあるという。

「でも、1つおかしな話を聞きました。
 黒兵はどこにいても陸部で目撃されるばかりで、
 必ずんです」
「森林は死角が多いから、そこから攻めるのは道理だ。
 にしても、海だって死角はいくつかあるはず」
「ただ、一度だけ例外がありました。
 中部北側の海域に謎の船から飛び降りてきたと、
 かつての同盟CNだったアイチの者が報告しています。
 初めて目撃されたのが当時だったと聞きました」
「そいつはどうなった?」
「そのまま海に飛び込んで行方をくらましたそうです。
 当時はスキャナーをかける間もなく、すぐに消えてしまったようで」
「惜しいな」

トヤマ兵の話は意外な方面からもある。
念のためその船から出てきたのかと聞いても、
中は工房の1つも見当たらなかったという。
他に考えられるとしたら、アイチと同様に船に潜入していた場所より
海上で設立された線も否定できない。
海が苦手なんて、敵地侵入にそんな事を言ってられない。
しかし、どこからも水上での報告は全く入ってこなかった。
最初の遭遇以外の線を考えると、基本的に陸地行動。
どうあってもルートは土地でパターン化する傾向がみられる。

 (黒兵の出処はどう考えても内地から・・・?)

うっすらながらそう思うようになった。
まだヒントも少なく、地続きに浮きりを求めるだけ。
確証もなくメンバー達に話すと返って混乱を招くかもしれない。
ガセ仕込んだなど余計なお世話フラグを立てたり、
いらぬ用件と気づかれないように話を変えようとした時、
山林から大きな物体が横切った。


ガシャン

「コンタクト!」
「ライオットギアだ!」
「攻撃しろ!」

奇襲というよりは、どこかへ向かっている最中に遭遇した
もののようであった。1機のみで、脅威度きょういどはそれ程高くない。
しかも、どこぞのタイプと等しい汎用人型の機体だ。
背中にポッドもあって何かを運んでいた最中かもしれない。
グルカバーンでバラバラに分解しようとかかるが。

「うおらっしゃあ!」

バキッ

「アンドゥッシュ!?」

敵機が右フックしてトヤマ兵は吹っ飛ぶ。
トオルよろしく、弟の操縦タイミングを学んでいた動作で
左脚踏みつけ後、スライディングして脚にコックルバーを射出する。

「はい、足!」

ドゴン

破砕で足が壊れ、胴体が地に倒れた。
遠距離砲があったらかなりやばかった。
幸い、強力な武装をしていないタイプだったので瞬時に終わる。
たまにこういった無線型もふらついていて予期できないケースもあって、
チバCNの話の様な出来事もあるから油断禁物。
良い方面を言うなら資源を積んでる時もある、これはケージだが。
流れ機械に良い機会と行動不能になった機体を回収しようかと、
数人集まって接近すると内部に影が観える。
ポッドの中に誰かが収納されている者がいた。

「お嬢さん、大丈夫か?」
「「あなたは・・・・・?」」

黒髪おかっぱ頭の女性のようで、おそらくアブダクトされただろう。
どさくさ紛れに人も黒兵も同じか、やってる事は誰だろうと変わらずに
罪の意識という言葉を祖父母から言われた事を思いだしてしまう。
欲しいモノをあらゆる手段で奪うこんな世界でキレイ言こそ
通用しない方が悔しさもより大きくなる。
それはそうと、敵意を見せずに背中から抱えて介護。

「もう安心だ。今、アドレナリンを打ってやる」

プシュッ

「うぐっ」

ワタルはなだめつつ気付け薬を彼女に打ち込む。
意識がハッキリした様でこちらに気付き、怪我もないようで
しっかりと会話もできるようになった。

「君はどこのCNだ? どうしてここに?」
「「わたしは・・・元ニイガタ兵です」」
「元?」
「「はい、貧困と環境の厳しさに耐えかねて、
  ギフCNに亡命してしまいました・・・」」

彼女は近隣の者だった。
トウキョウCNに併合されてから立場のもつれが所々に生まれて
あまりの辛さで故郷から逃げ出してしまったらしい。
他方の環境の良さに、混乱に乗じて故郷へ資源を送りたいと、
内通者としてニイガタCNにコンタクトをとったら
予想外の仕打ちが待ち受けていたという。

「本来ならイシカワCNに亡命するはずだったのですが、
 資源を送っていた知り合いが不正を起こしてギフにしたんです。
 ある程度まで仕送りできると様子を見にいこうとしたら、
 私が戻った直後に黒い兵士が襲ってきたんです」
「ニイガタにも、黒兵がやって来てたのか」
「直接見ていなかったけど、あの人達がそう言ってたんです。
 そして、怒りを私に向けてきました。
  “黒兵がやって来たのはお前のせいだ”と・・・」
「かつてのお仲間に疑われたのか」
「私は関係ない、決して関わってなんかいません!」

やぶから棒にスパイ容疑にかけられてしまったらしい。
急きょ予定を変えてギフCNに移り、ほとぼりが冷めるまで滞在していたが
誤解を解くためについニイガタCNへ帰ろうとするものの、
行き際にどこぞのライオットギアに捕縛されてポッドに入れられていた。

「だから、コイツに収容されてたのか」
「「私はやってない・・・わたしは・・・うぇええええん」」

泣きながら震える兵士。
ここで見捨てる器量なんて、ワタルはとうていあるはずがない。
この子は女・・・まあ、性別としてはそうだがまだ若くて将来性もあり、
心の安定性のために手厚く保護すべきと思って確保する方が良いだろう。
周りも男ばかりだが、先に取る方が早い者勝ちだ。
スパイの危険を承知で自分のCNに連れて行こうとした。

「一旦、で保護しよう。
 ここも手が入ってくる、すぐに引き返すぞ!
 ・・・おっと、まずは名乗らないとな。
 俺はワタルという男爵だんしゃくだ、お見知りを」
「私はマーヤといいます、よろしくお願いします」


トウキョウCN上層階 軍備計画局役員室

「トウキョウ西部に誰かがいた?」
「ええ、トウキョウ兵を連れて数人該当地へ出動。
 おそらく中部CNの者と推測ですが理由が不明で」

 アーゲイルが部下からトウキョウの何者かが他地方の者達と
密会を行っているリーク情報を伝えられている。
映像によると物資の受け渡しを荒野で行っていたと聞くが、
問題は片方で、取引していた者が誰なのか気掛かりとなる。

「詳細によると品を渡していた相手は中部兵で受け取った側は
 丁度こちらと等しい方角からビークルで来た模様。
 包装の種類から中部の物と思われます」
「現地に散乱するAUROのためでしょうか?」
「違うな、連中にAUROを集積する技術を所有していない。
 有力候補に挙げられそうなCNは・・・アイチか。
 だが、そこすら電磁凝縮技術が発展できているとは思えん」

西部に存在する粒子に関する物ではないとすぐに判定。
監視画像を観ても包装されて中までは判定できない。
この細長いビークルも方角でトウキョウから来たのは間違いないようで、
カナガワに沿うように迂回しつつ現地に行ったようだ。
しかし、CN公認で製造されているタイプではなく
どこかで秘密裏に造られた個人用と推測。
黒く光沢のあるボディフレームは何かの生物になぞらえている感じも否定せず。
当然、現在ここで貿易を行っているのはサイタマ、カナガワCNのみ。
中部と連携する部署もトウキョウ内で1つもないはずだ。
そして、何故そこで取引していたのかが疑問に思った。
こんなに堂々と機体を引き連れて移動しているくらいだから、
上層による者だと推測するが。

「Noのいずれかが通ったのではないのか?」
「それが・・・載っていないんです。
 トウキョアイト外壁から出てきたと思われますが、ラボリ履歴もなく
 非公式でカナガワCNを通っていたようで」
「確かに妙だな、大交戦前の出来事で製造目的にとった行為だろう。
 勃発ぼっぱつの引き金となったのか、あるいは」

軍事執行局、安全理事局、交通局のいずれしかない。
わざわざカナガワを通る理由も目に付きにくいようにしたからか、
そこのCNが通達しても元がトウキョウなら大した効果もない。
もしかしたらアブダクトされたトーマスが何かしらの方法で
帰ってこようと画策してセッションを試みてきたのか?
仮に取引に応じても戻ってくる様子とは言えず、
明らかに何かの設計材料として他から引き入れたとしか思えない。
反旗はんきひるがえすためとも推測したが、Noが応じるメリットもなく、
タブレット端末で各局の予定表を閲覧してもまったく関連のない事項で、
取引の事など目に入る字すらなかった。

「我々の行動範囲では管轄外で行きようにもなく。
 いかがしますか・・・No5?」
「・・・・・・」

部下達も良案を出せる程優秀ではなく、常に頼られてばかり。
今から現地へ赴こうとしても実は不可能。
そこを止めてきたのがNo1で他地方への出動を禁じられてしまった。
根拠無し、本当にトウキョウという世界は水面下で起こる事が多く、
隠し事の連続で成立して気の向け先を散漫しがちにさせる。

「まあ良い、どうせまたNo同士で中抜きをしているのだろう。
 ただ、AURO検査は続行するので現場だけは見張る。
 指示はまた20:00に伝える、監視は引き続き行ってくれ」
「Yes、sir・・・調査を継続します」

ウィーン

部下が部屋から出てゆく、渡された画像を見直してある事を思い浮かべる。
黒色を観て、かつて自分が携わっていた部隊の色と重ね合わせて
懐かしくふけ余韻よいんも振り払うように目的を定め直した。

(そろそろ計画も再起動する必要がある。
 あの人にも迎えて再び向こうへ戻らなければならないな)


イワテCN拠点 指令室

 東北の司令官達が通信で会議を開いていた。
今だに続く交戦でリソースの予備と予測使用量の大幅なズレの発生に、
東北司令官達の見解は予想外の連続で、急遽きゅうきょ対策の変更を迫られていた。
じわりと減少を見せ始める兵を含むリソースを見直している。

「我が東北CNのロスト者は370名。
 西から侵攻する敵の行動パターンも差が見られる。
 艦の破壊による効果があるが、それでも状況は厳しいままだ」
「ここ東北で大きな被害はまだでておりませんが、
 離島であるホッカイドウも隙が生じる危険性も、
 少しずつ見え始めています」
「大半がオキナワへではからっているホッカイドウへの援護に、
 アキタからもリソースを割いています。
 ですが、いつまでもつか分かりません・・・」

クリーズ、サーナ、サラの順に現状報告。
範囲的では大規模戦闘なものの、短時間で侵攻と撤退を
お互いにそれらを繰り返しているゆえに決着がつかない。
関東の司令官達は通信をする余裕もなく、現場指示で手一杯である。
攻めについてはこちらも同様で、黒兵調査及び出元を抑える目標として
始めた計画が返って紛争がこれ程まで広がってしまう。
いつもより深く椅子に座るサラが様子を聞く。

「関西軍との戦闘も同様ですが、別所による被害も起きている模様。
 黒兵はどこからもたらされたのか見当はあります?」
「白のままだ、現在あらゆる方面に調査させてもまったく手応えがなく、
 関西地方で発見された工房も未だに確定できる報告はないようだ。
 ミエCNなど、確かに黒鉱石を取り扱う場所がある。
 しかし、規格がそれらしい所がまったく発見できずにいる」

兵を放った本当の目的がいつまでも達成できずに、
余力の持ちようが無意味のまま消費して過ぎてしまう。
物造りには必ず造る場所もあるはず。
人と断定しきれない間ながらマニュピレータや脚部に関するパーツなど、
少しでも人体構造に携わる工場関連を探し回ってきた。
全てを確認したわけではないものの、因果関係の欠片すら目に入らない。
他の点については関東の流通資源ルートの件に変わる。
くまなく確認しつつ同じく画面を観るレイチェルが報告内容と
ほぼ一致する結果に言葉を発するが。

「想定を下回る結果になりました・・・しかし」

そこである不思議な流れのルートが表示されていると言う。
彼女にとって、目を通すのはホットゾーンだけではなく、
他の司令官達が密度の高い交戦エリアばかり目にしているのに対して、
彼女の視線はエリア中央の中部地方に目を向けていた。
該当箇所に指を示して司令官達に聞く。

「このCNだけは交戦ポイントが少なめですね?」
「たまたま侵攻が少ないだけでしょうか?
 注文量もさほど多く見られないですけど」
「それだけではありません、交戦開始日からリソース使用が変わらずに
 近日の資源要請が極一部の物品のみのものになっています」
「どういう用途で発注をしているのでしょう?」
「理解しかねますが少なくとも軍事利用に用いる物ではないはず。
 原料も兵器装甲を扱う仕様の物ではないようです。
 生活用品としても利用頻度ひんどがあまりなく、私も疑問です」
「・・・・・・」

要請している資源データを見るに、
食料や薬品もほぼなくほとんど鉱石ばかりの発注であった。
この御時勢に壁か装甲に用いる物ばかり求めるなど、
普通の軍事行為に思えない立ち回り。
司令官達も目的が理解できずに根拠が不透明になりつつある。



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形を造るには基となる素材が必要です。
その基が時には意外な形に変わる事もありますが、
基本という幹から変えるか、そのまま枝を伸ばすかで
応用に活かすキッカケもまた変化すると思います。
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