Condense Nation

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3章 東西都市国家大戦編

第45話  東西の正体

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 あれだけ凄まじかった周囲の音が静まり返って場の粉塵も治まる。
無数の人達を襲い、地方を混乱させてきた黒幕がとうとう倒されて
横向けになってまったく動かなくなった。
センとライリーは先の活躍で今、一番近くにいる。
もう大きな声を出すつもりはない、さすがにこんな相手を仕留めた成果に
頭が冷め始めて中身が気になって仕方がなかったのだ。

「前は暗かったから見辛かったけど、いざ近くで見りゃマジで黒いわ。
 散々やりまくりやがった、こんな奴が・・・いよいよ」
「中に誰かが入ってるはずだ・・・開けるぞ」

カチッ

センは頭部の装甲を外す、規格が違うから開け方なんて知らないが
固定ボタンらしい部分を押して勘で開ける。
周囲の兵もこぞって近寄って誰なのか見守る。
髪が長く、そこだけで不吉な予感がしてならない。
黒兵の中身があらわになり、各地を恐怖におとしいれた正体となる顔は
よく見慣れたあの人だった。










































「・・・・・・・・・・・・シズル姉?」
「・・・・・・」

黒い塊の中身はシガCNの兵、シズルだった。
装甲の色とは真逆と言える銀髪ヘアーでよく見ていただけに、
間違いだと思う現実すら許されなく変えられない。
顔を観たメンバー達は一瞬だけ何の事か分かっていなかった。
反応は俺達よりも先に周りの連中が早くなる。
予想もしなかった人物に周辺はざわめきの声であふれかえり、
悲鳴をあげる者達もいる。

「ええええええええええええええええええええええええええ!!??」

知人程声が大きくなるのも無理はない。
普段から何ら変わらずに淑女しゅくじょらしく振る舞っていた彼女が
別世界からやって来たと言いたくなるくらいの身なりで答えが出ていたから。

「「全然分かんねーんだけど、黒兵がシズル姉って」」
「んでだよ・・・ワケが分かんねぇよ。
 なんでシズル姉が!!??」

周りにいた数人のシガ兵も鷲掴わしづかみにされているが、詳しくは分からない。
CNに秘密で単独行動をとっていたのか? だけど、この人は1人だけで
広い各地を襲える器量や能力があるとは思えない。
あまりにもうるさく混乱の声があふれて頭がおかしくなりそうだ。

ピッ

ヤエの通信機に連絡が入る。彼女もここに来ていたようで、
結果報告にうなずきながらどこかの報告を聞いて、
あたかも当然の様な振る舞いで応答する。
俺も今気付いて話の内容に突っかかった。

「・・・やっぱり見つかったのね、分かった。こっちも今カタがついた」
「見つかった? 何がだ!?」
「ある一室で所属不明の通信機があったのよ。
 場所はお茶会の準備室、シズル姉が使用していた所。
 文化品に紛れて製造地域不明の機器が発見されたって」
「!!??」


オオサカCN拠点 指令室

「つまりどういうことや?」
「「匣です。
  ムーア氏は交流会をCN制度の隙間より物資を流入。
  閉所密度の高い反射性を利用しての伝達手段で他CNと
  連絡をとっていた可能性があります」」

 キョウト司令官は現場検証により、地理的根拠の結論がでたという。
支柱金属に周波数を巧妙に当てて複雑に反射させて通信していた。
スピーカーやアンプがなくても音の発生は可能で、
匣内の特殊な立体空間が周波数の音響効果を高めて、
オオサカの目を欺く様に東と通信し合っていたのだ。
近江の重鎮達が聞き入る中、ワカヤマ工作兵が結果報告。
キンイチ司令はすぐに理解できずにもっと詳しく語らせると、
中継地点のような役割をした場所として、夜間に隙をうかがって外出。
さらに、茶会会場奥に黒い装甲を忍ばせていた。
大昔の文化財を重ねて日頃から触れられない部分に秘匿ひとく
格式高いポジションを利用して予備をそこで閉まっていたのだ。
シズルが現地の一ヶ所を陣取っていたのも合点がつく。
周波数帯域を確保するためだったからである。

「「通信機の上部が渦を巻いた特殊な形状をしたタイプで、
  この性能は普通の帯域を飲み込む様に行き渡る。
  等しくも強い帯域幅です」」
「少し前にあった電波妨害の訳がそれやったか」

匣に気付いたのは第99部隊の者が声を聴いた件より、
当時は信憑性しんぴょうせいがなかったものの、また違った疑問を投げられてきた。
キンイチは数日前に中つ国から軍備に関係なさそうな資源がここ、
オオサカに流れていると通達がくる。

「「黒曜石を輸入したという話ですが、仕入れルートが匣と表記してます。
  宛先はオオサカCNと表記されていますが、利用目的が書いてなく
  おそらくは補修関連で要請を出していたのでは?
  実際の工房に運べない理由があってここに置いたと推測されます。
  音はシガCNと別経由で連絡し合っていた可能性が」」
「それで反射した周波で金属から音が出ていたんか。
 んな話、過去の事例なんぞ聞いた事もあらへん」

当然、通信機の規格も公式ではなく出元不明の物。
からくりが判明した次には彼女の方に話題が移るが、
司令官達はもっと大きな要因が先にあるのはお見通しだ。
シズルが起こした出来事は、単独ではない事くらい分かっている。
ワカヤマ工作兵も黒兵装甲が戦闘用と言えない素材を用いて
あんな形をしていた理由も理解できないと述べた。

「「こちらでは以上です」」

他にも内部スパイがいる可能性について提供するが、
キンイチは出元の司令官に連絡を取ろうと言った。

「その兵はシガCNやったんやろ?
 シガ司令官から事情聴取するわ」
「通信がつながりません、タイムアウトです」
「「私が出向きましょう」」

ワカヤマ司令官であるオオモリが直に話を聞くという。
長きにわたってようやく明らかとなった関西の焦点だが、
同じ問題は当然関東も抱えている。
東側もすぐにもう1つの結末が訪れようとしていた。


シズオカCN 雫ヶ崖

「ガアアアアッ!」

ヒュン ドスッ

 一方、関東の黒兵がアイチ兵、チバ兵相手に戦っていた。
途中で脚部スプリングが破壊されて跳躍力を失ってしまい、
離脱不可能になった。止む追えず黒兵がブレードで応戦するも、
レッドの手さばきで及ばなかった。

あきらめて投降しろ、もう逃げ場はないぞ?」

シュルッ

ソリッドワイヤーを飛ばして、頭に巻き付かせる。
抵抗する黒兵に首が取れそうだといわんばかりに引っ張った。
だが、相手も決して低くない身体能力で逃れようとする。

「سوف أرفع رأسي」
「しゃべっている!?」

意味は分からないが、機械じゃない事が判明した。
まるで別世界から来た様なそれは張力から異常さがひしめいてくる。

スパッ  ガシャン

「ワイヤーが!?」

ブレードで糸は切断されてしまうが、同時に頭部の装甲も外れた。
接続部の固定部分が取れた拍子ひょうしで黒兵の顔も明らかとなったのだ。
正体は男、しかもクロムにとって見覚えのある顔が
中部兵達に大きく注目され、衝撃が走った。










「・・・・・・スノウさん?」
「・・・・・・」

関東をめぐって混乱させた実行者、その人物はスノウだった。
行方不明となっていた彼が各地を混沌におとしいれた張本人である。

「黒兵は中部CNの者だったのか」
「「ああ・・・あああ」」

同じ中部の兵ですら正体の理由を分かっている者はいない。
あの船から飛び出してきたのも彼本人のはず。
よろよろとした足取りで、崖の方に向かって歩いていく。
ジッと下部を観ていた彼は何かしようとする。
その次に信じられない言葉を発した。










「こんなところにいたのか」
「え!?」

彼の発した言葉はメンバー達にとってまったく解釈ができない。
崖下に誰かがいる様な発言。
そして、彼は断崖絶壁だんがいぜっぺきの端まで足を付けて膝を曲げた。

「何をする気だ!?」
「今すぐそっちにいくぞおおおおおおおお!」
「早まるな!」

彼は飛び降りたのだ。
胴体を宙に投げ出して両腕を広げてダイブ。
阻止しようとレッドが素早く手を伸ばしてもすでに遅く、
飛行できるわけもなくそのまま落下してしまった。

シュッ グシャンッ

高度90m以上もある崖から転落、スノウは即してついえた。
だが、レッド達からははっきりと確認できない。
下部は霧がかっていて、わずかな衝撃音のみ耳にしただけだ。



スノウ ロスト



「一体なんだったんだ・・・?」
「崖下に何か反応はあるか?」
「3Dモールの反応はスノウ氏だけ、他に誰もいないようです」
「そうか、カーポモルトの回収をする・・・」

周りの兵士達は次々と事態収集に取り掛かる。
お互いに出くわしたアイチとチバの兵達は、交戦する意志は
見られずにこの場から引き上げようと帰り支度を始める。
動乱の元を起こした動機がまったく判明しないものの、
東側の事件はこれで幕を閉じたのであった。



シガCN拠点 医務室

 シズルはそのまま地元のシガ拠点へ運ばれていった。
シガ兵達も事態を飲み込めない者達ばかりで、事情聴取がてら
近江兵の包囲もすぐに緩和かんわされて、今の様へ落ち着く。

「命に別条はないが、意識が戻らない。しばらくは安静にする必要がある」
「・・・・・・」

セン達だけではなく、周りの兵士達も同様だ。
後ろを向けば、様子を見に来た多人数の塊ばかり。
野次馬やじうま根性の強い近江の者達とはよそに、
俺達はただ見守るだけだった。

「なんか、ここいらでいっぱい出来事あったから、頭が追いつかねえ。
 シズル姉が戻ってきてくれねえと、永遠に真実なんて分かんなくなるな」
「思えば、色々彼女の動向がおかしいときもあったわね。
 君吹山とか・・・」
 (アイザックの言う通りだった・・・)

内心認めたくない事が本当になる。
あいつはいつ気付いていたのか、証拠があるならハッキリ言ってほしかった。
いや、らしい話はしていた。そこをメンチ切って違うと決めつけてたのは俺。
時代の流れで敵味方がコロコロ変わる、何も言える事なんてない。
各隊長達も本部からの連絡でひっきりなしにかかってくる。
もちろん、その1つもヤエに届くのだが。

ピピッ

「黒兵は無事捕らえる事に成功したわ。詳細は後にして」

不快に思ったヤエは結果のみを伝えてすぐに無線を切る。
すると、また連絡がきた。

ピピッ

「今度は何!?
 え・・・・・・中つ国で武装蜂起ぶそうほうき!?」
「なんだと!?」
「・・・・・・」

同盟CNである中つ国地方からの情報が突然届く。
そんな連絡を耳にしても、周りの者は何の反応も見せずに
沈黙したままだった。


シガCN 小津エリア

 その頃、タカ分隊もすでにシガに到着していた。
道中で報告を受けたスイレンも再び合流。
クローバーの疑惑を確かめるために彼不在の中で独自に行動。
算段で真相をつかもうとシガ司令官と話をしようとしたが、
彼女は事情聴取を受けている。無駄足で終わらせない先取りに
内密行動しようと先にギフCNへ潜入しようとしたのだ。

「という話でまたここに来たんだ、あんたらのCNは何かを秘匿している。
 いや・・・司令官だけか、とにかく本当の事を教えてくれ!」
「・・・・・・」

シガ兵部隊長は黙っている。やはり、少なからず覚えがあるのだろう。
当時の事情を話すと、言い訳できないと悟ったのか口に出ず。
観念したのか彼は本当の事を言い始める。

「「私も色々とおかしいとは思っていました。
  ですが、司令の命令は絶対で・・・」」
「今更ここで言い争ってもどうにもならんが、場合が場合だ。
 何だって良い、不審な場所とかはないのか?」
「「隣のCN・・・ギフCNです」」

やはり、あのCNは何かを隠していて今までずっと世間から伏せていた。
当時、就寝する時に観た複数のあの赤い目は偵察兵と言われたが、
監視していたのは俺達ではなくシガ全域だったとの事。

「なるほど、あんたらも圧力を受けて公にできなかったのか。
 ならば、俺達部外者が直々に探りを入れさせてもらおう」
「地上はほぼあの防壁の守りは厳しいです。
 ですが、まだ道はあります」
「どこだ?」
「あの日輪湖です」
「でも、あの時は湖底に通路はなかったはずだが?」
「今まではありませんでした、んです」
「今は?」
「これを見て下さい」
「日輪湖の底の横に穴が開けられている!?」

タブレットの画像で湖底の場所を見せられる。
底付近横に開けられた半径15m程の穴を見つけたと言うのだ。
地上は防壁で登る危険性があるので勧められなかったが、
運よく湖底からの道が開けたらしい。
ギフCNによって開けられたらしいのだ。

「じゃ、じゃあ、あの地鳴りは潜水艇の音じゃなく、
 地下を掘っていた音だったのか!?」
「潜水艇はあんな音は出さない、地震計だって反応なかったんだ。
 よくよく考えればすぐに気付いたものを・・・」

敵性がすぐ湖の中に来る事態すらあるはずもなし。
つまり、元から非同盟CNといえども古くからの繋がりによって
資源や物資のやりとりを行っていたと推理。
MUFは横領がほとんどだが、縁による流入も起こりえる。
帰り際に言われたあいさつの意味はここいらの習慣で言っていた。
やはり、当時は黒曜石を奪取に来たと思われたのだろう。
今まで様子見していたスイレンもようやく話し始める。

「こんな事になるなんてまったく分からなかったよ。
 私が転んだだけで気付いたクローバーさんもすごすぎだけど。
 おまけにコクヨ~セキも誰かに盗られちゃったんでしょ?」
「それを謝りにきたってのもあるな、まさか俺達の四国でMUFが
 起きたなんて考えられなかったし。
 様子を司令に聞いたらパッと無くなってただもんな」
「お気になさらず、あの物資も元からここシガ産地ではありません。
 こちらもよく存じませんが、東から持ち運ばれたようで
 シガ司令も恐ろしく感じて保管しきれなくなり、
 おそらく隠滅のために西へ渡そうとしていたんだと思われます」
「まだ向こう側にあるのか」

調べによると黒曜石は関西で大量に採れる物ではないようで、
軍事物で用いる事はあまりないという。
外見も黒兵とほぼ同じ色で、運搬の一角にかつがされてしまう。
意外な現状に戸惑ったが、シガ兵隊長は行けば分かると言う。
責任といえばその通りだが、湖よりももっと深そうな事情。
もとい、得体の知れない世界が地下で生まれているような気もして
どうにか真相を知りたい気持ちが勝ってゆく。
今回も彼らが協力、不可解と思われる潜入ルートを教えてくれた。
次にそこまでの道のりだが、キューは他の兵達が利用しているので
今回は持ち合わせていない。

「で、どうやって潜るんだ?
 キューで行こうかと思ったけど、今日はないぞ」
「ならば我々の潜水艇で行きましょう」
「シガも潜水艇があるんかい!?
 前回もそれで行けば良かったんじゃ!?」

ずいぶんと隠し事ばかりしている所だ。
ともかく、そんな事情は良いとして核心のありそうな場所が分かった。
今更な事を言うヒロを、そこそこにタカは真顔で号令する。
ギフCNで何が行われていたのか、そしてシガCNとの接点は何なのか。
真相を明らかにするために、1つのチームが動こうと現地へ確かめに向かう。

「ただいまより、ギフへ潜入する!」
「オーライ!」
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