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第九章:魔王とは何か、王が王になる前の話――千年前の地獄と九つの罪
第156話:地獄は解けないパズル――ルービックキューブの中心にいるのは誰か
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地獄の世界は人間の世界とは異なり、まるでルービックキューブのような形をしている。
六つの面は、天道、地獄道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道という六道を表している。
八つの頂点と一つの核は、九つの罪を犯した者が堕ちる地獄である:
•等活(とうかつ)地獄
怒りに駆られ人を殺めた者が堕ちる地獄。
•黒縄(こくじょう)地獄
窃盗、強盗など金銭に関わる罪を犯した者が堕ちる地獄。
•衆合(しゅうごう)地獄
邪淫を犯した者が堕ちる地獄。
•叫喚(きょうかん)地獄
飲酒によって罪を犯した者が堕ちる地獄。
•焦熱(しょうねつ)地獄
暴飲暴食に耽った者が堕ちる地獄。
•紅蓮(ぐれん)地獄
妄語を繰り返し罪を犯した者が堕ちる地獄。
•無間(むけん)地獄
働かず自堕落に生きた者が堕ちる地獄。
•阿鼻(あび)地獄
聖者を裏切った者が堕ちる地獄。
そして最後に
•孤独(こどく)地獄
あらゆる罪を犯し、最も罪深き者が堕ちる地獄である。
地獄の世界はルービックキューブのように絶えず動き続けている。しかし、八つの頂点が互いに隣接することは決してなく、また、唯一動かない中心の位置には──モリアがいる。
*
そういうわけで、毛玉は黒板に板書を書きながら説明していた。
「1ヶ月だけで地獄を回りきることすら難しいんじゃないか」レンが質問した。
「大丈夫だ。事前に転移用のアジトをいくつか作ってあるから、一瞬で移動できる。ただ、世界そのものが動いているから座標も常に変わる。どの角に飛ぶかは私にもわからない」
「でも、七十二柱の悪魔さんたちがいらっしゃいますね。一日に二体倒しても間に合いません」セリナは改めて一ヶ月という時間の短さを実感した。
「それは大丈夫。既に六十二柱には勝っているから」
「……???」
毛玉の淡々とした告白に、二人は思わず吹き出しそうになった。
「すげえじゃねえか! 見直したよ! ちなみに、一体にどれくらい時間かけたんだ?」
「気にしたことはないが、平均して一体に百年くらいか」
「……え?」
百年。毛玉は平然と言っているが、セリナとレンにとっては普通の人間の一生より長い時間だ。
「一体で百年ですから、六十二体だと六千二百年でありますね」
エンプラもまた人間の時間感覚を持たない分、ごく普通に計算している。
「長えよ! どんだけ時間かけてんだよ! それじゃあモリアも切れるだろ! このペースだとまだ千年かかるってことか! 待てるわけねえだろそんなの!」レンは激しいツッコミを入れた。
「バカか、君は。相手は悪魔だ。ちょっとしたミスが命取りになる。やり直すチャンスはない。あの強者たちから逃げ切れるわけがない。だからこそ、情報収集、弱点分析、戦術設計、事前仕込みをしっかりやる。私はそうやってここまで生き延びてきたんだ」
毛玉の言う通り、永遠の命を持っているとはいえ、神格を持たない彼は殺されれば死んでしまう。何度殺しても死なない悪魔たちとは違う。負けたらそこでゲームオーバー。すべてが終わる。それにそのお陰で、転移先のアジトができたことだし、その気持ちは理解できるが――
(七千二百年は長すぎだろ…)
だからこそ、モリアは彼女たちを未来から呼び寄せ、急がせようとしたのだ。「一ヶ月で」と言っているが、彼女の時間感覚で言えば――
『今すぐ、できる限り早くしなさい。これ以上待てない』という最終通告なのだろう。
「あの……残りの十柱の悪魔さんたちは、どんな方たちですか?」セリナは前向きに、一ヶ月でどうにかするため話を先へ進めようとした。
「王クラスが九柱、公爵クラスが一柱だ」
「手強いのばっかり残してやがったな」
「悪魔公爵アスタロト、
憤怒の王ザベルト、
強欲の王マムブス、
憂鬱の王バラム、
虚栄の王ザガン、
怠惰の王ヴェネゴール、
暴食の王ベリアル、
色欲の王アスモデウス、
傲慢の王リバエル、
そしてラスボスの――
嫉妬の王パイモン、モリアのことだ」
「あいつが嫉妬か! はは! お似合いすぎる! いかにもねじねじした性格してるしな!」レンは腹を抱えて笑いを堪えられなかった。
「まあ、オリジナルは心が狭いでありますからね」
「ダメですよ! たとえ本当のことでも、言い出すと彼女が可哀想じゃありませんか……痛っ!」
いきなり空から三つのたらいが落ち、三人の頭を直撃した。
「痛え……あいつ全知だから、このくらいのこと許してもいいじゃねえか。やっぱ心が狭いな」
さらに空からたらいが三つ、今度はレンめがけて落ちてきた。
「同じ手を二度もくらうかよって……で、痛っ!」
見事に避けたはずが、三つのたらいは地面に落ちず、再び彼の頭上に命中した。さらに紙切れが一枚ついていた。
「『男の胸に負けた可哀想な女の子(笑)』 ちくしょう、ムカつく!」
「あの……話を戻してもいいかね……」
毛玉は今の騒がしい雰囲気にまだ慣れておらず、少し置いてけぼりを食らっていた。*
*
「やはり、まずは公爵のアスタロトを攻略すべきであります。公爵なら、王より弱いに違いありません」
「いや、そうとは限らない。私も最初はそう考えて下位階級から攻略を始めたが、すぐに思い知らされた。王クラスは特別だが、下位階級が必ずしも弱いわけではない。戦闘特化した者なら王以上の実力を持つこともある。悪魔侯爵サブナックは、侯爵でありながら戦闘技術が高かった、かなり私を追い詰めた。結局ギリギリで勝ったが、危うかった。他にも君主のシトリーや伯爵のフルフルなど……」
まるで苦虫を噛み潰したような表情で毛玉は語った。百年の準備を重ねても、実際に彼らと戦った記憶は、どれも思い出したくないほどの苦痛だった。
「アスタロト? あっ、思い出しました」
セリナは未来の世界で毛玉との最終決戦を思い出す。確かに九人の王がいた。その時、唯一王ではなかった彼女――アスタロトもまた、その場にいた。
「未来の彼らに会ったのか。なるほど、だからモリアが君たちを過去へこの時点へ送ったわけだ」
実際、セリナたちには王クラスの悪魔に勝てるほどの力はない。だが、こうした些細な情報が、過去の毛玉にとっては貴重な助けとなる。
「もっと詳しく教えてくれ。王クラスに関する情報収集は正直リスクが高く、あまり進んでいない。どんな些細なことでも構わない」
「はい。あのアスタロトさんは、綺麗で可愛らしい女性の方で、ドラゴンの角と尻尾が生えていました」
「ドラゴンの角と尻尾……なるほど。本体はドラゴンの可能性が高いな。ブレスも使えると考えるべきで、対策が必要だ」
毛玉は熱心にセリナの話をメモに取る。
「でも、最初は彼女、ザガンと名乗っていた気がします。なぜでしょう?」
「偽装だ。ザガンは虚栄の王。アスタロトを影に隠していたのか。道理でずっとアスタロトには遭遇していなかったわけだ。ザガンとの戦いでは、アスタロトも一緒と考えるべきかもしれないな」
セリナの情報を糧に、彼の思考は高速で回転し、次々と計画が練られていく。
「俺もアスモデウスに会ったことある。彼女は幻術が得意で、あの……せい…魔術もすごいらしい」
「性魔術」という単語に顔を赤らめながらも、レンは協力を惜しまなかった。
「ほう……幻術と性魔術のスタイルか。これは用心が必要だ。ただ性魔術は相手に接近し拘束してかけるコンボが前提となる。彼女は近接格闘も強い可能性が十分にあるだろう」
「嘘!? ただのエロ技しか使わないお姉さんだと思ってた」
さらに情報を元に、仮説を立てていく。
「ベリアルの名前は前線の報告から聞いたことがあります。鎌で津波を両断し、そのまま黒い炎で焼き尽くしたとのことであります」
エンプラも自身のデータベースから、該当する報告書を探し出し、毛玉に伝える。
「武器はデスサイズ……津波を両断するほどの力に、黒い炎による侵食か。厄介だな。何でも『食べる』ということは、ほとんどの攻撃が効かない可能性がある。できれば早くは会いたくないな」
明らかに危険な対象は、できる限り戦闘を後回しにする。その間に、対策を練るのだ。
「助かった。これだけで、二百年ほどの時間を節約できた気がする。みんな、お疲れ様」
「それはよかったけど……それでもまだ八百年分の作業が残ってるじゃねえか…」
二百年の短縮は助かるが、本来の計画である千年に比べれば、大して縮んでいない。ましてや彼女たちに与えられた期限は、たった一ヶ月だ。
「急がば回れ。急ぐことで、かえって余計な手間がかかり、計画以上の時間を費やすこともある。回り道こそが、最短の道なのだ」
「そうですね」
セリナは思い出す。昔、自分が成長を急ぎ、ブラックセリナになった時、毛玉は同じ言葉を彼女にかけていた。
(やっぱり、マオウさんはマオウさんですね)
「では、移動しよう。今はできればサベルト、ベリアル、リバエルには会いたくないな。私との相性が悪すぎる。だが、そんなことを望んだところで、この世界が優しく応じてくれるわけでもないだろう。キューブを回すのはモリアだ。余計なことを考えても仕方ないか……」
毛玉はセリナとレンの手を取った。
「マオウさん?」
「ちょっと、いきなり手を握らないでよ。心の準備ができてないだろ」
「ほら、そこのポンコツ、円陣を組むぞ」
「円陣♪円陣♪円陣♪であります! で、吾輩はポンコツじゃないでありますよ」
ワクワクしながらエンプラはレンとセリナの手を取った。
「なんですか。この恥ずかしい行為……」
「前にやった時に気づいた。どうすれば全員がばらけずに転移できるか――この円陣を一つの個体として移動させればいい。だから着くまで絶対に手を離すなよ」
「離したらどうなるでありますか?」
「空間の狭間に取り残されて、二度と出られなくなる」
「危ない! モリアさんみたいにパッと移動できないか?」
「無茶を言うな。こっちはずっとソロでやってきたから、多数の味方を同時に転移させる魔法の研究なんてしてない。未来の俺はともかく、今の俺はこれが精一杯だ。それとも歩いていくか? 安全だけど、着く前に時間切れるぞ」
「ああ……もうわかったから飛ばしてくれ。手を離したら呪うからな」
レンは毛玉の手を強く握った。
「わかった、離さないよ」
毛玉もまた、強く握り返した。
「むっ」
セリナは二人のそんな雰囲気に少しヤキモチを感じ、対抗するかのように、自分も握る力を強めた。
「おお、みんな仲良しであります!」
キューブ世界は回り続ける。それでも、四人の絆はこの円陣のように固く結ばれている。魔法の光とともに、彼らは次の戦場へと向かう。行き先はわからない。だが、どの道を選ぼうと、地獄であることに変わりはない。
さて、最初の相手は蛇(悪魔)が出るか、蛇(悪魔)が出るか――。
依頼期限まで、残り30日。
六つの面は、天道、地獄道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道という六道を表している。
八つの頂点と一つの核は、九つの罪を犯した者が堕ちる地獄である:
•等活(とうかつ)地獄
怒りに駆られ人を殺めた者が堕ちる地獄。
•黒縄(こくじょう)地獄
窃盗、強盗など金銭に関わる罪を犯した者が堕ちる地獄。
•衆合(しゅうごう)地獄
邪淫を犯した者が堕ちる地獄。
•叫喚(きょうかん)地獄
飲酒によって罪を犯した者が堕ちる地獄。
•焦熱(しょうねつ)地獄
暴飲暴食に耽った者が堕ちる地獄。
•紅蓮(ぐれん)地獄
妄語を繰り返し罪を犯した者が堕ちる地獄。
•無間(むけん)地獄
働かず自堕落に生きた者が堕ちる地獄。
•阿鼻(あび)地獄
聖者を裏切った者が堕ちる地獄。
そして最後に
•孤独(こどく)地獄
あらゆる罪を犯し、最も罪深き者が堕ちる地獄である。
地獄の世界はルービックキューブのように絶えず動き続けている。しかし、八つの頂点が互いに隣接することは決してなく、また、唯一動かない中心の位置には──モリアがいる。
*
そういうわけで、毛玉は黒板に板書を書きながら説明していた。
「1ヶ月だけで地獄を回りきることすら難しいんじゃないか」レンが質問した。
「大丈夫だ。事前に転移用のアジトをいくつか作ってあるから、一瞬で移動できる。ただ、世界そのものが動いているから座標も常に変わる。どの角に飛ぶかは私にもわからない」
「でも、七十二柱の悪魔さんたちがいらっしゃいますね。一日に二体倒しても間に合いません」セリナは改めて一ヶ月という時間の短さを実感した。
「それは大丈夫。既に六十二柱には勝っているから」
「……???」
毛玉の淡々とした告白に、二人は思わず吹き出しそうになった。
「すげえじゃねえか! 見直したよ! ちなみに、一体にどれくらい時間かけたんだ?」
「気にしたことはないが、平均して一体に百年くらいか」
「……え?」
百年。毛玉は平然と言っているが、セリナとレンにとっては普通の人間の一生より長い時間だ。
「一体で百年ですから、六十二体だと六千二百年でありますね」
エンプラもまた人間の時間感覚を持たない分、ごく普通に計算している。
「長えよ! どんだけ時間かけてんだよ! それじゃあモリアも切れるだろ! このペースだとまだ千年かかるってことか! 待てるわけねえだろそんなの!」レンは激しいツッコミを入れた。
「バカか、君は。相手は悪魔だ。ちょっとしたミスが命取りになる。やり直すチャンスはない。あの強者たちから逃げ切れるわけがない。だからこそ、情報収集、弱点分析、戦術設計、事前仕込みをしっかりやる。私はそうやってここまで生き延びてきたんだ」
毛玉の言う通り、永遠の命を持っているとはいえ、神格を持たない彼は殺されれば死んでしまう。何度殺しても死なない悪魔たちとは違う。負けたらそこでゲームオーバー。すべてが終わる。それにそのお陰で、転移先のアジトができたことだし、その気持ちは理解できるが――
(七千二百年は長すぎだろ…)
だからこそ、モリアは彼女たちを未来から呼び寄せ、急がせようとしたのだ。「一ヶ月で」と言っているが、彼女の時間感覚で言えば――
『今すぐ、できる限り早くしなさい。これ以上待てない』という最終通告なのだろう。
「あの……残りの十柱の悪魔さんたちは、どんな方たちですか?」セリナは前向きに、一ヶ月でどうにかするため話を先へ進めようとした。
「王クラスが九柱、公爵クラスが一柱だ」
「手強いのばっかり残してやがったな」
「悪魔公爵アスタロト、
憤怒の王ザベルト、
強欲の王マムブス、
憂鬱の王バラム、
虚栄の王ザガン、
怠惰の王ヴェネゴール、
暴食の王ベリアル、
色欲の王アスモデウス、
傲慢の王リバエル、
そしてラスボスの――
嫉妬の王パイモン、モリアのことだ」
「あいつが嫉妬か! はは! お似合いすぎる! いかにもねじねじした性格してるしな!」レンは腹を抱えて笑いを堪えられなかった。
「まあ、オリジナルは心が狭いでありますからね」
「ダメですよ! たとえ本当のことでも、言い出すと彼女が可哀想じゃありませんか……痛っ!」
いきなり空から三つのたらいが落ち、三人の頭を直撃した。
「痛え……あいつ全知だから、このくらいのこと許してもいいじゃねえか。やっぱ心が狭いな」
さらに空からたらいが三つ、今度はレンめがけて落ちてきた。
「同じ手を二度もくらうかよって……で、痛っ!」
見事に避けたはずが、三つのたらいは地面に落ちず、再び彼の頭上に命中した。さらに紙切れが一枚ついていた。
「『男の胸に負けた可哀想な女の子(笑)』 ちくしょう、ムカつく!」
「あの……話を戻してもいいかね……」
毛玉は今の騒がしい雰囲気にまだ慣れておらず、少し置いてけぼりを食らっていた。*
*
「やはり、まずは公爵のアスタロトを攻略すべきであります。公爵なら、王より弱いに違いありません」
「いや、そうとは限らない。私も最初はそう考えて下位階級から攻略を始めたが、すぐに思い知らされた。王クラスは特別だが、下位階級が必ずしも弱いわけではない。戦闘特化した者なら王以上の実力を持つこともある。悪魔侯爵サブナックは、侯爵でありながら戦闘技術が高かった、かなり私を追い詰めた。結局ギリギリで勝ったが、危うかった。他にも君主のシトリーや伯爵のフルフルなど……」
まるで苦虫を噛み潰したような表情で毛玉は語った。百年の準備を重ねても、実際に彼らと戦った記憶は、どれも思い出したくないほどの苦痛だった。
「アスタロト? あっ、思い出しました」
セリナは未来の世界で毛玉との最終決戦を思い出す。確かに九人の王がいた。その時、唯一王ではなかった彼女――アスタロトもまた、その場にいた。
「未来の彼らに会ったのか。なるほど、だからモリアが君たちを過去へこの時点へ送ったわけだ」
実際、セリナたちには王クラスの悪魔に勝てるほどの力はない。だが、こうした些細な情報が、過去の毛玉にとっては貴重な助けとなる。
「もっと詳しく教えてくれ。王クラスに関する情報収集は正直リスクが高く、あまり進んでいない。どんな些細なことでも構わない」
「はい。あのアスタロトさんは、綺麗で可愛らしい女性の方で、ドラゴンの角と尻尾が生えていました」
「ドラゴンの角と尻尾……なるほど。本体はドラゴンの可能性が高いな。ブレスも使えると考えるべきで、対策が必要だ」
毛玉は熱心にセリナの話をメモに取る。
「でも、最初は彼女、ザガンと名乗っていた気がします。なぜでしょう?」
「偽装だ。ザガンは虚栄の王。アスタロトを影に隠していたのか。道理でずっとアスタロトには遭遇していなかったわけだ。ザガンとの戦いでは、アスタロトも一緒と考えるべきかもしれないな」
セリナの情報を糧に、彼の思考は高速で回転し、次々と計画が練られていく。
「俺もアスモデウスに会ったことある。彼女は幻術が得意で、あの……せい…魔術もすごいらしい」
「性魔術」という単語に顔を赤らめながらも、レンは協力を惜しまなかった。
「ほう……幻術と性魔術のスタイルか。これは用心が必要だ。ただ性魔術は相手に接近し拘束してかけるコンボが前提となる。彼女は近接格闘も強い可能性が十分にあるだろう」
「嘘!? ただのエロ技しか使わないお姉さんだと思ってた」
さらに情報を元に、仮説を立てていく。
「ベリアルの名前は前線の報告から聞いたことがあります。鎌で津波を両断し、そのまま黒い炎で焼き尽くしたとのことであります」
エンプラも自身のデータベースから、該当する報告書を探し出し、毛玉に伝える。
「武器はデスサイズ……津波を両断するほどの力に、黒い炎による侵食か。厄介だな。何でも『食べる』ということは、ほとんどの攻撃が効かない可能性がある。できれば早くは会いたくないな」
明らかに危険な対象は、できる限り戦闘を後回しにする。その間に、対策を練るのだ。
「助かった。これだけで、二百年ほどの時間を節約できた気がする。みんな、お疲れ様」
「それはよかったけど……それでもまだ八百年分の作業が残ってるじゃねえか…」
二百年の短縮は助かるが、本来の計画である千年に比べれば、大して縮んでいない。ましてや彼女たちに与えられた期限は、たった一ヶ月だ。
「急がば回れ。急ぐことで、かえって余計な手間がかかり、計画以上の時間を費やすこともある。回り道こそが、最短の道なのだ」
「そうですね」
セリナは思い出す。昔、自分が成長を急ぎ、ブラックセリナになった時、毛玉は同じ言葉を彼女にかけていた。
(やっぱり、マオウさんはマオウさんですね)
「では、移動しよう。今はできればサベルト、ベリアル、リバエルには会いたくないな。私との相性が悪すぎる。だが、そんなことを望んだところで、この世界が優しく応じてくれるわけでもないだろう。キューブを回すのはモリアだ。余計なことを考えても仕方ないか……」
毛玉はセリナとレンの手を取った。
「マオウさん?」
「ちょっと、いきなり手を握らないでよ。心の準備ができてないだろ」
「ほら、そこのポンコツ、円陣を組むぞ」
「円陣♪円陣♪円陣♪であります! で、吾輩はポンコツじゃないでありますよ」
ワクワクしながらエンプラはレンとセリナの手を取った。
「なんですか。この恥ずかしい行為……」
「前にやった時に気づいた。どうすれば全員がばらけずに転移できるか――この円陣を一つの個体として移動させればいい。だから着くまで絶対に手を離すなよ」
「離したらどうなるでありますか?」
「空間の狭間に取り残されて、二度と出られなくなる」
「危ない! モリアさんみたいにパッと移動できないか?」
「無茶を言うな。こっちはずっとソロでやってきたから、多数の味方を同時に転移させる魔法の研究なんてしてない。未来の俺はともかく、今の俺はこれが精一杯だ。それとも歩いていくか? 安全だけど、着く前に時間切れるぞ」
「ああ……もうわかったから飛ばしてくれ。手を離したら呪うからな」
レンは毛玉の手を強く握った。
「わかった、離さないよ」
毛玉もまた、強く握り返した。
「むっ」
セリナは二人のそんな雰囲気に少しヤキモチを感じ、対抗するかのように、自分も握る力を強めた。
「おお、みんな仲良しであります!」
キューブ世界は回り続ける。それでも、四人の絆はこの円陣のように固く結ばれている。魔法の光とともに、彼らは次の戦場へと向かう。行き先はわからない。だが、どの道を選ぼうと、地獄であることに変わりはない。
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