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カメラが写せない景色〜オレとオマエの過去の話をしよう〜
カメラが映さなかった【後輩の過去】
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「泣き止んだか」
「はい、ごめんなさい先輩の服汚しちゃって」
「洗えば綺麗になるんだから気にするな。それよりお前の両親の話聞かせろよ」
「うぅ、わかってますよ。と言っても、先輩見たいにすごい話じゃないです。普通に両親の仲は良かったし、妹との中も良かったですし。私も愛してもらえてましたから」
「普通が一番いいだろ。でも、そう簡単に終わる話でもないんだろ」
この場から見える光景を見る。使われることの無い、余った椅子。戸棚にしまわれた夫婦茶碗《めおとちゃわん》にコップ。その他多くの食器。スリッパ。
その全てがかつてこの家に居たであろう、後輩の家族の存在を想像させる。
「はい……」
やっと泣き止んだのにまた悲しい表情を見せ始める後輩。やっぱり後輩にこの話はまだ無理だったか。
「無理なら後日でもいいぞ。受け入れるって言っても、時間かかることだ。感情があればなおさらな。後で必ず聞かせてくれるなら、後でいい」
左腕に抱きついていた後輩をそっと剥がす。
「えっと、先輩」
後輩が全てを理解する前に後輩を少し持ち上げ膝の上に乗せる。膝の上に載せるのに苦労するかと思ったが、意外とすんなり乗せれた。
「俺はお前が泣いてるより、笑ってる方が好きなんだ」
俺の膝の上に座り込む後輩、そして後ろから手を回して抱きしめる俺。柄にもないことをしてるのは分かるが。これで後輩が泣き止むならいいと思った。
「せ、先輩耳元で」
予想どうり泣き止んだのだが、『プシュー』か『ポンッ!』という擬音が付きそうなほどに顔が赤くなってる。
「なんだよ」
「耳元で喋るの禁止です!」
「わかったよ、でも泣き止んでよかった」
「それは、先輩がこんなことするから」
「嫌ならやめるぞ」
「過去と向き合うために、このままでお願いします !」
「ああ」
そのまま後輩は、俺に寄りかかった。脱力まではいかないが、無防備に俺に体を預けてきた。
後輩の座る膝の重みと、胸に寄りかかる後輩の重み。
羽のように軽いは言い過ぎだし嘘になるが。別に気になる重さではないなと思う。幸せの重みとでも表現すれば良いのか、心地の良い重みと表現すればいいか分からないが。意味的には同じだろう。
後輩の前でクロスさせた俺の手を後輩の手が包み込む。そしてそのまま、後輩は話し始めた。
「中学二年生の時です。家族で旅行に行く予定があったんですけど、私直前で風邪引いちゃって。私のせいで旅行が無くなるのは嫌だったので、私は大丈夫だからって家族を送り出したんです」
『ポロッ』と流れ落ちる後輩の涙を、指で拭う。
「でも、家族が家に帰ってくることはありませんでした。山道を車で走行中に事故にあって車ごと、転落、して」
泣きそうになってる、と言うかほとんど泣いてる後輩の頭を撫でる。
「私だけ、生き残ったんです。この広い家に、私だけ、残されたんです。一人で生きてても、なんにも楽しくないのに、家族がいるから、私は楽しかったのに」
耳元で喋るな、と言われたから後輩の頭の上で話す。
「俺は、お前のその感情に共感してやることは出来ない。家族を失う悲しみを理解してやることは出来ない。でも向き合う助言ならしてやれる、聞きたいか」
「教えてください、先輩。私、どうしたら、いいんですか?」
俺の言葉が、後輩にとって意味のある言葉になるか。分からない。だが、何も言わないよりはマシだろ?
「忘れろとは言わねぇ。でも、悲しい記憶よりも。楽しかった時の記憶を大事にしろ。悲しくなるほどの、楽しい記憶があったんだろ」
「あります、沢山、沢山!」
「ならそいつを忘れるな。悲しい記憶を上書きするくらい、楽しい記憶を思い出せ。思い出して悲しくなったら、また楽しいこと思い出せ。それを繰り返せば、そのうち悲しみは消えて記憶だけが残るからな」
俺が後輩と共に過ごして、楽しい記憶を貰って。
人の醜さと言う過去に囚われていた俺が、後輩との楽しい記憶で前に進めた。
だから今の俺が居るように。
多分後輩も、楽しい記憶があれば。過去と向き合えるだろ。
「先輩、私、今楽しい記憶が欲しいです」
「はぁ?」
「過去の楽しい思い出より、今の楽しい思い出を、私、思い出したいんです。だから、思い出くれませんか?」
「ちっ!」
後輩もワガママになったものだ。いや前からか。卒業式の日も思い出になるからって告白してきたんだ。場所も関係性もあの時とは別だが……
「俺が、お前のその願いを断れるわけがねぇだろ。こっち向いて座り直せ」
「はい!」
急に元気になりやがって、現金なヤツだ。立ち上がって、俺の方を向いて座り直した後輩。
その顔は『ぐしゃぐしゃ』で、涙で酷いものだった。だが、流れる涙が悲しみの涙ではなく。嬉しさの涙に変わっていることに気がついた。俺も成長してるってことか。何より涙の意味は後輩自身がよくわかってるんだろう。
泣いているのに嬉しい。そんな表情を俺は写真に撮りたくなった。
手の届く位置に、没収されたカメラはあった。カメラに手を伸ばそうとして、俺はやめた。
どんなに高性能なカメラで撮っても、意味は無い。写真を撮っても、その写真には映らないものがある。景色だけを写すカメラじゃ、意味が無い。
カメラが写せない景色がここにある。
昔の俺は、人が醜いものだと言った。カメラに写るのは外面だけで、内面までは写らないと。
その通りだ。泣いている後輩を撮っても、泣いてる後輩が写るだけ。嬉しいという内面は写せない。
だから俺は別のものに写す。
瞳に、この光景を写す。
『パチ』
瞼を閉じて、脳裏に光景を焼き付ける。
写真を撮る時とやってることは変わらない。カメラか俺の瞳かその違いだけだ。
「目、瞑ってろ。思い出欲しいんだろ」
「はいっ!」
後輩は素直に目を瞑る。やっぱり素直すぎるな後輩は。
『チュッ』
後輩の前髪を上げて、額にキスをする。
「今はこれで我慢しろ。本番のキスはもっと大きくなってからだ」
「はい、ごめんなさい先輩の服汚しちゃって」
「洗えば綺麗になるんだから気にするな。それよりお前の両親の話聞かせろよ」
「うぅ、わかってますよ。と言っても、先輩見たいにすごい話じゃないです。普通に両親の仲は良かったし、妹との中も良かったですし。私も愛してもらえてましたから」
「普通が一番いいだろ。でも、そう簡単に終わる話でもないんだろ」
この場から見える光景を見る。使われることの無い、余った椅子。戸棚にしまわれた夫婦茶碗《めおとちゃわん》にコップ。その他多くの食器。スリッパ。
その全てがかつてこの家に居たであろう、後輩の家族の存在を想像させる。
「はい……」
やっと泣き止んだのにまた悲しい表情を見せ始める後輩。やっぱり後輩にこの話はまだ無理だったか。
「無理なら後日でもいいぞ。受け入れるって言っても、時間かかることだ。感情があればなおさらな。後で必ず聞かせてくれるなら、後でいい」
左腕に抱きついていた後輩をそっと剥がす。
「えっと、先輩」
後輩が全てを理解する前に後輩を少し持ち上げ膝の上に乗せる。膝の上に載せるのに苦労するかと思ったが、意外とすんなり乗せれた。
「俺はお前が泣いてるより、笑ってる方が好きなんだ」
俺の膝の上に座り込む後輩、そして後ろから手を回して抱きしめる俺。柄にもないことをしてるのは分かるが。これで後輩が泣き止むならいいと思った。
「せ、先輩耳元で」
予想どうり泣き止んだのだが、『プシュー』か『ポンッ!』という擬音が付きそうなほどに顔が赤くなってる。
「なんだよ」
「耳元で喋るの禁止です!」
「わかったよ、でも泣き止んでよかった」
「それは、先輩がこんなことするから」
「嫌ならやめるぞ」
「過去と向き合うために、このままでお願いします !」
「ああ」
そのまま後輩は、俺に寄りかかった。脱力まではいかないが、無防備に俺に体を預けてきた。
後輩の座る膝の重みと、胸に寄りかかる後輩の重み。
羽のように軽いは言い過ぎだし嘘になるが。別に気になる重さではないなと思う。幸せの重みとでも表現すれば良いのか、心地の良い重みと表現すればいいか分からないが。意味的には同じだろう。
後輩の前でクロスさせた俺の手を後輩の手が包み込む。そしてそのまま、後輩は話し始めた。
「中学二年生の時です。家族で旅行に行く予定があったんですけど、私直前で風邪引いちゃって。私のせいで旅行が無くなるのは嫌だったので、私は大丈夫だからって家族を送り出したんです」
『ポロッ』と流れ落ちる後輩の涙を、指で拭う。
「でも、家族が家に帰ってくることはありませんでした。山道を車で走行中に事故にあって車ごと、転落、して」
泣きそうになってる、と言うかほとんど泣いてる後輩の頭を撫でる。
「私だけ、生き残ったんです。この広い家に、私だけ、残されたんです。一人で生きてても、なんにも楽しくないのに、家族がいるから、私は楽しかったのに」
耳元で喋るな、と言われたから後輩の頭の上で話す。
「俺は、お前のその感情に共感してやることは出来ない。家族を失う悲しみを理解してやることは出来ない。でも向き合う助言ならしてやれる、聞きたいか」
「教えてください、先輩。私、どうしたら、いいんですか?」
俺の言葉が、後輩にとって意味のある言葉になるか。分からない。だが、何も言わないよりはマシだろ?
「忘れろとは言わねぇ。でも、悲しい記憶よりも。楽しかった時の記憶を大事にしろ。悲しくなるほどの、楽しい記憶があったんだろ」
「あります、沢山、沢山!」
「ならそいつを忘れるな。悲しい記憶を上書きするくらい、楽しい記憶を思い出せ。思い出して悲しくなったら、また楽しいこと思い出せ。それを繰り返せば、そのうち悲しみは消えて記憶だけが残るからな」
俺が後輩と共に過ごして、楽しい記憶を貰って。
人の醜さと言う過去に囚われていた俺が、後輩との楽しい記憶で前に進めた。
だから今の俺が居るように。
多分後輩も、楽しい記憶があれば。過去と向き合えるだろ。
「先輩、私、今楽しい記憶が欲しいです」
「はぁ?」
「過去の楽しい思い出より、今の楽しい思い出を、私、思い出したいんです。だから、思い出くれませんか?」
「ちっ!」
後輩もワガママになったものだ。いや前からか。卒業式の日も思い出になるからって告白してきたんだ。場所も関係性もあの時とは別だが……
「俺が、お前のその願いを断れるわけがねぇだろ。こっち向いて座り直せ」
「はい!」
急に元気になりやがって、現金なヤツだ。立ち上がって、俺の方を向いて座り直した後輩。
その顔は『ぐしゃぐしゃ』で、涙で酷いものだった。だが、流れる涙が悲しみの涙ではなく。嬉しさの涙に変わっていることに気がついた。俺も成長してるってことか。何より涙の意味は後輩自身がよくわかってるんだろう。
泣いているのに嬉しい。そんな表情を俺は写真に撮りたくなった。
手の届く位置に、没収されたカメラはあった。カメラに手を伸ばそうとして、俺はやめた。
どんなに高性能なカメラで撮っても、意味は無い。写真を撮っても、その写真には映らないものがある。景色だけを写すカメラじゃ、意味が無い。
カメラが写せない景色がここにある。
昔の俺は、人が醜いものだと言った。カメラに写るのは外面だけで、内面までは写らないと。
その通りだ。泣いている後輩を撮っても、泣いてる後輩が写るだけ。嬉しいという内面は写せない。
だから俺は別のものに写す。
瞳に、この光景を写す。
『パチ』
瞼を閉じて、脳裏に光景を焼き付ける。
写真を撮る時とやってることは変わらない。カメラか俺の瞳かその違いだけだ。
「目、瞑ってろ。思い出欲しいんだろ」
「はいっ!」
後輩は素直に目を瞑る。やっぱり素直すぎるな後輩は。
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「今はこれで我慢しろ。本番のキスはもっと大きくなってからだ」
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