上 下
30 / 34

第6話 暴かれた真実-2

しおりを挟む
〈ぎやーうぉー〉桃夏の強拳が飛び、回し蹴りが炸裂し、うしろ蹴りが決まる。一気に数人を蹴散らしていた。次に銃声音! 何発もの弾丸を発射させ、物陰に潜む男たちの手足を撃ち抜く。さらに走り来る敵に手榴弾を見舞って、大爆音を響き渡らせた。
 恐ろしいほどのバトルソルジャーだ。一瞬で彼女の回りは呻く男たちで満たされた。
「金光、どこだ!」続いて桃夏は、鬼気迫る顔で叫んだ。
 が、その時、思わぬ反撃か!
 突如――1発の銃声がした!?――どこからか彼女に向かって弾が撃ち込まれたのだ!
 うっ、危ない! 桃夏は反射的に身を伏せた。……そのお陰で、辛うじて避けられたか。
 しかし危機一髪だった。これほどの狙い撃ちをされるとは想定外のこと。ましてや彼女ほどの戦士を怯ませたのだから、近辺からでなく長距離の狙撃に違いない。そう思いつつ、彼女は弾の軌跡を見極め、すぐに細い鉄骨の柱に身を隠した。この時ばかりは息を殺して様子を窺う。
 すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「動くな、今度は外さんぞ」と。
 ただちに彼女は、声のする方角へ目をやった。
 遥か頭上の、足場が鋼材で格子状に組まれた、渡り橋に金光の姿を認める。しかもその数メートル横には、狙撃手までも引き連れ、桃夏にもう一度弾丸を見舞おうとしていた!
「銃を捨てろ」なおも金光が言った。
 その言葉に、彼女の方も拳銃で答えを返そうと思ったが……命中させるのに距離があり過ぎた。それに奴らは真上に位置していたため、彼女の姿が丸見え、相手の高性能ライフルの方に分がある。となれば仕方ない、反撃は無理だと判断し素直に銃を足元に投げた。
 金光はそれを見るなり、「ど、どうやってわしの居場所が分かった?」とすぐさま奴にとっては貴重であろう情報を訊いてきた。簡単にアジトが割れて腑に落ちなかったみたいだ。
 それには、「お前の潜伏場所ぐらい、裏社会をたどればいくらでも分かるわ」と桃夏が吐き捨てる。
「むっ、どうせ金だな。金で情報を買いやがって!」
 どうやらじゃの道は蛇、奴の動向も知らぬ間に噂となって闇の世界で広がっているという訳だ。奴にすれば、裏を知り尽くしているにも拘らず、己の身に火の粉が降りかかろうとは思いも寄らなかっただろう。
「他に誰がわしの居所を知っている」次いでまだ知るべきことがあるらしく、しつこく詰め寄ってきた。
「さて、どうかな? そうそう、警察には知らせてきたわ」と桃夏は揶揄やゆして答えた。
 そんな中、唐突に1人の子分が金光に近づき耳元で囁く。それで状況が少し飲めたようだ。
「まったく、馬鹿な奴め。たった1人で乗り込んで来たみたいだな」
 確かに……その通りだ。残念ながら彼女は単独行動だった。ばれてしまえばしょうがない。
「サツが知ってるだと、はったりもいい加減にしろ。……それにしても、お前だけでこのわしを殺れると思ったか?」と金光は、安心しきった様子で桃夏を戒めた。
 なるほど、奴の言うように彼女の戦法は無茶だったかもしれない。誰の援護もなく単身で攻めに入ってはみたものの、結局スナイパーに狙撃される寸前となってしまったのだから……
 とはいえ、彼女に焦りはなかった。何故なら、
「ふふふ、それはそうねえ。1人で来るなんて、本当に無謀……」と言うが早いか、腰のホルダーからある小さな機器を取り出し、「だとすれば、私なら策を講じるわね。例えばこんな物を!」と奴らの目の前にその物体を突き付けた。つまり桃夏の方も、当然奥の手を隠し持っていた訳だ!
 するとその途端、金光は不審な顔を見せる。
「それは……何だ?」と荒げた声で訊いてきた。察するところ、奴もその装置が本当に危険な物と感じたようだ。
 それなら答えてやろう。桃夏は悪党の動揺を気にも留めず、高らかに警告を発していた。
「よーく聞け、この装置のスイッチを押せば、船の機関部に設置したC4爆弾が噴き飛ぶぞ! それで船は沈没だ。お前ら全員、魚の餌になってもらうわ」いかにも、彼女はいざと言う時のために爆薬を仕掛けていたのだ。
「何だと! 止めろー! きさまー、せっかくの計画が」流石にその言葉を聞いては、奴も驚きうろたえる素振りを見せた。
 同じくスナイパーも慌てふためき、次の指示を仰ごうと思ったのか、金光の顔色を窺うように注視していたが、金光は手を振り静止の合図を示した。と言うのも、桃夏の指は既に装置のボタンにかかっていたため、弾が当たった拍子にスイッチが入る可能性が大きいと考えたに相違ない。やはり多大なリスクを無謀に犯すほど愚かではないのだろう。
 これで完全に主導権を奪われ、対応に苦慮する立場となった金光。
 対して桃夏の方は、そんな族に容赦など微塵も感じていない、疾うに仕業を決意していた。
 「では、金光さん、準備はよろしいですか」そう言うと、いきなり起爆装置を掲げ――そこに聞こえる「止めろー! 止めてくれー」とやかましく叫ぶ奴の声――その雑音を無視したうえで、彼女は否応なしにボタンを押した?……
――鈍い打撃音が響いた!?――
 否、ところが桃夏は何とか堪えた! 辛うじて踏み止まる。その故は、鈍い音を耳にした後、突然展開された光景にスイッチを押すのも忘れるぐらい唖然として見入ってしまったせいだ。
 彼女の目の前で起きた一瞬の出来事とは……何と! 電光石火のごとく現れたかと思ったら、狙撃手を殴り倒すとともにライフルを奪い取り、金光に銃口を突きつけた、ある人物の出現!
 しかも、その男の顔には、仮面があった。
 まさしく登場してきたのは――厳鬼だ!

しおりを挟む

処理中です...