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第5章:初夏、新たなる出会い
第15話:ゴーレムについての諸々
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白鷺亭に戻ったレイたちは、部屋に入ってゴーレムのコアを調べることにしました。
「このコアだけであのゴーレムが動いてたんだな」
「エネルギー効率がいいのかな?」
「どうやってあの大きな体を動かしていたのかがわかりませんね」
コアの表面には細かな模様がびっしりと彫られています。これがゴーレムの頭の中に入っていました。それが今は、ときには青く、ときには赤く光っています。
普通の魔物は頭の中に魔石があります。ゴーレムの場合は魔石ではなく、コアがあるだけです。それ以外は別の物質でできています。ストーンゴーレムなら石、アイアンゴーレムなら鉄のように。
このゴーレムはゴールドゴーレムでした。体は金でできていて、その体を動かしていたのが、この小さなコアです。電池一つで車を動かすようなものです。どう考えてもパワー不足でしょう。
「ですが、ストーンゴーレムも体は普通の石でしたわ。とても術式が書き込まれているとは思えませんでした」
「はい。単なる石の塊でしたです」
ゴーレムを破壊していた二人の目にも、特に体のほうに何かがあるようには見えませんでした。まあ、破壊したあとの話ですけどね。
みんながあーだこーだと話し合っている中、一人だけ輪の外から見ていたシャロンは、その光り方に違和感を覚えていました。
「旦那様、先ほどからコアが光っていますね」
「そうだな。赤と青だな」
「しばらく見ていたのですが、ひょっとして我々の言葉に反応していませんか?」
ペカ
「ほら、光りました」
「マジか。それなら俺の言葉が理解できるか?」
ペカ
「じゃあ動ける?」
ペカ
「色が違うね」
先ほどは青く光っていました。今は赤です。
「それなら……『イエス』や『可能』なら青で一回、『ノー』や『無理』なら赤で二回光ってくれ」
ペカ
「青で一回です。ご主人さまはゴーレムマスターです?」
「いや、ゴーレムマスターってゴーレムを作る人じゃないのか?」
簡単な意思疎通はできるようになりましたが、イエスかノーだけでは理解に時間がかかります。
「でも、一つ一つ聞くのは面倒だな。なあ、字を書くことはできるか?」
ペカ、ペカペカ、ペカ、ペカペカ
レイの質問に、コアが青赤交互に点滅しました。
「イエスでもノーでもないと」
「体がないからではありませんの?」
ペカ
「それなら体か。素材は金属でないといけないのか?」
ペカペカ
「それなら……砂利があったな」
レイがサンドフロッグの砂利を取り出すと、コアを中心にして集まり始めました。グニャグニャと形が変わって、また棒人間のようになります。レイがペンを差し出すと腕が伸びてしっかりと持ち、ゆっくりと紙に書き始めました。
『初めまして、マスター』
「お、よろしく。名前はあるのか?」
『ありません。名付けていただけると幸せます』
「なんでそこだけ山口弁なの?」
サラがツッコミを入れましたが、反応はありませんでした。ゴーレムには「山口弁」の意味が理解できなかったのでしょう。
「ゴーレムって呼ぶのもおかしいな」
「名前を付けます?」
「そうだな、名前を……」
レイはそこまで口にしましたが、あることに気づきました。
「ゴーレムに性別ってあるのか?」
『いえ、我々には人のように雌雄の区別はありません』
「旦那様、男女どちらでも問題なさそうな名前を付けるのはいかがですか?」
「そうだな。みんなで候補を出して、本人に選んでもらおうか」
「では、こちらの紙に」
シャロンが出した紙にみんなで名前を書いていきます。カミーユ、クリス、ダニエル、エリス、ジョアン、ジュリアン、ジャスティン、ニコル、ロビン、サンディー、テリーなどが挙がりました。他にはアオイ、イツキ、セナ、ソラ、チヒロ、ヒナタなどの日本人っぽい名前もあります。
「一番気に入ったものを選んでくれ」
『それでは、ニコルでお願いします』
全部で五〇ほど挙がった名前から、このゴーレムはニコルを選びました。
「ニコル、俺たちはゴーレムに詳しくない。みんなで質問するから、わかることだけでいいから答えてくれ」
『了解しました』
レイのごく普通の質問からサラのマニアックすぎる質問まで、質疑応答のような形で言葉が飛び交いました。ニコルは簡単な質問ならコアのある頭を光らせて、込み入った内容なら紙に書いて答えていきます。その結果、レイたちにわかったことは以下のとおりです。
・ゴーレム——厳密には頭部にあるコア——には意思がありますが、ダンジョンにいる間はダンジョンの支配下にあります。一度ダンジョンから出ればその後は自由に行動できます。ただし、通常は出ないように行動が制限されています。
・ゴーレムにはある程度の知識が与えられています。だからニコルは人には性別があることを知っています。
・ゴーレムはコアが割れなければ壊れません。コアは多少の破損なら自動で修復されますが、大きく割れれば修復はできません。それはゴーレムにとっての死を意味します。
・ゴーレムはコアが直接触れている素材でのみ体を作ることができます。ただし、人の手が直に触れていても、それで体を作ることはできません。
・ゴーレムは自分の意思で体を解体し、新しい素材で作り直すこともできます。その場合も、その新しい素材がコアに直接触れていなければなりません。
・ゴーレムの強さはコアそのものの力と、体を作る素材の強さによって変化します。ガラスよりも木のほうが丈夫なように、素材が高価なら強いとは限りません。
・同じ主人に複数のゴーレムが仕える場合には上下関係が発生します。そうなると上位者が下位者に指示を出すことができます。上下関係はコアの力の差が影響します。
・ゴーレムはコアから供給される魔力によって動いています。その魔力がどこから来ているかはニコル当人にもわかっていません。
・ゴーレムには手足はあっても関節はありません。つまり、体の形を変化させることで動いています。そのため、素早い動きは苦手です。
「だいたい想像してたとおりだね」
「そうなのか?」
ファンタジーに関する知識ではレイはサラには勝てません。途中からはほとんどサラが質問していました。
「うん。だからニコルには部下がいたほうがいいね。ゴーレムを倒すのって普通は大変だから、ゴーレムで壁を作って前進させれば、ほとんどの魔物は蹴散らせるんじゃない? 邪道かもしれないけど、数の暴力つてことで」
サラがそう言うと、物理で殴るのがメインの二人が立ち上がります。
「わたくしが活躍できませんわ」
「私もです」
「あくまで例えだからね。ラケルとケイは戦力として重要だからね。ゴーレムは細かな動きができないから」
盾役としては優秀そうなゴーレムですが、動作がやや遅いという欠点があります。
「それならレイ、明日はゴーレム探しに行きますか?」
「そうだな。ニコルも仲間がいるほうが嬉しいだろ」
ペカ
ニコルも一人よりは仲間がいたほうが嬉しいということで、明日はゴーレムのコア集めにダンジョンに向かうことになりました。
◆◆◆
レイはマジックバッグを通しているベルトに革の袋をぶら下げ、そこに小さなニコルを入れました。
「それなら一三階からですね」
「そうだな。ボスじゃないからいるかいないかわからないけど、見かけたら倒そう。コアは確保だ」
「では頭は狙いませんです」
「ええ。胴体を砕くことにしますわ」
普通ならゴーレムのコアを取り出すことは大変です。頭を殴りつけて倒すので精一杯ですからね。
ところが、このパーティーにはラケルとケイトがいます。ゴーレムの首から下だけを破壊すれば、ラケルが頭を割ってコアを取り出します。金属の塊をリンゴのようにパカッと割ることができるラケルがいるからできることです。
ドゴン!
レイたちはコアを壊さないように注意しながらゴーレムを倒していきます。ダンジョン内では、コアはダンジョンの支配下にありますので、取り出したコアを紙に包んで持ち運びます。
仮に紙で体を作ったとしても、強度が足りないので歩いて逃げ出すのは不可能です。暴れたとしても燃やせばいいだけです。
「そこそこいたな」
ボス戦の前にゴーレムと戦って疲れたくないからなのか、レイたちは一三階から一五階の間でストーンゴーレムばかり七体を倒し、無事に七つのコアを確保しました。紙で包んでから、それぞれ別の布の袋に入れてダンジョンから持ち出します。
「旦那様、袋の中でモゾモゾしていますが大丈夫ですか?」
「コアが触れているものしか体にできないから大丈夫だろ」
たとえ他の素材で体を作りたくても、袋の中にはコアを何重にも包んでいる紙しかありません。紙の体を捨てても周りには紙しかなく、そこをなんとか乗り越えられても布の袋しかないのです。床に落ちればストーンゴーレムになるかもしれませんが、そのときは倒せばいいだけです。
レイたちは転移部屋から地上階に戻りました。そこから外へ向かいます。まだ布袋の中はモゾモゾと動いていますね。
「ダンジョンの外って、そこですの?」
「そこが石と土の境目ですから、おそらくそうでしょうね」
「確認しよう。出るぞ」
レイがダンジョンの出入り口になっている石の床から一歩踏み出すと、袋の中が静かになりました。
「よし、ここならどうだ?」
コアを取り出して並べたレイがニコルに聞きました。すると、おそらくニコルが新入りたちに説明しているのでしょう、コアが赤や青に光っています。
「ご主人さま、この子たちはどうするのです?」
「宿屋にいる間は部屋の片付けをさせればいいと思う。外に出たら戦闘の補助や護衛でもいいだろうな」
大人しくなったコアたちをもう一度袋の中に入れると、一行は宿屋に戻っていきます。
「便利といえば便利だよね」
「材料は現地調達すればいいだけですからね」
サラとシーヴがコアに砂利を与えると、手のひらサイズの小さなストーンゴーレムが新しく七体できました。ニコルだけは他とは少し色が違います。
「宿屋の中では体は小さくしてくれ。大きくなるなら素材はこれな」
フルサイズのストーンゴーレムが八体も一つの部屋にいれば、確実に床が抜けます。一体で何トンもありますからね。だから人と同じくらいのサイズになる際には、コルクで体を作るようにレイは指示をしました。
「それじゃあ名前を付けようか」
「前に挙げた名前から選んでもらえばいいでしょうか?」
シャロンが名前を書いた紙をテーブルに出しました。七体がその紙を囲むと、青に赤にと光り始めました。
「選んでるのかな?」
「取り合いをしてるかもしれないです」
数分もしないうちに、七体はそれぞれカミーユ、ダニエル、エリス、イツキ、ジョアン、セナ、テリーを選びました。そして額の部分にC、D、E、I、J、S、Tと浮かび上がりました。リーダーのニコルはNです。
イニシャルのかぶりがありませんね。できるゴーレムのようです。
ぺか
「このコアだけであのゴーレムが動いてたんだな」
「エネルギー効率がいいのかな?」
「どうやってあの大きな体を動かしていたのかがわかりませんね」
コアの表面には細かな模様がびっしりと彫られています。これがゴーレムの頭の中に入っていました。それが今は、ときには青く、ときには赤く光っています。
普通の魔物は頭の中に魔石があります。ゴーレムの場合は魔石ではなく、コアがあるだけです。それ以外は別の物質でできています。ストーンゴーレムなら石、アイアンゴーレムなら鉄のように。
このゴーレムはゴールドゴーレムでした。体は金でできていて、その体を動かしていたのが、この小さなコアです。電池一つで車を動かすようなものです。どう考えてもパワー不足でしょう。
「ですが、ストーンゴーレムも体は普通の石でしたわ。とても術式が書き込まれているとは思えませんでした」
「はい。単なる石の塊でしたです」
ゴーレムを破壊していた二人の目にも、特に体のほうに何かがあるようには見えませんでした。まあ、破壊したあとの話ですけどね。
みんながあーだこーだと話し合っている中、一人だけ輪の外から見ていたシャロンは、その光り方に違和感を覚えていました。
「旦那様、先ほどからコアが光っていますね」
「そうだな。赤と青だな」
「しばらく見ていたのですが、ひょっとして我々の言葉に反応していませんか?」
ペカ
「ほら、光りました」
「マジか。それなら俺の言葉が理解できるか?」
ペカ
「じゃあ動ける?」
ペカ
「色が違うね」
先ほどは青く光っていました。今は赤です。
「それなら……『イエス』や『可能』なら青で一回、『ノー』や『無理』なら赤で二回光ってくれ」
ペカ
「青で一回です。ご主人さまはゴーレムマスターです?」
「いや、ゴーレムマスターってゴーレムを作る人じゃないのか?」
簡単な意思疎通はできるようになりましたが、イエスかノーだけでは理解に時間がかかります。
「でも、一つ一つ聞くのは面倒だな。なあ、字を書くことはできるか?」
ペカ、ペカペカ、ペカ、ペカペカ
レイの質問に、コアが青赤交互に点滅しました。
「イエスでもノーでもないと」
「体がないからではありませんの?」
ペカ
「それなら体か。素材は金属でないといけないのか?」
ペカペカ
「それなら……砂利があったな」
レイがサンドフロッグの砂利を取り出すと、コアを中心にして集まり始めました。グニャグニャと形が変わって、また棒人間のようになります。レイがペンを差し出すと腕が伸びてしっかりと持ち、ゆっくりと紙に書き始めました。
『初めまして、マスター』
「お、よろしく。名前はあるのか?」
『ありません。名付けていただけると幸せます』
「なんでそこだけ山口弁なの?」
サラがツッコミを入れましたが、反応はありませんでした。ゴーレムには「山口弁」の意味が理解できなかったのでしょう。
「ゴーレムって呼ぶのもおかしいな」
「名前を付けます?」
「そうだな、名前を……」
レイはそこまで口にしましたが、あることに気づきました。
「ゴーレムに性別ってあるのか?」
『いえ、我々には人のように雌雄の区別はありません』
「旦那様、男女どちらでも問題なさそうな名前を付けるのはいかがですか?」
「そうだな。みんなで候補を出して、本人に選んでもらおうか」
「では、こちらの紙に」
シャロンが出した紙にみんなで名前を書いていきます。カミーユ、クリス、ダニエル、エリス、ジョアン、ジュリアン、ジャスティン、ニコル、ロビン、サンディー、テリーなどが挙がりました。他にはアオイ、イツキ、セナ、ソラ、チヒロ、ヒナタなどの日本人っぽい名前もあります。
「一番気に入ったものを選んでくれ」
『それでは、ニコルでお願いします』
全部で五〇ほど挙がった名前から、このゴーレムはニコルを選びました。
「ニコル、俺たちはゴーレムに詳しくない。みんなで質問するから、わかることだけでいいから答えてくれ」
『了解しました』
レイのごく普通の質問からサラのマニアックすぎる質問まで、質疑応答のような形で言葉が飛び交いました。ニコルは簡単な質問ならコアのある頭を光らせて、込み入った内容なら紙に書いて答えていきます。その結果、レイたちにわかったことは以下のとおりです。
・ゴーレム——厳密には頭部にあるコア——には意思がありますが、ダンジョンにいる間はダンジョンの支配下にあります。一度ダンジョンから出ればその後は自由に行動できます。ただし、通常は出ないように行動が制限されています。
・ゴーレムにはある程度の知識が与えられています。だからニコルは人には性別があることを知っています。
・ゴーレムはコアが割れなければ壊れません。コアは多少の破損なら自動で修復されますが、大きく割れれば修復はできません。それはゴーレムにとっての死を意味します。
・ゴーレムはコアが直接触れている素材でのみ体を作ることができます。ただし、人の手が直に触れていても、それで体を作ることはできません。
・ゴーレムは自分の意思で体を解体し、新しい素材で作り直すこともできます。その場合も、その新しい素材がコアに直接触れていなければなりません。
・ゴーレムの強さはコアそのものの力と、体を作る素材の強さによって変化します。ガラスよりも木のほうが丈夫なように、素材が高価なら強いとは限りません。
・同じ主人に複数のゴーレムが仕える場合には上下関係が発生します。そうなると上位者が下位者に指示を出すことができます。上下関係はコアの力の差が影響します。
・ゴーレムはコアから供給される魔力によって動いています。その魔力がどこから来ているかはニコル当人にもわかっていません。
・ゴーレムには手足はあっても関節はありません。つまり、体の形を変化させることで動いています。そのため、素早い動きは苦手です。
「だいたい想像してたとおりだね」
「そうなのか?」
ファンタジーに関する知識ではレイはサラには勝てません。途中からはほとんどサラが質問していました。
「うん。だからニコルには部下がいたほうがいいね。ゴーレムを倒すのって普通は大変だから、ゴーレムで壁を作って前進させれば、ほとんどの魔物は蹴散らせるんじゃない? 邪道かもしれないけど、数の暴力つてことで」
サラがそう言うと、物理で殴るのがメインの二人が立ち上がります。
「わたくしが活躍できませんわ」
「私もです」
「あくまで例えだからね。ラケルとケイは戦力として重要だからね。ゴーレムは細かな動きができないから」
盾役としては優秀そうなゴーレムですが、動作がやや遅いという欠点があります。
「それならレイ、明日はゴーレム探しに行きますか?」
「そうだな。ニコルも仲間がいるほうが嬉しいだろ」
ペカ
ニコルも一人よりは仲間がいたほうが嬉しいということで、明日はゴーレムのコア集めにダンジョンに向かうことになりました。
◆◆◆
レイはマジックバッグを通しているベルトに革の袋をぶら下げ、そこに小さなニコルを入れました。
「それなら一三階からですね」
「そうだな。ボスじゃないからいるかいないかわからないけど、見かけたら倒そう。コアは確保だ」
「では頭は狙いませんです」
「ええ。胴体を砕くことにしますわ」
普通ならゴーレムのコアを取り出すことは大変です。頭を殴りつけて倒すので精一杯ですからね。
ところが、このパーティーにはラケルとケイトがいます。ゴーレムの首から下だけを破壊すれば、ラケルが頭を割ってコアを取り出します。金属の塊をリンゴのようにパカッと割ることができるラケルがいるからできることです。
ドゴン!
レイたちはコアを壊さないように注意しながらゴーレムを倒していきます。ダンジョン内では、コアはダンジョンの支配下にありますので、取り出したコアを紙に包んで持ち運びます。
仮に紙で体を作ったとしても、強度が足りないので歩いて逃げ出すのは不可能です。暴れたとしても燃やせばいいだけです。
「そこそこいたな」
ボス戦の前にゴーレムと戦って疲れたくないからなのか、レイたちは一三階から一五階の間でストーンゴーレムばかり七体を倒し、無事に七つのコアを確保しました。紙で包んでから、それぞれ別の布の袋に入れてダンジョンから持ち出します。
「旦那様、袋の中でモゾモゾしていますが大丈夫ですか?」
「コアが触れているものしか体にできないから大丈夫だろ」
たとえ他の素材で体を作りたくても、袋の中にはコアを何重にも包んでいる紙しかありません。紙の体を捨てても周りには紙しかなく、そこをなんとか乗り越えられても布の袋しかないのです。床に落ちればストーンゴーレムになるかもしれませんが、そのときは倒せばいいだけです。
レイたちは転移部屋から地上階に戻りました。そこから外へ向かいます。まだ布袋の中はモゾモゾと動いていますね。
「ダンジョンの外って、そこですの?」
「そこが石と土の境目ですから、おそらくそうでしょうね」
「確認しよう。出るぞ」
レイがダンジョンの出入り口になっている石の床から一歩踏み出すと、袋の中が静かになりました。
「よし、ここならどうだ?」
コアを取り出して並べたレイがニコルに聞きました。すると、おそらくニコルが新入りたちに説明しているのでしょう、コアが赤や青に光っています。
「ご主人さま、この子たちはどうするのです?」
「宿屋にいる間は部屋の片付けをさせればいいと思う。外に出たら戦闘の補助や護衛でもいいだろうな」
大人しくなったコアたちをもう一度袋の中に入れると、一行は宿屋に戻っていきます。
「便利といえば便利だよね」
「材料は現地調達すればいいだけですからね」
サラとシーヴがコアに砂利を与えると、手のひらサイズの小さなストーンゴーレムが新しく七体できました。ニコルだけは他とは少し色が違います。
「宿屋の中では体は小さくしてくれ。大きくなるなら素材はこれな」
フルサイズのストーンゴーレムが八体も一つの部屋にいれば、確実に床が抜けます。一体で何トンもありますからね。だから人と同じくらいのサイズになる際には、コルクで体を作るようにレイは指示をしました。
「それじゃあ名前を付けようか」
「前に挙げた名前から選んでもらえばいいでしょうか?」
シャロンが名前を書いた紙をテーブルに出しました。七体がその紙を囲むと、青に赤にと光り始めました。
「選んでるのかな?」
「取り合いをしてるかもしれないです」
数分もしないうちに、七体はそれぞれカミーユ、ダニエル、エリス、イツキ、ジョアン、セナ、テリーを選びました。そして額の部分にC、D、E、I、J、S、Tと浮かび上がりました。リーダーのニコルはNです。
イニシャルのかぶりがありませんね。できるゴーレムのようです。
ぺか
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