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就職
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おかしい、何度見直してもだ。
僕が受け取った配属通知書には、聞いたこともないような部署名が書かれている。
僕が希望していた管理職ではなく、訳のわからない部署名、「怪奇現象対策班」。
ミスじゃないかと問い合わせても、質問は受け付けていないの一点張り、就職試験でトップの成績を収めたというのになんて対応だ。
地獄で鬼族として生まれ、ここまで必死に勉強してきた。
物心ついた時から両親がおらず、孤独と疎外感を感じていた。
そんな僕をここまで育ててくれた祖母への恩返しのためにも、必死に勉強して、ここでいい仕事に就くしかないと思っていた。
管理職というのは、いわゆる閻魔大王の補佐官である。
ここ、地獄には毎日、あらゆる世界から数多の魂が、その生を終えてやってくる。
管理職の主な業務は、それらの魂の素性や生前の罪を調べ上げ、適切に罪を裁いていくことだ。
膨大な知識と、作業量を必要とする分、地獄の役職の中でも最も高給取りで、僕は必ずこの仕事に就いて、優雅な暮らしを得て、そして祖母への恩返しをすると決意していた。
とりあえず、通知書に書かれた初出勤の日時に一度、オフィスには行くことにした。
といっても、その怪奇現象対策班とやらに就職するわけではない。
なぜ僕が管理職じゃないのかと、直談判してやるのだ。
トップの成績を収めているから、希望する部署に行けることは確定している、しかしなぜこんな訳のわからない、第三希望にすら出していない部署に配属されたのかって。
それでも対応されなかったら、直接閻魔大王様の所に行ってやる。
大王様本人には会えなくとも部下の誰かには会えるだろう。
就職の担当者の方にさえ取り次いでもらえば、あとは何とかなるだろうと思っている。
が、実際に初出勤の日、オフィスに行ってみるとそれどころではなかった。
オフィスの住所は地獄のほぼ中心、つまり閻魔大王様やその側近たちが暮らしている場所だった。
本当にここに、怪奇現象対策班とかいう、つい先日まで名前も知らなかったような部署があるのだろうか。
不安になりながら、オフィスへと足を進める。
庁舎の一角が、怪奇現象対策班のオフィスとして使われているようで、立派な門をくぐり、厳しいセキュリティチェックを終え、扉の前に到着した。
もう何がなんだかわからない。
半ば投げやりになって扉を開けた途端、
「お、ぴったり5分前。さすがエリートは違うね~。いろいろ言いたいことあるだろうけど、とりあえずそこの部屋入って座ってて。お茶でも持っていくから。」
長髪長身の女性が元気な声でこちらへ来るよう促す。
長いブロンドの髪は丁寧に手入れされているようで、きらきらと輝いている。
その声に従い、そのまま奥の応接間ような部屋に入る。
扉の前で立ったまま口論するわけにもいかないし、断る理由はない。
きれいな部屋だ。
ソファとテーブルが置かれていて、壁には、絵が飾られている。
僕は芸術に精通しているわけではないが、花瓶に花が刺さっている、淡い彩色のシンプルで落ち着いた絵だ。
キョロキョロと部屋を見回していると、先ほどの女性が、お茶と、薄いファイルを持って現れた。
「はい、これお茶ね。で、最初に言っとくけど、君の人事には何も手違いはないよ」
「え!?そんなわけないですよ!」
僕は確実に管理職に就きたいと希望を出した。
しかも、この怪奇現象対策班という部署は先日まで名前すら知らなかったのだ。
ということは、職種希望を出す際の、一覧表にも載っていないということになる。
「まあまあ。君の配属先はね、うちの班長と閻魔大王様が決定したんだよ。きっと君の今までの立ち振る舞いとか成績を見て決定されたんだろうね。だからね、どこに掛け合っても君がここで働く事実は変わらないよ」
「え?」
訳が分からない。
一介の鬼でしかない僕の人事に閻魔大王様が?
というか、なぜ僕なんだ。
混乱する僕を完全に置いていき、話が続く。
「班長直々の指名なんて、そうそうないんだよ~。よっ、エリート!そういうわけで、君はここで働く以外の選択肢はないの。オッケー?ようこそ!怪奇現象対策班へ!!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!説明が雑すぎますよ!そもそも、どうして僕の配属に大王様が関わっているんですか!?」
さすがに口を挟まざるを得ない。
このままだと、この人のペースに流されてしまう。
いや、もうとっくに流されているのかもしれないが。
「まあまあ。今からちゃんと説明するから。君の名前、カキ君だったよね?」
そういうと、女性はお茶と一緒に持ってきた薄いファイルをテーブルに置く。
表紙には、「怪奇現象対策班」の文字がでかでかと書かれ、中に挟まれていた書類には、業務の概要が記されていた。
「うちの班の名前、聞いたことないでしょ?業務内容が特殊で、職種一覧にも載ってないんだ。だから、人員の補充は班長がビビっときた候補者に指名する形で採用してるの。で、業務内容だけど、主に現世で人間に悪さしたりする妖怪とかの退治だね。」
「現世!?」
信じられない。
世界の安定性を保つため、地獄の者が現世に行くことは固く禁じられている。
僕も、現世のことは書物でしか読んだことがない。
「そう!ここが他の仕事と一番違うとこだね。カキ君はこれから合法的に人間界に行けます!何しろこの班を作ったのは閻魔大王様だからね。妖怪や化物に殺されて、地獄にやってくる人間や動物が増えてて、それに怒った閻魔大王様が設立したんだ。本来寿命を全うするはずの魂が何体も送られてきてね。天界からも苦情が来てて、結構大きな問題になってるらしいよ」
なるほど、大王様が設立したのなら僕の配属に大王様がかかわったこともわからなくはない。
なんで僕が選ばれたのかは全くわからないけど。
「ああ、それは多分君が成績優秀な鬼族だからだよ。うちの班長も鬼だからね。親近感でも感じたんじゃないかな」
え?今、僕の考えもしかして声に出てた?
「いや、声には出てないよ。私、考えてることが読めるの。『さとり』っていう妖怪なんだけど知らない?」
確か、人間界の歴史を学んだ時にどこかの文献で読んだような気が......。
妖怪なんて試験にはめったに出題されないし、そのくらいしか記憶にない。
僕が地獄で生活してきて、出会ったことがあるのは、同じ鬼と、せいぜいデーモンだ。
地獄の中でも居住区内しか行けず、死んだ者たちが実際にどんな責め苦を受けているかも見たことがないのだ。
人間界にしかいない妖怪なんて見たことがないに決まっている。
「文献で読んだことはありますけど、本物を見るのは初めてです」
「さすが、よく知ってるね。教養があって、試験の成績も学術武術共に優秀。班長が指名するのもよくわかるわ~。もし私が指名担当だったとしても君を選ぶね」
褒められているんだろうけど、これまでの怒涛の新情報ラッシュで頭がいっぱいだ。
「今は私しか事務所にいないけど、あと5人いるからまた紹介するね。それじゃあ説明も大体終わったし、カキ君にはこれから私と一緒に最初の仕事に行ってもらいます!」
「えぇーっ!!!」
今日一番の驚きの声が部屋に響いた。
僕が受け取った配属通知書には、聞いたこともないような部署名が書かれている。
僕が希望していた管理職ではなく、訳のわからない部署名、「怪奇現象対策班」。
ミスじゃないかと問い合わせても、質問は受け付けていないの一点張り、就職試験でトップの成績を収めたというのになんて対応だ。
地獄で鬼族として生まれ、ここまで必死に勉強してきた。
物心ついた時から両親がおらず、孤独と疎外感を感じていた。
そんな僕をここまで育ててくれた祖母への恩返しのためにも、必死に勉強して、ここでいい仕事に就くしかないと思っていた。
管理職というのは、いわゆる閻魔大王の補佐官である。
ここ、地獄には毎日、あらゆる世界から数多の魂が、その生を終えてやってくる。
管理職の主な業務は、それらの魂の素性や生前の罪を調べ上げ、適切に罪を裁いていくことだ。
膨大な知識と、作業量を必要とする分、地獄の役職の中でも最も高給取りで、僕は必ずこの仕事に就いて、優雅な暮らしを得て、そして祖母への恩返しをすると決意していた。
とりあえず、通知書に書かれた初出勤の日時に一度、オフィスには行くことにした。
といっても、その怪奇現象対策班とやらに就職するわけではない。
なぜ僕が管理職じゃないのかと、直談判してやるのだ。
トップの成績を収めているから、希望する部署に行けることは確定している、しかしなぜこんな訳のわからない、第三希望にすら出していない部署に配属されたのかって。
それでも対応されなかったら、直接閻魔大王様の所に行ってやる。
大王様本人には会えなくとも部下の誰かには会えるだろう。
就職の担当者の方にさえ取り次いでもらえば、あとは何とかなるだろうと思っている。
が、実際に初出勤の日、オフィスに行ってみるとそれどころではなかった。
オフィスの住所は地獄のほぼ中心、つまり閻魔大王様やその側近たちが暮らしている場所だった。
本当にここに、怪奇現象対策班とかいう、つい先日まで名前も知らなかったような部署があるのだろうか。
不安になりながら、オフィスへと足を進める。
庁舎の一角が、怪奇現象対策班のオフィスとして使われているようで、立派な門をくぐり、厳しいセキュリティチェックを終え、扉の前に到着した。
もう何がなんだかわからない。
半ば投げやりになって扉を開けた途端、
「お、ぴったり5分前。さすがエリートは違うね~。いろいろ言いたいことあるだろうけど、とりあえずそこの部屋入って座ってて。お茶でも持っていくから。」
長髪長身の女性が元気な声でこちらへ来るよう促す。
長いブロンドの髪は丁寧に手入れされているようで、きらきらと輝いている。
その声に従い、そのまま奥の応接間ような部屋に入る。
扉の前で立ったまま口論するわけにもいかないし、断る理由はない。
きれいな部屋だ。
ソファとテーブルが置かれていて、壁には、絵が飾られている。
僕は芸術に精通しているわけではないが、花瓶に花が刺さっている、淡い彩色のシンプルで落ち着いた絵だ。
キョロキョロと部屋を見回していると、先ほどの女性が、お茶と、薄いファイルを持って現れた。
「はい、これお茶ね。で、最初に言っとくけど、君の人事には何も手違いはないよ」
「え!?そんなわけないですよ!」
僕は確実に管理職に就きたいと希望を出した。
しかも、この怪奇現象対策班という部署は先日まで名前すら知らなかったのだ。
ということは、職種希望を出す際の、一覧表にも載っていないということになる。
「まあまあ。君の配属先はね、うちの班長と閻魔大王様が決定したんだよ。きっと君の今までの立ち振る舞いとか成績を見て決定されたんだろうね。だからね、どこに掛け合っても君がここで働く事実は変わらないよ」
「え?」
訳が分からない。
一介の鬼でしかない僕の人事に閻魔大王様が?
というか、なぜ僕なんだ。
混乱する僕を完全に置いていき、話が続く。
「班長直々の指名なんて、そうそうないんだよ~。よっ、エリート!そういうわけで、君はここで働く以外の選択肢はないの。オッケー?ようこそ!怪奇現象対策班へ!!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!説明が雑すぎますよ!そもそも、どうして僕の配属に大王様が関わっているんですか!?」
さすがに口を挟まざるを得ない。
このままだと、この人のペースに流されてしまう。
いや、もうとっくに流されているのかもしれないが。
「まあまあ。今からちゃんと説明するから。君の名前、カキ君だったよね?」
そういうと、女性はお茶と一緒に持ってきた薄いファイルをテーブルに置く。
表紙には、「怪奇現象対策班」の文字がでかでかと書かれ、中に挟まれていた書類には、業務の概要が記されていた。
「うちの班の名前、聞いたことないでしょ?業務内容が特殊で、職種一覧にも載ってないんだ。だから、人員の補充は班長がビビっときた候補者に指名する形で採用してるの。で、業務内容だけど、主に現世で人間に悪さしたりする妖怪とかの退治だね。」
「現世!?」
信じられない。
世界の安定性を保つため、地獄の者が現世に行くことは固く禁じられている。
僕も、現世のことは書物でしか読んだことがない。
「そう!ここが他の仕事と一番違うとこだね。カキ君はこれから合法的に人間界に行けます!何しろこの班を作ったのは閻魔大王様だからね。妖怪や化物に殺されて、地獄にやってくる人間や動物が増えてて、それに怒った閻魔大王様が設立したんだ。本来寿命を全うするはずの魂が何体も送られてきてね。天界からも苦情が来てて、結構大きな問題になってるらしいよ」
なるほど、大王様が設立したのなら僕の配属に大王様がかかわったこともわからなくはない。
なんで僕が選ばれたのかは全くわからないけど。
「ああ、それは多分君が成績優秀な鬼族だからだよ。うちの班長も鬼だからね。親近感でも感じたんじゃないかな」
え?今、僕の考えもしかして声に出てた?
「いや、声には出てないよ。私、考えてることが読めるの。『さとり』っていう妖怪なんだけど知らない?」
確か、人間界の歴史を学んだ時にどこかの文献で読んだような気が......。
妖怪なんて試験にはめったに出題されないし、そのくらいしか記憶にない。
僕が地獄で生活してきて、出会ったことがあるのは、同じ鬼と、せいぜいデーモンだ。
地獄の中でも居住区内しか行けず、死んだ者たちが実際にどんな責め苦を受けているかも見たことがないのだ。
人間界にしかいない妖怪なんて見たことがないに決まっている。
「文献で読んだことはありますけど、本物を見るのは初めてです」
「さすが、よく知ってるね。教養があって、試験の成績も学術武術共に優秀。班長が指名するのもよくわかるわ~。もし私が指名担当だったとしても君を選ぶね」
褒められているんだろうけど、これまでの怒涛の新情報ラッシュで頭がいっぱいだ。
「今は私しか事務所にいないけど、あと5人いるからまた紹介するね。それじゃあ説明も大体終わったし、カキ君にはこれから私と一緒に最初の仕事に行ってもらいます!」
「えぇーっ!!!」
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