1 / 28
1話
1
しおりを挟む
幼い頃、とある一人のアルファが一人のオメガを探して旅に出る小説を読んだ。
この世にはアルファと運命で繋がっているオメガが必ず存在するらしい。日本にいるかもしれないし、地球の裏側にいるかもしれない。世界のどこかに存在している運命のオメガと生きている間に出会えることは奇跡らしく、ほとんどが運命の番と巡り合うことなく生涯を終える。
小説の主人公であるアルファは何年も世界中を探し回った。雨の日も雪の日も日光が照りつける暑い日も1日も休まず探し続けた。世界各地に散らばるヒントを手がかりに運命のオメガと巡り会えたという物語である。
新は幼いながらこの物語を読み思った。
ボクも運命のオメガと巡り合いたい、と。
*
「アルファだからって調子に乗るんじゃないわよ!」
女の怒声とともに周りの客は騒めき新を見た。新の髪は風呂上がりのように濡れ、滴を垂らした。
女が手に持っていた水の入ったコップを新の顔を目がけてぶちまけたのだ。レストランの客や従業員は一連の出来事に唖然し視線を新に向ける。
女は高級ブランドバックを手に取ると、その場を足早に立ち去った。
「……お客様。大丈夫ですか?」
「……大丈夫……じゃないかも」
「よろしかったらこちら使って下さい」
スタッフは新にタオルを手渡した。新はそのタオルで濡れた顔や髪、服を拭いていく。
またフラれてしまった。付き合っていないため、フラれたというより始まる前に終わってしまったといったほうがしっくりくるだろう。原因は女が性別を偽っていたことがバレたことだ。
この世には性別の他に三つの性がある。アルファは医師や弁護士、経営者などいわば成功者と呼ばれる者が多い性だ。生まれながら成功する運命が決められているが、人口はとても少ない。新もその一人だ。
続いてベータは簡単に言えば凡人だ。この世で一番多い性である。
最後はオメガと呼ばれる性だ。オメガはとても希少でアルファより人口が少ないが、アルファのように人々が羨まむような存在ではない。理由としてオメガの特異体質が原因であると言われている。男女関係なく身体の中には子宮があり、子供が産める。三ヶ月に一度、発情期と呼ばれる時期が来る。この時期がとても厄介で、オメガ特有のフェロモンを出す。このフェロモンはベータでは感じとることができない。できるのはアルファのみだ。オメガは自分の意思とは関係なく発情期になるとアルファを引き寄せるフェロモンを分泌する。そのフェロモンによってアルファは自我を失いオメガを襲う。オメガの強姦事件など多数あるが、ニュースでは報道されない。それほどオメガはぞんざいな扱いをされてきた。
現在はオメガを守る法律もでき、オメガは守られるようになったが、未だに差別は多い。
オメガの差別は凄いものだ。政治家は性別の差別化を減らすと何百回、何万回と言っているが、所詮は言葉だけだ。昔ほどは良くなったものの、未だに改善しない性差別。教育関係でもアルファとオメガを同じ教室で勉強させるのはどうかという問題も出ているくらいだ。そう簡単にはなくならないだろう。
しかし、オメガにも利点がある。オメガは優秀なアルファと番になれる確率が高い。現在はアルファを増やすためという目的もあるが、オメガと出会いたいアルファが増えてきている。アルファとオメガの限定婚活パーティーが行われているほど需要が高まっている。理由として、オメガとの間に産まれた子供はほぼ100%優秀な遺伝子を受け継ぐアルファが誕生するからだ。
それをいいように思わない者もいる。人口の8割をしめているベータだ。アルファはベータとも結婚できるが、優秀な遺伝子を持ったアルファが産まれる確率は10%以下。ほとんどがベータとして誕生する。そのため、ベータと結婚したがるアルファはあまりいない。
悪知恵が働くベータはオメガのフェロモンの香りがする香水をつけて嘘をつきアルファに近寄ってくる。この詐欺紛いな行為は頻発しており、結婚した後に相手がベータだったと気づくパターンも多く、訴訟問題にまで発展している。今一番多い社会問題となっている。
新に水をかけた女もオメガフェロモンの香水つけ、新を騙そうとしていた。鼻のいい新はすぐに気づいた。
「そんな香水程度で僕を騙すつもりだったの? 悪いけど僕、本物のオメガにしか興味ないから。あとその香水鼻がへし曲がるくらいクサイよ」
そう言ったら水をかけられてしまった。
あの詐欺女、警察に突き出せばよかった。
新はびっしょりと濡れた25万のジャケットをタオルで拭きながら思った。
五十嵐新は名の知れた小説家である。顔出しする前からベストセラー本も何冊も出している人気作家であったが、一度だけ編集長の 阿部山潤の指示でメディアに出たことがあった。新がメディアに出た途端大反響を呼び、SNSでトレンド入りするほどだった。その影響もあり、本はバカ売れ。今では新作を出せばすぐに書店から本が消え売り切れるほどだ。
新は純文学を専門としているが、趣味で官能小説も書いている。こっちも中々の売れ行きである。
新が住んでいるのは和風住宅の一軒屋だ。以前は高級マンションに住んでいた。古民家に住む主人公の小説を書いていたがイメージが掴めず純和風住宅に引越した。都内から少し外れているせいか静かであり、雑音に気を取られず小説が書ける。縁側で昼寝だってし放題だ。あまりの居心地の良さからそのまま住みついている。
この家は以前誰かが住んでいたそうだが、家主が亡くなったそうで売りに出されていた。
前の住人の住んでいた形跡が所々残っている。中でも印象的だったのが、柱に刻まれていた横線だ。何本も刻まれている横線から推測すると身長でも測っていたのだろう。線の横には「あおい」とひらがなで書かれていた。
家族と疎遠である新にとって、この家は温かみのある家だと感じた。
この世にはアルファと運命で繋がっているオメガが必ず存在するらしい。日本にいるかもしれないし、地球の裏側にいるかもしれない。世界のどこかに存在している運命のオメガと生きている間に出会えることは奇跡らしく、ほとんどが運命の番と巡り合うことなく生涯を終える。
小説の主人公であるアルファは何年も世界中を探し回った。雨の日も雪の日も日光が照りつける暑い日も1日も休まず探し続けた。世界各地に散らばるヒントを手がかりに運命のオメガと巡り会えたという物語である。
新は幼いながらこの物語を読み思った。
ボクも運命のオメガと巡り合いたい、と。
*
「アルファだからって調子に乗るんじゃないわよ!」
女の怒声とともに周りの客は騒めき新を見た。新の髪は風呂上がりのように濡れ、滴を垂らした。
女が手に持っていた水の入ったコップを新の顔を目がけてぶちまけたのだ。レストランの客や従業員は一連の出来事に唖然し視線を新に向ける。
女は高級ブランドバックを手に取ると、その場を足早に立ち去った。
「……お客様。大丈夫ですか?」
「……大丈夫……じゃないかも」
「よろしかったらこちら使って下さい」
スタッフは新にタオルを手渡した。新はそのタオルで濡れた顔や髪、服を拭いていく。
またフラれてしまった。付き合っていないため、フラれたというより始まる前に終わってしまったといったほうがしっくりくるだろう。原因は女が性別を偽っていたことがバレたことだ。
この世には性別の他に三つの性がある。アルファは医師や弁護士、経営者などいわば成功者と呼ばれる者が多い性だ。生まれながら成功する運命が決められているが、人口はとても少ない。新もその一人だ。
続いてベータは簡単に言えば凡人だ。この世で一番多い性である。
最後はオメガと呼ばれる性だ。オメガはとても希少でアルファより人口が少ないが、アルファのように人々が羨まむような存在ではない。理由としてオメガの特異体質が原因であると言われている。男女関係なく身体の中には子宮があり、子供が産める。三ヶ月に一度、発情期と呼ばれる時期が来る。この時期がとても厄介で、オメガ特有のフェロモンを出す。このフェロモンはベータでは感じとることができない。できるのはアルファのみだ。オメガは自分の意思とは関係なく発情期になるとアルファを引き寄せるフェロモンを分泌する。そのフェロモンによってアルファは自我を失いオメガを襲う。オメガの強姦事件など多数あるが、ニュースでは報道されない。それほどオメガはぞんざいな扱いをされてきた。
現在はオメガを守る法律もでき、オメガは守られるようになったが、未だに差別は多い。
オメガの差別は凄いものだ。政治家は性別の差別化を減らすと何百回、何万回と言っているが、所詮は言葉だけだ。昔ほどは良くなったものの、未だに改善しない性差別。教育関係でもアルファとオメガを同じ教室で勉強させるのはどうかという問題も出ているくらいだ。そう簡単にはなくならないだろう。
しかし、オメガにも利点がある。オメガは優秀なアルファと番になれる確率が高い。現在はアルファを増やすためという目的もあるが、オメガと出会いたいアルファが増えてきている。アルファとオメガの限定婚活パーティーが行われているほど需要が高まっている。理由として、オメガとの間に産まれた子供はほぼ100%優秀な遺伝子を受け継ぐアルファが誕生するからだ。
それをいいように思わない者もいる。人口の8割をしめているベータだ。アルファはベータとも結婚できるが、優秀な遺伝子を持ったアルファが産まれる確率は10%以下。ほとんどがベータとして誕生する。そのため、ベータと結婚したがるアルファはあまりいない。
悪知恵が働くベータはオメガのフェロモンの香りがする香水をつけて嘘をつきアルファに近寄ってくる。この詐欺紛いな行為は頻発しており、結婚した後に相手がベータだったと気づくパターンも多く、訴訟問題にまで発展している。今一番多い社会問題となっている。
新に水をかけた女もオメガフェロモンの香水つけ、新を騙そうとしていた。鼻のいい新はすぐに気づいた。
「そんな香水程度で僕を騙すつもりだったの? 悪いけど僕、本物のオメガにしか興味ないから。あとその香水鼻がへし曲がるくらいクサイよ」
そう言ったら水をかけられてしまった。
あの詐欺女、警察に突き出せばよかった。
新はびっしょりと濡れた25万のジャケットをタオルで拭きながら思った。
五十嵐新は名の知れた小説家である。顔出しする前からベストセラー本も何冊も出している人気作家であったが、一度だけ編集長の 阿部山潤の指示でメディアに出たことがあった。新がメディアに出た途端大反響を呼び、SNSでトレンド入りするほどだった。その影響もあり、本はバカ売れ。今では新作を出せばすぐに書店から本が消え売り切れるほどだ。
新は純文学を専門としているが、趣味で官能小説も書いている。こっちも中々の売れ行きである。
新が住んでいるのは和風住宅の一軒屋だ。以前は高級マンションに住んでいた。古民家に住む主人公の小説を書いていたがイメージが掴めず純和風住宅に引越した。都内から少し外れているせいか静かであり、雑音に気を取られず小説が書ける。縁側で昼寝だってし放題だ。あまりの居心地の良さからそのまま住みついている。
この家は以前誰かが住んでいたそうだが、家主が亡くなったそうで売りに出されていた。
前の住人の住んでいた形跡が所々残っている。中でも印象的だったのが、柱に刻まれていた横線だ。何本も刻まれている横線から推測すると身長でも測っていたのだろう。線の横には「あおい」とひらがなで書かれていた。
家族と疎遠である新にとって、この家は温かみのある家だと感じた。
35
あなたにおすすめの小説
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました
水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。
彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。
ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。
李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。
運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。
だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。
過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。
東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる