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特別な人
特別な人 第25話
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「随分大人しいな」
姉さんと茂斗のやり取りをあっけにとられながらも見守っていた僕の隣から声がする。それに僕は父さんを振り返ってどういう意味か尋ねるように視線を向けた。
そしたら父さんが見ていたのは僕じゃなくて虎君で、僕はその視線を追うように虎君を振り返った。
虎君は、さっきまでと同じ場所で腕を組んで壁に背中を預けて視線を下げていた。何か考え込んでいるかのように。
「虎君……?」
「え?」
父さんの声に気づかなかった虎君。様子が変だと思うのは僕の気のせい?
遠慮がちに名前を呼んだら、驚いたように顔を上げる虎君は「俺に言ってました?」って苦笑いを浮かべる。
「すみません、ちょっと考え事してて」
「『考え事』、ね」
壁から離れる虎君は、苦笑いを浮かべたまま頭を下げて弁解する。自分に話が振られると思ってなかったです。って。
その返答に父さんが向けるのは疑いが含んだ声。
「こっち来い、虎」
「分かりました」
父さんは顎で虎君を呼ぶと、僕から少し離れて座る虎君に「これは忠告じゃなくて命令だ」って前置きをして口を開いた。
「お前が何を考えてるか知らないが、悪いことは言わない、止めておけ」
「……何のことですか?」
父さんの表情からさっきまでの優しさが消えて、仕事の時に見せる威圧的なものに変わってて僕は息を呑む。
茂斗や姉さんが他人に見せる表情と同じだけど、その圧は段違い。自分の父親じゃなかったら僕は顔を見ることはおろか、顔を上げることすらできないと思う……。
そんな父さんの威圧に、虎君が返すのは濃い苦笑い。言葉は『何のことか分からない』って感じだけど、この雰囲気、絶対分かってしらを切ってる。
「虎、俺にそんな態度とってていいのか?」
案の定、父さんははぐらかす虎君に切り込んでいく。信頼できない男を今後家に入れるわけにはいかないんだぞ? って。
それは暗に虎君がこのまま誤魔化すつもりならもう二度とこの家には近づかせないって言ってるようなもの。それどころか父さんは僕を見て「葵にも近づかせない」って僕の気持ちを無視した言葉を続けてくれる。
「! 勝手に決めないでよ!」
横暴すぎる! って僕は猛反発。虎君は言いたくないって意思表示してるのにこんな脅迫染みた事を言うなんてひどい! って。
(もし虎君が『それでいい』って言ったらどうするんだよ!)
むしろ願ったり叶ったりだって思われたら、僕はショックで立ち直れない。
僕は虎君に向き直って、父さんの言うことなんて気にしないでね? って訴える。父さんが何と言おうと僕は虎君と会いたいし、家にもこうやって遊びに来てほしいよ? って。
だからどうか『それでいい』なんて言わないで……。
必死に縋る僕に虎君はちょっぴり驚きながらも笑って、「葵、落ち着いて」って頭を撫でてくる。
「大丈夫だから、な?」
「でも……!」
笑い顔に眉を下げる僕。虎君は僕から父さんに視線を向けると、「それは困ります」って苦笑いを浮かべた。
「はぐらかそうとしたことは謝りますから、『葵に近づくな』なんて言わないでください」
「親に隠し事をしようとするからだ」
そもそもさっきの言葉は冗談だって息を吐く父さん。父さんにとっても虎君は我が子同然なんだって思ったら不謹慎だけど嬉しかった。
「……葵、虎が喋り辛そうだから離れなさい」
「! ごめん虎君っ」
今度はほっと安心してる僕に向けられる苦笑。それに僕はハッと我に返って虎君から離れて元の位置に座り直した。
そんな僕に虎君が見せるのも、苦笑い。
(困らせちゃった……)
その苦笑いが結構本気で困ってる時に見られるものだって知ってるから、反省。
みんながどんどん大人になっていく中、僕だけ子供のままみたいで居た堪れなかった。
「で、俺の言いつけを守る気はあるのか?」
「……すみません、無理です」
話を戻す父さんに返されるのは、拒否の言葉。
それに父さんはわざと大きなため息を吐いてみせた。まるで虎君が考えていた『何か』を知っているかのように。
「虎君、何考えてるの……?」
理由は言えないけど、凄く嫌な予感がした。父さんが『命令』してまで止めたい『考え』を絶対に何としてでも止めないとダメだって本能的に感じた。
(僕じゃ無理かもしれないけど、でも、なんでだろう……。このままだと取り返しのつかないことになりそう……)
虎君の『考え』を僕は知る由もない。それでも、良くない事だとは分かる。
姉さんと茂斗のやり取りをあっけにとられながらも見守っていた僕の隣から声がする。それに僕は父さんを振り返ってどういう意味か尋ねるように視線を向けた。
そしたら父さんが見ていたのは僕じゃなくて虎君で、僕はその視線を追うように虎君を振り返った。
虎君は、さっきまでと同じ場所で腕を組んで壁に背中を預けて視線を下げていた。何か考え込んでいるかのように。
「虎君……?」
「え?」
父さんの声に気づかなかった虎君。様子が変だと思うのは僕の気のせい?
遠慮がちに名前を呼んだら、驚いたように顔を上げる虎君は「俺に言ってました?」って苦笑いを浮かべる。
「すみません、ちょっと考え事してて」
「『考え事』、ね」
壁から離れる虎君は、苦笑いを浮かべたまま頭を下げて弁解する。自分に話が振られると思ってなかったです。って。
その返答に父さんが向けるのは疑いが含んだ声。
「こっち来い、虎」
「分かりました」
父さんは顎で虎君を呼ぶと、僕から少し離れて座る虎君に「これは忠告じゃなくて命令だ」って前置きをして口を開いた。
「お前が何を考えてるか知らないが、悪いことは言わない、止めておけ」
「……何のことですか?」
父さんの表情からさっきまでの優しさが消えて、仕事の時に見せる威圧的なものに変わってて僕は息を呑む。
茂斗や姉さんが他人に見せる表情と同じだけど、その圧は段違い。自分の父親じゃなかったら僕は顔を見ることはおろか、顔を上げることすらできないと思う……。
そんな父さんの威圧に、虎君が返すのは濃い苦笑い。言葉は『何のことか分からない』って感じだけど、この雰囲気、絶対分かってしらを切ってる。
「虎、俺にそんな態度とってていいのか?」
案の定、父さんははぐらかす虎君に切り込んでいく。信頼できない男を今後家に入れるわけにはいかないんだぞ? って。
それは暗に虎君がこのまま誤魔化すつもりならもう二度とこの家には近づかせないって言ってるようなもの。それどころか父さんは僕を見て「葵にも近づかせない」って僕の気持ちを無視した言葉を続けてくれる。
「! 勝手に決めないでよ!」
横暴すぎる! って僕は猛反発。虎君は言いたくないって意思表示してるのにこんな脅迫染みた事を言うなんてひどい! って。
(もし虎君が『それでいい』って言ったらどうするんだよ!)
むしろ願ったり叶ったりだって思われたら、僕はショックで立ち直れない。
僕は虎君に向き直って、父さんの言うことなんて気にしないでね? って訴える。父さんが何と言おうと僕は虎君と会いたいし、家にもこうやって遊びに来てほしいよ? って。
だからどうか『それでいい』なんて言わないで……。
必死に縋る僕に虎君はちょっぴり驚きながらも笑って、「葵、落ち着いて」って頭を撫でてくる。
「大丈夫だから、な?」
「でも……!」
笑い顔に眉を下げる僕。虎君は僕から父さんに視線を向けると、「それは困ります」って苦笑いを浮かべた。
「はぐらかそうとしたことは謝りますから、『葵に近づくな』なんて言わないでください」
「親に隠し事をしようとするからだ」
そもそもさっきの言葉は冗談だって息を吐く父さん。父さんにとっても虎君は我が子同然なんだって思ったら不謹慎だけど嬉しかった。
「……葵、虎が喋り辛そうだから離れなさい」
「! ごめん虎君っ」
今度はほっと安心してる僕に向けられる苦笑。それに僕はハッと我に返って虎君から離れて元の位置に座り直した。
そんな僕に虎君が見せるのも、苦笑い。
(困らせちゃった……)
その苦笑いが結構本気で困ってる時に見られるものだって知ってるから、反省。
みんながどんどん大人になっていく中、僕だけ子供のままみたいで居た堪れなかった。
「で、俺の言いつけを守る気はあるのか?」
「……すみません、無理です」
話を戻す父さんに返されるのは、拒否の言葉。
それに父さんはわざと大きなため息を吐いてみせた。まるで虎君が考えていた『何か』を知っているかのように。
「虎君、何考えてるの……?」
理由は言えないけど、凄く嫌な予感がした。父さんが『命令』してまで止めたい『考え』を絶対に何としてでも止めないとダメだって本能的に感じた。
(僕じゃ無理かもしれないけど、でも、なんでだろう……。このままだと取り返しのつかないことになりそう……)
虎君の『考え』を僕は知る由もない。それでも、良くない事だとは分かる。
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