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特別な人
特別な人 第31話
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「納得できないって顔だな」
「当たり前でしょ。ていうか、虎君の優しさをそういう風に言われるのすごく腹立つ」
不機嫌を露わに茂斗を見れば、茂斗は「なんも分かってない」って苦笑いを返してくる。
「虎のその優しさは『葵限定』だろうが」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
茂斗は、自分は優しくされた覚えがないって言う。同じ幼馴染なのに扱いが全然違う。って。
僕はそれに『そんなことない』って言おうと思ったんだけど、でも思い返すと確かに虎君の態度は僕と茂斗では確かに違ってた。
「ほら、な?」
「……僕何も言ってない」
「今、『確かに』って思ったんだろ? 顔に書いてるぞ」
愉快そうに笑う茂斗に僕は言い返せずに頬っぺたを膨らませてしまう。
そしたら茂斗はそんな僕を放って喋り始める。虎君にとって僕と茂斗は何が違うのか。
「葵、昔遊んでたテレビゲームの事覚えてるか?」
ポンって頭の上に乗せられる手。その手を鬱陶しいって思いながらも反応を返さないのは、僕の子供じみた意地のせいだ。
無言のままの僕。茂斗は気にせず話を進めた。
「虎をロールプレイングの主人公だとすると、さしずめ俺はパーティーメンバーってところなんだけど、葵はヒロインなんだよ」
「……何それ。僕が女の子みたいだって言いたいの?」
「違う違う。葵が女っぽいわけじゃなくて、虎にとってそうだって話」
分かるか? って聞いてくる茂斗に僕は難しい顔を返してしまう。
例えは分かる。主人公にとってパーティーメンバーは仲間。つまり、信頼できる相手ってこと。それに対してヒロインは主人公の恋人って場合が多い。言うなれば庇護の対象。
確かに虎君と茂斗の関係はゲームの主人公とパーティーメンバーの関係に似ていると思う。僕の目から見て虎君と茂斗は対等だと思うから。
でも、理解できたのはそこまで。僕が『ヒロイン』っていうのは理解できないし、納得もできない。
(それって対等じゃないってことでしょ?)
虎君が僕を本当の弟みたいに可愛がってくれているのは分かってる。その自覚は僕にもあるから。
そして、自覚してるけど僕は『庇護の対象』って言うほどじゃないって思ってる。あくまでも僕達は幼馴染。だから『対等』だって思ってる。
それなのに茂斗はそんな僕に『違う』って言ってくる。僕は、お姫様なんだ。って……。
「自分は虎君の理解者だって言いたいんだ? 茂斗は」
「何でそうなるんだよ。俺と虎は『友達』だって言ってるんだろ? ……って、何怒ってんの?」
「怒ってないっ」
「顔パンパンに膨らませて言う言葉じゃねぇよ」
僕の明らかな嘘に茂斗は顔を顰める。何度も嘘を吐かれるのは嫌いだって言いながら。
切れ長の目を細めたその表情があまりにも冷たくて、一瞬それに怯みそうになる。でも、僕にだって譲れない時はあるから、気持ちを強く睨み返した。
「僕も虎君の『友達』だもん! 『友達』だし『家族』だもん!」
「それは葵にとっての虎だろうが」
「一緒でしょ!」
まるで虎君にとっての僕は違うって言いたげな言葉に、カチンとくる。虎君も同じ気持ちでいてくれるって反論してしまうのはそれからすぐの事。
すると茂斗は僕に視線を向けて「それ、虎に聞いたのかよ?」って見下ろしてくる。20センチ近くある身長差がこの時ばかりは憎かった。
「聞いたよ。虎君、僕の事を『家族』だって思ってるって。……た、確かに『友達』ではないって言われたけど……」
「ふーん……」
ファストフード店で今日聞いたばかりだって息巻けば、茂斗は疑いの目を向けてくる。でも、嘘はついてないって言葉を続ける僕に納得したのか、「ならいいわ」って視線を逸らしてしまう。
「納得してないでしょ?」
「なんで? 虎本人に言われたんだろ? 俺が推測でどうこう言うよりそれが一番だろ」
話を打ち切られたみたいで、つい食い下がってしまう。
茂斗はそんな僕に「だから納得してるよ」って黙り込んでしまった。
(なんで茂斗が不機嫌になるの? おかしくない?)
いつも飄々としてる茂斗がここまで不機嫌な感情を露わにすることは珍しい。凪ちゃんが絡んでるわけでもないのに。
だから分かる。茂斗が何かを『面白くない』って思ってるってことが。まぁその理由は分からないんだけど……。
「……もしかして茂斗、虎君が僕ばっかり構ってるから拗ねてるの?」
「はぁ? なんでそうなるわけ?」
色々考えて、考えて考えて考え抜いて、漸く浮かんだ『理由』を口にすれば、茂斗はこれまた盛大に顔を顰めて見せた。葵の思考回路が理解できない。って言葉つきで。
「当たり前でしょ。ていうか、虎君の優しさをそういう風に言われるのすごく腹立つ」
不機嫌を露わに茂斗を見れば、茂斗は「なんも分かってない」って苦笑いを返してくる。
「虎のその優しさは『葵限定』だろうが」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
茂斗は、自分は優しくされた覚えがないって言う。同じ幼馴染なのに扱いが全然違う。って。
僕はそれに『そんなことない』って言おうと思ったんだけど、でも思い返すと確かに虎君の態度は僕と茂斗では確かに違ってた。
「ほら、な?」
「……僕何も言ってない」
「今、『確かに』って思ったんだろ? 顔に書いてるぞ」
愉快そうに笑う茂斗に僕は言い返せずに頬っぺたを膨らませてしまう。
そしたら茂斗はそんな僕を放って喋り始める。虎君にとって僕と茂斗は何が違うのか。
「葵、昔遊んでたテレビゲームの事覚えてるか?」
ポンって頭の上に乗せられる手。その手を鬱陶しいって思いながらも反応を返さないのは、僕の子供じみた意地のせいだ。
無言のままの僕。茂斗は気にせず話を進めた。
「虎をロールプレイングの主人公だとすると、さしずめ俺はパーティーメンバーってところなんだけど、葵はヒロインなんだよ」
「……何それ。僕が女の子みたいだって言いたいの?」
「違う違う。葵が女っぽいわけじゃなくて、虎にとってそうだって話」
分かるか? って聞いてくる茂斗に僕は難しい顔を返してしまう。
例えは分かる。主人公にとってパーティーメンバーは仲間。つまり、信頼できる相手ってこと。それに対してヒロインは主人公の恋人って場合が多い。言うなれば庇護の対象。
確かに虎君と茂斗の関係はゲームの主人公とパーティーメンバーの関係に似ていると思う。僕の目から見て虎君と茂斗は対等だと思うから。
でも、理解できたのはそこまで。僕が『ヒロイン』っていうのは理解できないし、納得もできない。
(それって対等じゃないってことでしょ?)
虎君が僕を本当の弟みたいに可愛がってくれているのは分かってる。その自覚は僕にもあるから。
そして、自覚してるけど僕は『庇護の対象』って言うほどじゃないって思ってる。あくまでも僕達は幼馴染。だから『対等』だって思ってる。
それなのに茂斗はそんな僕に『違う』って言ってくる。僕は、お姫様なんだ。って……。
「自分は虎君の理解者だって言いたいんだ? 茂斗は」
「何でそうなるんだよ。俺と虎は『友達』だって言ってるんだろ? ……って、何怒ってんの?」
「怒ってないっ」
「顔パンパンに膨らませて言う言葉じゃねぇよ」
僕の明らかな嘘に茂斗は顔を顰める。何度も嘘を吐かれるのは嫌いだって言いながら。
切れ長の目を細めたその表情があまりにも冷たくて、一瞬それに怯みそうになる。でも、僕にだって譲れない時はあるから、気持ちを強く睨み返した。
「僕も虎君の『友達』だもん! 『友達』だし『家族』だもん!」
「それは葵にとっての虎だろうが」
「一緒でしょ!」
まるで虎君にとっての僕は違うって言いたげな言葉に、カチンとくる。虎君も同じ気持ちでいてくれるって反論してしまうのはそれからすぐの事。
すると茂斗は僕に視線を向けて「それ、虎に聞いたのかよ?」って見下ろしてくる。20センチ近くある身長差がこの時ばかりは憎かった。
「聞いたよ。虎君、僕の事を『家族』だって思ってるって。……た、確かに『友達』ではないって言われたけど……」
「ふーん……」
ファストフード店で今日聞いたばかりだって息巻けば、茂斗は疑いの目を向けてくる。でも、嘘はついてないって言葉を続ける僕に納得したのか、「ならいいわ」って視線を逸らしてしまう。
「納得してないでしょ?」
「なんで? 虎本人に言われたんだろ? 俺が推測でどうこう言うよりそれが一番だろ」
話を打ち切られたみたいで、つい食い下がってしまう。
茂斗はそんな僕に「だから納得してるよ」って黙り込んでしまった。
(なんで茂斗が不機嫌になるの? おかしくない?)
いつも飄々としてる茂斗がここまで不機嫌な感情を露わにすることは珍しい。凪ちゃんが絡んでるわけでもないのに。
だから分かる。茂斗が何かを『面白くない』って思ってるってことが。まぁその理由は分からないんだけど……。
「……もしかして茂斗、虎君が僕ばっかり構ってるから拗ねてるの?」
「はぁ? なんでそうなるわけ?」
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