特別な人

鏡由良

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特別な人

特別な人 第33話

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「ご、ごめん」
 謝って視線を下げる僕に、茂斗はため息を吐く。仕方ない奴って思ってるんだろうな……。
「葵はもう少し恥じらい持てよ。俺相手でも」
 そう言ってもう一枚バスタオルを投げてくる茂斗は、『隠せ』って僕の下半身を指さす。一緒にお風呂に入っておいて今更って正直思うけど、それとこれとは別ってことなんだろうな。
 僕は茂斗に言われるがまま渡されたバスタオルを身体に巻き付けた。
「これでいいでしょ?」
「おー……」
「何その気のない返事」
 言われた通りにしたのに適当にあしらわれて、つい突っかかってしまう。呆れたなら呆れたって言えばいいでしょ? って。
「いや、呆れたって言うか、脱力って言うか……。気にしてた俺が馬鹿みたいだって思っただけだ」
「? 何気にしてたの?」
 葵は何処までも葵だったな。
 そんなこと言いながら空笑い。明らかに馬鹿にしてる言い方がやっぱりカチンとくる。
「凄く感じ悪い。言いたいことあるならはっきり言ったら?」
「なら言うけど、この年でつるっつるってことにもう少しコンプレックス持てよ。体毛薄いにも程があるぞ」
 僕が嘘吐くと怒るくせに自分は嘘吐くし隠し事もする。それってどうなの?
 そんな思いで噛みついたら、茂斗は僕の下半身を指さしてもうすぐ高校生になるのに小学生みたいだって言ってくる。
 一瞬何のことを言われたか分からなくて動きを止めた僕に、茂斗は先手を打って振ってきたのはそっちだからなって牽制してきて……。
「俺は言うつもりなかったのに言えって言ったのは葵だからな」
 だから怒るなってことなんだろうけど、僕は怒るよりも不安になってしまった。
「……葵?」
「やっぱり、変かな……?」
 明らかに勢いを失くした僕に、茂斗は言い過ぎたって顔をして僕に「泣くなよ?」って言ってくる。
 泣きはしないけど、でも薄々感じていた事を指摘されたら、不安になるのは当然だと思う。
「いや、葵はほら、母さん似だから体毛薄いのは仕方ないって、な?」
 葵の見た目で毛深いよりも全然いいと思うから!
 そんな意味不明な慰めをしてくれる茂斗は、僕が泣かないように必死になってるみたいだ。
 不安を覚えながらも、そんなに虎君が怖いのかな……? って冷静な自分も存在していて、変な感じ。
「僕、まだなんだ……」
「? 何が?」
 泣いてないか確認するように顔を覗き込んでくる茂斗の目を見ながら、僕は恥ずかしいと思いながらも口を開いた。誰にも相談できずにいたことを吐き出す様に。
 茂斗は僕の言葉に何のことか分からないって続きを促してくる。
 できることなら明確な言葉を口にしたくなかったけど、やっぱりそれは無理みたい。それでも口に出すのは凄く恥ずかしくて、双子なら分かってよ! って無茶苦茶なことを考えてしまう。
「だから、……せ、精通……まだ、なんだよっ……」
 茂斗が事も無げに口に出してた単語は、僕には口に出すのも恥ずかしい単語だった。
(口に出さなかったら平気なのに)
 こういうところも子供っぽいんだろうなぁ。なんて、恥ずかしさを紛らわせるために思考を他所へやる。
 でも、思考を他所へやっても会話は真っ只中。
「え? マジで?」
 嘘だろ。って言う茂斗は凄く驚いた顔してる。それがまた居た堪れない。
 精通が普通小学校から中学校に上がる前後でなるって言われてるのは知ってる。保健体育で習ったから。
 早ければ茂斗見たいに小学生の中学年でなる人もいるって授業で習ったし、これは個人差だから遅くても気にしなくていいって先生は言ってた。
 だから僕は、遅い方なんだろうなって大して気にしてなかった。でも、この年まで精通がまだだって言う人は僕の周りにはきっといないから、気にしないようにしててもやっぱり心配ではあった。見た目が女の子にしか見えない親友の慶史も、他のクラスメイトも、もう二次性徴は起こっていたから……。
「もしかして、エロ本とか見たことない……?」
「! あ、あるわけないでしょ!?」
 中学生はエッチな雑誌を見ちゃダメなんだよ!?
 そう顔を真っ赤にして怒る僕に、茂斗は声がでかいって口を塞いでくる。リビングまでは聞こえないだろうけど、誰かが聞いてたらどうするんだ。って。
「雑誌なんて買わなくても携帯でも見ようと思ったら見れるだろ? それも見たことない?」
「っ、ないってばっ……!」
 声を潜めて聞いてくる茂斗に、同じように声を顰めながらも言い返す。それっていけない事なんだよ! って注意を込めて。
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