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特別な人
特別な人 第43話
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「こら! めのう、茂斗! 虎にちょっかいかけないの! 葵が遅刻しちゃうでしょ!」
「! ママ、ごめんなさいぃ……」
洗い物を終えた母さんがエプロンを脱ぎながらリビングに戻ってきて、虎君を威嚇する二人に注意を飛ばす。
それにめのうは大きな青い目を潤ませて半分泣きそうな顔をしてしまう。家族中から溺愛されて育ってるめのうは怒られることがほとんどない。だからこの程度の注意で泣きそうになってしまう。
母さんはそれが分かってるのか、スカートを握り締めるめのうの前で腰を落とすと「ごめんなさいが言えて偉いね」ってふわふわの金髪を撫でて笑顔を見せる。
当然甘えん坊なめのうがその言葉に母さんに抱き着かないわけもなく、小さい手でぎゅーって母さんに抱き着いて甘えていた。
「めのうが謝ってるのにお兄ちゃんが謝らないつもり?」
「うっ……、わ、分かったよっ……。もう邪魔しねぇーよ……」
凪ちゃんの前ではカッコよくいたい茂斗だけど、母さんの前では形無し。小さな声で「ごめん……」って謝ってて、顔は赤い。
きっと茂斗は恥ずかしくて堪らないんだろうな。こっち見んな! って言いたげに僕達を睨んできてるし。
「ちゃんと謝れて茂斗も偉い偉い」
「ちょ、母さん、止めろってっ……!」
身長差は20センチ以上。でも母さんはめのうを抱いて立ち上がると、背伸びして茂斗の頭をよしよしって撫でてる。
思春期真っただ中らしい茂斗はそれにますます赤い顔になってて、セットが崩れるってその手から逃げてしまう。それでも手を振り払ったりしないところが、茂斗らしい。
(反抗期ってもっと激しいものだって思ってたけど、でもやっぱり母さんの悲しむ顔は見たくないもんね)
一般的に親と口をきかなくなるとかよく聞くけど、姉さんも茂斗もそういうのはなかったし、普通より『反抗期』が穏やかな気がする。そしてその理由は他でもなく、目の前にいる『母さん』だと僕は思った。
僕は勿論、姉さんも茂斗もめのうも、母さんが大好き。母さんが笑ってると、ただそれだけで家が明るくなって幸せな空間になるから。
だから、どんなに反抗してても母さんが悲しむことだけは絶対しない。母さんが悲しい顔をすると、僕達も悲しくなってしまうから。
「流石の茂斗も樹里斗さんの前じゃただの子どもだな」
「だって母さんだもん」
母さんと茂斗のやり取りを横目に、穏やかに笑う虎君。それに僕は無性に幸せを感じて心から笑った。みんな母さんが大好きだから。って。
僕は幸せに緩み切った顔をしていたのかもしれない。虎君は一層優しく笑いかけると、「よかった」って呟いた。
「何が?」
「いや、葵の家族が温かくてよかったなぁと思ってさ」
見てるだけで幸せになる。
そんな風に言ってくれる虎君だけど、ちょっとだけ違う。だって、虎君も僕達の『家族』なんだから。
「ごちそうさまでした。……葵? どうした?」
「ううん。なんでもない。ごちそうさまでした!」
空になった食器を前に、もう一度手を合わせて食事を終える僕。母さんから食器はそのままでいいから着替えてくるよう言われて、僕はそのまま立ち上がると洗面台へと向かう。
でも、リビングを出る前に足が止まるのは、やっぱりちゃんと伝えないとと思ったから。
「ねぇ、虎君」
「ん? 何?」
振り返ったら、空いた食器を僕の分も手に取って片づけてくれている虎君の姿が。
(『幸せ』ってきっとこういう時の事言うんだろうな……)
「虎君も、僕の『家族』なんだからね?」
だから、自分は違う。なんて思わないでね?
そんな僕のお願いに、虎君の動きが止まる。目を瞬かすこともなく僕を凝視する虎君。
(あれ……? 僕、何か変なこと言った……?)
反応を返してくれない虎君に、今の言葉はダメだった? って不安になる。
でも、僕が虎君の名前を呼ぶ前に茂斗から「マジで遅刻するぞ」って声がかかるから、後ろ髪引かれながらもリビングを後にする。
(何がダメだったんだろ……。でも、怒ってはいないよね……?)
あの表情からして驚いてるだけなのは分かる。けど虎君が何に驚いたのか全然わからない。
僕は不安を覚えながらも再び洗面台の前に立って歯を磨く。
(変なことは言ってないと思うんだけどなぁ……)
虎君は僕の『お兄ちゃん』。だから『家族』って言っても全然平気だよね? 虎君だって僕のこと『弟』って思ってくれてるんだし。
じゃあ何が不味かったのか?
虎君が驚いた原因を考えるけど、やっぱり僕には分からない。
歯を磨きながら考えて考えて考えて、でも結局答えは見つからないまま、口を漱いで鏡に映る自分と目を合わせる。
「分かんないから後で虎君に聞こ!」
これ以上考えても答えが見つかるとは思えない。でも気にはなるから、後から虎君に直接聞こうと決めて頭を切り替える。
「! 大変だっ! 後5分しかないっ!」
目立つ寝癖がないかチェックしてたら脱衣所の時計が目に入って大慌て。制服に着替えるだけなら間に合うけど、授業の準備を何もしてないから僕は焦って脱衣所から飛び出した。
「! ママ、ごめんなさいぃ……」
洗い物を終えた母さんがエプロンを脱ぎながらリビングに戻ってきて、虎君を威嚇する二人に注意を飛ばす。
それにめのうは大きな青い目を潤ませて半分泣きそうな顔をしてしまう。家族中から溺愛されて育ってるめのうは怒られることがほとんどない。だからこの程度の注意で泣きそうになってしまう。
母さんはそれが分かってるのか、スカートを握り締めるめのうの前で腰を落とすと「ごめんなさいが言えて偉いね」ってふわふわの金髪を撫でて笑顔を見せる。
当然甘えん坊なめのうがその言葉に母さんに抱き着かないわけもなく、小さい手でぎゅーって母さんに抱き着いて甘えていた。
「めのうが謝ってるのにお兄ちゃんが謝らないつもり?」
「うっ……、わ、分かったよっ……。もう邪魔しねぇーよ……」
凪ちゃんの前ではカッコよくいたい茂斗だけど、母さんの前では形無し。小さな声で「ごめん……」って謝ってて、顔は赤い。
きっと茂斗は恥ずかしくて堪らないんだろうな。こっち見んな! って言いたげに僕達を睨んできてるし。
「ちゃんと謝れて茂斗も偉い偉い」
「ちょ、母さん、止めろってっ……!」
身長差は20センチ以上。でも母さんはめのうを抱いて立ち上がると、背伸びして茂斗の頭をよしよしって撫でてる。
思春期真っただ中らしい茂斗はそれにますます赤い顔になってて、セットが崩れるってその手から逃げてしまう。それでも手を振り払ったりしないところが、茂斗らしい。
(反抗期ってもっと激しいものだって思ってたけど、でもやっぱり母さんの悲しむ顔は見たくないもんね)
一般的に親と口をきかなくなるとかよく聞くけど、姉さんも茂斗もそういうのはなかったし、普通より『反抗期』が穏やかな気がする。そしてその理由は他でもなく、目の前にいる『母さん』だと僕は思った。
僕は勿論、姉さんも茂斗もめのうも、母さんが大好き。母さんが笑ってると、ただそれだけで家が明るくなって幸せな空間になるから。
だから、どんなに反抗してても母さんが悲しむことだけは絶対しない。母さんが悲しい顔をすると、僕達も悲しくなってしまうから。
「流石の茂斗も樹里斗さんの前じゃただの子どもだな」
「だって母さんだもん」
母さんと茂斗のやり取りを横目に、穏やかに笑う虎君。それに僕は無性に幸せを感じて心から笑った。みんな母さんが大好きだから。って。
僕は幸せに緩み切った顔をしていたのかもしれない。虎君は一層優しく笑いかけると、「よかった」って呟いた。
「何が?」
「いや、葵の家族が温かくてよかったなぁと思ってさ」
見てるだけで幸せになる。
そんな風に言ってくれる虎君だけど、ちょっとだけ違う。だって、虎君も僕達の『家族』なんだから。
「ごちそうさまでした。……葵? どうした?」
「ううん。なんでもない。ごちそうさまでした!」
空になった食器を前に、もう一度手を合わせて食事を終える僕。母さんから食器はそのままでいいから着替えてくるよう言われて、僕はそのまま立ち上がると洗面台へと向かう。
でも、リビングを出る前に足が止まるのは、やっぱりちゃんと伝えないとと思ったから。
「ねぇ、虎君」
「ん? 何?」
振り返ったら、空いた食器を僕の分も手に取って片づけてくれている虎君の姿が。
(『幸せ』ってきっとこういう時の事言うんだろうな……)
「虎君も、僕の『家族』なんだからね?」
だから、自分は違う。なんて思わないでね?
そんな僕のお願いに、虎君の動きが止まる。目を瞬かすこともなく僕を凝視する虎君。
(あれ……? 僕、何か変なこと言った……?)
反応を返してくれない虎君に、今の言葉はダメだった? って不安になる。
でも、僕が虎君の名前を呼ぶ前に茂斗から「マジで遅刻するぞ」って声がかかるから、後ろ髪引かれながらもリビングを後にする。
(何がダメだったんだろ……。でも、怒ってはいないよね……?)
あの表情からして驚いてるだけなのは分かる。けど虎君が何に驚いたのか全然わからない。
僕は不安を覚えながらも再び洗面台の前に立って歯を磨く。
(変なことは言ってないと思うんだけどなぁ……)
虎君は僕の『お兄ちゃん』。だから『家族』って言っても全然平気だよね? 虎君だって僕のこと『弟』って思ってくれてるんだし。
じゃあ何が不味かったのか?
虎君が驚いた原因を考えるけど、やっぱり僕には分からない。
歯を磨きながら考えて考えて考えて、でも結局答えは見つからないまま、口を漱いで鏡に映る自分と目を合わせる。
「分かんないから後で虎君に聞こ!」
これ以上考えても答えが見つかるとは思えない。でも気にはなるから、後から虎君に直接聞こうと決めて頭を切り替える。
「! 大変だっ! 後5分しかないっ!」
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