特別な人

鏡由良

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特別な人

特別な人 第52話

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「お前さぁ、もうちょっと言い方気をつけろよ。マモが固まってるだろうが」
「『言い方』変えたって一緒だろ。てか、『エッチ』はよくて『セックス』はダメってどういう理屈だよ」
 どっちも示すものは一緒だって言う慶史。僕は別に固まってないよって強がりを返すけど、それには三人から嘘吐きって言われちゃった。
「慶史が『セックス』って口に出すたびに肩震わせて固まってる奴が何言ってんだか」
「そうそう。でも『エッチ』って言葉には顔真っ赤にして狼狽えるよね。葵君」
 そういうところも可愛いって笑う朋喜は顔は可愛いし柔らかな雰囲気で大人しい印象があるのに、今は僕よりもずっとずっと大人びて見えた。
 呆れ気味だった悠栖は反論しない僕に笑った。笑って、「中3の男と思えない程初心だよな」って僕を見る。
「マモって処理する時とか大変そうだよな。エロ本とか直視できなさそうだし、そもそも自分で扱くのも恥ずかしがってなかなかできないだろ?」
「な、何言ってるのっ……!?」
 何の処理の話かは残念ながらすぐに分かった。昨日の夜茂斗と少しだけそういった話をしてたから。
 反応しちゃダメだって分かってるけど、ポーカーフェイスは苦手。むしろ下手くそだから顔が真っ赤になって動揺してるって一目瞭然だろうな。
 僕は狼狽えながらも、お昼休みにする話じゃないって話題を変えようと試みる。まぁ、無駄な努力に終わるんだけど。
「葵がオナニーねぇ……。なんか想像できないな」
 昔から知ってるからって言う慶史の視線が俯く僕の頭に突き刺さる。
 恥ずかしすぎて頭がグルグルして目が回りそうだった。
「おい、俺が伏せた意味考えろよ」
「だーかーら。『処理』も『オナニー』も似たようなもんだろ? てか伏せる意味あんの? 思春期真っただ中の男の頭なんて性欲の事しかないんだし」
「あながち間違いじゃないけど、性欲しかないってことはないでしょ」
「いーや。間違ってないね。紳士気取ってるけど悠栖と朋喜だって穴があったら入れたいお年頃だろ?」
 持論が間違ってないって言う慶史の言葉に僕の羞恥心は限界を迎える。顔が熱くて茹ってそうなほど赤くなってる自信があったから。
「お前と一緒にするな」
「あはは。俺と一緒だったら『棒が合ったら挿れてみたい』になるけど?」
 性欲だけじゃないって反論する悠栖だけど、どう頑張っても慶史に口で勝てるわけがない。
 案の定、笑顔で凄い事を言ってくれる慶史に流石の悠栖も朋喜も言葉を失くして顔を赤くしてしまった。
「お前、マジ最低だなっ!」
「慶史君って本当、見た目を裏切る性格してるよね」
 想像しただろうが! って悠栖が怒るけど、慶史は胸倉を掴まれても笑ってる。悠栖が絶対に殴ってこないって分かってるから。
「『想像した』って、嫌だなぁ。悠栖、俺に興味あるんだ?」
「! ねぇーよ!」
 悠栖なら無償で相手してやるよ?
 慶史はそんなこと言って悠栖を挑発するし、悠栖は挑発だって分かってるのに怒り出すし、本当、この手の話題は僕苦手だ。
「自分で言うと自慢に聞こえるから言いたくないけど、俺、超巧いよ? マジそこらの女の子より全然アリだと思うし、俺とのセックスが忘れられないって彼女と別れた奴も結構いるし、何より、タダ!」
「要らねぇって言ってるだろうが!」
「本当に?」
「本当に!!」
 悠栖に卑猥な仕草を見せる慶史が視界に入って僕はますます頭が熱くなる。目に入れちゃだめだって視線を逸らしたら、教室のそこらじゅうでこっちを見てるクラスメイトの視線とぶつかった。
 昼間から何を話してるんだって表情の中に含まれる戸惑い。その戸惑いに、今慶史と悠栖が盛り上がってる内容が含まれていることは僕でも分かった。だって、何人か凄く色めきだった目でこっちを見てるから……。
 これ以上この話を続けるのは危険だと思った僕は、慶史と悠栖を止めなくちゃって勇気を振り絞る。クラスメイトの視線の中には瑛大の『軽蔑してます』って言いたげな目も含まれてたから。
「ふ、二人とも、これ以上は止めよう? 声大きいし、みんなの迷惑になるよっ」
「そうだね。流石に目立ちすぎてるし、これ以上は危ない感じになりそうだしね」
 恥ずかしい想いを耐えて声を出せば、朋喜も援護射撃とばかりに二人を宥める手伝いをしてくれる。
 慶史と悠栖は僕達の声に一度こっちに視線を向けると、そのまま周囲を伺うように首を回して……。
 僕達の、朋喜の言葉が嘘じゃないって分かったのか、悠栖は赤い顔のまま慶史から手を放して椅子に座る。でも気分は収まらないのか舌打ちが漏れてて不機嫌だってすぐわかった。
「慶史、悠栖に謝りなよ」
「えぇ? 俺だけ?」
「吹っ掛けたのは慶史君でしょ?」
 悠栖が怒るの分かってたくせにって苦笑い。慶史はそれに肩を竦ませるもすぐに悠栖に向き直って「ごめん」って素直に謝ってみせた。
 その謝罪はいつもの口先だけのそれじゃなくて、ちゃんと誠意が感じられた。からかい過ぎたって反省してるっぽいし、僕は返事をしない悠栖の名前を呼んだ。
「―――っ、分かったよ。俺も挑発に乗ってごめん。悪かった!」
 分かったから、そんな目で見ないで。
 悠栖はそう項垂れると、大きくため息を吐いた。
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