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特別な人
特別な人 第67話
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僕の嘔吐の後始末をして教室からカバンを取ってきてくれた斗弛弥さんは、より詳しい経緯を担任を交えて当事者に聞いたって言ってた。だから、虎君に連絡した以上の事を今は知ってしまっている。
斗弛弥さんは知った内容に不快感を露わにしていて、流石に父さんと母さんに連絡するって怖い顔をしていた。
もちろん僕はそれを止めたんだけど、何か事件が起こった後では遅いって聞いてもらえなかった。だからきっと、虎君にも全部話すんだと思う。
それでも僕はやっぱり心配をかけたくないから知られたくなかった……。
「隠しちゃいないさ。俺もさっき知ったんだ」
「何をですか?」
「藤原慶史って知ってるよな? 藤原を輪姦しようとしてた馬鹿共を止めに入って殴られたんだよ。葵は」
「斗弛弥さんっ!!」
そんな言い方したら絶対虎君、誤解するじゃない!
僕は「端折りすぎです!」て斗弛弥さんを睨んだ。そしたら、虎君は斗弛弥さんに向けていた視線を僕に移してきて……。
「葵、ちょっと黙ってて」
「! ご、ごめん……」
その表情にはいつもの優しい笑顔はなくて、思わず怯んでしまった。
狼狽えながらも謝ったら、虎君は何故かまた抱きしめてきて……。
「虎君……?」
「本当にごめん。でも、今顔見ないで」
葵を責めてるわけじゃない。まして怖がらせたいわけでもない。でも、自分を抑えられない。
そう言って僕を抱きしめてくる虎君は凄く辛そうな声で謝ってくる。僕は小さな声でわかったと頷いて虎君の背中に手を回してしがみついた。
「斗弛弥さん、今の話、詳しく聞かせてください」
「一部始終見てた生徒の話だと、葵と藤原に『相手をしろ』って絡んできた軽音部の問題児がいたらしい。で、それを瑛大が止めに入ったまではよかったんだが、馬鹿にされて逆上したと連中と瑛大が一触即発ムードになって、それを止めようとして葵が殴られた」
それが俺が聞いた全容だ。
淡々と説明する斗弛弥さん。僕は虎君の胸に顔を埋めながらそれを聞いて心が痛んだ。虎君、絶対凄く心配してるだろうから……。
現に僕を抱きしめる腕には力が入ってて、ちょっと苦しい。けど、この苦しみは自業自得だから、僕は訴えることもせずただひたすら我慢した。
「……おい、顔」
「分かってます」
「分かってんなら元に戻せ。あと、年下に心配かけんな」
斗弛弥さんの声から、虎君の表情が明るくないことは分かった。
それが僕は悲しい。でも謝ったら余計に虎君に辛い思いをさせるって分かってるから、『心配かけてごめんなさい』って気持ちを込めて抱き着くんだ。
「葵、大丈夫だよ……」
僕の気持ちが伝わったのか、虎君は僕の髪を撫でてくる。そんなに強くしがみつかなくても俺は大丈夫だから。って。
「……っ、ごめんね、虎君……」
「俺の方こそごめん。葵がそんな危ない目に遭ってるなんて知らなかった」
知ってたらもっと気を付けれたのに。って言葉を吐き出す虎君。
それに僕は「こんなこと初めてだよ」って伝える。今までそういう意味で危険な目に遭ったことは一度もなかったよ? って。
「本当に……?」
「うん。本当だよ。それに今回だって僕に対しては本気じゃなかっただろうし……」
「どういうこと……?」
「! あ……。えっと、その……」
心配しないでって意味で口にした言葉だったけど、虎君の声色がまた低くなって、僕は余計なことを言ってしまったと焦る。
なんとか誤魔化そうと頭を働かせるけど、虎君は僕を引きはがすと「葵」って名前を呼んでくる。誤魔化さずに話して。って。
「葵に対して本気じゃなかったってどういう意味?」
「あの人達、慶史に酷い事したかったんだと思う……」
「藤原に?」
ジッと僕を見つめる虎君の視線。それを何故か受け止めることができなくて、僕は視線を逸らす。
はぐらかすことができないと観念して告げた真相の真相に、斗弛弥さんの訝し気な声が耳に届いた。
「斗弛弥さんも知ってますよね……? あの人たちの悪い噂」
「ああ。知ってる」
「! 何ですか、それ」
「裏で『ヤり部屋』って言われてるんだよ。軽音部の部室は。……意味は、分かるよな?」
メンバーに気に入られた相手は部室に連れ込まれて輪姦された上、一部始終を動画撮影されて脅迫される。
斗弛弥さんは、あくまでも『噂』だが。って付け加えるけど、虎君は「初耳ですよ」って斗弛弥さんを睨んだ。
斗弛弥さんは知った内容に不快感を露わにしていて、流石に父さんと母さんに連絡するって怖い顔をしていた。
もちろん僕はそれを止めたんだけど、何か事件が起こった後では遅いって聞いてもらえなかった。だからきっと、虎君にも全部話すんだと思う。
それでも僕はやっぱり心配をかけたくないから知られたくなかった……。
「隠しちゃいないさ。俺もさっき知ったんだ」
「何をですか?」
「藤原慶史って知ってるよな? 藤原を輪姦しようとしてた馬鹿共を止めに入って殴られたんだよ。葵は」
「斗弛弥さんっ!!」
そんな言い方したら絶対虎君、誤解するじゃない!
僕は「端折りすぎです!」て斗弛弥さんを睨んだ。そしたら、虎君は斗弛弥さんに向けていた視線を僕に移してきて……。
「葵、ちょっと黙ってて」
「! ご、ごめん……」
その表情にはいつもの優しい笑顔はなくて、思わず怯んでしまった。
狼狽えながらも謝ったら、虎君は何故かまた抱きしめてきて……。
「虎君……?」
「本当にごめん。でも、今顔見ないで」
葵を責めてるわけじゃない。まして怖がらせたいわけでもない。でも、自分を抑えられない。
そう言って僕を抱きしめてくる虎君は凄く辛そうな声で謝ってくる。僕は小さな声でわかったと頷いて虎君の背中に手を回してしがみついた。
「斗弛弥さん、今の話、詳しく聞かせてください」
「一部始終見てた生徒の話だと、葵と藤原に『相手をしろ』って絡んできた軽音部の問題児がいたらしい。で、それを瑛大が止めに入ったまではよかったんだが、馬鹿にされて逆上したと連中と瑛大が一触即発ムードになって、それを止めようとして葵が殴られた」
それが俺が聞いた全容だ。
淡々と説明する斗弛弥さん。僕は虎君の胸に顔を埋めながらそれを聞いて心が痛んだ。虎君、絶対凄く心配してるだろうから……。
現に僕を抱きしめる腕には力が入ってて、ちょっと苦しい。けど、この苦しみは自業自得だから、僕は訴えることもせずただひたすら我慢した。
「……おい、顔」
「分かってます」
「分かってんなら元に戻せ。あと、年下に心配かけんな」
斗弛弥さんの声から、虎君の表情が明るくないことは分かった。
それが僕は悲しい。でも謝ったら余計に虎君に辛い思いをさせるって分かってるから、『心配かけてごめんなさい』って気持ちを込めて抱き着くんだ。
「葵、大丈夫だよ……」
僕の気持ちが伝わったのか、虎君は僕の髪を撫でてくる。そんなに強くしがみつかなくても俺は大丈夫だから。って。
「……っ、ごめんね、虎君……」
「俺の方こそごめん。葵がそんな危ない目に遭ってるなんて知らなかった」
知ってたらもっと気を付けれたのに。って言葉を吐き出す虎君。
それに僕は「こんなこと初めてだよ」って伝える。今までそういう意味で危険な目に遭ったことは一度もなかったよ? って。
「本当に……?」
「うん。本当だよ。それに今回だって僕に対しては本気じゃなかっただろうし……」
「どういうこと……?」
「! あ……。えっと、その……」
心配しないでって意味で口にした言葉だったけど、虎君の声色がまた低くなって、僕は余計なことを言ってしまったと焦る。
なんとか誤魔化そうと頭を働かせるけど、虎君は僕を引きはがすと「葵」って名前を呼んでくる。誤魔化さずに話して。って。
「葵に対して本気じゃなかったってどういう意味?」
「あの人達、慶史に酷い事したかったんだと思う……」
「藤原に?」
ジッと僕を見つめる虎君の視線。それを何故か受け止めることができなくて、僕は視線を逸らす。
はぐらかすことができないと観念して告げた真相の真相に、斗弛弥さんの訝し気な声が耳に届いた。
「斗弛弥さんも知ってますよね……? あの人たちの悪い噂」
「ああ。知ってる」
「! 何ですか、それ」
「裏で『ヤり部屋』って言われてるんだよ。軽音部の部室は。……意味は、分かるよな?」
メンバーに気に入られた相手は部室に連れ込まれて輪姦された上、一部始終を動画撮影されて脅迫される。
斗弛弥さんは、あくまでも『噂』だが。って付け加えるけど、虎君は「初耳ですよ」って斗弛弥さんを睨んだ。
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