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特別な人
特別な人 第77話
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(やっぱり5年は大きすぎるなぁ……)
僕を置いてどんどん大人の男の人になっていってしまう虎君。それは仕方ない事だけど、やっぱり寂しい。
この先もずっと虎君は僕の傍にいてくれるって分かってるけど、それでも、だ。
「……何?」
「虎君が遠くに行かない様に、おまじない」
離れて行かない欲しいって想いが強すぎて、僕は俯いたまま虎君の上着の裾を掴む。
僕にとっては理由のある行動だけど、でも虎君からすれば不可解な行動だったに違いない。現になんで服を掴むんだってきかれちゃったし。
この子供染みた行動の理由を、一瞬誤魔化そうかと思った。
でも、誤魔化した結果僕の想いが伝わらず虎君が離れて行ってしまう未来が来るかもしれない。
なんて、そんな想像をして、僕は呆れられることを覚悟で理由を口にする。
(呆れなくても絶対に子供っぽいって思われるだろうな)
これが茂斗や慶史が相手なら、本当に数か月後に高校生になる男の思考か? って言われそう。
もう少し年相応の考えを持ちたいと思いながらも、背伸びするにも限界があるから仕方ない。
「……何か言ってよ」
呆れてる、これは絶対呆れてる。
虎君は何も言わないし反応もしないから、僕がそんな風に思うのは当然。
自業自得だってことは分かってるけど、不貞腐れてしまう。でも、何か反応してよ! って虎君を見上げたら、虎君は横を向いていて……。
「虎君……?」
え? 何? どうしたの?
僕の不可解な行動以上に虎君の様子が不可解で、正直びっくりした。だって虎君、耳、赤いんだもん。
(なんで? これって照れてるんだよ、ね……?)
手で口元を隠してるから顔は分からないけど、絶対顔も赤いよね?
「ちょっと待って。顔が戻らない」
「えぇ?」
まじまじと見上げてた僕の視線に気づいた虎君は咳払いをして「下向いてて」って言ってくる。
いつもなら素直に聞くだろう言葉。けど、今は「なんで?」って食い下がってしまう。
「『顔戻らない』ってどういうこと?」
「どういうって……。そのままの意味だよ」
聞かないでくれよって言いたげな声に、僕は顔を顰める。
虎君からすれば、言わなくても分かるだろう? ってことなんだろうけど、僕には全然分からないことだから、今日はこれ以上虎君を遠くに感じたくなかった。
「全然わかんないよ。呆れてるのになんで顔赤いの?」
教えてくれるまで引かないからね?!
そんな強い意志を込めて虎君の上着を握る手に力を籠める僕。
そしたら虎君は視線だけを僕に向けてきて、「葵らしい勘違いだな」って笑った。
「何が?」
「俺が『呆れてる』って思ってるんだろ?」
「思ってるよ。だって実際呆れてるでしょ?」
笑われてますます不機嫌になる僕。虎君はもう一度咳ばらいをすると、そこで漸く僕の方を向いてくれた。
「呆れてないよ。……むしろ可愛い仕草だなって思ってた」
「え?」
照れたように笑う虎君の言葉は僕の幻聴?
でも、凄くしっかり聞こえたから幻聴じゃないよね?
(聞きっ間違い、かな……?)
なんて、そんなこと思うんだけど、心臓は痛いぐらいドキドキしてて、ちゃんと聞こえてたし言われたことも理解してた。
熱くなる顔に、赤くなってる気がした。
僕を見てる虎君にはその顔色の変化は一目瞭然で、「一瞬で完熟トマトになった」って茶化されてしまう。
「と、虎君が変なこと言うからでしょ! いつも言ってるけど、僕は可愛くないよ!」
「『変な事』って。確かにいつも言われてるけど、俺もいつも言ってるよな? 俺は葵のこと可愛いって思ってるって」
「だ、だからっ……!!」
いつもなら、いつもなら『可愛くないし!!』って怒ったり睨んだりするところ。
でも、でも……。
「もういいっ!!」
顔は熱いし心臓は煩いし、全然いつも通り振る舞えない。
僕は顔を背けるとそのまま踵を返して部屋に向かうようにその場から逃げ出した。
僕を置いてどんどん大人の男の人になっていってしまう虎君。それは仕方ない事だけど、やっぱり寂しい。
この先もずっと虎君は僕の傍にいてくれるって分かってるけど、それでも、だ。
「……何?」
「虎君が遠くに行かない様に、おまじない」
離れて行かない欲しいって想いが強すぎて、僕は俯いたまま虎君の上着の裾を掴む。
僕にとっては理由のある行動だけど、でも虎君からすれば不可解な行動だったに違いない。現になんで服を掴むんだってきかれちゃったし。
この子供染みた行動の理由を、一瞬誤魔化そうかと思った。
でも、誤魔化した結果僕の想いが伝わらず虎君が離れて行ってしまう未来が来るかもしれない。
なんて、そんな想像をして、僕は呆れられることを覚悟で理由を口にする。
(呆れなくても絶対に子供っぽいって思われるだろうな)
これが茂斗や慶史が相手なら、本当に数か月後に高校生になる男の思考か? って言われそう。
もう少し年相応の考えを持ちたいと思いながらも、背伸びするにも限界があるから仕方ない。
「……何か言ってよ」
呆れてる、これは絶対呆れてる。
虎君は何も言わないし反応もしないから、僕がそんな風に思うのは当然。
自業自得だってことは分かってるけど、不貞腐れてしまう。でも、何か反応してよ! って虎君を見上げたら、虎君は横を向いていて……。
「虎君……?」
え? 何? どうしたの?
僕の不可解な行動以上に虎君の様子が不可解で、正直びっくりした。だって虎君、耳、赤いんだもん。
(なんで? これって照れてるんだよ、ね……?)
手で口元を隠してるから顔は分からないけど、絶対顔も赤いよね?
「ちょっと待って。顔が戻らない」
「えぇ?」
まじまじと見上げてた僕の視線に気づいた虎君は咳払いをして「下向いてて」って言ってくる。
いつもなら素直に聞くだろう言葉。けど、今は「なんで?」って食い下がってしまう。
「『顔戻らない』ってどういうこと?」
「どういうって……。そのままの意味だよ」
聞かないでくれよって言いたげな声に、僕は顔を顰める。
虎君からすれば、言わなくても分かるだろう? ってことなんだろうけど、僕には全然分からないことだから、今日はこれ以上虎君を遠くに感じたくなかった。
「全然わかんないよ。呆れてるのになんで顔赤いの?」
教えてくれるまで引かないからね?!
そんな強い意志を込めて虎君の上着を握る手に力を籠める僕。
そしたら虎君は視線だけを僕に向けてきて、「葵らしい勘違いだな」って笑った。
「何が?」
「俺が『呆れてる』って思ってるんだろ?」
「思ってるよ。だって実際呆れてるでしょ?」
笑われてますます不機嫌になる僕。虎君はもう一度咳ばらいをすると、そこで漸く僕の方を向いてくれた。
「呆れてないよ。……むしろ可愛い仕草だなって思ってた」
「え?」
照れたように笑う虎君の言葉は僕の幻聴?
でも、凄くしっかり聞こえたから幻聴じゃないよね?
(聞きっ間違い、かな……?)
なんて、そんなこと思うんだけど、心臓は痛いぐらいドキドキしてて、ちゃんと聞こえてたし言われたことも理解してた。
熱くなる顔に、赤くなってる気がした。
僕を見てる虎君にはその顔色の変化は一目瞭然で、「一瞬で完熟トマトになった」って茶化されてしまう。
「と、虎君が変なこと言うからでしょ! いつも言ってるけど、僕は可愛くないよ!」
「『変な事』って。確かにいつも言われてるけど、俺もいつも言ってるよな? 俺は葵のこと可愛いって思ってるって」
「だ、だからっ……!!」
いつもなら、いつもなら『可愛くないし!!』って怒ったり睨んだりするところ。
でも、でも……。
「もういいっ!!」
顔は熱いし心臓は煩いし、全然いつも通り振る舞えない。
僕は顔を背けるとそのまま踵を返して部屋に向かうようにその場から逃げ出した。
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