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特別な人
特別な人 第81話
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「どうした……?」
僕の手が虎君の頬に触れるか触れないかのところで、虎君は僕の手を握り締めて尋ねてくる。
穏やかな声にさっき見た悲しみは気のせいかと思ってしまいそうになったけど、絶対あれは気のせいじゃないから僕は虎君の手を握り返した。
「慶史だけじゃないよ。友達はみんな大事だよ……?」
「うん。知ってる」
「虎君だってそうでしょ?」
友達が大事なのは、僕だけじゃないよね?
そう問いただしたら、虎君が返すのは困った顔。
「友達は大事だよ。でも、たとえ友達でも、葵が傷つく原因になるなら俺は絶対にそいつを許せない」
「え……?」
「言っただろ? 葵以上に大切な存在はいないんだよ、俺には」
僕の目を見据えて告げられる言葉。
それに似た言葉は何度か貰ったことがあるけど、でも今は全然違う言葉に思えた。
だって虎君が見たことない『男の人』の表情に見えたから……。
(それって、僕が『一番大切』ってことだよ、ね……? でも、なんで? どうしてそんな顔するの……?)
心臓がまたドキドキと早く鼓動して、苦しい。
僕はもらった言葉に何も返せず、ただ虎君を見つめることしかできない。
「葵は俺の―――、俺の『大事な弟』だから、な」
一瞬言い淀んだ虎君。でもすぐ笑顔を見せる虎君。『他意はない』と言われてるみたいだった。
虎君の言わんとしてることはちゃんと理解してる。だけど、ドキドキしてる自分を見透かされたみたいで居心地が悪い。
「……葵、ごめんな?」
「な、なにが?」
「俺の事、怖いんだろ?」
顔を背けてしまった僕に掛けられたのは、そんな言葉。
予想外の言葉に驚いて虎君に視線を戻したら、目に入ったのは悲しみと辛さを隠した虎君の眼差しで焦る。
「なんでそうなるの?」
「俺から目を逸らしたから。……俺の独占欲に引いたんだろ?」
「! 違うよ! 僕が目を逸らしたのは虎君の言葉に引いたからじゃなくて、ドキドキしてたからで――――」
「え?」
「あ……」
ベッドから跳ね起きて誤解だと訴える僕だけど、勢い余って余計なことまで口走ってしまった。
驚く虎君の声に我に返って口を閉ざすも、殆ど全部喋ってしまった後で後の祭り状態。
「葵、今のどういう意味?」
「だ、だから、『引いてない』って話、だよ?」
ベッドに身を乗り出して尋ねてくる虎君と、そんな虎君から逃げる僕。
いつもなら分かってても見逃してくれる虎君だけど、何故か今日は問い詰めてくる。
「『ドキドキした』って葵が言ったんだろ?」
「それは、その、あの、違うっていうか……」
「違うのか?」
質問を重ねる虎君に、僕は「違うよ!?」って上擦った声を出す。
でも、僕の声に虎君が見せるのは明らかな落胆で、本心がバレることよりも虎君が傷つくことの方が嫌で、「違わない……」って言葉を訂正してしまう。
「葵……」
「だ、だって虎君が変なこと言うから! あんな顔して『一番大事だ』って言われたら勘違いしそうになるのも当然でしょ!?」
伸びてきた手は僕の頬に触れる。
自分のモノじゃない体温にびっくりして、言い訳をまくしたてる僕。
その『言い訳』が墓穴を深くしてることに気づいたのは全部言い終わった後だった。
「あ、の……、えっと、今のは、その……」
頭に血が上ってるのが分かるし、顔は真っ赤に違いない。
突き刺さる虎君の視線にしどろもどろになりながらまた『言い訳』を考えるんだけど、全然何も思い浮かばない。
真っ白になった頭に僕は視線を下げ、呟く。虎君が悪いんだ。って。
するとベッドがきしむ音が聞こえて、下げた視線に虎君の手が目に入った。どうやら虎君がベッドに上がってきたみたい。
僕の手が虎君の頬に触れるか触れないかのところで、虎君は僕の手を握り締めて尋ねてくる。
穏やかな声にさっき見た悲しみは気のせいかと思ってしまいそうになったけど、絶対あれは気のせいじゃないから僕は虎君の手を握り返した。
「慶史だけじゃないよ。友達はみんな大事だよ……?」
「うん。知ってる」
「虎君だってそうでしょ?」
友達が大事なのは、僕だけじゃないよね?
そう問いただしたら、虎君が返すのは困った顔。
「友達は大事だよ。でも、たとえ友達でも、葵が傷つく原因になるなら俺は絶対にそいつを許せない」
「え……?」
「言っただろ? 葵以上に大切な存在はいないんだよ、俺には」
僕の目を見据えて告げられる言葉。
それに似た言葉は何度か貰ったことがあるけど、でも今は全然違う言葉に思えた。
だって虎君が見たことない『男の人』の表情に見えたから……。
(それって、僕が『一番大切』ってことだよ、ね……? でも、なんで? どうしてそんな顔するの……?)
心臓がまたドキドキと早く鼓動して、苦しい。
僕はもらった言葉に何も返せず、ただ虎君を見つめることしかできない。
「葵は俺の―――、俺の『大事な弟』だから、な」
一瞬言い淀んだ虎君。でもすぐ笑顔を見せる虎君。『他意はない』と言われてるみたいだった。
虎君の言わんとしてることはちゃんと理解してる。だけど、ドキドキしてる自分を見透かされたみたいで居心地が悪い。
「……葵、ごめんな?」
「な、なにが?」
「俺の事、怖いんだろ?」
顔を背けてしまった僕に掛けられたのは、そんな言葉。
予想外の言葉に驚いて虎君に視線を戻したら、目に入ったのは悲しみと辛さを隠した虎君の眼差しで焦る。
「なんでそうなるの?」
「俺から目を逸らしたから。……俺の独占欲に引いたんだろ?」
「! 違うよ! 僕が目を逸らしたのは虎君の言葉に引いたからじゃなくて、ドキドキしてたからで――――」
「え?」
「あ……」
ベッドから跳ね起きて誤解だと訴える僕だけど、勢い余って余計なことまで口走ってしまった。
驚く虎君の声に我に返って口を閉ざすも、殆ど全部喋ってしまった後で後の祭り状態。
「葵、今のどういう意味?」
「だ、だから、『引いてない』って話、だよ?」
ベッドに身を乗り出して尋ねてくる虎君と、そんな虎君から逃げる僕。
いつもなら分かってても見逃してくれる虎君だけど、何故か今日は問い詰めてくる。
「『ドキドキした』って葵が言ったんだろ?」
「それは、その、あの、違うっていうか……」
「違うのか?」
質問を重ねる虎君に、僕は「違うよ!?」って上擦った声を出す。
でも、僕の声に虎君が見せるのは明らかな落胆で、本心がバレることよりも虎君が傷つくことの方が嫌で、「違わない……」って言葉を訂正してしまう。
「葵……」
「だ、だって虎君が変なこと言うから! あんな顔して『一番大事だ』って言われたら勘違いしそうになるのも当然でしょ!?」
伸びてきた手は僕の頬に触れる。
自分のモノじゃない体温にびっくりして、言い訳をまくしたてる僕。
その『言い訳』が墓穴を深くしてることに気づいたのは全部言い終わった後だった。
「あ、の……、えっと、今のは、その……」
頭に血が上ってるのが分かるし、顔は真っ赤に違いない。
突き刺さる虎君の視線にしどろもどろになりながらまた『言い訳』を考えるんだけど、全然何も思い浮かばない。
真っ白になった頭に僕は視線を下げ、呟く。虎君が悪いんだ。って。
するとベッドがきしむ音が聞こえて、下げた視線に虎君の手が目に入った。どうやら虎君がベッドに上がってきたみたい。
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