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特別な人
特別な人 第86話
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「瑛大が気にかけてくれるのがそんなに嬉しい……?」
「うん! 嬉しい!」
「残念だったわね、虎」
「黙ってろっ……!」
瑛大が気にかけてくれてると喜ぶ僕に、虎君が向けるのは苦笑い。
なんでそんな風に笑うんだろう? って思いながらも頷いたら、姉さんと虎君は正反対の表情を見せた。
嬉しそうな姉さんと、悲しそうな虎君。
(? 僕、変な事言っちゃった……?)
虎君の表情に、僕は答えが不味かったのかと心配になる。でも、やり取りを思い返しても別に変な反応はしてないはず。
それなのにどうして虎君はこんな顔するんだろう……?
僕の心配を余所に虎君は姉さんの軽口に不機嫌な面持ちながらも反応を返してて、モヤモヤする。
「葵、どうした?」
「なんでもない……」
姉さんを躱しながら僕の心配をしてくれる虎君は優しい。けど、今はそれを素直に喜べない。
(虎君の反応の理由、姉さんは分かってるんだよね?)
でも僕は分からない。
誰よりも虎君を理解してるって豪語してるくせに、僕、虎君の事全然知らない……。
その事実を今見せつけられてる気がして悲しい。
「なんでもなくないだろ? 視線、下がってる」
いつも相手の目を見て話す葵らしくない。
そう言葉を続ける虎君は僕の事をちゃんと理解してくれてる。僕の一番の理解者は虎君で間違いないと思う。
(でも、虎君の一番の理解者は僕じゃなくて姉さんかもしれない……)
そんなことを考えて、目頭が熱くなる。
自分が泣きそうだって理解して目を見開くのは、涙を堪える為。
「葵、大丈夫? もしかして、気分悪くなった?」
感情を抑える為に部屋着を握り締める僕を心配する姉さん。
虎君も顔を覗き込むように身を屈めて「病院行こう?」って身体を気にしてくれる。
「へ、き。ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
だから心配しないで。って笑うんだけど、頬っぺたが引き攣ってるかも。
こんな笑い顔じゃ虎君と姉さんを騙せるわけがない。
「嘘吐かないの! 顔真っ青じゃない!」
「桔梗、怒鳴るな。……葵、俺じゃ頼りないかもしれないけど、正直に話して? な?」
僕を心配するあまり声を荒げる姉さん。虎君はそんな姉さんを窘める。葵の性格を考えたらそのリアクションがダメな事ぐらい分かるだろうが。って。
虎君に注意されたら自分が悪くても言い返すのがいつもの姉さん。でも今日は言われるがまま口を噤んで僕から一歩離れた。
(優しいな……、虎君……)
こんな幼馴染がいてくれるなんて、本当に僕は幸せ者だ。
「心配かけてごめんなさい……」
「それは気にしなくていい」
「身体は平気。ただ、……ただ、虎君と姉さんって本当に仲良しだなって思ったらちょっと疎外感? 感じちゃっただけ」
子供っぽくてごめんなさい。
そう笑おうと思っても、自嘲しか出てこない。
「ま―――」
「ごめんね、葵! でも疎外感なんて感じなくていいのよ! こいつはただの『幼馴染』! それ以上でもそれ以下もないわ!」
僕の手を握ってくれてた虎君の手に力が篭ったと思ったら、突然その手が離される。
そして僕の視界は真っ暗に。鼻腔をくすぐる甘い匂いに、姉さんに抱きしめられたと分かった。
「こいつはただの害獣! 私はそれを退治してるだけだから!」
「ね、姉さん、苦しいっ……」
姉さんはここぞとばかりに虎君に対する暴言を並べる。
僕はそれを注意したかったんだけど、息ができないぐらいぎゅうぎゅう抱きしめられたらそれも叶わない。
それどころか、僕を抱きしめて可愛い可愛いって頭を撫でる姉さんを見たら、愛情を邪険にするのも可哀想な気さえした。
「うん! 嬉しい!」
「残念だったわね、虎」
「黙ってろっ……!」
瑛大が気にかけてくれてると喜ぶ僕に、虎君が向けるのは苦笑い。
なんでそんな風に笑うんだろう? って思いながらも頷いたら、姉さんと虎君は正反対の表情を見せた。
嬉しそうな姉さんと、悲しそうな虎君。
(? 僕、変な事言っちゃった……?)
虎君の表情に、僕は答えが不味かったのかと心配になる。でも、やり取りを思い返しても別に変な反応はしてないはず。
それなのにどうして虎君はこんな顔するんだろう……?
僕の心配を余所に虎君は姉さんの軽口に不機嫌な面持ちながらも反応を返してて、モヤモヤする。
「葵、どうした?」
「なんでもない……」
姉さんを躱しながら僕の心配をしてくれる虎君は優しい。けど、今はそれを素直に喜べない。
(虎君の反応の理由、姉さんは分かってるんだよね?)
でも僕は分からない。
誰よりも虎君を理解してるって豪語してるくせに、僕、虎君の事全然知らない……。
その事実を今見せつけられてる気がして悲しい。
「なんでもなくないだろ? 視線、下がってる」
いつも相手の目を見て話す葵らしくない。
そう言葉を続ける虎君は僕の事をちゃんと理解してくれてる。僕の一番の理解者は虎君で間違いないと思う。
(でも、虎君の一番の理解者は僕じゃなくて姉さんかもしれない……)
そんなことを考えて、目頭が熱くなる。
自分が泣きそうだって理解して目を見開くのは、涙を堪える為。
「葵、大丈夫? もしかして、気分悪くなった?」
感情を抑える為に部屋着を握り締める僕を心配する姉さん。
虎君も顔を覗き込むように身を屈めて「病院行こう?」って身体を気にしてくれる。
「へ、き。ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
だから心配しないで。って笑うんだけど、頬っぺたが引き攣ってるかも。
こんな笑い顔じゃ虎君と姉さんを騙せるわけがない。
「嘘吐かないの! 顔真っ青じゃない!」
「桔梗、怒鳴るな。……葵、俺じゃ頼りないかもしれないけど、正直に話して? な?」
僕を心配するあまり声を荒げる姉さん。虎君はそんな姉さんを窘める。葵の性格を考えたらそのリアクションがダメな事ぐらい分かるだろうが。って。
虎君に注意されたら自分が悪くても言い返すのがいつもの姉さん。でも今日は言われるがまま口を噤んで僕から一歩離れた。
(優しいな……、虎君……)
こんな幼馴染がいてくれるなんて、本当に僕は幸せ者だ。
「心配かけてごめんなさい……」
「それは気にしなくていい」
「身体は平気。ただ、……ただ、虎君と姉さんって本当に仲良しだなって思ったらちょっと疎外感? 感じちゃっただけ」
子供っぽくてごめんなさい。
そう笑おうと思っても、自嘲しか出てこない。
「ま―――」
「ごめんね、葵! でも疎外感なんて感じなくていいのよ! こいつはただの『幼馴染』! それ以上でもそれ以下もないわ!」
僕の手を握ってくれてた虎君の手に力が篭ったと思ったら、突然その手が離される。
そして僕の視界は真っ暗に。鼻腔をくすぐる甘い匂いに、姉さんに抱きしめられたと分かった。
「こいつはただの害獣! 私はそれを退治してるだけだから!」
「ね、姉さん、苦しいっ……」
姉さんはここぞとばかりに虎君に対する暴言を並べる。
僕はそれを注意したかったんだけど、息ができないぐらいぎゅうぎゅう抱きしめられたらそれも叶わない。
それどころか、僕を抱きしめて可愛い可愛いって頭を撫でる姉さんを見たら、愛情を邪険にするのも可哀想な気さえした。
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