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特別な人
特別な人 第134話
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「えっと……、マジ、で……?」
茂斗に嫌われるって絶望してた僕の耳に届く、声。
ビックリしすぎて裏返ったその声に、僕はどう反応してももう無理だと諦めて何も言わず俯いた。
次に返ってくる反応は、拒絶か罵倒か、どちらにしても辛いことには変わらない。
僕はせめて虎君には言わないでと口止めだけはしないとと手を握り締めた。茂斗に嫌われてその上虎君までいなくなってしまったら、僕はもう生きていけないって思ったから。
でも、恐怖と戦い覚悟する僕の耳に届いたのは、僕が想像した感情ではなかった。
「んだよ……。ビビらすなよ……」
「! えっ……?」
「俺はてっきり葵が凪のこと女として意識して俺に後ろめたさ感じてるのかと思ったんだけけど、そっちかぁー……。そっかそっか。よかった。あぁ、マジ焦った」
安心したって笑いながら息を吐く茂斗は、その場にしゃがみこむと、それならそうと先に言ってくれってはっきり言わなかった僕に苦笑いを見せた。
僕は茂斗のその反応が理解できなかった。
僕を好きだと言った西さんには否定的だったのに、どうして男の人のーー虎君の夢を見て夢精した僕を否定しないの?
茂斗をなんとか理解しようと思って色々理由を考えるんだけど、自分で考えておきながらどれも納得できる理由じゃなかった。
「なんで……?」
「ん? どうした?」
「なんで、そんな風に笑ってるの……? 僕、虎君のそういう夢を見てこんな……。僕、女の子じゃなくて、男の人をそういう意味で好きなんだよ……?」
それなのに、どうしてそんな風に笑いかけてくれるのかに分からない。
嫌悪されたわけでも、拒絶されたいわけでもない。ただ、どうして茂斗がそうしないのか、僕はその理由が知りたいだけ。
僕の問いかけに、茂斗はまた驚いた顔をした。
「葵、お前もしかして、気づいてないわけ?」
「な、何を?」
「『何を』じゃなくて、葵は本当に『男』が好きなのか?」
言いたいことが分からない。
僕は虎君の夢を見て精通を迎えたのに、茂斗はどうして『男の人が好き』ってわかってくれないんだろう?
思わず理解できないって顔をしてしまう僕。すると茂斗は僕を真っ直ぐ見つめると、はっきりした言葉で質問し直してくれた。
「お前が好きなのって、『男』じゃなくて、『虎』じゃねーの?」
「え……?」
投げ掛けられた質問に、声を失う。だって、そんなこと、考えもしなかったから……。
呆然とする僕に茂斗は苦笑を濃くすると、無自覚か。って僕の頭を叩く。
「まぁこれは俺の推測だけど、もしこれが他の誰かが相手だったら、葵は『幸せ』とか思わないんじゃねぇーの?」
想像してみろよ? って茂斗が並べる名前は、自分を筆頭に幼馴染みの瑛大と親友の慶史。
みんな僕にとって大事な人だし、大切な存在。でも、言われるがまま想像して、僕は気づいた。夢と全然違うってことに。
誰が相手でも、気恥ずかしさを感じたり変な感じだとか思うだけで、『幸せ』じゃない。けど、その相手が虎君だったら? って想像すると、今度は逆に『幸せ』を感じる。『嬉しい』って感じる。
それがどういうことか、何を意味するか、僕にだってはっきりと理解できた。
「……な? 葵は『虎が好き』なんだろ?」
自分の気持ちは理解できたけど、でもだからどうしようって顔をあげたら、茂斗は僕に満面の笑みを見せて「よかったな」って言った。
「『よかった』って、どこが? 全然よくないよね?」
「なんで? 好きな奴できてよかったじゃん。葵、俺のこと羨ましいって言ってただろ?」
なにも解決してないし、むしろ状況は悪くなってる。虎君も茂斗と同じで男同士の恋愛には否定的なんだから。
僕は振られるってわかってるのになんで『よかった』なんて無責任に言ってくるんだと茂斗を睨んだ。
「確かに僕は『好きな人』ができたらいいなって思ってたけど、でも想いを伝えられない『好き』は辛いだけだよ!」
「なんで伝えられないんだよ? 言えばいいじゃん?」
「言えるわけないでしょっ! 虎君、西さんのこと軽蔑してたんだよ!?」
拒絶されるってわかってるのに想いを伝えられるわけがない。想いを伝えて虎君に嫌われたら、僕は本当にどうかなってしまいそうだから。
だから言えないって声を荒げる僕に、茂斗は顔をしかめて「なんで西がでてくんの?」って聞いてくる。今あいつの話はしてないよな? って。
「だ、だから、西さん、男の僕のこと、好きだって……。それで、虎君は凄く嫌がってたし……。茂斗だって『男が好きとか聞いてない』って前怒ってたし……」
「なんだその勘違い。俺も虎も、別に西が『男が好き』だからキレたわけじゃねぇーぞ? あいつが『犯罪者』で葵が『被害者』だからキレただけだぞ!?」
僕の言葉に茂斗が声を荒げて反論してくる。俺達は同性が好きだからって差別したりしない。って。
茂斗に嫌われるって絶望してた僕の耳に届く、声。
ビックリしすぎて裏返ったその声に、僕はどう反応してももう無理だと諦めて何も言わず俯いた。
次に返ってくる反応は、拒絶か罵倒か、どちらにしても辛いことには変わらない。
僕はせめて虎君には言わないでと口止めだけはしないとと手を握り締めた。茂斗に嫌われてその上虎君までいなくなってしまったら、僕はもう生きていけないって思ったから。
でも、恐怖と戦い覚悟する僕の耳に届いたのは、僕が想像した感情ではなかった。
「んだよ……。ビビらすなよ……」
「! えっ……?」
「俺はてっきり葵が凪のこと女として意識して俺に後ろめたさ感じてるのかと思ったんだけけど、そっちかぁー……。そっかそっか。よかった。あぁ、マジ焦った」
安心したって笑いながら息を吐く茂斗は、その場にしゃがみこむと、それならそうと先に言ってくれってはっきり言わなかった僕に苦笑いを見せた。
僕は茂斗のその反応が理解できなかった。
僕を好きだと言った西さんには否定的だったのに、どうして男の人のーー虎君の夢を見て夢精した僕を否定しないの?
茂斗をなんとか理解しようと思って色々理由を考えるんだけど、自分で考えておきながらどれも納得できる理由じゃなかった。
「なんで……?」
「ん? どうした?」
「なんで、そんな風に笑ってるの……? 僕、虎君のそういう夢を見てこんな……。僕、女の子じゃなくて、男の人をそういう意味で好きなんだよ……?」
それなのに、どうしてそんな風に笑いかけてくれるのかに分からない。
嫌悪されたわけでも、拒絶されたいわけでもない。ただ、どうして茂斗がそうしないのか、僕はその理由が知りたいだけ。
僕の問いかけに、茂斗はまた驚いた顔をした。
「葵、お前もしかして、気づいてないわけ?」
「な、何を?」
「『何を』じゃなくて、葵は本当に『男』が好きなのか?」
言いたいことが分からない。
僕は虎君の夢を見て精通を迎えたのに、茂斗はどうして『男の人が好き』ってわかってくれないんだろう?
思わず理解できないって顔をしてしまう僕。すると茂斗は僕を真っ直ぐ見つめると、はっきりした言葉で質問し直してくれた。
「お前が好きなのって、『男』じゃなくて、『虎』じゃねーの?」
「え……?」
投げ掛けられた質問に、声を失う。だって、そんなこと、考えもしなかったから……。
呆然とする僕に茂斗は苦笑を濃くすると、無自覚か。って僕の頭を叩く。
「まぁこれは俺の推測だけど、もしこれが他の誰かが相手だったら、葵は『幸せ』とか思わないんじゃねぇーの?」
想像してみろよ? って茂斗が並べる名前は、自分を筆頭に幼馴染みの瑛大と親友の慶史。
みんな僕にとって大事な人だし、大切な存在。でも、言われるがまま想像して、僕は気づいた。夢と全然違うってことに。
誰が相手でも、気恥ずかしさを感じたり変な感じだとか思うだけで、『幸せ』じゃない。けど、その相手が虎君だったら? って想像すると、今度は逆に『幸せ』を感じる。『嬉しい』って感じる。
それがどういうことか、何を意味するか、僕にだってはっきりと理解できた。
「……な? 葵は『虎が好き』なんだろ?」
自分の気持ちは理解できたけど、でもだからどうしようって顔をあげたら、茂斗は僕に満面の笑みを見せて「よかったな」って言った。
「『よかった』って、どこが? 全然よくないよね?」
「なんで? 好きな奴できてよかったじゃん。葵、俺のこと羨ましいって言ってただろ?」
なにも解決してないし、むしろ状況は悪くなってる。虎君も茂斗と同じで男同士の恋愛には否定的なんだから。
僕は振られるってわかってるのになんで『よかった』なんて無責任に言ってくるんだと茂斗を睨んだ。
「確かに僕は『好きな人』ができたらいいなって思ってたけど、でも想いを伝えられない『好き』は辛いだけだよ!」
「なんで伝えられないんだよ? 言えばいいじゃん?」
「言えるわけないでしょっ! 虎君、西さんのこと軽蔑してたんだよ!?」
拒絶されるってわかってるのに想いを伝えられるわけがない。想いを伝えて虎君に嫌われたら、僕は本当にどうかなってしまいそうだから。
だから言えないって声を荒げる僕に、茂斗は顔をしかめて「なんで西がでてくんの?」って聞いてくる。今あいつの話はしてないよな? って。
「だ、だから、西さん、男の僕のこと、好きだって……。それで、虎君は凄く嫌がってたし……。茂斗だって『男が好きとか聞いてない』って前怒ってたし……」
「なんだその勘違い。俺も虎も、別に西が『男が好き』だからキレたわけじゃねぇーぞ? あいつが『犯罪者』で葵が『被害者』だからキレただけだぞ!?」
僕の言葉に茂斗が声を荒げて反論してくる。俺達は同性が好きだからって差別したりしない。って。
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