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特別な人
特別な人 第147話
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朋喜を慰めないとと思うものの、言葉が出てこない。それは掛ける言葉が見つからないわけではなくて、数日後の自分の姿を見ているようだったから。
僕は朋喜のように何年も前から恋心を自覚していたわけじゃない。むしろ想いを自覚して半月も経っていない恋愛初心者だ。
でも、自覚したのが最近というだけで、この『想い』はもうずっと昔から僕を形成する根底となっていて、虎君を好きな気持ちは絶対に誰にも負けない自信がある。
自覚してから今日までで何度虎君をより一層好きになったか分からないぐらい、僕は虎君が好きで好きでどうしようもなかった。
だから、たとえ想いが成就しなくても、『大好き』だと伝えたい。僕にとって虎君はこの先もずっと『特別な人』だよって告げたい。
そう、思っていた……。
(もし真剣に告白しても虎君に届かなかったら? ううん、この想いを認めてもらえなかったら? もし虎君が僕の想いを知らないまま他の人と結婚しちゃったら?)
僕は朋喜のように気丈に振る舞えるだろうか?
こんな風に、泣き叫びたい衝動を堪えることができるだろうか……?
(絶対、無理だ……)
僕は朋喜のように強くなれない。みっともないぐらいに泣きじゃくってもう得ることのできない『愛』を求めて取り乱すに決まってる。
そんなよわい僕が、今の朋喜に何を言えるのだろう?
稚拙な僕の上辺だけの言葉なんて、慰めにもならない。ただ黙って朋喜の傍にいることしかできない。
僕はとても無力だった……。
「……ごねんね。いきなりでびっくりしたよね」
俯いたまま鼻を啜る朋喜。やっぱり泣いているようで、心臓が痛くなる。
僕は声を絞り出すように朋喜の名前を呼んだけど、それ以上はやっぱり声が出てこなかった。
「……朋喜って男が好きだったんだな……」
「そー。ごねんね、悠栖。僕、悠栖の大っ嫌いなゲイなんだ」
顔をあげる朋喜の目は潤んでいて、鼻の頭は赤くなっていて、涙が全然耐えれてない。
それでも僕達に気を使わせまいと明るく振る舞うその姿に、もし悠栖が朋喜を傷つける言葉を口にしたら絶対に許さないと思ってしまう。
もちろん悠栖も朋喜のやせ我慢に気づいてるから、僕が懸念したような言葉は言わなかった。
「ごねん……。知らなかったとはいえ俺、かなり酷いこといってた気がする……」
「そうだね。流石に異常者扱いは傷付いたかなぁ?」
「っ、本当にごめんっ」
何度も何度も友達から愛を告げられ、その度に想いを受け入れることができずに友達を失ってきた悠栖は『男は女を好きになるべきだ』って言ってたっけ。そして『男が男を好きになるなんておかしい』とも……。
当時、虎君への想いを自覚していなかった僕ですら嫌な気持ちになったその言葉を、朋喜はどんな気持ちで聞いていたのだろう……。
机に頭をぶつける勢いで謝る悠栖。朋喜は朗らかに笑って、「冗談だよ」って深く息を吐いた。
「悠栖の言ってたことってどう頑張っても今の『普通』なんだし、それから外れてる僕はやっぱり『異常』だと思うしね」
「! そんなことねぇーよ! あの時の俺は荒んでたっていうか、一気に三人も友達無くして冷静じゃなかったっていうか……。と、ともかく! あの言葉は勢いで出ただけで本心なんかじゃーーー」
「勢いで出た言葉って、案外本音だったりするんだよ?」
必死に弁解する悠栖だけど、朋喜の寂しそうな笑顔は消えることはない。
それどころか表情は泣きそうに歪められ、その深い悲しみを物語っていた。
「あーあ。どうせならこんな女顔じゃなくてカッコよく産まれたかったなぁ。そしたら変な期待持たずにすぐに諦められたかもしれないのに!」
わざとらしいほど明るい声で朋喜は笑う。この容姿が疎ましい。って。
昨日までは、女性が好きな人に振り向いてもらえる可能性を秘めた見た目は武器だと思っていたという朋喜。でも、それは間違いだったと今日知った。と。
「冷静に考えたら、女の人の『代わり』なんて不毛なだけだよね。どんなに頑張っても僕は『女の子』にはなれないし、たとえ『代わり』になれても『本物』の女の子相手にかちめなんてあるわけないのにね」
ここでは『女の子みたいに可愛い』って持て囃してくれるから勘違いしちゃった。
そう自嘲をこぼす朋喜はこの空間が特殊なだけだと言って「身の程を知ったよ」なんて悲しい言葉を口にした。
「そもそも全寮制の男子校で『女の子みたいに可愛い』って、つまりは周りに女の子がいないからの『代用品』なだけで、女の子が傍にいたらみんなそっちに行くよね……」
それなのに勘違いしてバカみたい。なんて、そんな言葉が聞こえた気がした。
勘違いをしなければこんなに想いが育ってしまう前に諦められたかもしれないのに。
そんな呟きに、それまで黙って話を聞いていた慶史が口を開いた。「それは無理でしょ」と。
「あはは。本当慶史君は厳しいなぁ……。『もしも』の話が嫌いなのは知ってるけど、今ぐらい優しくしてよ」
「俺は中等部からの付き合いだから朋喜の全部を知ってるわけじゃないけど、でも、朋喜がその人の事『本気』だってことはちゃんと伝わってる。だから、決定打もなしに『諦める』のは無理だって言ってんの」
泣かれるのは困るけど、あからさまな空元気はもっと困る。
そう朋喜を見据える慶史は、きちんと降ってもらわないと『本気』の想いはずっと残ると言ってくる。本気であればあるほど想いは根深く身体を巡っているから、相手からの拒絶なしでそれを消滅させることはできないよ。と。
「一度や二度振られる程度で諦められる想いじゃなかったんでしょ?」
「うん……」
「なら仕方ないよ。だいたい、人間なんて誰しも自分の都合のいいように考えちゃうもんだし、朋喜が可能性とか期待とか持つのは当然の事だし」
だからそうやって自分を卑下するよりもむしろここまで想える『本気』の相手に出会えてよかったって考えよう?
そう言って笑う慶史に朋喜は驚いた顔をして見せるも、くしゃっと泣き笑いのような表情で「今はまだ無理」って軽口を返した。
僕は朋喜のように何年も前から恋心を自覚していたわけじゃない。むしろ想いを自覚して半月も経っていない恋愛初心者だ。
でも、自覚したのが最近というだけで、この『想い』はもうずっと昔から僕を形成する根底となっていて、虎君を好きな気持ちは絶対に誰にも負けない自信がある。
自覚してから今日までで何度虎君をより一層好きになったか分からないぐらい、僕は虎君が好きで好きでどうしようもなかった。
だから、たとえ想いが成就しなくても、『大好き』だと伝えたい。僕にとって虎君はこの先もずっと『特別な人』だよって告げたい。
そう、思っていた……。
(もし真剣に告白しても虎君に届かなかったら? ううん、この想いを認めてもらえなかったら? もし虎君が僕の想いを知らないまま他の人と結婚しちゃったら?)
僕は朋喜のように気丈に振る舞えるだろうか?
こんな風に、泣き叫びたい衝動を堪えることができるだろうか……?
(絶対、無理だ……)
僕は朋喜のように強くなれない。みっともないぐらいに泣きじゃくってもう得ることのできない『愛』を求めて取り乱すに決まってる。
そんなよわい僕が、今の朋喜に何を言えるのだろう?
稚拙な僕の上辺だけの言葉なんて、慰めにもならない。ただ黙って朋喜の傍にいることしかできない。
僕はとても無力だった……。
「……ごねんね。いきなりでびっくりしたよね」
俯いたまま鼻を啜る朋喜。やっぱり泣いているようで、心臓が痛くなる。
僕は声を絞り出すように朋喜の名前を呼んだけど、それ以上はやっぱり声が出てこなかった。
「……朋喜って男が好きだったんだな……」
「そー。ごねんね、悠栖。僕、悠栖の大っ嫌いなゲイなんだ」
顔をあげる朋喜の目は潤んでいて、鼻の頭は赤くなっていて、涙が全然耐えれてない。
それでも僕達に気を使わせまいと明るく振る舞うその姿に、もし悠栖が朋喜を傷つける言葉を口にしたら絶対に許さないと思ってしまう。
もちろん悠栖も朋喜のやせ我慢に気づいてるから、僕が懸念したような言葉は言わなかった。
「ごねん……。知らなかったとはいえ俺、かなり酷いこといってた気がする……」
「そうだね。流石に異常者扱いは傷付いたかなぁ?」
「っ、本当にごめんっ」
何度も何度も友達から愛を告げられ、その度に想いを受け入れることができずに友達を失ってきた悠栖は『男は女を好きになるべきだ』って言ってたっけ。そして『男が男を好きになるなんておかしい』とも……。
当時、虎君への想いを自覚していなかった僕ですら嫌な気持ちになったその言葉を、朋喜はどんな気持ちで聞いていたのだろう……。
机に頭をぶつける勢いで謝る悠栖。朋喜は朗らかに笑って、「冗談だよ」って深く息を吐いた。
「悠栖の言ってたことってどう頑張っても今の『普通』なんだし、それから外れてる僕はやっぱり『異常』だと思うしね」
「! そんなことねぇーよ! あの時の俺は荒んでたっていうか、一気に三人も友達無くして冷静じゃなかったっていうか……。と、ともかく! あの言葉は勢いで出ただけで本心なんかじゃーーー」
「勢いで出た言葉って、案外本音だったりするんだよ?」
必死に弁解する悠栖だけど、朋喜の寂しそうな笑顔は消えることはない。
それどころか表情は泣きそうに歪められ、その深い悲しみを物語っていた。
「あーあ。どうせならこんな女顔じゃなくてカッコよく産まれたかったなぁ。そしたら変な期待持たずにすぐに諦められたかもしれないのに!」
わざとらしいほど明るい声で朋喜は笑う。この容姿が疎ましい。って。
昨日までは、女性が好きな人に振り向いてもらえる可能性を秘めた見た目は武器だと思っていたという朋喜。でも、それは間違いだったと今日知った。と。
「冷静に考えたら、女の人の『代わり』なんて不毛なだけだよね。どんなに頑張っても僕は『女の子』にはなれないし、たとえ『代わり』になれても『本物』の女の子相手にかちめなんてあるわけないのにね」
ここでは『女の子みたいに可愛い』って持て囃してくれるから勘違いしちゃった。
そう自嘲をこぼす朋喜はこの空間が特殊なだけだと言って「身の程を知ったよ」なんて悲しい言葉を口にした。
「そもそも全寮制の男子校で『女の子みたいに可愛い』って、つまりは周りに女の子がいないからの『代用品』なだけで、女の子が傍にいたらみんなそっちに行くよね……」
それなのに勘違いしてバカみたい。なんて、そんな言葉が聞こえた気がした。
勘違いをしなければこんなに想いが育ってしまう前に諦められたかもしれないのに。
そんな呟きに、それまで黙って話を聞いていた慶史が口を開いた。「それは無理でしょ」と。
「あはは。本当慶史君は厳しいなぁ……。『もしも』の話が嫌いなのは知ってるけど、今ぐらい優しくしてよ」
「俺は中等部からの付き合いだから朋喜の全部を知ってるわけじゃないけど、でも、朋喜がその人の事『本気』だってことはちゃんと伝わってる。だから、決定打もなしに『諦める』のは無理だって言ってんの」
泣かれるのは困るけど、あからさまな空元気はもっと困る。
そう朋喜を見据える慶史は、きちんと降ってもらわないと『本気』の想いはずっと残ると言ってくる。本気であればあるほど想いは根深く身体を巡っているから、相手からの拒絶なしでそれを消滅させることはできないよ。と。
「一度や二度振られる程度で諦められる想いじゃなかったんでしょ?」
「うん……」
「なら仕方ないよ。だいたい、人間なんて誰しも自分の都合のいいように考えちゃうもんだし、朋喜が可能性とか期待とか持つのは当然の事だし」
だからそうやって自分を卑下するよりもむしろここまで想える『本気』の相手に出会えてよかったって考えよう?
そう言って笑う慶史に朋喜は驚いた顔をして見せるも、くしゃっと泣き笑いのような表情で「今はまだ無理」って軽口を返した。
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