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特別な人
特別な人 第156話
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虎君が僕の想いに応えてくれるかもしれないって希望を持っても良いのかな?
期待してしまう心がもう止められないとばかりに尋ねたら、三人から返ってくるのは『もちろん』っていう頷き。
まだこの期待に全身を任せるのは怖いけど、でも、信頼できる友達がこう言っているのだから怖がらずに信じようって思えた。
「あ……。来須先輩、来たみたい」
「! 本当っ?」
今でもドキドキしすぎて苦しいのに、虎君が迎えに来てくれたって分かって心臓の鼓動はもっともっと早くなってクラクラしちゃいそう。
逢いたいけど今逢ったらドキドキのあまり気を失ってしまいそうで、思わず「どうしよう!?」って慌ててしまう。
助けをも止めるようにすがり付く僕だけど、慶史と悠栖は何が『どうしよう』なのか分からないと言いたげだ。
「今虎君の顔見たら、ダメな気がするっ……!」
「なんで?」
「むしろ一生見ちゃダメになって欲しいな」
「慶史君! いい加減しつこいよ!」
今虎君の顔を見たら、もしもあの笑顔で笑いかけられたら、僕は平静を保てる自信が全くない。緊張しすぎて気を失うなんて漫画みたいな展開もあり得る気がして、もはやパニック状態。
でも悠栖も慶史もそんな僕の心情が分からないって態度で、思い出した。二人とも誰かを好きになったことがまだなかったんだった。って。
好きすぎるが故の苦しみを理解してもらえない僕は、このままだと虎君と顔を合わせて失神してしまいそうだ。
でもそんな僕に、慶史の悪態を窘めていた朋喜が理解を示してくれる。
「分かるよ、葵君。ドキドキしすぎて今顔を見たら気絶しそうなんだよね?」
「! そうっ! そうなのっ!!」
流石本気で好きな相手がいる朋喜だ。僕の心情を寸分の狂いもなく言い当ててくれる。
好きな人の事で頭が一杯なせいで考えることができない僕は、唯一の理解者に詰め寄ってどうしたらいいか分からないと泣きついてしまう。
でも、「助けて朋喜っ」って抱きついた瞬間、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「葵、お待たせ」
それは僕を、僕達を迎えに来てくれた虎君の声なんだけど、その声すら愛おしくて心が震えてしまう……。
(ダメっ、今振り向いたら絶対倒れるっ)
声だけで心臓が張り裂けそうな程早く脈打ってるこの状況で顔を見ようものなら、僕は本気で死んでしまうかもしれない。
止め処なく溢れてくる『大好き』は虎君の登場でその嵩を増して、僕の思考をいとも簡単に埋め尽くす……。
「ま、葵君、お兄さん、呼んでるよっ」
返事もできず、振り返ることもできず、僕は朋喜にしがみついて身悶えたい衝動を我慢するんだけど、僕を宥めるように背中を叩いてくれていた朋喜は上擦った声を出して僕を引き離そうとした。
「! ヤダっ!!」
「ちょ、『ヤダ』じゃなくて! ああ、違うんです! 葵君は、あの、そのっ、えっと……」
朋喜の手に抗っていっそう強くしがみつく僕。すると朋喜は狼狽えた声で何やら言い訳を始めていた。相手は僕じゃないことは分かったけど、それ以上は考えられなかった。
「先輩。顔、何とかしてくれませんか? 俺の友達が怯えてるんですけど」
「何言ってるんだよ、藤原。まるで俺が脅してるみたいな言い方になってるぞ?」
「『みたい』じゃなくて『そうだ』って言ってるんですよ。分かり辛かったですか?」
棘のある慶史の声の後に聞こえた虎君の声。朋喜にしがみついている僕には虎君の顔は見えていないけど、どんな顔をしているかなんて声を聞いただけで分かってしまう。
苦笑混じりの虎君の顔を思い出して、募るのは愛おしさ。カッコ良さの中にも愛らしさが滲むその笑い顔は、見る者全てを魅了する。
だから、好きが溢れて辛いから虎君と顔を会わせられないと思っていた僕だけど、三人が虎君のその笑顔に心惹かれたりしないか不安を覚えてしまって気がつけば顔をあげて振り返っていた。
「! やっとこっち見た」
僕を見つめて下げられる目尻。こんな風に優しく笑いかけられたら、虎君のこと以外考えられなくなってしまう……。
溢れ続ける『想い』を胸に、好きすぎて苦しくて堪らない。
虎君は笑顔のまま『おいで』と腕を広げる。いや、実際は言葉は無かったんだけど、でも僕には聞こえた気がした。
誘蛾灯に引き寄せられる夏の虫のように、考えるよりも先に足が動く。
僕は朋喜から離れるとそのまま虎君のもとへと歩いて行って、気がつけば導かれるがまま虎君の腕の中に納まっていた。
「……何かあった?」
ぎゅっと抱き締めてくれる腕は力強い。でも、大切に大切に抱き締めてくれていると分かるのは、僕に触れる虎君の優しさ。
僕が意地を張ってしまわないように穏やかな声で尋ねてくる虎君は、「できれば教えて欲しいな」って囁く。無理には聞かないけど、でも葵のことを理解したいな。って。
(ズルいよ……。そんな風に言われたら、ますます好きになっちゃうよ……)
ムードとかタイミングとかそんなの全部すっ飛ばして『大好き』って言っちゃいそうになる。
「葵……?」
告白を必死に我慢していれば、虎君に抱きつく腕に力が籠ってしまっていたみたい。
理由を言わずにすがるように抱きつく僕に、虎君の声には心配そうな音が滲んだ。
(好き……。本当に本当に大好きっ……。僕、虎君の『一番』になりたい……。『特別』に、なりたい……)
抑えようのない、想い。僕はもう『大好き』だと告げずにはいられなかった。
でも―――。
期待してしまう心がもう止められないとばかりに尋ねたら、三人から返ってくるのは『もちろん』っていう頷き。
まだこの期待に全身を任せるのは怖いけど、でも、信頼できる友達がこう言っているのだから怖がらずに信じようって思えた。
「あ……。来須先輩、来たみたい」
「! 本当っ?」
今でもドキドキしすぎて苦しいのに、虎君が迎えに来てくれたって分かって心臓の鼓動はもっともっと早くなってクラクラしちゃいそう。
逢いたいけど今逢ったらドキドキのあまり気を失ってしまいそうで、思わず「どうしよう!?」って慌ててしまう。
助けをも止めるようにすがり付く僕だけど、慶史と悠栖は何が『どうしよう』なのか分からないと言いたげだ。
「今虎君の顔見たら、ダメな気がするっ……!」
「なんで?」
「むしろ一生見ちゃダメになって欲しいな」
「慶史君! いい加減しつこいよ!」
今虎君の顔を見たら、もしもあの笑顔で笑いかけられたら、僕は平静を保てる自信が全くない。緊張しすぎて気を失うなんて漫画みたいな展開もあり得る気がして、もはやパニック状態。
でも悠栖も慶史もそんな僕の心情が分からないって態度で、思い出した。二人とも誰かを好きになったことがまだなかったんだった。って。
好きすぎるが故の苦しみを理解してもらえない僕は、このままだと虎君と顔を合わせて失神してしまいそうだ。
でもそんな僕に、慶史の悪態を窘めていた朋喜が理解を示してくれる。
「分かるよ、葵君。ドキドキしすぎて今顔を見たら気絶しそうなんだよね?」
「! そうっ! そうなのっ!!」
流石本気で好きな相手がいる朋喜だ。僕の心情を寸分の狂いもなく言い当ててくれる。
好きな人の事で頭が一杯なせいで考えることができない僕は、唯一の理解者に詰め寄ってどうしたらいいか分からないと泣きついてしまう。
でも、「助けて朋喜っ」って抱きついた瞬間、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「葵、お待たせ」
それは僕を、僕達を迎えに来てくれた虎君の声なんだけど、その声すら愛おしくて心が震えてしまう……。
(ダメっ、今振り向いたら絶対倒れるっ)
声だけで心臓が張り裂けそうな程早く脈打ってるこの状況で顔を見ようものなら、僕は本気で死んでしまうかもしれない。
止め処なく溢れてくる『大好き』は虎君の登場でその嵩を増して、僕の思考をいとも簡単に埋め尽くす……。
「ま、葵君、お兄さん、呼んでるよっ」
返事もできず、振り返ることもできず、僕は朋喜にしがみついて身悶えたい衝動を我慢するんだけど、僕を宥めるように背中を叩いてくれていた朋喜は上擦った声を出して僕を引き離そうとした。
「! ヤダっ!!」
「ちょ、『ヤダ』じゃなくて! ああ、違うんです! 葵君は、あの、そのっ、えっと……」
朋喜の手に抗っていっそう強くしがみつく僕。すると朋喜は狼狽えた声で何やら言い訳を始めていた。相手は僕じゃないことは分かったけど、それ以上は考えられなかった。
「先輩。顔、何とかしてくれませんか? 俺の友達が怯えてるんですけど」
「何言ってるんだよ、藤原。まるで俺が脅してるみたいな言い方になってるぞ?」
「『みたい』じゃなくて『そうだ』って言ってるんですよ。分かり辛かったですか?」
棘のある慶史の声の後に聞こえた虎君の声。朋喜にしがみついている僕には虎君の顔は見えていないけど、どんな顔をしているかなんて声を聞いただけで分かってしまう。
苦笑混じりの虎君の顔を思い出して、募るのは愛おしさ。カッコ良さの中にも愛らしさが滲むその笑い顔は、見る者全てを魅了する。
だから、好きが溢れて辛いから虎君と顔を会わせられないと思っていた僕だけど、三人が虎君のその笑顔に心惹かれたりしないか不安を覚えてしまって気がつけば顔をあげて振り返っていた。
「! やっとこっち見た」
僕を見つめて下げられる目尻。こんな風に優しく笑いかけられたら、虎君のこと以外考えられなくなってしまう……。
溢れ続ける『想い』を胸に、好きすぎて苦しくて堪らない。
虎君は笑顔のまま『おいで』と腕を広げる。いや、実際は言葉は無かったんだけど、でも僕には聞こえた気がした。
誘蛾灯に引き寄せられる夏の虫のように、考えるよりも先に足が動く。
僕は朋喜から離れるとそのまま虎君のもとへと歩いて行って、気がつけば導かれるがまま虎君の腕の中に納まっていた。
「……何かあった?」
ぎゅっと抱き締めてくれる腕は力強い。でも、大切に大切に抱き締めてくれていると分かるのは、僕に触れる虎君の優しさ。
僕が意地を張ってしまわないように穏やかな声で尋ねてくる虎君は、「できれば教えて欲しいな」って囁く。無理には聞かないけど、でも葵のことを理解したいな。って。
(ズルいよ……。そんな風に言われたら、ますます好きになっちゃうよ……)
ムードとかタイミングとかそんなの全部すっ飛ばして『大好き』って言っちゃいそうになる。
「葵……?」
告白を必死に我慢していれば、虎君に抱きつく腕に力が籠ってしまっていたみたい。
理由を言わずにすがるように抱きつく僕に、虎君の声には心配そうな音が滲んだ。
(好き……。本当に本当に大好きっ……。僕、虎君の『一番』になりたい……。『特別』に、なりたい……)
抑えようのない、想い。僕はもう『大好き』だと告げずにはいられなかった。
でも―――。
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