219 / 552
特別な人
特別な人 第218話
しおりを挟む
「なぁ、マモ起きてるか?」
「大丈夫。寝てるよ」
辛い現実から逃げるように眠り続けていた僕の耳に、よく知った声が届く。
それは悠栖と慶史の声で、僕は夢うつつの中、もう朝なのかと変わらない時の流れを痛感した。
「ちゃんと生きてるか? なぁ、息、してるよな??」
「見た感じ呼吸はしてるみたいだし、本当に眠ってるだけだからそんな泣きそうな声出さないでよ」
「だってっ、だって、マモ、マジで死んじまいそうじゃん……。もうずっと部屋から出てこないし、飯だってほとんど食べてねーし……」
グスッと鼻を啜って涙声で僕が死んでしまうと心配してくれるのは悠栖だった。
そして朋喜は、昨日の夜に持ってきてくれたのに一度もお箸をつけなかった夕食を見たのか、身体も心配になると暗い声を落とした。このまま何も食べない状態が続けば、本当に命の危険が出てくる。と。
「身体が食べ物を受け付けなる前に何とかしてあげないと……」
「! 身体が受け付けなくなるって、それって拒食症じゃねーかよっ」
「うるさい、悠栖。またそうなったわけじゃないんだから騒ぐな。葵が起きちゃうだろ」
朋喜と慶史の神妙な声に悠栖の涙声。
僕はそれらを聞きながら、まだこんな僕の心配をしてくれる三人の優しさを羨ましいと思った。
「ねぇ、茂斗君の方はどうなの?」
「知らない。あいつ、葵の心配ばっかりであっちの状況聞いても全然話にならないんだもん」
「葵君が心配なのは分かるけど、でも―――」
「朋喜、あっちはどうでもいいでしょ。俺達が何とかしたいのは葵なんだから」
眠る僕の傍で慶史と朋喜な小さな言い合いが勃発する。
茂斗に協力を仰ぎたいらしい朋喜と、必要ないと言う慶史。
でも、言い合いは長くは続かなくて、悠栖が涙声で言い争いをしている場合かと二人を止めに入ってきた。
「喧嘩してる暇があったらマモのために一番いい方法探せよっ」
「だから僕はその方法を―――」
「だから! だから、その方法は無理なんだってば」
慶史が声を張り上げ、朋喜の言葉を遮る。
そして声だけでも辛いんだろうと分かる声色で「音信不通なんだよ」って言葉を続けた。
僕は一瞬、慶史の辛そうな声に三人が本気で僕を心配して様子を見に来てくれているのだと思った。
でも、次の言葉に、違うと知った……。
「あの人、今何処にいるか分からないんだよ」
「! ど、どういうこと……?」
「携帯は電源切れてるし、様子を見に家に行ってもずっと留守にしてるみたい」
「い、居留守、居留守使ってるんじゃねーの? 先輩もめちゃくちゃショック受けてたし―――」
「人が居る気配そのものが無いんだよ。電気のメーターも回ってなかったって茂斗、言ってたし……」
「単に何もつけてないからじゃ―――って、真冬に暖房器具無しで過ごすのは考えられないか……」
芝居じみたやり取りは日に日に大袈裟になっていってる。きっと三人は僕が実は目を覚ましていると気づいているんだろう。
部屋から出てこないからって何もそこまでしなくても良いんじゃないかと三人を恨めしく思う僕。
でも、此処で起き上がって三人を非難することは簡単だったけど、僕は敢えて寝たふりを続けた。
何を言われても、何を聞いても、僕は信じないと三人に示すためだ。
「もし、もし先輩が樹海とかで首吊ったりしたらどうす―――」
「冗談にならない冗談言うな。それが一番怖いんだろうが」
「『怖い』って、どうして……?」
「あの人が死ぬのは勝手だけど、その原因を作ったのが自分だって葵が知ったら、どうなると思う?」
「! そ、それは……」
「そうだよ。そんなの、今の比じゃないぐらい傷つくに決まってる。もしかしたら―――ううん、絶対葵は罪の意識に耐えれず壊れちゃう。そんなの、俺は絶対許さないっ」
強い口調の慶史。それはまさに迫真の演技で、内容が内容でなければ、僕は感動を覚えていただろう。
三人はどうやっても僕と虎君をもう一度会わせたいらしい。
三人の気持ちは分からないわけじゃないけど、それでも僕の心を無視したやり方にはどうしても従う気になれなかった。
「だから、あの人には絶対頼らない。僕達が葵を元気にする。今までみたいに笑えるように、俺達が傍で支えるっ」
慶史の言葉に悠栖と朋喜は応えるように返事し、僕のために自分達ができることをしようって約束し合っていた。
「大丈夫。寝てるよ」
辛い現実から逃げるように眠り続けていた僕の耳に、よく知った声が届く。
それは悠栖と慶史の声で、僕は夢うつつの中、もう朝なのかと変わらない時の流れを痛感した。
「ちゃんと生きてるか? なぁ、息、してるよな??」
「見た感じ呼吸はしてるみたいだし、本当に眠ってるだけだからそんな泣きそうな声出さないでよ」
「だってっ、だって、マモ、マジで死んじまいそうじゃん……。もうずっと部屋から出てこないし、飯だってほとんど食べてねーし……」
グスッと鼻を啜って涙声で僕が死んでしまうと心配してくれるのは悠栖だった。
そして朋喜は、昨日の夜に持ってきてくれたのに一度もお箸をつけなかった夕食を見たのか、身体も心配になると暗い声を落とした。このまま何も食べない状態が続けば、本当に命の危険が出てくる。と。
「身体が食べ物を受け付けなる前に何とかしてあげないと……」
「! 身体が受け付けなくなるって、それって拒食症じゃねーかよっ」
「うるさい、悠栖。またそうなったわけじゃないんだから騒ぐな。葵が起きちゃうだろ」
朋喜と慶史の神妙な声に悠栖の涙声。
僕はそれらを聞きながら、まだこんな僕の心配をしてくれる三人の優しさを羨ましいと思った。
「ねぇ、茂斗君の方はどうなの?」
「知らない。あいつ、葵の心配ばっかりであっちの状況聞いても全然話にならないんだもん」
「葵君が心配なのは分かるけど、でも―――」
「朋喜、あっちはどうでもいいでしょ。俺達が何とかしたいのは葵なんだから」
眠る僕の傍で慶史と朋喜な小さな言い合いが勃発する。
茂斗に協力を仰ぎたいらしい朋喜と、必要ないと言う慶史。
でも、言い合いは長くは続かなくて、悠栖が涙声で言い争いをしている場合かと二人を止めに入ってきた。
「喧嘩してる暇があったらマモのために一番いい方法探せよっ」
「だから僕はその方法を―――」
「だから! だから、その方法は無理なんだってば」
慶史が声を張り上げ、朋喜の言葉を遮る。
そして声だけでも辛いんだろうと分かる声色で「音信不通なんだよ」って言葉を続けた。
僕は一瞬、慶史の辛そうな声に三人が本気で僕を心配して様子を見に来てくれているのだと思った。
でも、次の言葉に、違うと知った……。
「あの人、今何処にいるか分からないんだよ」
「! ど、どういうこと……?」
「携帯は電源切れてるし、様子を見に家に行ってもずっと留守にしてるみたい」
「い、居留守、居留守使ってるんじゃねーの? 先輩もめちゃくちゃショック受けてたし―――」
「人が居る気配そのものが無いんだよ。電気のメーターも回ってなかったって茂斗、言ってたし……」
「単に何もつけてないからじゃ―――って、真冬に暖房器具無しで過ごすのは考えられないか……」
芝居じみたやり取りは日に日に大袈裟になっていってる。きっと三人は僕が実は目を覚ましていると気づいているんだろう。
部屋から出てこないからって何もそこまでしなくても良いんじゃないかと三人を恨めしく思う僕。
でも、此処で起き上がって三人を非難することは簡単だったけど、僕は敢えて寝たふりを続けた。
何を言われても、何を聞いても、僕は信じないと三人に示すためだ。
「もし、もし先輩が樹海とかで首吊ったりしたらどうす―――」
「冗談にならない冗談言うな。それが一番怖いんだろうが」
「『怖い』って、どうして……?」
「あの人が死ぬのは勝手だけど、その原因を作ったのが自分だって葵が知ったら、どうなると思う?」
「! そ、それは……」
「そうだよ。そんなの、今の比じゃないぐらい傷つくに決まってる。もしかしたら―――ううん、絶対葵は罪の意識に耐えれず壊れちゃう。そんなの、俺は絶対許さないっ」
強い口調の慶史。それはまさに迫真の演技で、内容が内容でなければ、僕は感動を覚えていただろう。
三人はどうやっても僕と虎君をもう一度会わせたいらしい。
三人の気持ちは分からないわけじゃないけど、それでも僕の心を無視したやり方にはどうしても従う気になれなかった。
「だから、あの人には絶対頼らない。僕達が葵を元気にする。今までみたいに笑えるように、俺達が傍で支えるっ」
慶史の言葉に悠栖と朋喜は応えるように返事し、僕のために自分達ができることをしようって約束し合っていた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる