特別な人

鏡由良

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My Everlasting Dear...

My Everlasting Dear... 第6話

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「おー痛かったぁ……。ミシミシいってたぞ! 頭蓋骨が!」
「自業自得だろうが」
「あれぇ? そんな態度とっていいのかなぁ?」
 こめかみを擦りながら暴力を責めてくる海音を煩いとあしらって立ち去ろうとする虎。背後から聞こえる海音の楽しげな声に、苛立ちがぶり返す。
 だが、虎は振り返って睨むだけで何も言い返さなかった。いや、正しくは言い返せなかった。だ。
「相変わらずすげぇ効果」
 忌々しそうな顔で睨まれたってなんのその。海音は弾む声で笑うとまた虎にまとわりつく。
 周囲は『また怒られるのに……』と海音を心配するのだが、虎は何も言わず海音をまとわりつかせたまま体育館を出て行った。
「あれ? 三澤君、また来須君を怒らせてるの?」
「そー! これから締められに行くところー!」
「あはは。相変わらず仲良いよねぇ。あ、でも顔は死守してね? 三澤君の顔、ちょー好きだから!」
 同じクラスの女の子とすれ違い様にそんな軽口を交わす海音。そのやり取りに一切関わろうとしない虎は海音を放って歩いて行ってしまう。
 海音は「なら顔は死守するね」と女の子に手を振ると、先を歩く虎に走り寄るとまた肩に手を回して圧し掛かった。
「……『絞められる』相手追いかけてくるとか、お前って真性だよな」
「えぇ? 俺はドMじゃねぇーよ? 痛いの嫌だし」
「誰も『ドM』だなんて言ってないぞ。自覚アリの変態野郎が」
「! ひでぇーな。変態に変態って言われるとかめっちゃ変態じゃん」
 海音は虎の言葉に「傷つく」と嘆いて、虎は海音の言葉に「変態とか言うなよ」と笑った。
 虎のその笑い顔に、海音はもう少し人前でも笑えばいいのにと思う。そうすれば周囲から『クール系イケメン』と遠巻きにされることはないだろうに。と。
「虎さぁ、もうちょっと愛想良くできねーの? 中学上がってからめちゃくちゃ『近寄りがたい』って言われてんぞ、お前」
「愛想笑いは嫌いだって知ってるだろうが」
「それは知ってるけど、もう少し協調性身に付けろよ」
 必要最低限でいいから、苦手でも努力はした方がいい。
 そうアドバイスをするものの、海音は言うだけ無駄だと分かっている。虎は他人に全く興味がないから。いや、たった一人にしか興味がないから。
「つーか、いい加減葵離れしたほうがよくねぇ? お前のそのブラコンっぷり、ちょっとやべぇよ?」
「別に『ブラコン』じゃないだろ」
「いやいや、めちゃめちゃブラコンだからな? しかもかなり重度のブラコンだからな?」
 自覚なしとかマジで危ないぞ?
 そう言って心配してくる海音だが、虎は余計な心配だと言葉を聞き入れることができない。いや、海音の反応が『普通』だということは分かっているのだが、それでも無理だ。
「そもそも血は繋がってないし、葵は『弟』じゃない」
「! そんなひでぇこと言うなよ。葵が聞いたら大泣きするぞ」
 海音は、めちゃくちゃ大事にしてるくせに。と苦笑する。虎はその笑い顔に居心地の悪さを覚えた。
 自分達が『弟』と可愛がっている幼馴染こそお前が唯一興味を持っている相手だろ? なんて、そんな言葉が笑い顔から聞こえてきそうだ。
(あぁ、ダメだ。イライラする)
 昔から虎の優先順位は葵が一番で、葵の為なら虎が言葉通りなんでもなってのけると海音は知っている。そしてそんな虎を海音は良い兄貴だと思っている。
 だから海音は先の言葉をただの照れ隠しだと思っているのだろう。虎は信じて疑わない海音に募る苛立ちを何とか抑え、もう一度同じ言葉を口にした。
「だろうな。でも、俺は葵を『弟』だと思ったことはないから仕方ないだろうが」
「それ、マジで言ってんのか?」
 海音の笑い顔が目に見えて引き攣った。しかしそれでも虎は言葉を撤回しなかった。冗談にしなかった。
「い、いやいやいや、騙されないぞ? 騙されないからな? お前めちゃくちゃ葵のこと大事にしてるじゃねーか!」
「大事なんだから当たり前だろうが」
 自分をからかっているんだろうと海音は詰め寄ってくる。あんなに大切にしておいて『弟』じゃないならなんなんだ! と。
(またこのやり取りすんのかよ……)
 ここ数ヶ月、同じようなやり取りを繰り返している気がする。そして回を重ねる毎に海音の慌てっぷりは酷くなり、違うよな? 嘘だよな? と否定の言葉を求められた。
 あまりにも続く同じやり取りに、虎は(限界か……)と海音に気づかれないよう息を吐いた。
「海音、毎度毎度同じ茶番を繰り返して探りを入れてくるのはいい加減止めろ」
「! 別に探りとかそんなんじゃねぇーよ!」
「なら、はっきり聞けよ。俺がはぐらかすと思ってんのか?」
 虎の目は真剣そのもので、虎をよく知る幼馴染みの海音ですら気圧される。海音は虎の『本気』に後退りながらも、『聞いてはいけない』と止める理性を無視して口を開いた。
「お、おまえ、葵のことどう思ってんだよ……」
「愛してる。恋愛対象として葵のことを大事に想ってる」
 怯むことも言い淀むこともなく、虎ははっきりと言いきった。
 その躊躇いのない姿に海音は眩暈を覚え、ふらふらとおぼつかない足で壁にもたれ掛かると「それはダメだろ……」と虎の想いにストップをかけた。
「そんな気は薄々してたけどさぁ……虎、お前自分が何言ってるか分かってんの?」
「お前に言われなくても分かってるさ。男同士だってことも、それ以外のことも」
「いや、絶対分かってねぇーだろ」
 頭痛くなってきた……。と項垂れる海音は、ちゃんと理解していると言いきる虎に何が一番問題か本当に理解しているのか尋ねた。
「同性ってところだろう?」
 海音の質問に答える虎の目は真っ直ぐで、自分も葵も『男』だから海音がそんな反応をするのも無理はないと親友の反応も当然だと甘んじて受け入れているようだ。
 しかし、海音はそうじゃないと膝をつく。
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