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大切な人
大切な人 第15話
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瑛大を傷つけてしまったのは僕と慶史の態度だってことは分かってる。そして僕達は瑛大に許して欲しいと言えないことも分かっている。
だから、こうやって瑛大の態度に傷つくことはお門違いだって理解している。
僕は瑛大が出て行ったリビングのドアを眺め、どうしても話すことができない真実に心を痛めた。
「……大丈夫だよ」
「虎君……?」
僕の手に重なる、虎君の大きな手。
見上げれば優しい笑い顔があって、僕は今の『大丈夫』はどういう意味なのかと首を傾げた。
「瑛大も本当は分かってるから、大丈夫。……ただあいつは図体がでかいだけのガキだから、気持ちに折り合いをつけることが下手くそなんだよ」
「うん……。……虎君、ありがとう……」
瑛大が大人になれば昔のように笑い合えると言ってくれる虎君。
僕は虎君の言葉に『だったらいいな』と思いながら、誰よりも僕のことを分かってくれる虎君に感謝を伝えた。
瑛大だけじゃなくて茂斗や父さん達からの追及を止めてくれた僕の大切な人は、目尻を下げてお礼を言われると後ろめたい気持ちになると笑った。
「? どうして?」
「俺は葵の恋人だから、かな?」
質問に返されるのは疑問形の言葉。
僕は虎君の恋人だけど、それがどうして後ろめたい気持ちになるんだろう?
「虎君、分からないよ?」
「分からないままでいいよ」
虎君の言いたいことが分からない。
そう訴えたら、虎君は秘密を作ってしまう。
僕はそれが悲しくて、教えて欲しいと眉を下げた。
「そんな顔しないで、葵。……仕方ないからヒントをあげるから」
「本当?」
「ああ。ヒントは、『俺には葵だけ』。これでわかる?」
頬っぺたを撫でるように指で擽られ、僕はその指から逃げるように僕は身を捩って虎君の腕にしがみつく。
「虎君、くすぐったいよぉ」
「ごめんごめん。葵の頬っぺた、すべすべで触り心地が良くてつい、な」
目尻を下げて微笑んでくれる虎君の笑みは、愛しげ。
笑い顔だけでも十分愛されてると分かるのに、低く甘い声と優しく触れてくる指は僕以上に虎君に愛されている人は絶対にいないと自信を与えてくれる。
「ねぇ虎君。僕にも虎君だけだからね?」
「知ってる。愛してるよ、葵」
虎君のような深い愛情を返せてはいないけど、それでも僕の一番は虎君だから。
拙いながらも想いを伝えたら、虎君は嬉しいと笑ってくれる。幸せだと、言ってくれる。
その笑顔に僕も幸せな気持ちになる。
そして、何故かその時ぼんやりと虎君が言った『後ろめたい気持ちになる』理由が分かった気がした。
(本当は虎君も知りたいんだろうな……)
瑛大が知りたいように、茂斗達が知りたいように、虎君も知りたいと思ってるんだろう。僕と慶史が共有する『秘密』を。
でも、どうしても言えないと分かっているから無理に尋ねることもせず、僕の気持ちを尊重し、僕を守ってくれているんだ。
(凄いな……。僕、ずっとずっと虎君の愛に守られてるんだ……)
感じるのは、虎君の愛の深さだ。
僕は虎君を見上げ、甘えるように身を摺り寄せる。
「こら、そんな可愛く甘えないでくれよ。離れられなくなるだろ?」
「! うん、そうだよね。……ごめんね?」
困ったような笑い顔も、好き。
僕は半歩離れて謝るも、虎君の腕を放すことはできなくて困った。
「! ちょっと! 俺の目を盗んで何イチャついてんの!!」
「どうどう、落ち着け慶史。虎は俺が預かってやるから」
「さっさと連れて行ってよ! 海音君!」
離れがたいと思っていた僕に気づいた慶史の怒号に海音君の笑い声。
慶史は僕の、海音君は虎君の隣に立つと、二人の息をピッタリに僕達を引き離してしまう。
だから、こうやって瑛大の態度に傷つくことはお門違いだって理解している。
僕は瑛大が出て行ったリビングのドアを眺め、どうしても話すことができない真実に心を痛めた。
「……大丈夫だよ」
「虎君……?」
僕の手に重なる、虎君の大きな手。
見上げれば優しい笑い顔があって、僕は今の『大丈夫』はどういう意味なのかと首を傾げた。
「瑛大も本当は分かってるから、大丈夫。……ただあいつは図体がでかいだけのガキだから、気持ちに折り合いをつけることが下手くそなんだよ」
「うん……。……虎君、ありがとう……」
瑛大が大人になれば昔のように笑い合えると言ってくれる虎君。
僕は虎君の言葉に『だったらいいな』と思いながら、誰よりも僕のことを分かってくれる虎君に感謝を伝えた。
瑛大だけじゃなくて茂斗や父さん達からの追及を止めてくれた僕の大切な人は、目尻を下げてお礼を言われると後ろめたい気持ちになると笑った。
「? どうして?」
「俺は葵の恋人だから、かな?」
質問に返されるのは疑問形の言葉。
僕は虎君の恋人だけど、それがどうして後ろめたい気持ちになるんだろう?
「虎君、分からないよ?」
「分からないままでいいよ」
虎君の言いたいことが分からない。
そう訴えたら、虎君は秘密を作ってしまう。
僕はそれが悲しくて、教えて欲しいと眉を下げた。
「そんな顔しないで、葵。……仕方ないからヒントをあげるから」
「本当?」
「ああ。ヒントは、『俺には葵だけ』。これでわかる?」
頬っぺたを撫でるように指で擽られ、僕はその指から逃げるように僕は身を捩って虎君の腕にしがみつく。
「虎君、くすぐったいよぉ」
「ごめんごめん。葵の頬っぺた、すべすべで触り心地が良くてつい、な」
目尻を下げて微笑んでくれる虎君の笑みは、愛しげ。
笑い顔だけでも十分愛されてると分かるのに、低く甘い声と優しく触れてくる指は僕以上に虎君に愛されている人は絶対にいないと自信を与えてくれる。
「ねぇ虎君。僕にも虎君だけだからね?」
「知ってる。愛してるよ、葵」
虎君のような深い愛情を返せてはいないけど、それでも僕の一番は虎君だから。
拙いながらも想いを伝えたら、虎君は嬉しいと笑ってくれる。幸せだと、言ってくれる。
その笑顔に僕も幸せな気持ちになる。
そして、何故かその時ぼんやりと虎君が言った『後ろめたい気持ちになる』理由が分かった気がした。
(本当は虎君も知りたいんだろうな……)
瑛大が知りたいように、茂斗達が知りたいように、虎君も知りたいと思ってるんだろう。僕と慶史が共有する『秘密』を。
でも、どうしても言えないと分かっているから無理に尋ねることもせず、僕の気持ちを尊重し、僕を守ってくれているんだ。
(凄いな……。僕、ずっとずっと虎君の愛に守られてるんだ……)
感じるのは、虎君の愛の深さだ。
僕は虎君を見上げ、甘えるように身を摺り寄せる。
「こら、そんな可愛く甘えないでくれよ。離れられなくなるだろ?」
「! うん、そうだよね。……ごめんね?」
困ったような笑い顔も、好き。
僕は半歩離れて謝るも、虎君の腕を放すことはできなくて困った。
「! ちょっと! 俺の目を盗んで何イチャついてんの!!」
「どうどう、落ち着け慶史。虎は俺が預かってやるから」
「さっさと連れて行ってよ! 海音君!」
離れがたいと思っていた僕に気づいた慶史の怒号に海音君の笑い声。
慶史は僕の、海音君は虎君の隣に立つと、二人の息をピッタリに僕達を引き離してしまう。
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