特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第15話

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「ゲイというよりもバイじゃない? 女子がいればそっちに行く奴らが大半だろうし」
「あれ? いつもの自信はどうしたの?」
 所詮紛い物は紛い物だよ。
 慶史はそう言うけれど、僕も悠栖も朋喜の言葉に同意見だ。普段の慶史なら自分は女の子に負けたりしないって自信満々だろうに。
 すると慶史は自分の腕を擦り、この美貌もあと数年の命だと遠い目をした。
「え? どうして?」
「最近節々が痛いんだよねぇ……。これ、成長痛だったら最悪だよ」
「? なんで? 背が伸びるんだからいいじゃない!」
 成長痛の兆しすらない僕からすれば慶史のそれはとても羨ましいものだ。それなのに慶史は忌々しいと言わんばかりで、理解に苦しむ。
 僕は背が低いよりも背が高い方が良いと思っているけど、慶史は違うのかな?
「毎晩毎晩悶え苦しむ程痛い思いなんてしたくないんだよ。俺は」
「あー……成長痛って寝れないぐらい痛いらしいよな。サッカー部の連中もみんなげっそりしてるわ」
「えぇ……そんなに痛いの? それは、嫌だな……」
 そう言えば茂斗も身長が急激に伸びた時、毎晩毎晩母さんに痛み止めを求めていたっけ。
 我慢強い双子の片割れが痛みを口にしていたことを思い出して、眠れない程痛いのは僕も嫌だと思った。
「姫神君はどうだったの?」
「俺? 俺は、まぁそれなりに痛かったかな……」
 微妙な面持ちで僕達を見ていた姫神君を会話に誘うのは朋喜。こうやって気遣いができる朋喜はやっぱりすごい。僕も見習わなくちゃ。
 姫神君は当時を思い出して応えてくれるも、やっぱりどこかぎこちない。
 同性同士の恋愛に否定的だと確信した僕は姫神君の戸惑いを理解しながらもちょっぴり悲しい気持ちになってしまった。
「姫神って何センチ?」
「あー……、確か、168だったはず。……なんで睨むんだよ」
「なんでもねぇーよ!」
「ごめんね、姫神君。悠栖、僕達の中で一番背が高いってことが唯一の自慢だったんだ」
「! 『唯一』じゃねーし!」
 朋喜の茶化すような声に噛みつく悠栖に、慶史が「どんぐりの背比べで一番でもな」って鼻で笑う。
 確かに僕達は姫神君ほど身長が高いわけじゃない。悠栖が唯一160センチを超えていたけど、慶史が言った通りよく似た背丈であることは違いない。
 そんな中、僕は一番背が低くて密かにコンプレックスを感じていたりする。
(で、でも、僕と茂斗は双子だし、僕だって伸びるはず!)
 サバを読んで155センチ。本当は153.5センチ。でも、きっとこれから僕も180センチの長身になるはず!
 そう希望を抱いて一人頷いていたら、僕をじっと見つめる複数の視線が。
「な、何……?」
「そんな気にしなくてもマモだってそのうち伸びるから大丈夫だって」
「そうだよ。僕達まだ15歳だもん。これからこれから!」
 だから身長が低いと気にしなくていい。
 そんなことを言いながら慰めてくれる悠栖と朋喜。ああ。やっぱり僕が背が低いことを気にしているってバレバレだったんだ。
「バレバレだよ。身長の話になると葵はすぐ黙っちゃうし」
「だ、だって……。不安なんだもん……」
「『不安』って何が?」
「葵ってお母さん似なんだよねぇ。葵のお母さん、150センチだっけ?」
 不思議そうな声を出す姫神君に応えるためとはいえズバッと心を言い当てる慶史が今ばかりは恨めしい。
 僕はブスッと膨れながら「149センチだよ」と母さんの身長を訂正した。
「親父さんは?」
「188センチ」
「凄い身長差だな。まぁ、親父さんがそれだけ高いなら大丈夫じゃないか?」
「ん……。だったらいいな……」
 純粋に驚く姫神君は、形だけの慰めを掛けてくれる。
 それに愛想笑いを返す僕は、せめて160センチ後半ぐらいまでは身長が伸びて欲しいと切に願う。
「……なぁ、一個聞いていいか?」
 何か思い詰めたような姫神君は静かな声で質問を投げかける。その声が少し震えている気がしたのは、僕だけだろうか?
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