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恋しい人
恋しい人 第23話
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「――っ、いや、俺も、悪かった……。イライラして……」
必死に謝る僕に、那鳥君は一度開いた口を閉ざし、一呼吸置いた後バツが悪そうに頭を掻いて謝ってきた。完全に八つ当たりだった。と言いながら。
「まぁ、外部入学だし、普通はビックリするよな」
「そうだね。僕達にはこれが普通だけど、その『普通』はここ以外では『異常』だもんね」
お互い落ち着けと僕達を宥めてくれるのは悠栖と朋喜で、二人は一番気が立っている慶史に向き直り、「暴力はダメだよ」と、言い聞かせるように注意した。
「分かってるよ。……ごめん、悪かった」
「俺の方こそ……。心にもない暴言だった。止めてくれて助かった……」
ぎこちない謝罪の言葉。ぎこちない感謝の言葉。
二人は気まずそうに視線を逸らし、微妙な空気が伝わってくる。
悠栖と朋喜はどうしたものかと苦笑交じりに肩を竦ませていて、後は任せたと僕を見てきた。
(任せられても、僕に何ができるんだろう)
困りながらも僕は慶史の腕に触れ、横顔を見つめる。
僕が触れたことにぴくっと慶史は反応したけど、手を振りほどかれることはなかった。
僕が触れた意図を知っているのに振りほどかれなかったということは、慶史も姫神君と仲直りしたいってことだ。
そんな解釈をした僕は、僕が何とかしないと! と意気込んだ。悠栖と朋喜に頼られたときは困ったくせに。
「姫神君」
「……なんだ?」
「まだ僕達のこと―――ううん。僕のこと、全然知らないだろうし、どういう人間かも分かってないから判断できないって分かってるけど、言わせて?」
「何をだ?」
続きを促してくる姫神君の顔は訝し気。何を言う気だと警戒すら伺えた。
でも僕は怯まず伝える。そうしなければ始まらないと思ったから。
「僕は、姫神君と友達になりたいって思ってる。姫神君は嫌かもしれないけど、でも、まだ出会って数時間だし、もう少し僕のことを知ってから結論を出して欲しいな」
包み隠さず本心を伝えると、背後で「マモ節炸裂だな」と呆れたような悠栖の声が聞こえた。
悠栖には後から茶化さないでと怒らないと。でも今は姫神君の気持ちを伝える方が先決だから、視線を逸らさずジッと見つめた。
綺麗な瞳は、戸惑っているように揺れている。僕の言葉に困っていることは明らかだった。
(言葉選び、間違えちゃったかな……)
返答がない事に不安を覚え、それが思わず表情に表れてしまう。すると、隣でそれを見ていた慶史が姫神君を急かした。それが答えでいいのかよ? と。
姫神君はまだ何も答えていない。でも、慶史は『答え』が分かったような口ぶりだ。
僕には姫神君から答えを知る術はなかったけど、慶史の口調からは知ることができた。姫神君が僕の問いかけに『NO』と言いたいと思っていたことを。
覚悟はしていたけど、だからといってショックを受けないわけじゃない。それでも姫神君に強要したくないから、僕は頑張って笑顔を作って「無理言ってごめんね」と聞き分けた。
すると、姫神君は慌てて「違う!」と大きな声をあげて詰め寄ってきた。
「何が望みか分からなくて返事できなかっただけで、その、あの……」
「? 僕の望みは、言ったよ? 『姫神君と友達になりたい』って」
「だから、なんで? どうして俺なんかと?」
全然理解できない。
姫神君は困惑しながらも僕に尋ねてきた。メリットなんてないぞ? と。
「『メリット』って……。友達になるのに『メリット』が必要なの……?」
「そ、そうじゃないけど―――」
「深く考えなくても、言葉通り。葵はお前と『友達』になりたいんだよ。損得勘定無しでな。そうだよね?」
「改めて聞かれると困るんだけど……」
「え? まさか下心あるの? 先輩というものがありながら?」
「! ち、違うよ!? 僕が好きなのは虎君であって、姫神君と友達になりたいのは『綺麗でかっこいいな』って思ったからだよ!?」
恋愛感情なんて全くない。どちらかといえば憧れに近い感情だ。
だから誤解しないでと慶史に伝えれば、「はいはい」とあしらわれてしまう。
「慶史っ!」
「ちょっと黙ってな。……葵には裏表なんて存在しない。嘘を吐くことも、隠しごとも苦手。言葉通り、真っ直ぐで素直。だから純粋に姫神と友達になりたいって思ってるって信じてやってくれない?」
本当に本当に虎君だけだからね!?
そう喚く僕の口を慶史は強引に塞ぐと姫神君に「疑っても無駄だ」と伝えた。
姫神君は物凄く驚いた顔で僕を見る。そして気づいた。同性愛に否定的な姫神君に恋人が同性だとバレてしまったと。
(ど、どうしよう……。もう絶対、友達になってくれないよ……)
虎君を好きな気持ちに迷いはない。でも、友達になりたいと思った人に拒絶されるのはやっぱり悲しいし辛い。
必死に謝る僕に、那鳥君は一度開いた口を閉ざし、一呼吸置いた後バツが悪そうに頭を掻いて謝ってきた。完全に八つ当たりだった。と言いながら。
「まぁ、外部入学だし、普通はビックリするよな」
「そうだね。僕達にはこれが普通だけど、その『普通』はここ以外では『異常』だもんね」
お互い落ち着けと僕達を宥めてくれるのは悠栖と朋喜で、二人は一番気が立っている慶史に向き直り、「暴力はダメだよ」と、言い聞かせるように注意した。
「分かってるよ。……ごめん、悪かった」
「俺の方こそ……。心にもない暴言だった。止めてくれて助かった……」
ぎこちない謝罪の言葉。ぎこちない感謝の言葉。
二人は気まずそうに視線を逸らし、微妙な空気が伝わってくる。
悠栖と朋喜はどうしたものかと苦笑交じりに肩を竦ませていて、後は任せたと僕を見てきた。
(任せられても、僕に何ができるんだろう)
困りながらも僕は慶史の腕に触れ、横顔を見つめる。
僕が触れたことにぴくっと慶史は反応したけど、手を振りほどかれることはなかった。
僕が触れた意図を知っているのに振りほどかれなかったということは、慶史も姫神君と仲直りしたいってことだ。
そんな解釈をした僕は、僕が何とかしないと! と意気込んだ。悠栖と朋喜に頼られたときは困ったくせに。
「姫神君」
「……なんだ?」
「まだ僕達のこと―――ううん。僕のこと、全然知らないだろうし、どういう人間かも分かってないから判断できないって分かってるけど、言わせて?」
「何をだ?」
続きを促してくる姫神君の顔は訝し気。何を言う気だと警戒すら伺えた。
でも僕は怯まず伝える。そうしなければ始まらないと思ったから。
「僕は、姫神君と友達になりたいって思ってる。姫神君は嫌かもしれないけど、でも、まだ出会って数時間だし、もう少し僕のことを知ってから結論を出して欲しいな」
包み隠さず本心を伝えると、背後で「マモ節炸裂だな」と呆れたような悠栖の声が聞こえた。
悠栖には後から茶化さないでと怒らないと。でも今は姫神君の気持ちを伝える方が先決だから、視線を逸らさずジッと見つめた。
綺麗な瞳は、戸惑っているように揺れている。僕の言葉に困っていることは明らかだった。
(言葉選び、間違えちゃったかな……)
返答がない事に不安を覚え、それが思わず表情に表れてしまう。すると、隣でそれを見ていた慶史が姫神君を急かした。それが答えでいいのかよ? と。
姫神君はまだ何も答えていない。でも、慶史は『答え』が分かったような口ぶりだ。
僕には姫神君から答えを知る術はなかったけど、慶史の口調からは知ることができた。姫神君が僕の問いかけに『NO』と言いたいと思っていたことを。
覚悟はしていたけど、だからといってショックを受けないわけじゃない。それでも姫神君に強要したくないから、僕は頑張って笑顔を作って「無理言ってごめんね」と聞き分けた。
すると、姫神君は慌てて「違う!」と大きな声をあげて詰め寄ってきた。
「何が望みか分からなくて返事できなかっただけで、その、あの……」
「? 僕の望みは、言ったよ? 『姫神君と友達になりたい』って」
「だから、なんで? どうして俺なんかと?」
全然理解できない。
姫神君は困惑しながらも僕に尋ねてきた。メリットなんてないぞ? と。
「『メリット』って……。友達になるのに『メリット』が必要なの……?」
「そ、そうじゃないけど―――」
「深く考えなくても、言葉通り。葵はお前と『友達』になりたいんだよ。損得勘定無しでな。そうだよね?」
「改めて聞かれると困るんだけど……」
「え? まさか下心あるの? 先輩というものがありながら?」
「! ち、違うよ!? 僕が好きなのは虎君であって、姫神君と友達になりたいのは『綺麗でかっこいいな』って思ったからだよ!?」
恋愛感情なんて全くない。どちらかといえば憧れに近い感情だ。
だから誤解しないでと慶史に伝えれば、「はいはい」とあしらわれてしまう。
「慶史っ!」
「ちょっと黙ってな。……葵には裏表なんて存在しない。嘘を吐くことも、隠しごとも苦手。言葉通り、真っ直ぐで素直。だから純粋に姫神と友達になりたいって思ってるって信じてやってくれない?」
本当に本当に虎君だけだからね!?
そう喚く僕の口を慶史は強引に塞ぐと姫神君に「疑っても無駄だ」と伝えた。
姫神君は物凄く驚いた顔で僕を見る。そして気づいた。同性愛に否定的な姫神君に恋人が同性だとバレてしまったと。
(ど、どうしよう……。もう絶対、友達になってくれないよ……)
虎君を好きな気持ちに迷いはない。でも、友達になりたいと思った人に拒絶されるのはやっぱり悲しいし辛い。
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