特別な人

鏡由良

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恋しい人

恋しい人 第38話

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 触れるだけのキスを何度も何度も繰り返してしまう僕達。
 ダメだと分かっていたけど、キスを止められない。深いキスがしたくなるのにそんなに時間はかからなかった。
「虎君……」
「ん。これで終わり」
 これ以上はダメだと伝えようとしたら、言葉に出さなくても分かってくれる虎君。最後にチュッと音がするようキスをして、キスの代わりに額を小突き合わせて笑い合う。
 とても幸せで、僕は虎君に夢中だ。
「愛してるよ……」
「僕も……」
 どうしてもキスがしたくなってしまって、自分がこんなに堪え性がないとは思わなかった。
 それでも我慢して抱き着けば、虎君から逆効果だと笑われてしまった。
「離れたくないよぉ……」
「そんな可愛い事言わないでくれよ。……色々吹っ飛ぶだろ?」
 離れるように促されてもイヤイヤと我儘を言う僕。
 虎君はそれでも半ば強引に僕から離れると、ベッドの際に座って深呼吸を繰り返していた。
「何してるの?」
「んー……。暴走しかけてるものを鎮めてる……」
 引っ付こうとしたら、ダメだぞと釘を刺される。鎮まるものも鎮まらないだろう? って。
 一瞬何のことを言っているか分からなかったけど、僕を見ないその姿に、昂った体躯を鎮めているのだと理解できた。
 僕は反射的に自分の下肢に視線を落とす。そこは僅かな隆起を見せていて、カッと顔が熱くなった。
(ぼ、僕もなんとかしないと……)
 二次性徴を遂げた身体は定期的に欲を吐き出さないとダメみたいで、僕はあれから何度も夢精により下着を汚していた。
 下着を汚す度にこっそり洗っていたわけだけど、その時に何度か鉢合わせた茂斗からは自分で処理しろと呆れられた。毎度下着を汚すなんてバカバカしい。と。
 茂斗の言っていることは尤もだと思う。でも、どうしても自分で触ることができなくて、結果溜まった欲はエッチな夢と共に吐き出されていた。
 つまり、毎回自然に吐き出されることを待っていた僕はこんな風に熱くなった体躯をどうしたらいいか分からないのだ。
(どうしよ……、熱を冷まさないとダメなのに……)
 どうすればいいか考えていたはずなのに、気が付けば欲を吐き出す際に見ていたエッチな夢を思い出していて、熱は冷めるどころか篭るばかりだ。
 だって、見ていた夢にいつも出てきた人が、今目の前にいるんだもん……。
(思い出しちゃダメっ! 本当、思い出すなっ!)
 夢の中で虎君が僕を見つめる眼差しを思い出し、胸がドキドキする。
 夢の中で虎君が僕に触れる手を思い出し、身体が切なくなる……。
 熱が上がってゆくのを感じて、下肢の不自然な隆起が更に盛り上がる。
(ど、どうしよっ……どうしようぅ……)
 思い出しちゃダメだと必死に煩悩を振り払うも、逆効果。
 僕は軽くパニックに陥って、助けを求め虎君の背中に手を伸ばしてしまった。
「! どうした?」
「虎君、助けて……」
 羞恥に涙が混み上がってくるも必死に我慢して震える声で懇願する。熱が引かないから何とかして。と。
 虎君は振り返り、驚き、僕の異変を察したのか苦し気に顔を歪めた。
「ちょ、葵、煽らないでくれっ」
「ちがっ、煽ってないもん」
 視線を逸らす虎君に、僕は話を聞いてと腕にしがみついてしまう。
 昂る熱を逃がせなくて辛いと訴える僕に、虎君は耳まで顔を赤くし、頼むから離れてくれと僕を拒絶した。
「っ―――、トイレ行ってこいっ」
 助けてくれるまで離れないと食い下がると、欲を吐き出してくるよう言われてしまう。それができるなら何も苦労しないのに!
 僕を見ないように顔を背ける虎君に、僕は恥ずかしくて死にそうだと思いながらも訴えた。できないから困ってる。と。
「自分でした事ないからできないのっ」
「! えっ……」
 必死な訴えが通じたのか、虎君は漸く僕を見てくれる。でもその目に浮かぶのは僅かな戸惑いと、確かな怒りだった。
「『自分でしたことない』って、今までどうしてたんだ……?」
 虎君の声のトーンが一層低くなって、押し殺したような怒りを感じる。けど僕は虎君がどうしてこんな風に怒っているのか理解できない。
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