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恋しい人
恋しい人 第49話
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「え? あの人に話してないの?」
休み時間に慶史に誘われ購買に飲み物を買いに来た僕は、昨日虎君と過ごしたちょっぴり大人な時間について洗いざらい喋らされた。
恥ずかしさのあまりついつい八つ当たりのように貰ったメッセージのせいで虎君に心配をかけてしまったと愚痴を零したら、慶史は目を丸くしてとても驚いた顔をして見せた。
貰った言葉に僕は頬を膨らませ、不機嫌を露わにする。僕はお喋りじゃないよ。と。
「ごめんごめん。俺はてっきり話してると思ってたからちょっとびっくりしちゃって」
「だから、僕はお喋りじゃないってば。人の秘密を勝手に他の人に喋ったりしないからね?」
自動販売機でお茶を買ってペットボトルを取り出しながら心外だと膨れ面を見せれば、慶史は自販機横の壁にもたれかかり、もう一度ごめんと謝ってきた。
僕は苦笑いを浮かべる慶史の隣に立つと、話していた方が良かったのかと意地悪を口にしてしまう。当然、慶史から返ってくるのはそんなわけないという言葉。
「でしょ? 僕にだって慶史が秘密にしたいかどうかぐらい分かるんだからね」
「ごめんってば。葵がお喋りだとかそう言う意味で驚いたんじゃないからそんな風に怒らないでよ」
「嘘だ。今のはそういう意味だったでしょ」
「嘘じゃないって。だってさ、あの人が黙ってないでしょ? 俺のこと敵視してるんだし、教えろって言われなかった?」
尋ねられた言葉に、僕は慶史の意地悪だと思って眉を顰めてしまう。
虎君は確かに知りたいと思ってる。本人もそう言っていたし、それは間違いない。でも、知りたいという欲を僕のために我慢してくれている。僕のことを信じて、見守ってくれている。
そんな虎君の優しさに唾を吐きかけられたような気がして、いくら慶史相手でも不快感を感じてしまったのだ。
「言ったでしょ。虎君は僕のことを信じてくれているから、何も聞かないでいてくれるだけだよ」
「ふーん……。でも、内心面白くないって思ってるんじゃない? あの人、葵のことで知らないことがあるとか凄く嫌がりそうだし。相手、俺だし」
「それは慶史がそんな風に虎君を敵視するからでしょ」
「いや、先に敵視してきたのはあの人だからな」
初対面からずっと敵視されていたら誰だって相手を敵視するだろ?
そう尋ねられ、僕は言葉に詰まる。虎君が慶史を敵視していたことは海音君だけじゃなくて茂斗からも教えられたことだから。
僕は肩を竦ます慶史に不貞腐れながらも「ごめん」と謝る。そもそも慶史が敵視された理由は僕にあるから。
「なんで葵が謝るの」
「だって、虎君が慶史に辛く当たってたのは僕のせいだから……」
「違うから。あれはあの人の問題。葵は関係ない」
「違わないよ。僕がもっと早く虎君への気持ちに気づいていたら、虎君に不安な想いなんてさせなかったはずでしょ?」
「いやいやいや。違うから。本当、違うから。もし葵が俺と知り合う前からあの人と付き合っていたとしても、あの人は俺のことを敵視してたから。絶対」
そもそも敵視っていうか嫉妬だからね? 付き合ってても嫉妬はするでしょ?
慶史の問いかけに僕は買ったばかりのペットボトルの蓋を開け、反論できない悔しさに突き出した唇にそれを付ける。
その無言を同意と解釈した慶史は、「だからね」と話を続けた。
「好きな相手がライバルと仲良く秘密を共有してたら、顔は笑顔でも腹の中は醜い嫉妬でドロドロに決まってるよ。葵はそんなことない? たとえば、あの人が桔梗姉と秘密を共有してて自分には教えてくれなかったら嫌な気持ちにならない?」
「そ、れは……」
「『それは』?」
「……なる。凄く、いやだ……」
虎君と姉さんはそういう関係になることはないって信じてる。けど、信じていても嫌なものは嫌だ。
僕は、僕と慶史、そして虎君の今の関係を虎君と姉さんと僕に置き換えて考え、物凄く苦しくなってしまう。
すると慶史はそんな僕を見越してか、「いいよ」と声のトーンを落として呟いた。
「? 何が?」
「先輩に話していいよ、ってこと」
「何を?」
「俺が義理の父親にレイプされて脅されてること」
慶史がいつも通りのトーンで事も無げに話すから、一瞬僕の聞き間違いかと思った。
でも慶史を見れば、慶史は正面を見据え何処か遠くを眺めていて、薄く笑っていた。その笑い顔は普段のそれとは違って、自分自身に対する嘲笑のようだった。
「慶史……?」
「ずっと秘密にさせててごめんね。本当、もっと早く言ってあげればよかったよね?」
何言ってるの? って聞こうとしたら、笑ったままの慶史は瞳を伏せ、「恋人に黙ったままとか辛いでしょ?」と僕を気遣ってくれる。
でも、僕は僕を見ないその態度に慶史の本心は別にあると分かってしまう。
(ごめん、慶史)
これは秘密を虎君に話すからの謝罪じゃない。不用意な発言で慶史にとって思い出したくない過去を蒸し返してしまったことへの謝罪だ。
確かに虎君に秘密を持つのは凄く辛いし後ろめたい。でも、これは僕の問題。
僕の問題のために慶史の気持ちをないがしろにはしたくない。絶対に。
休み時間に慶史に誘われ購買に飲み物を買いに来た僕は、昨日虎君と過ごしたちょっぴり大人な時間について洗いざらい喋らされた。
恥ずかしさのあまりついつい八つ当たりのように貰ったメッセージのせいで虎君に心配をかけてしまったと愚痴を零したら、慶史は目を丸くしてとても驚いた顔をして見せた。
貰った言葉に僕は頬を膨らませ、不機嫌を露わにする。僕はお喋りじゃないよ。と。
「ごめんごめん。俺はてっきり話してると思ってたからちょっとびっくりしちゃって」
「だから、僕はお喋りじゃないってば。人の秘密を勝手に他の人に喋ったりしないからね?」
自動販売機でお茶を買ってペットボトルを取り出しながら心外だと膨れ面を見せれば、慶史は自販機横の壁にもたれかかり、もう一度ごめんと謝ってきた。
僕は苦笑いを浮かべる慶史の隣に立つと、話していた方が良かったのかと意地悪を口にしてしまう。当然、慶史から返ってくるのはそんなわけないという言葉。
「でしょ? 僕にだって慶史が秘密にしたいかどうかぐらい分かるんだからね」
「ごめんってば。葵がお喋りだとかそう言う意味で驚いたんじゃないからそんな風に怒らないでよ」
「嘘だ。今のはそういう意味だったでしょ」
「嘘じゃないって。だってさ、あの人が黙ってないでしょ? 俺のこと敵視してるんだし、教えろって言われなかった?」
尋ねられた言葉に、僕は慶史の意地悪だと思って眉を顰めてしまう。
虎君は確かに知りたいと思ってる。本人もそう言っていたし、それは間違いない。でも、知りたいという欲を僕のために我慢してくれている。僕のことを信じて、見守ってくれている。
そんな虎君の優しさに唾を吐きかけられたような気がして、いくら慶史相手でも不快感を感じてしまったのだ。
「言ったでしょ。虎君は僕のことを信じてくれているから、何も聞かないでいてくれるだけだよ」
「ふーん……。でも、内心面白くないって思ってるんじゃない? あの人、葵のことで知らないことがあるとか凄く嫌がりそうだし。相手、俺だし」
「それは慶史がそんな風に虎君を敵視するからでしょ」
「いや、先に敵視してきたのはあの人だからな」
初対面からずっと敵視されていたら誰だって相手を敵視するだろ?
そう尋ねられ、僕は言葉に詰まる。虎君が慶史を敵視していたことは海音君だけじゃなくて茂斗からも教えられたことだから。
僕は肩を竦ます慶史に不貞腐れながらも「ごめん」と謝る。そもそも慶史が敵視された理由は僕にあるから。
「なんで葵が謝るの」
「だって、虎君が慶史に辛く当たってたのは僕のせいだから……」
「違うから。あれはあの人の問題。葵は関係ない」
「違わないよ。僕がもっと早く虎君への気持ちに気づいていたら、虎君に不安な想いなんてさせなかったはずでしょ?」
「いやいやいや。違うから。本当、違うから。もし葵が俺と知り合う前からあの人と付き合っていたとしても、あの人は俺のことを敵視してたから。絶対」
そもそも敵視っていうか嫉妬だからね? 付き合ってても嫉妬はするでしょ?
慶史の問いかけに僕は買ったばかりのペットボトルの蓋を開け、反論できない悔しさに突き出した唇にそれを付ける。
その無言を同意と解釈した慶史は、「だからね」と話を続けた。
「好きな相手がライバルと仲良く秘密を共有してたら、顔は笑顔でも腹の中は醜い嫉妬でドロドロに決まってるよ。葵はそんなことない? たとえば、あの人が桔梗姉と秘密を共有してて自分には教えてくれなかったら嫌な気持ちにならない?」
「そ、れは……」
「『それは』?」
「……なる。凄く、いやだ……」
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僕は、僕と慶史、そして虎君の今の関係を虎君と姉さんと僕に置き換えて考え、物凄く苦しくなってしまう。
すると慶史はそんな僕を見越してか、「いいよ」と声のトーンを落として呟いた。
「? 何が?」
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「何を?」
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(ごめん、慶史)
これは秘密を虎君に話すからの謝罪じゃない。不用意な発言で慶史にとって思い出したくない過去を蒸し返してしまったことへの謝罪だ。
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