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恋しい人
恋しい人 第83話
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「今食べたいのはベリーベリ―パンケーキなんだろ? なら、サクラパンケーキはテイクアウトしよう」
「! いいの?」
「もちろん。でも葵の分だけ買って帰ると桔梗が煩いし、めのうちゃんも拗ねるだろうから、2人の分も追加で選んでくれる?」
サクラパンケーキは僕の分。それとは別に姉さんとめのうへのお土産も選んでと言ってくる虎君に、僕は優しいねと笑った。
ちょっぴりヤキモチを妬いちゃったけど、でも本当にちょっとだけだから見逃して欲しい。
「『優しい』って言われると、後ろめたいな。これは賄賂だから」
「えぇ? 『賄賂』なの?」
「賄賂だよ。葵との時間を邪魔しないでくれっていう意味と茂斗のご機嫌取りを頼むって言う意味の」
美味いものを与えて置けば桔梗も黙るだろう? なんて、虎君がおどけて言うから僕もつられて笑ってしまう。
僕はそういう事なら姉さんが喜ぶパンケーキを選ばないとともう一度メニューに目を落とす。
「あ、樹里斗さんも甘いもの好きだっけ? もし好きなら樹里斗さんの分も」
「父さん以外は甘いもの大好きだよ? 虎君も知ってるでしょ?」
母さんだけじゃなくて茂斗も顔に似合わず甘いものが大好き。幼馴染だし知ってるよね? と尋ねれば、虎君は「そうだったっけ?」と意外そうな顔をして見せた。まるで初耳だと言わんばかりに。
「そうだよ。茂斗はホールケーキも一人で食べるぐらい甘党だよ」
きっと僕以上に甘いものが大好きだと思う。
そう言葉を続ければ、虎君は苦笑交じりに「覚えとくよ」と笑った。
「もう、忘れてたの? 茂斗が拗ねちゃうよ?」
「はは。ごめんごめん。煩く言われない限り覚えてなかったからな。次からは気を付けるよ」
葵に関係していないことはあんまり覚えてなかったからなぁ。
そんな爆弾発言を落としてから茂斗の分も選んでと言われたら、メニューよりも虎君を見てしまうのは仕方ないと思う。
「ん? どうした?」
「『どうした』って……、もう! 虎君のバカ!」
「ははは。俺は『葵馬鹿』だから間違ってないな」
顔を真っ赤にして狼狽える僕の心なんてお見通し。虎君は楽しげに笑いながら僕の頬っぺたを撫でると、「俺の愛は重いって言っただろ?」なんて目を細めた。
虎君にとって一番大事なことは僕のことを置いて他にない。それはもう十分伝わっていたと思っていたけど、どうやらまだ認識が甘かったみたい。
虎君は言葉通り、僕のためだけに生きているのかもしれない。なんて、そんな錯覚を覚えてしまうぐらい虎君の愛は一途に僕に注がれていた。
(どうしよ……、すごく、すっごく嬉しぃ……)
貰った大きな愛に心は素直に喜びを感じる。僕は姉さん達のお土産を選ばないとと思いながらも抱き着きたくてソワソワしてしまう。
すると虎君は僕の肩を抱き寄せると「葵の食べたいものを選んでいいよ」って耳元で囁いてくる。これ、絶対分かってやってる!
僕は赤い顔で虎君を睨んだ。意地悪しないでよ! と。
「こら。そんな可愛い顔しちゃダメだろ? 俺だけが見れる顔なんだから」
「ならそんな風に意地悪しないでよっ。僕が甘えただって、知ってるでしょ?」
そんな風に愛を囁かれたら甘えたくならないわけないでしょ!
これは僕のせいじゃないからね?! なんて訴えたら、虎君は笑いながらごめんごめんと謝ってくれる。
「ほら、そんな可愛く怒ってないで桔梗達の分を選んで?」
「分かった……」
虎君の囁く声は低くて身体の奥底に響いて、心を蕩けさせる。
僕はトロンと蕩けた思考のまま虎君に身体を預け、メニュー表に視線を落とした。
「……これと、これと、あと、これ」
「あと一個」
「んー……、じゃ、これ」
甘えれば肩を抱き寄せられ、甘えた声を出せば愛しげに微笑まれる。
虎君は周囲の目など気にせず僕の髪にチュッとキスを落とすと店員さんを呼んで注文を伝えた。その間も僕の肩を抱いたままの虎君。僕はその愛に身を任せて夢見心地。
あんなに気にしていた周囲の声も今は全く聞こえなくて、全てが虎君一色だ。
(『恋』って凄い……。虎君のこと以外何も考えられなくなっちゃう……)
注文を復唱して確認した店員さんが立ち去った後、虎君は僕に頭を預けるように身体を預けてくれて、本当に幸せ。
「今幸せ……?」
「うん。凄く幸せ……」
尋ねられて頷く僕。すると虎君はよかったって安堵の息を吐いた。
まるで気がかりなことが解決したようなその雰囲気に僕は違和感を感じて「どうしたの?」と思わず心配が零れてしまった。
「! いいの?」
「もちろん。でも葵の分だけ買って帰ると桔梗が煩いし、めのうちゃんも拗ねるだろうから、2人の分も追加で選んでくれる?」
サクラパンケーキは僕の分。それとは別に姉さんとめのうへのお土産も選んでと言ってくる虎君に、僕は優しいねと笑った。
ちょっぴりヤキモチを妬いちゃったけど、でも本当にちょっとだけだから見逃して欲しい。
「『優しい』って言われると、後ろめたいな。これは賄賂だから」
「えぇ? 『賄賂』なの?」
「賄賂だよ。葵との時間を邪魔しないでくれっていう意味と茂斗のご機嫌取りを頼むって言う意味の」
美味いものを与えて置けば桔梗も黙るだろう? なんて、虎君がおどけて言うから僕もつられて笑ってしまう。
僕はそういう事なら姉さんが喜ぶパンケーキを選ばないとともう一度メニューに目を落とす。
「あ、樹里斗さんも甘いもの好きだっけ? もし好きなら樹里斗さんの分も」
「父さん以外は甘いもの大好きだよ? 虎君も知ってるでしょ?」
母さんだけじゃなくて茂斗も顔に似合わず甘いものが大好き。幼馴染だし知ってるよね? と尋ねれば、虎君は「そうだったっけ?」と意外そうな顔をして見せた。まるで初耳だと言わんばかりに。
「そうだよ。茂斗はホールケーキも一人で食べるぐらい甘党だよ」
きっと僕以上に甘いものが大好きだと思う。
そう言葉を続ければ、虎君は苦笑交じりに「覚えとくよ」と笑った。
「もう、忘れてたの? 茂斗が拗ねちゃうよ?」
「はは。ごめんごめん。煩く言われない限り覚えてなかったからな。次からは気を付けるよ」
葵に関係していないことはあんまり覚えてなかったからなぁ。
そんな爆弾発言を落としてから茂斗の分も選んでと言われたら、メニューよりも虎君を見てしまうのは仕方ないと思う。
「ん? どうした?」
「『どうした』って……、もう! 虎君のバカ!」
「ははは。俺は『葵馬鹿』だから間違ってないな」
顔を真っ赤にして狼狽える僕の心なんてお見通し。虎君は楽しげに笑いながら僕の頬っぺたを撫でると、「俺の愛は重いって言っただろ?」なんて目を細めた。
虎君にとって一番大事なことは僕のことを置いて他にない。それはもう十分伝わっていたと思っていたけど、どうやらまだ認識が甘かったみたい。
虎君は言葉通り、僕のためだけに生きているのかもしれない。なんて、そんな錯覚を覚えてしまうぐらい虎君の愛は一途に僕に注がれていた。
(どうしよ……、すごく、すっごく嬉しぃ……)
貰った大きな愛に心は素直に喜びを感じる。僕は姉さん達のお土産を選ばないとと思いながらも抱き着きたくてソワソワしてしまう。
すると虎君は僕の肩を抱き寄せると「葵の食べたいものを選んでいいよ」って耳元で囁いてくる。これ、絶対分かってやってる!
僕は赤い顔で虎君を睨んだ。意地悪しないでよ! と。
「こら。そんな可愛い顔しちゃダメだろ? 俺だけが見れる顔なんだから」
「ならそんな風に意地悪しないでよっ。僕が甘えただって、知ってるでしょ?」
そんな風に愛を囁かれたら甘えたくならないわけないでしょ!
これは僕のせいじゃないからね?! なんて訴えたら、虎君は笑いながらごめんごめんと謝ってくれる。
「ほら、そんな可愛く怒ってないで桔梗達の分を選んで?」
「分かった……」
虎君の囁く声は低くて身体の奥底に響いて、心を蕩けさせる。
僕はトロンと蕩けた思考のまま虎君に身体を預け、メニュー表に視線を落とした。
「……これと、これと、あと、これ」
「あと一個」
「んー……、じゃ、これ」
甘えれば肩を抱き寄せられ、甘えた声を出せば愛しげに微笑まれる。
虎君は周囲の目など気にせず僕の髪にチュッとキスを落とすと店員さんを呼んで注文を伝えた。その間も僕の肩を抱いたままの虎君。僕はその愛に身を任せて夢見心地。
あんなに気にしていた周囲の声も今は全く聞こえなくて、全てが虎君一色だ。
(『恋』って凄い……。虎君のこと以外何も考えられなくなっちゃう……)
注文を復唱して確認した店員さんが立ち去った後、虎君は僕に頭を預けるように身体を預けてくれて、本当に幸せ。
「今幸せ……?」
「うん。凄く幸せ……」
尋ねられて頷く僕。すると虎君はよかったって安堵の息を吐いた。
まるで気がかりなことが解決したようなその雰囲気に僕は違和感を感じて「どうしたの?」と思わず心配が零れてしまった。
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