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恋しい人
恋しい人 第107話
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「と、虎君……?」
「そういう可愛い顔は俺にしか見せちゃダメだって言っただろ?」
顔をぎゅっと胸に押し当てられ、息苦しい。だからできるなら顔を上げたいって思うんだけど、でも今僕は虎君を恋しく想っているから、今度は自分からぎゅっと虎君の胸元に顔を埋めた。
(可愛いかどうかは分からないけど、虎君にしか見せたくない……)
たぶん……、ううん、絶対、虎君に夢中だと言葉が要らないぐらい恋に浮かされた顔をしてる気がする。
ぎゅーっとしがみつく僕の髪を撫でる虎君の手はいつもと変わらず優しい。それが愛しくて僕の顔はまだしばらく戻りそうになかった。
「ねぇ、とら、ちゃいにぃ、どうしちゃったの? おばけ、こわいの?」
「? なんで『お化け』?」
「この前ママがホラー映画を知らずに見ちゃったのよ」
めのうの言葉に虎君は不思議そうな声を上げ、姉さんがそれに答えるんだけど全然話が繋がっていない気がする。
でも、僕はもちろん、虎君も僕達の『家族』だからちゃんと伝わる。虎君は「あぁ、なるほど……」と納得の声を漏らしたから。
「樹里斗さん、ホラー系まったくダメだもんな」
「そ。一回見ると一週間は怖がるでしょ? ただの風の音にも物凄くびっくりして、悲鳴上げてパパにしがみついちゃうのよね」
まさに今の葵みたいな感じ。
そう笑う姉さん。僕は怖いからしがみついてるわけじゃないんだけど!
「とら、ちゃいにぃちゃんとよしよしして! こわいのないよって、ぎゅーってして!」
「! 大丈夫だよ、葵。俺がお化けなんて追い払ってやるから」
「虎君っ」
もう! めのうに合わせなくていいってば!
流石にこれは居た堪れなくて顔を上げる僕。すると虎君は悪戯に笑って僕を見下ろしていて、ちょっぴり拗ねてしまいそうになった。
「ちゃいにぃ、もうこわいのない?」
「! ……もう怖くないよ。心配かけてごめんね?」
怖がってたわけじゃないって否定しようと思ったけど、否定した後めのうに違うならどうして虎君に抱き着いていたんだと聞かれたら返答に困る。流石に10歳も年の離れた妹に『虎君が大好きだからだよ』って惚気るのは兄としてどうかと思ったから。
「……その顔やめてよ」
「うるせぇ。見せつけといて文句言うな」
恨めしそうな茂斗の視線に気づいてジトっと睨めば、茂斗からは恨み言のような泣き言のような声が返ってきた。でも、テーブルに突っ伏して「なぎぃ……」って呟く双子の兄の姿に僕はそれ以上何も言えず、小さく息を吐いた。
「めのうもなぎちゃん、あいたい……」
「! ああ、めのう、泣かないで」
「うぇ……なぎちゃー……」
朗らかだっためのうの表情が一変、大好きな凪ちゃんが恋しいのか泣きべそをかいてしまった。姉さんが慌ててあやすもめのうはぐずりだして……。
すると、オロオロする姉さんはめのうをあやすためにとんでもない約束を口にしてしまう。
「海音君にお願いして明日凪ちゃんに帰って来てもらうから、ね?」
「! おい、それは流石に無責任だろ」
「だ、だって!」
「やだぁ! なぎちゃん、なぎちゃー」
「なぎぃ」
忘れていた恋しさを思い出しためのうは本気で泣き出すし、めのうの泣き声につられてか茂斗の恋しさもピークを迎えてどんよりとした雰囲気を醸し出しているし、まるでカオスだ。
姉さんと僕はオロオロして、虎君も困った顔をして頭を掻いている。そんな中、視界の端でいつもと変わらぬ様子の陽琥さんの姿。それにはある意味感心を覚えた。
「めのう、どうしたの?」
「! ママ、助けて! めのうが泣き止まないぃ」
リビングに響くめのうの泣き声に困り果てていた僕達。するとそこに漸く母さんと父さんが戻ってきた。
母さんはリビングに響き渡るめのうの泣き声に驚きながらもすぐに状況を察したのか、姉さんの腕の中泣きじゃくるめのうにおいでと優しい笑顔で手を広げてみせる。
めのうは泣きべそをかきながらも母さんの腕に移動して、「なぎちゃ……」と頼りない声で泣き続けた。
「凪ちゃんに会いたいの?」
「うん……めのう、なぎちゃん、あいたいぃ……」
可愛い顔を歪め、大粒の涙を碧い目からボロボロ零して凪ちゃんに会いたいと零すめのう。
大切な妹のその様子に心が痛くなった僕は虎君を見上げ、海音君にお願いできないかな……? と姉さんと同じく無茶なお願いを口にしていた。
「んー……、流石にこれはなぁ……」
困った顔を見せる虎君。でもそれは当然のことだろう。
海音君に頼んでも凪ちゃんがこの週末家に帰って来れるか分からないし、そもそも凪ちゃんには凪ちゃんの都合があるだろうから、こんな一方的なお願いは海音君にも凪ちゃんにも迷惑をかけるだけだ。
僕は母さんの腕の中、凪ちゃんを恋しがって泣く妹に何もしてあげられないのかと歯痒く思いながらもその金色の髪を撫でてあやしてやる。
「そういう可愛い顔は俺にしか見せちゃダメだって言っただろ?」
顔をぎゅっと胸に押し当てられ、息苦しい。だからできるなら顔を上げたいって思うんだけど、でも今僕は虎君を恋しく想っているから、今度は自分からぎゅっと虎君の胸元に顔を埋めた。
(可愛いかどうかは分からないけど、虎君にしか見せたくない……)
たぶん……、ううん、絶対、虎君に夢中だと言葉が要らないぐらい恋に浮かされた顔をしてる気がする。
ぎゅーっとしがみつく僕の髪を撫でる虎君の手はいつもと変わらず優しい。それが愛しくて僕の顔はまだしばらく戻りそうになかった。
「ねぇ、とら、ちゃいにぃ、どうしちゃったの? おばけ、こわいの?」
「? なんで『お化け』?」
「この前ママがホラー映画を知らずに見ちゃったのよ」
めのうの言葉に虎君は不思議そうな声を上げ、姉さんがそれに答えるんだけど全然話が繋がっていない気がする。
でも、僕はもちろん、虎君も僕達の『家族』だからちゃんと伝わる。虎君は「あぁ、なるほど……」と納得の声を漏らしたから。
「樹里斗さん、ホラー系まったくダメだもんな」
「そ。一回見ると一週間は怖がるでしょ? ただの風の音にも物凄くびっくりして、悲鳴上げてパパにしがみついちゃうのよね」
まさに今の葵みたいな感じ。
そう笑う姉さん。僕は怖いからしがみついてるわけじゃないんだけど!
「とら、ちゃいにぃちゃんとよしよしして! こわいのないよって、ぎゅーってして!」
「! 大丈夫だよ、葵。俺がお化けなんて追い払ってやるから」
「虎君っ」
もう! めのうに合わせなくていいってば!
流石にこれは居た堪れなくて顔を上げる僕。すると虎君は悪戯に笑って僕を見下ろしていて、ちょっぴり拗ねてしまいそうになった。
「ちゃいにぃ、もうこわいのない?」
「! ……もう怖くないよ。心配かけてごめんね?」
怖がってたわけじゃないって否定しようと思ったけど、否定した後めのうに違うならどうして虎君に抱き着いていたんだと聞かれたら返答に困る。流石に10歳も年の離れた妹に『虎君が大好きだからだよ』って惚気るのは兄としてどうかと思ったから。
「……その顔やめてよ」
「うるせぇ。見せつけといて文句言うな」
恨めしそうな茂斗の視線に気づいてジトっと睨めば、茂斗からは恨み言のような泣き言のような声が返ってきた。でも、テーブルに突っ伏して「なぎぃ……」って呟く双子の兄の姿に僕はそれ以上何も言えず、小さく息を吐いた。
「めのうもなぎちゃん、あいたい……」
「! ああ、めのう、泣かないで」
「うぇ……なぎちゃー……」
朗らかだっためのうの表情が一変、大好きな凪ちゃんが恋しいのか泣きべそをかいてしまった。姉さんが慌ててあやすもめのうはぐずりだして……。
すると、オロオロする姉さんはめのうをあやすためにとんでもない約束を口にしてしまう。
「海音君にお願いして明日凪ちゃんに帰って来てもらうから、ね?」
「! おい、それは流石に無責任だろ」
「だ、だって!」
「やだぁ! なぎちゃん、なぎちゃー」
「なぎぃ」
忘れていた恋しさを思い出しためのうは本気で泣き出すし、めのうの泣き声につられてか茂斗の恋しさもピークを迎えてどんよりとした雰囲気を醸し出しているし、まるでカオスだ。
姉さんと僕はオロオロして、虎君も困った顔をして頭を掻いている。そんな中、視界の端でいつもと変わらぬ様子の陽琥さんの姿。それにはある意味感心を覚えた。
「めのう、どうしたの?」
「! ママ、助けて! めのうが泣き止まないぃ」
リビングに響くめのうの泣き声に困り果てていた僕達。するとそこに漸く母さんと父さんが戻ってきた。
母さんはリビングに響き渡るめのうの泣き声に驚きながらもすぐに状況を察したのか、姉さんの腕の中泣きじゃくるめのうにおいでと優しい笑顔で手を広げてみせる。
めのうは泣きべそをかきながらも母さんの腕に移動して、「なぎちゃ……」と頼りない声で泣き続けた。
「凪ちゃんに会いたいの?」
「うん……めのう、なぎちゃん、あいたいぃ……」
可愛い顔を歪め、大粒の涙を碧い目からボロボロ零して凪ちゃんに会いたいと零すめのう。
大切な妹のその様子に心が痛くなった僕は虎君を見上げ、海音君にお願いできないかな……? と姉さんと同じく無茶なお願いを口にしていた。
「んー……、流石にこれはなぁ……」
困った顔を見せる虎君。でもそれは当然のことだろう。
海音君に頼んでも凪ちゃんがこの週末家に帰って来れるか分からないし、そもそも凪ちゃんには凪ちゃんの都合があるだろうから、こんな一方的なお願いは海音君にも凪ちゃんにも迷惑をかけるだけだ。
僕は母さんの腕の中、凪ちゃんを恋しがって泣く妹に何もしてあげられないのかと歯痒く思いながらもその金色の髪を撫でてあやしてやる。
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