448 / 552
初めての人
初めての人 第6話
しおりを挟む
「正直、朝一に葵の寝顔は破壊力がヤバくて……」
「僕、そんな変な顔してるの?」
「凄く可愛い顔してるんだよ。本当、何度寝込みを襲いそうになったか……」
襲う寸前で思いとどまって、それでも燻る熱を発散するために走りに出る。
それが週末の朝のルーティンだと苦笑する虎君は、幸せ過ぎる悩みだと言った。
その言葉を聞きながら、僕はむしろ襲って欲しかったと思ってしまう。だって、早く虎君と身も心も結ばれたいって思ってるんだから。
自分の魅力が足りないことは棚に上げて理性的すぎる虎君を不満げに見つめれば、虎君は今度は困ったように笑った。
「そんな目で見ないでくれよ。俺だって葵を抱きたいのをめちゃくちゃ我慢してるんだから」
「なんでそんなに我慢するの? 僕、平気だよ?」
「葵はそういうけど、俺は怖いよ。そんな細い腰で耐えられるのかとか考えて、最悪な想像しか出てこないし」
どれほど優しくしても体格の差はどうしようもないから、ただただ怖い。
何が怖いのか分かっていない僕に気づいたのか、虎君は少し力を籠めたら折れそうだからって言ってくる。
僕は虎君が冗談を言っているのかと思った。だって、確かに僕は虎君に比べれば凄く小柄になると思うけど、同年代の男の子に比べたらちょっと小柄って程度で華奢とかそういう感じでは全くないからだ。
「僕、女の子じゃないよ? そりゃ虎君みたいに体つきはしっかりしてないけど、それでも男だし―――」
「男とか女とか、そういう話じゃないよ。ただ好きな子を大切にしたいってだけ。……俺は葵を大切にしたいから、たとえ愛し合うためでも痛い思いなんてさせたくない」
「虎君……」
こんなにも大事にしてもらえてる。それはとても嬉しいこと。でも、嬉しい反面、もどかしさも覚えてしまう。
(確かに最初は痛かったけど、今は痛いっていうより―――)
僕が痛い思いをしないようにって気遣ってくれている虎君。だけど、確かに最初こそ痛かったけど、今は触ってもらうと堪らなく気持ちよくて、もっと深く愛し合いたいと思ってしまうぐらいなんだから求めて欲しいと思ってしまうぐらいなんだから関係を進めて欲しいと思ってしまう。
きっとそれを口にすれば、虎君は受け入れてくれるだろう。それが一番早い解決方法だってことは僕も分かってる。
けど、愛し合いたいと願うことはできても、気持ちいいからもっと……と強請ることは恥ずかしくてどうしてもできなかった……。
「我慢させてごめんな」
「! ううん。……虎君も我慢してくれてるんだよね?」
「めちゃくちゃ我慢してるって言ってるだろ?」
「なら、僕ももう少し我慢する」
恥ずかしさを覚えながらもはにかめば、虎君も「もう少しだけ、な」と微笑んでくれた。
(早く虎君と愛し合いたい……)
ここ最近ずっとそればかり考えてる。それは他の人からすると恥ずかしい事かもしれない。
でも、愛してる人と深く繋がりたいと願う気持ちは恥ずかしいものじゃないって思うから、僕は恥ずかしさよりも恋しさを募らせるんだ。
「そう言えば、さっき携帯が鳴ってたよ」
「ありがとう。朝から誰だろ?」
「藤原からだった。あ……。ごめん。茂さん達からだったら急ぎの用かもしれないからって思って……」
マナー違反だと分かりながらも相手を確認したと言う虎君は、勝手に携帯を見てごめんと謝ってくる。ディスプレイを見ただけなのにそんな風に謝らなくてもいいのに。
僕はそんな虎君に笑いながら気にしてないと言って、慶史から電話がかかって来るとか珍しいと言葉を続けた。
「そんな気を使わなくても醜い嫉妬は隠しとくよ」
「気なんて使ってないよ」
「俺が知ってるだけでもこの休み中、藤原から5回は電話きてただろ?」
それなのに珍しいとか取り繕わなくてもいい。
そう苦笑する虎君に僕はちょっぴり驚いてしまった。だって、慶史から電話があったと伝えたことはなかったはずだから。
「凄い。どうして分かったの?」
「5回は俺が戻ってきた時に不自然に電話切った回数。その後、ご機嫌取りしてきただろ? まぁ、可愛く甘えてくれるのは嬉しかったけど」
「! ご機嫌取りじゃないよ!? 毎回慶史が意地悪なこと言ってくるから、だから虎君に甘えたくなるだけだもん!」
「『意地悪なこと』って?」
「それは―――。……言わないとダメ?」
何を言われたんだと尋ねられ、答えに困る僕。こんなことを言われたら余計に気になるって分かってたけど、出来れば言いたくないからついつい聞いてしまう。
虎君から返ってくるのは「言いたくないなら別にいいよ」って言葉。でもそれは、『言わなくていい』と言う言葉通りの意味ではなくて……。
「でも、次藤原に会った時に嫉妬丸出しで態度が悪かったらごめんな?」
満面の笑みで、「俺は心が狭いから」なんてヤキモチを露わにされる。
僕はそれに隠すことを諦め、小さく息を吐いて虎君に話してなかった親友達の変化を伝えることにした。
「僕、そんな変な顔してるの?」
「凄く可愛い顔してるんだよ。本当、何度寝込みを襲いそうになったか……」
襲う寸前で思いとどまって、それでも燻る熱を発散するために走りに出る。
それが週末の朝のルーティンだと苦笑する虎君は、幸せ過ぎる悩みだと言った。
その言葉を聞きながら、僕はむしろ襲って欲しかったと思ってしまう。だって、早く虎君と身も心も結ばれたいって思ってるんだから。
自分の魅力が足りないことは棚に上げて理性的すぎる虎君を不満げに見つめれば、虎君は今度は困ったように笑った。
「そんな目で見ないでくれよ。俺だって葵を抱きたいのをめちゃくちゃ我慢してるんだから」
「なんでそんなに我慢するの? 僕、平気だよ?」
「葵はそういうけど、俺は怖いよ。そんな細い腰で耐えられるのかとか考えて、最悪な想像しか出てこないし」
どれほど優しくしても体格の差はどうしようもないから、ただただ怖い。
何が怖いのか分かっていない僕に気づいたのか、虎君は少し力を籠めたら折れそうだからって言ってくる。
僕は虎君が冗談を言っているのかと思った。だって、確かに僕は虎君に比べれば凄く小柄になると思うけど、同年代の男の子に比べたらちょっと小柄って程度で華奢とかそういう感じでは全くないからだ。
「僕、女の子じゃないよ? そりゃ虎君みたいに体つきはしっかりしてないけど、それでも男だし―――」
「男とか女とか、そういう話じゃないよ。ただ好きな子を大切にしたいってだけ。……俺は葵を大切にしたいから、たとえ愛し合うためでも痛い思いなんてさせたくない」
「虎君……」
こんなにも大事にしてもらえてる。それはとても嬉しいこと。でも、嬉しい反面、もどかしさも覚えてしまう。
(確かに最初は痛かったけど、今は痛いっていうより―――)
僕が痛い思いをしないようにって気遣ってくれている虎君。だけど、確かに最初こそ痛かったけど、今は触ってもらうと堪らなく気持ちよくて、もっと深く愛し合いたいと思ってしまうぐらいなんだから求めて欲しいと思ってしまうぐらいなんだから関係を進めて欲しいと思ってしまう。
きっとそれを口にすれば、虎君は受け入れてくれるだろう。それが一番早い解決方法だってことは僕も分かってる。
けど、愛し合いたいと願うことはできても、気持ちいいからもっと……と強請ることは恥ずかしくてどうしてもできなかった……。
「我慢させてごめんな」
「! ううん。……虎君も我慢してくれてるんだよね?」
「めちゃくちゃ我慢してるって言ってるだろ?」
「なら、僕ももう少し我慢する」
恥ずかしさを覚えながらもはにかめば、虎君も「もう少しだけ、な」と微笑んでくれた。
(早く虎君と愛し合いたい……)
ここ最近ずっとそればかり考えてる。それは他の人からすると恥ずかしい事かもしれない。
でも、愛してる人と深く繋がりたいと願う気持ちは恥ずかしいものじゃないって思うから、僕は恥ずかしさよりも恋しさを募らせるんだ。
「そう言えば、さっき携帯が鳴ってたよ」
「ありがとう。朝から誰だろ?」
「藤原からだった。あ……。ごめん。茂さん達からだったら急ぎの用かもしれないからって思って……」
マナー違反だと分かりながらも相手を確認したと言う虎君は、勝手に携帯を見てごめんと謝ってくる。ディスプレイを見ただけなのにそんな風に謝らなくてもいいのに。
僕はそんな虎君に笑いながら気にしてないと言って、慶史から電話がかかって来るとか珍しいと言葉を続けた。
「そんな気を使わなくても醜い嫉妬は隠しとくよ」
「気なんて使ってないよ」
「俺が知ってるだけでもこの休み中、藤原から5回は電話きてただろ?」
それなのに珍しいとか取り繕わなくてもいい。
そう苦笑する虎君に僕はちょっぴり驚いてしまった。だって、慶史から電話があったと伝えたことはなかったはずだから。
「凄い。どうして分かったの?」
「5回は俺が戻ってきた時に不自然に電話切った回数。その後、ご機嫌取りしてきただろ? まぁ、可愛く甘えてくれるのは嬉しかったけど」
「! ご機嫌取りじゃないよ!? 毎回慶史が意地悪なこと言ってくるから、だから虎君に甘えたくなるだけだもん!」
「『意地悪なこと』って?」
「それは―――。……言わないとダメ?」
何を言われたんだと尋ねられ、答えに困る僕。こんなことを言われたら余計に気になるって分かってたけど、出来れば言いたくないからついつい聞いてしまう。
虎君から返ってくるのは「言いたくないなら別にいいよ」って言葉。でもそれは、『言わなくていい』と言う言葉通りの意味ではなくて……。
「でも、次藤原に会った時に嫉妬丸出しで態度が悪かったらごめんな?」
満面の笑みで、「俺は心が狭いから」なんてヤキモチを露わにされる。
僕はそれに隠すことを諦め、小さく息を吐いて虎君に話してなかった親友達の変化を伝えることにした。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる