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初めての人
初めての人 第42話
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「慶史、ご―――、っ、慶史は、いつも僕の知らない世界を教えてくれるね……」
「葵……。ありがと……」
自分の言葉が無意識に慶史を傷つけていた。きっと僕が思うよりもずっと苦しんでいただろう親友にできることは何もない。
沢山苦しい思いをさせてしまったことを謝るべきかもしれない。でもそれは慶史を『可哀想な友人』にしてしまいそうで言葉を噤んだ。
慶史は『可哀想』じゃない。『憐れ』でもない。
慶史は『大切な人』を守るために苦しさを受け止めることが出来る『強さ』と『優しさ』を持つ僕の最高の親友なんだ。
だから僕は自分の無知を恥じても、慶史に許しを求めてはいけない。僕が謝れば慶史は必ず許してくれると分かっているからだ。
(『謝って楽になるのは自分だけ』。そうだよね、姉さん)
本当に申し訳ないと思うなら、相手に許して欲しいと願うなら、『謝罪の言葉』を口にするよりも『行動』で示すしかない。
いつか姉さんが言っていた言葉を思い出した僕は、まさにその通りだと今実感した。
慶史は僕の肩に顔を埋め、「なんで俺、葵を好きになれないんだろ……」と涙声を零す。
僕はその言葉に込みあがってくる熱いものを耐え、「酷いな。僕のこと、嫌いなの?」と軽口を返した。慶史が言う『好き』と僕が言う『好き』の意味が違うと知りながら。
「葵のこと好きになれたら、堂々と先輩から葵を奪えるのに」
そうすれば全部丸く収まるのに。
そんな軽口を零し笑う慶史の声は朗らか。でも、頭はまだ僕肩に預けられたまま。
「そのためには僕も慶史のこと好きにならないとダメじゃない?」
「ちょっと。その言い方傷つくんだけど」
「だってもし慶史が僕のこと好きになっても僕が虎君のこと好きなままだと、無理でしょ?」
「『奪う』方法は1つじゃないだろ」
「! そんなことできないくせに」
相手の意思を無視した愛情は暴力だと知っている慶史が、僕と虎君を引き離すような真似ができるわけない。
その慶史らしからぬ言葉は、気まずさを隠すためのものだろう。
僕は慶史の柔らかくて触り心地の良い髪を撫でながら笑い、「大好きだよ」と親愛を伝える。
「……先輩よりも?」
「友達としてなら、虎君よりも大好きだよ」
「なら、恋人としては?」
「恋人としての『好き』は虎君だけだから1番も2番もないかな?」
「だよね。知ってた」
僕の答えに慶史は顔を上げ、笑う。とても綺麗で、それでいてとても穏やかな表情で。
「俺も葵が大好きだよ」
「うん。知ってる」
僕達は手を繋ぎ、額を小突き合わせてお互いの幸せを願い約束する。これから先何があろうとも変わらぬ友情を。
「……俺がまた暴走したら、ちゃんと止めてくれる?」
「もちろん。……でも、そのためにはちゃんと話してね?」
「ん。分かった」
知らないことを知る。それは容易じゃない。だって、自分が何を知らないか気づくことが出来ないことの方が多いから。
だから、僕が無知なままでいないよう、慶史が教えて欲しい。
そう望めば、慶史は僕には隠さず話すと約束してくれた。
「寮の前で待ってるって先輩に連絡して?」
「! でも―――」
「先輩を迎えに来るまで俺も一緒に待つから、その間に話すよ」
たった数分で約束を破ったりしないよ。
そう苦笑を漏らす慶史に、僕は分かったと頷き鞄から携帯を取り出した。
言われた通り寮の前まで迎えに来て欲しいとメッセージを送った後、僕は玄関に向かう慶史の隣を肩を並べて歩いた。
「……変だと思わない?」
「何が?」
「俺に絡んでくる奴、いないでしょ?」
階段を下りながら振られた問いかけに首を傾げる僕。すると慶史は「千景君効果だよ」と苦笑を漏らした。
「ちーちゃん効果?」
「那鳥が言ってた『先輩たちに迷惑かけた』って話の弊害のこと」
なんとなくその話だろうとは思っていたけど、どうしてちーちゃんが関係するのか分からず僕は頭に大量発生するクエッションマークのまま物凄く間抜けな顔をしてしまう。
「葵……。ありがと……」
自分の言葉が無意識に慶史を傷つけていた。きっと僕が思うよりもずっと苦しんでいただろう親友にできることは何もない。
沢山苦しい思いをさせてしまったことを謝るべきかもしれない。でもそれは慶史を『可哀想な友人』にしてしまいそうで言葉を噤んだ。
慶史は『可哀想』じゃない。『憐れ』でもない。
慶史は『大切な人』を守るために苦しさを受け止めることが出来る『強さ』と『優しさ』を持つ僕の最高の親友なんだ。
だから僕は自分の無知を恥じても、慶史に許しを求めてはいけない。僕が謝れば慶史は必ず許してくれると分かっているからだ。
(『謝って楽になるのは自分だけ』。そうだよね、姉さん)
本当に申し訳ないと思うなら、相手に許して欲しいと願うなら、『謝罪の言葉』を口にするよりも『行動』で示すしかない。
いつか姉さんが言っていた言葉を思い出した僕は、まさにその通りだと今実感した。
慶史は僕の肩に顔を埋め、「なんで俺、葵を好きになれないんだろ……」と涙声を零す。
僕はその言葉に込みあがってくる熱いものを耐え、「酷いな。僕のこと、嫌いなの?」と軽口を返した。慶史が言う『好き』と僕が言う『好き』の意味が違うと知りながら。
「葵のこと好きになれたら、堂々と先輩から葵を奪えるのに」
そうすれば全部丸く収まるのに。
そんな軽口を零し笑う慶史の声は朗らか。でも、頭はまだ僕肩に預けられたまま。
「そのためには僕も慶史のこと好きにならないとダメじゃない?」
「ちょっと。その言い方傷つくんだけど」
「だってもし慶史が僕のこと好きになっても僕が虎君のこと好きなままだと、無理でしょ?」
「『奪う』方法は1つじゃないだろ」
「! そんなことできないくせに」
相手の意思を無視した愛情は暴力だと知っている慶史が、僕と虎君を引き離すような真似ができるわけない。
その慶史らしからぬ言葉は、気まずさを隠すためのものだろう。
僕は慶史の柔らかくて触り心地の良い髪を撫でながら笑い、「大好きだよ」と親愛を伝える。
「……先輩よりも?」
「友達としてなら、虎君よりも大好きだよ」
「なら、恋人としては?」
「恋人としての『好き』は虎君だけだから1番も2番もないかな?」
「だよね。知ってた」
僕の答えに慶史は顔を上げ、笑う。とても綺麗で、それでいてとても穏やかな表情で。
「俺も葵が大好きだよ」
「うん。知ってる」
僕達は手を繋ぎ、額を小突き合わせてお互いの幸せを願い約束する。これから先何があろうとも変わらぬ友情を。
「……俺がまた暴走したら、ちゃんと止めてくれる?」
「もちろん。……でも、そのためにはちゃんと話してね?」
「ん。分かった」
知らないことを知る。それは容易じゃない。だって、自分が何を知らないか気づくことが出来ないことの方が多いから。
だから、僕が無知なままでいないよう、慶史が教えて欲しい。
そう望めば、慶史は僕には隠さず話すと約束してくれた。
「寮の前で待ってるって先輩に連絡して?」
「! でも―――」
「先輩を迎えに来るまで俺も一緒に待つから、その間に話すよ」
たった数分で約束を破ったりしないよ。
そう苦笑を漏らす慶史に、僕は分かったと頷き鞄から携帯を取り出した。
言われた通り寮の前まで迎えに来て欲しいとメッセージを送った後、僕は玄関に向かう慶史の隣を肩を並べて歩いた。
「……変だと思わない?」
「何が?」
「俺に絡んでくる奴、いないでしょ?」
階段を下りながら振られた問いかけに首を傾げる僕。すると慶史は「千景君効果だよ」と苦笑を漏らした。
「ちーちゃん効果?」
「那鳥が言ってた『先輩たちに迷惑かけた』って話の弊害のこと」
なんとなくその話だろうとは思っていたけど、どうしてちーちゃんが関係するのか分からず僕は頭に大量発生するクエッションマークのまま物凄く間抜けな顔をしてしまう。
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