特別な人

鏡由良

文字の大きさ
484 / 552
初めての人

初めての人 第42話

しおりを挟む
「慶史、ご―――、っ、慶史は、いつも僕の知らない世界を教えてくれるね……」
「葵……。ありがと……」
 自分の言葉が無意識に慶史を傷つけていた。きっと僕が思うよりもずっと苦しんでいただろう親友にできることは何もない。
 沢山苦しい思いをさせてしまったことを謝るべきかもしれない。でもそれは慶史を『可哀想な友人』にしてしまいそうで言葉を噤んだ。
 慶史は『可哀想』じゃない。『憐れ』でもない。
 慶史は『大切な人』を守るために苦しさを受け止めることが出来る『強さ』と『優しさ』を持つ僕の最高の親友なんだ。
 だから僕は自分の無知を恥じても、慶史に許しを求めてはいけない。僕が謝れば慶史は必ず許してくれると分かっているからだ。
(『謝って楽になるのは自分だけ』。そうだよね、姉さん)
 本当に申し訳ないと思うなら、相手に許して欲しいと願うなら、『謝罪の言葉』を口にするよりも『行動』で示すしかない。
 いつか姉さんが言っていた言葉を思い出した僕は、まさにその通りだと今実感した。
 慶史は僕の肩に顔を埋め、「なんで俺、葵を好きになれないんだろ……」と涙声を零す。
 僕はその言葉に込みあがってくる熱いものを耐え、「酷いな。僕のこと、嫌いなの?」と軽口を返した。慶史が言う『好き』と僕が言う『好き』の意味が違うと知りながら。
「葵のこと好きになれたら、堂々と先輩から葵を奪えるのに」
 そうすれば全部丸く収まるのに。
 そんな軽口を零し笑う慶史の声は朗らか。でも、頭はまだ僕肩に預けられたまま。
「そのためには僕も慶史のこと好きにならないとダメじゃない?」
「ちょっと。その言い方傷つくんだけど」
「だってもし慶史が僕のこと好きになっても僕が虎君のこと好きなままだと、無理でしょ?」
「『奪う』方法は1つじゃないだろ」
「! そんなことできないくせに」
 相手の意思を無視した愛情は暴力だと知っている慶史が、僕と虎君を引き離すような真似ができるわけない。
 その慶史らしからぬ言葉は、気まずさを隠すためのものだろう。
 僕は慶史の柔らかくて触り心地の良い髪を撫でながら笑い、「大好きだよ」と親愛を伝える。
「……先輩よりも?」
「友達としてなら、虎君よりも大好きだよ」
「なら、恋人としては?」
「恋人としての『好き』は虎君だけだから1番も2番もないかな?」
「だよね。知ってた」
 僕の答えに慶史は顔を上げ、笑う。とても綺麗で、それでいてとても穏やかな表情で。
「俺も葵が大好きだよ」
「うん。知ってる」
 僕達は手を繋ぎ、額を小突き合わせてお互いの幸せを願い約束する。これから先何があろうとも変わらぬ友情を。
「……俺がまた暴走したら、ちゃんと止めてくれる?」
「もちろん。……でも、そのためにはちゃんと話してね?」
「ん。分かった」
 知らないことを知る。それは容易じゃない。だって、自分が何を知らないか気づくことが出来ないことの方が多いから。
 だから、僕が無知なままでいないよう、慶史が教えて欲しい。
 そう望めば、慶史は僕には隠さず話すと約束してくれた。
「寮の前で待ってるって先輩に連絡して?」
「! でも―――」
「先輩を迎えに来るまで俺も一緒に待つから、その間に話すよ」
 たった数分で約束を破ったりしないよ。
 そう苦笑を漏らす慶史に、僕は分かったと頷き鞄から携帯を取り出した。
 言われた通り寮の前まで迎えに来て欲しいとメッセージを送った後、僕は玄関に向かう慶史の隣を肩を並べて歩いた。
「……変だと思わない?」
「何が?」
「俺に絡んでくる奴、いないでしょ?」
 階段を下りながら振られた問いかけに首を傾げる僕。すると慶史は「千景君効果だよ」と苦笑を漏らした。
「ちーちゃん効果?」
「那鳥が言ってた『先輩たちに迷惑かけた』って話の弊害のこと」
 なんとなくその話だろうとは思っていたけど、どうしてちーちゃんが関係するのか分からず僕は頭に大量発生するクエッションマークのまま物凄く間抜けな顔をしてしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...