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初めての人
初めての人 第44話
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「虎君、待たせてごめんね」
無意識に駆け寄る僕に向けられるのは優しい笑顔。そして、迎え入れる様に広げられる腕に、そのまま抱きついてしまう。
「お喋りは楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
優しく抱きしめてくれる虎君の甘く低い声に答えながら頬を摺り寄せれば、愛し気に髪を撫でられて安心するのにドキドキしちゃう。
「藤原、わざわざ見送りをしてくれてありがとうな」
「いえいえ。俺の大事な親友のためですから」
「はは。頼りになる親友のおかげで俺の葵が毎日平穏無事に過ごせてるんだ。感謝ぐらいさせてくれないかな?」
「やだなぁ。先輩が俺に感謝するなんて、照れるじゃないですか」
一見すると仲睦まじいやり取り。でも、二人の声色に滲む刺々しさがひしひしと伝わってきて僕は二人の名前を呼んで喧嘩をしないで欲しいと訴えた。
「喧嘩なんてしてないだろ?」
「そうだよ。俺も先輩もそんな子供じゃないよ」
僕を見下ろす虎君の眼差しは優しいし、笑顔を見せる慶史も無理をしている雰囲気はない。
でも、今までを考えると疑ってしまうのは当然だ。
(僕がこうやって虎君に甘えるのがダメなんだよね)
慶史が虎君を敵視する理由はさっき教えてもらった。それなのに物の数分で慶史の目の前でこんな風に虎君に甘えるなんて配慮に欠けると言われても仕方ない。
僕は慶史が嫌な思いをしないよう抱き着いていた腕を放し、虎君から離れた。
でもその行動は虎君からすれば不可解なものに映ったのだろう。虎君は離れようとする僕を抱き寄せてきて、どうかしたのか? と心配そうな顔を向けてきた。
「えっと、人前だし、ちょっと恥ずかしくて……」
「『恥ずかしい』? ……それは、藤原の前だから?」
ああ。これまで自分の振る舞いを考えたら、言い訳も不味かった。
虎君は眉を顰め、慶史に見られたくないからだと見破ってしまう。おそらく慶史に見られたくない真相は知られていないはずだけど、聡明な虎君が何の弾みでそこに辿り着いてしまうかは分からない。
どう言い訳すれば誤魔化せるかと僕が返答に困っていれば、見かねた慶史が助け舟を出してくれた。
「先輩、何度も言いますけど、勝手な妄想で嫉妬した挙句八つ当たりするとかマジで止めてもらえませんか?」
「け、慶史……」
「俺と葵の関係は先輩と葵の関係と似て非なるものなんで」
慶史は僕達の間に友情はあれど恋愛感情は微塵もないと虎君にはっきりと伝える。
でもそれは僕も何度も伝えていた言葉だ。そして何度伝えても虎君はヤキモチを妬いてしまうと言っていたから、慶史が伝えてもそれは同じだろう。
「藤原こそ、二人が親友だと理解していても俺的には良い気分はしないと理解してもらえないかな?」
「それは葵の気持ちを疑ってるからですよね?」
「まさか。葵が愛してるのは俺だけだし、これから先も俺以外を好きになることはあり得ないと思ってるよ」
「それなのに俺に嫉妬するんですか? それって変じゃないですか?」
「俺は葵を独り占めしたいから変じゃないだろ」
虎君は自分が知りえない僕の時間を知る相手に嫉妬すると言う。出来ることならずっと傍に居たいから。と。
僕を抱き寄せる虎君は、だからどう頑張っても慶史に嫉妬してしまうと言った。でも、その嫉妬が自分勝手なものだと分かっているから抑える努力はきちんとするとも言ってくれた。
「藤原には嫌な思いを沢山させたから俺のことをすぐ信じられない気持ちは理解できる。でも、葵の為にも俺にチャンスをくれないかな?」
「その言い方、卑怯だ」
「分かってる。……今まで本当にすまなかった。身勝手な嫉妬をぶつけてしまって本当に悪かったと思ってる」
虎君は僕を抱く腕を放すと頭を下げ、これからは良き友人になれればと思っていると慶史に自分の考えを伝えた。
慶史は頭を下げて許しを乞う虎君の姿に酷く傷ついた表情をしていた。
僕はその表情に胸を痛める。慶史は、虎君の優しさと愛情を知りたくないと言っていたから。
恋人の為に年下に頭を下げて許しを乞う男の人の姿なんて、慶史は見たことがない。
愛してる人の為に自分の信念やプライドを捨てる人がいることも、慶史は知らない。
だからこんな風に僕の為に事も無げに頭を下げ謝る虎君を見ると、自分の周囲の人達とのギャップに苦しむのだろう……。
「慶史……」
「! ……そんな顔しないでよ。こんな風に改まって謝られると思ってなかったからビックリしただけだよ」
僕の視線に返されるのは苦笑い。『俺を憐れまないで』と訴えかけられた気がしたのは気のせいだろうか……?
僕は慶史を憐れんでなどいない。慶史を傷つけた人達を許せないだけだ。
でも、もしかしたらこの感情事体、慶史を哀れんでいることになるのかもしれない。
「俺こそ散々悪態ついてすみませんでした。親友の為に俺もいい加減成長します」
だから頭を上げてください。
そう言った慶史は肩を竦ませ「とりあえず一旦休戦ってことで」と、今後喧嘩の売り買いはしないことを約束してくれた。
無意識に駆け寄る僕に向けられるのは優しい笑顔。そして、迎え入れる様に広げられる腕に、そのまま抱きついてしまう。
「お喋りは楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
優しく抱きしめてくれる虎君の甘く低い声に答えながら頬を摺り寄せれば、愛し気に髪を撫でられて安心するのにドキドキしちゃう。
「藤原、わざわざ見送りをしてくれてありがとうな」
「いえいえ。俺の大事な親友のためですから」
「はは。頼りになる親友のおかげで俺の葵が毎日平穏無事に過ごせてるんだ。感謝ぐらいさせてくれないかな?」
「やだなぁ。先輩が俺に感謝するなんて、照れるじゃないですか」
一見すると仲睦まじいやり取り。でも、二人の声色に滲む刺々しさがひしひしと伝わってきて僕は二人の名前を呼んで喧嘩をしないで欲しいと訴えた。
「喧嘩なんてしてないだろ?」
「そうだよ。俺も先輩もそんな子供じゃないよ」
僕を見下ろす虎君の眼差しは優しいし、笑顔を見せる慶史も無理をしている雰囲気はない。
でも、今までを考えると疑ってしまうのは当然だ。
(僕がこうやって虎君に甘えるのがダメなんだよね)
慶史が虎君を敵視する理由はさっき教えてもらった。それなのに物の数分で慶史の目の前でこんな風に虎君に甘えるなんて配慮に欠けると言われても仕方ない。
僕は慶史が嫌な思いをしないよう抱き着いていた腕を放し、虎君から離れた。
でもその行動は虎君からすれば不可解なものに映ったのだろう。虎君は離れようとする僕を抱き寄せてきて、どうかしたのか? と心配そうな顔を向けてきた。
「えっと、人前だし、ちょっと恥ずかしくて……」
「『恥ずかしい』? ……それは、藤原の前だから?」
ああ。これまで自分の振る舞いを考えたら、言い訳も不味かった。
虎君は眉を顰め、慶史に見られたくないからだと見破ってしまう。おそらく慶史に見られたくない真相は知られていないはずだけど、聡明な虎君が何の弾みでそこに辿り着いてしまうかは分からない。
どう言い訳すれば誤魔化せるかと僕が返答に困っていれば、見かねた慶史が助け舟を出してくれた。
「先輩、何度も言いますけど、勝手な妄想で嫉妬した挙句八つ当たりするとかマジで止めてもらえませんか?」
「け、慶史……」
「俺と葵の関係は先輩と葵の関係と似て非なるものなんで」
慶史は僕達の間に友情はあれど恋愛感情は微塵もないと虎君にはっきりと伝える。
でもそれは僕も何度も伝えていた言葉だ。そして何度伝えても虎君はヤキモチを妬いてしまうと言っていたから、慶史が伝えてもそれは同じだろう。
「藤原こそ、二人が親友だと理解していても俺的には良い気分はしないと理解してもらえないかな?」
「それは葵の気持ちを疑ってるからですよね?」
「まさか。葵が愛してるのは俺だけだし、これから先も俺以外を好きになることはあり得ないと思ってるよ」
「それなのに俺に嫉妬するんですか? それって変じゃないですか?」
「俺は葵を独り占めしたいから変じゃないだろ」
虎君は自分が知りえない僕の時間を知る相手に嫉妬すると言う。出来ることならずっと傍に居たいから。と。
僕を抱き寄せる虎君は、だからどう頑張っても慶史に嫉妬してしまうと言った。でも、その嫉妬が自分勝手なものだと分かっているから抑える努力はきちんとするとも言ってくれた。
「藤原には嫌な思いを沢山させたから俺のことをすぐ信じられない気持ちは理解できる。でも、葵の為にも俺にチャンスをくれないかな?」
「その言い方、卑怯だ」
「分かってる。……今まで本当にすまなかった。身勝手な嫉妬をぶつけてしまって本当に悪かったと思ってる」
虎君は僕を抱く腕を放すと頭を下げ、これからは良き友人になれればと思っていると慶史に自分の考えを伝えた。
慶史は頭を下げて許しを乞う虎君の姿に酷く傷ついた表情をしていた。
僕はその表情に胸を痛める。慶史は、虎君の優しさと愛情を知りたくないと言っていたから。
恋人の為に年下に頭を下げて許しを乞う男の人の姿なんて、慶史は見たことがない。
愛してる人の為に自分の信念やプライドを捨てる人がいることも、慶史は知らない。
だからこんな風に僕の為に事も無げに頭を下げ謝る虎君を見ると、自分の周囲の人達とのギャップに苦しむのだろう……。
「慶史……」
「! ……そんな顔しないでよ。こんな風に改まって謝られると思ってなかったからビックリしただけだよ」
僕の視線に返されるのは苦笑い。『俺を憐れまないで』と訴えかけられた気がしたのは気のせいだろうか……?
僕は慶史を憐れんでなどいない。慶史を傷つけた人達を許せないだけだ。
でも、もしかしたらこの感情事体、慶史を哀れんでいることになるのかもしれない。
「俺こそ散々悪態ついてすみませんでした。親友の為に俺もいい加減成長します」
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