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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN.
LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第25話
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「嫌味かよ」
「いや、本心だよ。……本当、悠栖はいい男だよ」
自分の隣を歩く唯哉の方がずっと男らしいと悠栖は思う。見た目はもちろんのことながら、中身だって。
気が利いて穏やかで自分よりもずっと大人。
でもそれでいて偶に子供みたいな悪ふざけを全力でして笑ったりもするから、とても魅力的な存在だと思う。
できることなら、唯哉になりたいと思うぐらいだ。
悠栖は唯哉が自分を『いい男』だと褒める言葉を慰めと受け取って、それ以上言うなと苦笑いで制した。
「素直に受け取れよ」
「受け取れるかよ。俺はヒデが『何に』怒ったのかすら分からねぇーんだぞ」
前を歩く英彰は此方を一度も振り返らない。
自分が女々しい発言をした事は重々承知だが、そこまで怒ることだろうかとも正直思うわけで……。
(『疎外感』ってやつを感じてるのは俺の方だし、『俺』と『唯哉』が違うって言い切ったのはヒデ本人だし……)
取り付く島もない程不機嫌になっている英彰の背中に、悠栖は溜め息を吐いた。すると唯哉は、「悠栖らしい」と苦笑を漏らした。
「チカ?」
「いや。……俺は英彰の気持ち、分かるかな」
「! え? 本当に?」
知っているなら教えて欲しいと悠栖がせっつくのはそれからすぐの事。
唯哉は一度英彰に視線を送ると、悠栖に本当に知りたいかと尋ねてきた。気まずい思いをすることになるかもしれないぞ? と。
改めてそんなことを言われたら誰だって怯むと思う。当然悠栖も唯哉の問いかけに言葉を詰まらせる。
でも、それでも同じ間違いを繰り返さないために『理由』を知っておくべきだと思ったから、勇気を振り絞って『知りたい』と頷いた。
唯哉はそんな悠栖をやっぱり男前だと茶化した。
「だから、そういうの要らねぇってば」
「悪い悪い。……英彰が言っただろ? 俺達が『一緒なわけない』って。あれはただこう言いたかったんだよ」
「? どう言いたかったんだ?」
「『ただの友達』と『本気で好きな相手』が一緒なわけないだろう?」
「え……?」
「英彰も良い男だよな。はっきり言ったら悠栖が気にするって分かってるから言いたい気持ちを抑えたみたいだし」
苦笑を漏らす唯哉の言葉は、悠栖の心を乱す。
英彰の想いを忘れていたわけじゃないが、不意に突きつけられるとどうしても戸惑ってしまう。
きっと唯哉はそんな悠栖の反応を見越していたのだろう。寮に着くまでには気持ちを戻すように言ってきた。
今は街灯の少ない帰り道にいる。近くに居ても表情をはっきり捉えることが困難な明るさだから、先を歩く英彰に気づかれることは無いだろう。
しかし寮に戻れば明るさは段違い。今以上に離れたところで表情の変化を隠すことはできないだろう。
きっと自分が言葉の真意を知ったと知れば、英彰だって気まずい思いをするに違いない。
だから悠栖は唯哉の助言に素直に頷きを返し、先を歩く英彰の背中をただ黙って見つめた。
(俺なんかの何が良いんだか……)
不本意だが、確かに自分の見た目は『愛らしい』方だと思う。
でも、それはあくまでも『男の中では』という話で、本物の女の子が相手なら悠栖だって歴とした『男』だ。
それに性格も『優しい』とか『穏やか』とかそういうタイプじゃない。
元々男が好きというわけじゃない限り、どう頑張っても『本気』になってもらえるような人間ではないと悠栖は自己評価に至った。
そして、至った低い自己評価に気分はますます滅入ってしまった。
「……誰かを好きになるってことは、理屈じゃないんだよ」
「! 俺は何も言ってない」
「分かってる。これは俺の独り言だ」
分かりやすい性格だからって何でもかんでも心を見透かされると流石に面白くないし、喋り辛い。
分かるなとは言わないが、分かっても口には出さないでもらいたい。そう言ってますます不貞腐れる悠栖に、唯哉は「ごめん」と困ったように笑った。
「でも本当、俺も今日一日で何度も考えたよ。好きになる相手を選べればよかったのに、てな……」
「……姫神と何かあったのか?」
覇気のない声に唯哉が落ち込んでいると分かった。
そしてその理由に唯哉の『好きな人』が関係していることも分かった。
悠栖は一瞬聞き流そうかと考えたが、我慢が苦手な自分の性格を知る唯哉が敢えて言葉として口にした事を考えると、聞くことが正解と思えた。
遠慮がちに唯哉に『好きな人』と何があったのか尋ねる悠栖。
唯哉は自嘲気味に笑みを浮かべ息を吐くと、「振られた」と短いが衝撃的な言葉を口にした。
「いや、本心だよ。……本当、悠栖はいい男だよ」
自分の隣を歩く唯哉の方がずっと男らしいと悠栖は思う。見た目はもちろんのことながら、中身だって。
気が利いて穏やかで自分よりもずっと大人。
でもそれでいて偶に子供みたいな悪ふざけを全力でして笑ったりもするから、とても魅力的な存在だと思う。
できることなら、唯哉になりたいと思うぐらいだ。
悠栖は唯哉が自分を『いい男』だと褒める言葉を慰めと受け取って、それ以上言うなと苦笑いで制した。
「素直に受け取れよ」
「受け取れるかよ。俺はヒデが『何に』怒ったのかすら分からねぇーんだぞ」
前を歩く英彰は此方を一度も振り返らない。
自分が女々しい発言をした事は重々承知だが、そこまで怒ることだろうかとも正直思うわけで……。
(『疎外感』ってやつを感じてるのは俺の方だし、『俺』と『唯哉』が違うって言い切ったのはヒデ本人だし……)
取り付く島もない程不機嫌になっている英彰の背中に、悠栖は溜め息を吐いた。すると唯哉は、「悠栖らしい」と苦笑を漏らした。
「チカ?」
「いや。……俺は英彰の気持ち、分かるかな」
「! え? 本当に?」
知っているなら教えて欲しいと悠栖がせっつくのはそれからすぐの事。
唯哉は一度英彰に視線を送ると、悠栖に本当に知りたいかと尋ねてきた。気まずい思いをすることになるかもしれないぞ? と。
改めてそんなことを言われたら誰だって怯むと思う。当然悠栖も唯哉の問いかけに言葉を詰まらせる。
でも、それでも同じ間違いを繰り返さないために『理由』を知っておくべきだと思ったから、勇気を振り絞って『知りたい』と頷いた。
唯哉はそんな悠栖をやっぱり男前だと茶化した。
「だから、そういうの要らねぇってば」
「悪い悪い。……英彰が言っただろ? 俺達が『一緒なわけない』って。あれはただこう言いたかったんだよ」
「? どう言いたかったんだ?」
「『ただの友達』と『本気で好きな相手』が一緒なわけないだろう?」
「え……?」
「英彰も良い男だよな。はっきり言ったら悠栖が気にするって分かってるから言いたい気持ちを抑えたみたいだし」
苦笑を漏らす唯哉の言葉は、悠栖の心を乱す。
英彰の想いを忘れていたわけじゃないが、不意に突きつけられるとどうしても戸惑ってしまう。
きっと唯哉はそんな悠栖の反応を見越していたのだろう。寮に着くまでには気持ちを戻すように言ってきた。
今は街灯の少ない帰り道にいる。近くに居ても表情をはっきり捉えることが困難な明るさだから、先を歩く英彰に気づかれることは無いだろう。
しかし寮に戻れば明るさは段違い。今以上に離れたところで表情の変化を隠すことはできないだろう。
きっと自分が言葉の真意を知ったと知れば、英彰だって気まずい思いをするに違いない。
だから悠栖は唯哉の助言に素直に頷きを返し、先を歩く英彰の背中をただ黙って見つめた。
(俺なんかの何が良いんだか……)
不本意だが、確かに自分の見た目は『愛らしい』方だと思う。
でも、それはあくまでも『男の中では』という話で、本物の女の子が相手なら悠栖だって歴とした『男』だ。
それに性格も『優しい』とか『穏やか』とかそういうタイプじゃない。
元々男が好きというわけじゃない限り、どう頑張っても『本気』になってもらえるような人間ではないと悠栖は自己評価に至った。
そして、至った低い自己評価に気分はますます滅入ってしまった。
「……誰かを好きになるってことは、理屈じゃないんだよ」
「! 俺は何も言ってない」
「分かってる。これは俺の独り言だ」
分かりやすい性格だからって何でもかんでも心を見透かされると流石に面白くないし、喋り辛い。
分かるなとは言わないが、分かっても口には出さないでもらいたい。そう言ってますます不貞腐れる悠栖に、唯哉は「ごめん」と困ったように笑った。
「でも本当、俺も今日一日で何度も考えたよ。好きになる相手を選べればよかったのに、てな……」
「……姫神と何かあったのか?」
覇気のない声に唯哉が落ち込んでいると分かった。
そしてその理由に唯哉の『好きな人』が関係していることも分かった。
悠栖は一瞬聞き流そうかと考えたが、我慢が苦手な自分の性格を知る唯哉が敢えて言葉として口にした事を考えると、聞くことが正解と思えた。
遠慮がちに唯哉に『好きな人』と何があったのか尋ねる悠栖。
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