強く儚い者達へ…

鏡由良

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強く儚い者達へ…

強く儚い者達へ… 第6話

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 ずいぶん長い間入院していたと思ったが、実際はそうでもなかったみたいだ。
 庭の草木も花々の様子がそれを教える。
 リムはゆっくりと家への扉に手をかける。
 脳裏に浮かぶのは血まみれの惨劇。
(負けるな。義母さんとの約束だろ?)
 義母が息を引き取る前に自分に託したメッセージ。
 リムは、その言葉に従わなければいけないと心に決めていた。
『奥の部屋に、貴女が進むべき道がある』
 切れ切れの声で、この世を去る前に母が残した言葉だった。
 奥の部屋…。
 父の書斎だったそこに、いったい何があるのだろう?
 自分の進む道とは一体?
 疑問ばかりが頭をもたげる。
 それでも、それでもリムは進む。
 進めば全てが分かるはずだから、自分は進むしかないのだから。
 息を大きく吸い込んで、ドアを開ける。
 そこに広がる光景に驚いた…。
 血塗れの部屋を想定していた。
 しかし、それと反してあの出来事があったのかと疑いたくなるぐらいに綺麗な部屋が目に入る。
 今にも義母や姉が夕食の支度をしに階段から降りてきて、幼馴染が自分の背後からひょっこり顔をだしそうな…。
 そんな昔は当たり前だった光景が今にも起こりそうだった。
 しかし、そんな淡い想いを打ち砕くのは、階段とテーブルに座る二つの影…。
「あんた達は…」
「やっぱり、抜け出してきたか…」
 はぁ~というため息とともにショッキングピンクの髪がうな垂れると同時に揺れる。
 自分の病室に居た戯皇と幸斗が何故かリムの家に居た。
「なんで私の家にあんた達がいるんだ?!」
「ずいぶんな言い方だな。誰がお前の命を救ってやったと思ってるんだ?」
 反射的に戦闘体制をとるリムに戯皇がカチンときたと言いながら腰を上げた。
「ど、どういうことだよ」
 一歩一歩近づいてくる戯皇にリムは今まで感じたことのない威圧感を感じた。
「!」
 ぬっと伸びてきた腕にビクッと身体を強張らせる。
 自分よりも細い腕なのに…言い表しようのない気味悪さを感じて…。
「死にかけのお前を見つけて病院まで運んでやったのは俺等だ。…ほらみろ、傷口が開いてる」
 胸元に触れる手。その手の下には血の滲んだ入院着が…。
 思わず閉じていた目を恐る恐る開くと、そこには優しく笑う美しい戯皇の顔があった。
「あっ…」
 妙な気恥ずかしさで微かに顔が赤くなる。
 どんなに鍛え上げられた身体だといっても、リムも一応女なのだ。
 修行といって剣ばかり振るっていた彼女は胸を他人に触られて平気なほど擦れてはいない。
「!あっわり…」
 リムの様子につられて何故か戯皇も顔を赤くする。
 病院ではいろいろあって気が付かなかったが、戯皇というこの人物の美しさは今だかつて出会ったことがない、神秘的なもののように感じた。
 ヘレナも姉・デュミヌカもそれは大層美しかったが、次元が違うと感じてしまう。リムはただ見とれていた。
「幸斗、治してやれ」
 気まずい雰囲気から脱したくて戯皇はテーブルに座り傍観していた男に合図を送る。
 それに彼は「いいのか?」と言いたげな顔をしていた。
(治してやれ…ってそんな簡単に言うけど、ずっと入院してたんだぞ?私は。それとも、この人達はかなり腕のいい医者?)
 ずっと治療を受けててこの有様なのだ。そう簡単に治せるものなのか?と疑問が浮かぶ。
「気にするな。こんな糞みたいな町、隔離保護してやる気も失せる」
 本当に口の悪い人だ。
 腰の辺りまで伸ばされた鮮やかなショッキングピンクの髪、雪のように白くキメ細やかな肌、零れそうな程大きな霞色の瞳、少し低めで色っぽい艶のある声、身長は高すぎず低すぎず、マントを羽織っているせいでプロポーションこそ分からないがそのすべてが黙っていれば本当に美しい人なのに
(?隔離保護?)
 何を言っているのだろうか?
 二人の会話の意図がまったく分からずリムは訝しそうに首をかしげる。
 そんな彼女の事など気にもせず、幸斗はゆっくりと二人に近づく。
 リムの真正面に来ると立ち止まると「すまない」とだけ断り、傷口のある胸に手をかざした。
「えっ?な、何を…」
「……エメル」
 呟かれた言葉と共に暖かな光が幸斗の手から発し、その光はリムの傷を包み込み、癒してゆく。
 光が消えたとき、リムは今まで感じていた痛みから解放されていることに気がついた。
(今のは一体…?)
 服を脱ぎ、包帯を取らなくても分かる。
 傷が消えた…癒されたことを。
「…今のは…」
「やっぱり知らないか。今のは魔法だ」
 唖然としているリムに戯皇がきっぱりと言う。
 幸斗は何も言わずに元いた場所へと踵を返した。
「魔法…そんな、使える人はいない失われた力なんじゃ…」
 リムの頭の回線はパンク寸前だった。
 戯皇はそれが分かった上で「それはこの町での話だ」と笑った。
 なんでも、この町は〝隔離保護地域〟に指定されているらしい。
 『隔離保護』とはその名の通り、外界から切り離し、まったく別の世界として外部からも内部からも干渉しない地域を言う。
「なんで、そんな地域が…?何の為に?」
「そうだな…種族を守る為、文化を守る為…とかいろいろあるけど、この町の場合は弱い種族を守る為に認可された地域だ」
 戯皇がう~んと首をひねりながら分かりやすいようにと簡単な言葉を使って説明した。
 なんでも、この町を一歩出れば、さまざまな種族が入り乱れて暮らしているらしい。
 その中でも弱い種族とは…つまり人間と分別される種族の事。
 リムや町の人々の属する種族…。 
「私は…弱いの?」
「弱いよ。悲しいぐらいね。…お前等家族を襲った輩は別種族だ。人間のお前等が太刀打ちできるわけないんだよ」
 愕然とした。
 昔も今も縮まることのない力の差…。それは永久に縮まることがないということだった。
 力の差は縮まるどころか広がる一方だと戯皇はいう。
(そんな…父さんや義母さんの敵が取れない…姉さんとヘレナを助けられない…)
 それは再び戦いを決意したリムをどん底に落とすには十分すぎる真実だった。
「戯皇、そろそろ…」
「おう、そうだな…じゃあな、嬢ちゃん。俺等はそろそろ行くわ」
 呆然とするリムは現実に引き戻される。幸斗と戯皇はもうこの町から出るという。
「な、なんで…」
「言っただろ?ここは保護区域だ。どんな理由があるにしろ魔法は使っちゃいけないんだよ。この区域で魔力を使ったら探知システムが作動して犯罪者扱いされちまう。そんなの御免だからな。俺は」
 そんな、折角いろいろ教えてもらえると思ったのに…。
「私も、連れて行って」
 もっと世界を知りたいと思ったとき、リムの口からはそう零れていた。
「はぁ?」
 戯皇の口からでたのは盛大な呆れ声。幸斗も目を丸くしリムを見下ろしている。
「お前ねぇ…またそんな無茶苦茶な…」
「お願いします!わたしはここに居るから弱いってことでしょ?それなら、ここを出ないと…ここを出ないと姉さんもヘレナも探せない!」
 必死に訴えてくる彼女に戯皇は「どういうことだ?」と顔色を変えた。
「戯皇、そろそろまずい。よりによってマダルだ」
 リムの話に意識を持っていかれそうな相棒に幸斗が注意を促す。
 幸斗は外を見つめたまま緊張した面持ちだった。
「げっマジでか?あいつまだS班にいたのか?ご苦労なこった」
 心底嫌そうに前髪を掻きむしる。
 リムまだ「お願いします」と頭を下げている。
「あぁ――――――――――っ!!分かったよ。ただし、3分で準備しろ!幸斗、マダルは今どの辺りだ?」
「!はい!!」
 リムは勢いよく頭を上げ、大急ぎで準備を始める。
 その様子に「ちゃんと着替えろよ」と戯皇から声がかかる。
 さすがに入院着でというわけにはいかない。
 リムは勢いよく返事をし、再び準備を進める。
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