強く儚い者達へ…

鏡由良

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そして時は動き出す

そして時は動き出す 第8話

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「おーい!り…じゃなかった、《ベリオーズ》!お前何ブロックだよ?」
「お前、本当に緊張感ないな…」
 脱力してしまうのは相変わらず陽気な烈火の声のせい。他人として潜入してきたはずなのに、何でこうなるかな?と一人愚痴てしまう。
 そして、何より隣には…。
「《ベリオーズ》さんは13ブロックですよ。僕は2ブロックです」
(どうしてお前がいるかな?帝…)
 ずっと仲間でしたと言われても、納得してしまうぐらい馴れ馴れしい男にリムはため息を零してしまう。
(男は、嫌いだから…そばにいて欲しくない…)
 落ち着かない気持ちをなんとかしようと頑張るが、隣に原因がいればその努力も無駄となってしまって。何も分かっていない烈火はへらへら笑い、「俺、3ブロック」と二人と違うことに安心している様子。
(師匠…幸斗さん……)
 服の上から胸元に何時もつけている十字架を握り締めて大きく深呼吸を繰り返す。大丈夫、大丈夫と何度も自己暗示をかけながら。
「気分でも悪いんですか?」
「違う。気にするな…。それより、今2ブロックで呼ばれているのはお前じゃないのか?帝」
 指差すのは特設のバトルフィールド。金持ちのすることは本当によくわからないと感じてしまう。
「!あ、本当だ。それでは、一足お先に二回戦進出を決めてきますね」
 ニッコリ笑って立ち去る帝に、「頑張れよ」とだけ声をかけてやる。烈火も呼ばれたらしく、いつの間にかいなくなっていた。
 ようやく、一人…。心のザワツキを、抑えられる……。
「大変だったな」
「!……ジェイク…」
 だから、一人にしてくれよ!と思いながらも作り笑いを浮かべるリムの頭を、ジェイクは優しく撫でてやる。それは、昔リムの師が彼女の髪を撫でていた時と同じ、優しい手…。
「無理に笑わなくていい」
「!な……別に無理してなんか…」
 なくはないけど…と口ごもるリム。それにジェイクは苦笑してしまう。
「ジェイク、じゃないだろ?」
「……《ディック》だった…悪かったよ…」
 これじゃ烈火の事を言えない。不意を付かれたからと言って本名で呼んでしまうなんて、緊張感がないのは自分の方ではないか、と。
 そうやってため息をつくリムにまた、笑う。
 子供扱いされるのが嫌いな彼女はそれに反感を覚えるが、ん?と優しく微笑まれて見つめられたら何も言えなくなってしまう。
 今は無き父もこんな笑い方をしていた気がする…。
 それが、子供扱いするなとジェイクに怒れなくさせる原因。
「…《ディック》は何ブロックなんだ?」 
「29ブロックの一番最後だったよ。かぶらなくて安心したよ。…でも、大丈夫なのか?Cクラスの連中と戦って勝つ見込みはあるのか?」
 ジェイクが見たところ、リムの戦闘力はせいぜいDクラスの中ぐらい。中にはCクラスの連中も居るだろうから彼女が勝ち残れるか心配なのだ。しかし、彼の心配をよそに、リムは平気とだけ返して名を呼ばれたからと立ち去ってしまった。
(…いくらケイの弟子といっても…あの戦闘力だと厳しいだろう…?)
 混血生物最強と称されるフェンデル・ケイが師であろうとも、持って生まれた才能というものはどうしようもないもので、リムはそこまで強いとは言えなかった。確かに、まだ第一覚醒しか起こっておらず、第二の力は目覚めていないのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、それでも、覚醒が起こっていないからと言い訳して通る世の中ではないのは彼女も知っているだろう。
(はやく第二覚醒が起これば良いんだがな…)
 この前みたいに襲われないとは言い切れない状況なだけに、ジェイクはリムが早く更なる力を手に入れることを願う。
 フェンデル・ケイとはそれほどの人物そして…。
(ロキアもケイと一緒にいたと考えられるから、名を上げたい奴らにはリムは格好の的だな)
 戯皇程ではないが、幸斗もその名を世界に知らしめるほどの戦士。二人の愛弟子となれば、リムには人質としての価値は十分あることになるというわけだ。
 ジェイクは壁に身を任せ、ジッと彼女の戦いを見入った。彼女の実力を見極める為に。



*



「さてと…俺の相手はお前かい。そんな細っこい腕で何処まで戦えるのかな?」
「戦えるかどうかは、すぐに分かるさ」
 腰に携える剣を鞘から取り出し、静かに目の前の男を見据えるのはリム。鼓動が高鳴るのは精神の高ぶりから。
 ただ、静かに、息をする。
 心を落ち着かせて戦いに集中するのは、目標を見失わない為…。そして、この瞬間だけは過去を思い出さないようにする為…。
(忘れない…忘れられない…でも、乗り越えたい…乗り越えられなくても……)
 その為に強さを求める。
 その為に誇りを繕う。
 男の手を恐ろしいと思うが、剣を取るのは、目的を果たす事だけを考えているから…。
「13ブロック第一回戦、開始!!」
(師匠…幸斗さん…私に力を……忘れない、強さを……)
 審判役の女が試合の開始を告げると同時にリムめがけて振り下ろされる剣の刃。試合を観戦していた者達のどよめきが聞こえる。
 開始早々に決着のつきそうな戦いに「運がいい」と言う者、「興醒めだ」と言う者がほとんどで。誰もがリムの敗北を確信していただろう。
 彼女は、まだ動かない…。
「その程度のスピードで俺を殺せると思っているのか?」
「!何!?」
 首めがけて振り下ろされる刃を自身の手にしていた剣で弾いてやれば、相手は信じられないといった表情を浮かべていた。それに笑えてくるのは何故だろう?
 戦闘力で見れば、リムのランクはDクラスだが、それは身体能力、魔法力、頭脳をすべて考慮して出てくるものだから。…正確には魔法力でランク付けされていると言ってもいいかもしれないモノでリムを区切ることは不可能。何故なら…。
「お前の動きは遅すぎて話しにならない」
 剣の柄の部分で男の顔を殴りつけ、続け様に幸斗直伝の回し蹴りをこめかみに入れてやれば、場外まで吹っ飛んで行くのが確認される。周りを見渡せば、言葉を失ってリムを見る男達の顔が目に入った。
 まさかあの間合いで刃を受け止め、反撃に移るほどの力が彼女にあるとは思っていなかった連中ばかりなのだろう。
「おい。判定、してくれないと殺しちまうけど?」
 審判までも呆然と状況についてきていない様子で、リムは無駄な血は流さないに越した事はないだろうと剣をしまって。慌てて「そこまで」と続行を取りやめる声に、またどよめき。それは、男達がライバルとして彼女を意識した証だった。
(…大丈夫……もう、終わったから……)
 男の息遣いと、体臭に顔が青ざめてゆくのが鏡を見なくても分かる。
 また、十字架を握り締め、壁際まで歩いてゆくとそのまま腰を下ろし、何度も深く呼吸を繰り返した。普段はこんな風になることもないのに…と心の中で愚痴るのは状況の違いを噛み締めて。
 こんな右も左も男だらけの環境に長く居る事等なかったから、体が思うように動いてくれなくなる自分が恨めしい。
 どよめきはいらない。視線も。
「おい、大丈夫かよ?」
 頭上からする声は烈火のもの。この場にいるということは、どうやら彼も無事に勝ち進んだらしい。
「あぁ…大丈夫だ…」
「顔青いぞ。…でも、すげーなお前。もっと弱いかと思ってたけど、身のこなしは軽くCクラス級じゃねーか」 
 横にどかっと座る彼に驚くが、無邪気に笑いかけられると何処か行けとは言いにくくなってしまう。
(…幸斗さんとずっと組み手をしてたんだ。あの程度の動きの奴らになら絶対に遅れはとらない)
 今この場に集まっている男達なんか、自分に戦いを教えてくれた幸斗の足元にも及ばない。師が立ち去ったあの日まで、ほぼ毎元"DEATH-SQUAD"S班の7thに君臨していた男と組み手をしていた彼女にとって、先程の相手の動きなどスローモーションと言っても過言じゃないだろう。
「ありがとう。でも、Cクラスで満足する気はないから、まだまだだと思うよ。もちろん、Dクラスなんてさっさとおさらばしたい」
「いい心がけだな」
 ニヤリと笑う彼。
 Cクラスと戦闘力を持つ烈火ですら、まだまだ上を目指しているという。この惑星でCクラスといえば戦闘力は中の上に位置することを示す。烈火程の魔法力ならすぐにBクラスの戦闘力を有することが出来るだろう。
 でも、リムも烈火もBクラスで満足するタマじゃない。まして、今のクラスでならなおさら。
「何時かダンナみたいにAクラスになれるかなぁ」
 BクラスからAクラスへの生物へと転進するのは想像以上に難しい。Aクラス以上となるとクラスアップは努力だけではどうすることも出来ないレベルになってくるらいしから。
「…本当にジェ……《ディック》のことを本当に尊敬してるんだな……」
 何処か嬉しそうにジェイクのことを話す烈火に笑ってしまう。きっと彼にとってジェイクと言う男の存在は、自分にとっての戯皇と幸斗と同じなのだろうと。
 リムの言葉に烈火は嬉しそうに「まーな」と笑った。リムもつられてまた笑う。烈火の気持ちは分かるから。
「…お前は、信じられそうだ」
 バカ正直だから。とポソリと零れたリムの言葉に、烈火は心外だとばかりに顔をしかめた。
「バカ正直って何だよ。バカ正直って。俺は駆け引きとかそういうのが嫌いだから思うままに生きてるだけだぞ」
「悪い悪い。…なんか、自分と似てると思ったから…。お前とはいい仲間になれそうだ。もちろん氷華とも」
 彼女の苦笑に、烈火はジェイクはどうなんだと聞いてくる。仲間として信頼されるのは嬉しいが、大事な人が抜けていると。
「二人が尊敬する程の奴だから、信じてるよ。…私を見る目がひどく優しくて驚かされるけど」
 瞳は嘘をついていないと思うから。ジェイクを信じることが出来る。弟に聞かれたら『甘い』と怒鳴られそうだけど、誰も信じられないなんて寂しすぎるから信じたい。
「そう言われれば、そうだよな。ダンナが自分から協力させてくれって言うなんてありえないのに…。だいたい、えっと…なんだっけ?お前の師匠の名前…ふぇ…うぇ……?」
「フェンデル・ケイだ」
「そうそう、めちゃくちゃ強かったんだろ?そんな人を狙った輩を返り討ちに出来るほどの力を、お前が手に入れるまで…みたいな事言ってたし、それって要は、ずっとってことだろう?なんでお前をこんなに気をかけるんだろう?」
 烈火の言葉にリムはむくれている。確かに、そんなすぐに強くなるとも思ってないし、Sクラスの戦闘力を有することだって一生無理かもしれない事実も分かっている。でも…面と向って言われると正直傷つく。
 だいたい、ジェイクが自分に協力するといった真意をずっと一緒にいた烈火が分からないのに、昨日今日会ったリムに分かるわけない。ぶっきらぼうに「知るかよ」と返してしまう。
「それもそうだな…。ま、今のところここにいる程度の輩で警戒しなくちゃならねー奴って言ったら、あの帝って奴だけだろう」
 笑っていた彼の顔が急に真顔になり、真っ直ぐに前を見据えている。何があるのだろうとリムも烈火の視線の先を目で追ってみる。そして、そこには……。
「帝……それに…」
 ジェイクが居た。何やら親しげに喋っている二人に、知り合い?と首を傾げてしまう。
 烈火は、何も言わず、帝をジッと睨みつけるように見ていて…。
「!…《煉》君、《ベリオーズ》さん!こんなところにいらしたんですか?」
 ジェイクとの会話の途中で烈火の熱視線に気付いた帝が笑いながら手を振ってみせる。余裕だと思うから腹立たしい。自分だって、普段のように振舞いたいのに、環境がそれをさせてくれない。
「探していたんですよ。どうやらお二人とも勝ち進んだみたいようで安心しましたよ」
 笑顔で駆け寄ってくる男に正直ウザイと思ってしまう。
 ジェイクも帝の後から歩み寄ってきて、驚いたよと言葉を零した。…また、あの瞳で自分を見つめているのは何故?
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