11 / 15
【 11 】
しおりを挟む「 …… 品種としての気質的な特徴は、のんびりした性格で強い闘争性や縄張り意識がなく、あまり活発ではないことです。 寒い時に人間が湯たんぽ代わりに抱きしめたり馬車に乗せたり、一緒に寝たりするといった目的もあったので、品種が成立していく過程で落ち着きのある性質が第一に重視されたのでしょう。 そういう点から見ても、ドミナントの取る行動は変わっていると言えますね。
おそらくドミナントの家出好きは品種としての性質ではなく、彼自身がこの村で暮らすうちに身に付けた個性でしょう 」
「 わかった 」 復活した酒井さんが、新理論を思いつく。「 ドミナントは寒い島の猫だから、冬が来ると嬉しいんじゃないかな。 普通の猫と違い、寒いと浮かれて外に出たがるようになる …… 」
「 この猫は夏にも逃げていますよ 」と大森巡査。
「 わざわざエアコンの効いた家から夏の炎天下に出て行って、外をうろつく行動の説明がつきません 」
「 ごほん。 人も動物も植物も、生き物に大切なのは、結局のところ『 土 』じゃ。 生き物は、土を離れては生きてゆけぬ ‥‥‥ 」
種田村長が重々しく語り出した。
「 そこでじゃ、この猫の祖先が住んでおった、そのセントなんとかいう島の土を日本へ持ち帰って、早川さんのお宅の庭に敷き詰めてみればどうじゃろう。 猫にとって遠い先祖の地、すなわち故郷の雰囲気を自分の住む場所から感じ取れば、そこを離れようとはせぬようになるのではなかろうか 」
農家の種田村長らしい意見だ ─── 少し説教くさいが。
「 園芸土砂の輸入は手続きが面倒ですよ。 量にもよりますが、加熱ないし指定薬品で滅菌した旨の輸出証明書を、採取先の国であらかじめ作成しておく必要があります 」
酒井さんが、珍しくプロの口調で釘をさした。
「 すぐにというわけには行きませんが、そうですな …… アルゼンチンに渉外担当の専門家を我が社から派遣して、半月ばかり時間をいただければ …… 」
「 いや待て。 熱だの薬だの、そんな杓子定規な工業偏重主義的処理を施した代物を、果たして故郷の土と呼べるのかね 」
「 ですが村長、法律を無視するわけには ─── 」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる