白猫家出事件

南々浦こんろ

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【 11 】

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「 …… 品種としての気質的な特徴は、のんびりした性格で強い闘争性や縄張り意識がなく、あまり活発ではないことです。 寒い時に人間が湯たんぽ代わりに抱きしめたり馬車に乗せたり、一緒に寝たりするといった目的もあったので、品種が成立していく過程で落ち着きのある性質が第一に重視されたのでしょう。 そういう点から見ても、ドミナントの取る行動は変わっていると言えますね。
 おそらくドミナントの家出好きは品種としての性質ではなく、彼自身がこの村で暮らすうちに身に付けた個性でしょう 」

「 わかった 」 復活した酒井さんが、新理論を思いつく。「 ドミナントは寒い島の猫だから、冬が来ると嬉しいんじゃないかな。 普通の猫と違い、寒いと浮かれて外に出たがるようになる …… 」

「 この猫は夏にも逃げていますよ 」と大森巡査。
「 わざわざエアコンのいた家から夏の炎天下に出て行って、外をうろつく行動の説明がつきません 」

「 ごほん。 人も動物も植物も、生き物に大切なのは、結局のところ『 土 』じゃ。 生き物は、土を離れては生きてゆけぬ ‥‥‥ 」

 種田村長が重々しく語り出した。

「 そこでじゃ、この猫の祖先が住んでおった、そのセントなんとかいう島の土を日本へ持ち帰って、早川さんのお宅の庭にき詰めてみればどうじゃろう。 猫にとって遠い先祖の地、すなわち故郷の雰囲気を自分の住む場所から感じ取れば、そこを離れようとはせぬようになるのではなかろうか 」

 農家の種田村長らしい意見だ ─── 少し説教くさいが。

「 園芸土砂の輸入は手続きが面倒ですよ。 量にもよりますが、加熱ないし指定薬品で滅菌めっきんしたむねの輸出証明書を、採取先の国であらかじめ作成しておく必要があります 」
 酒井さんが、珍しくプロの口調で釘をさした。

「 すぐにというわけには行きませんが、そうですな …… アルゼンチンに渉外しょうがい担当の専門家を我が社から派遣して、半月ばかり時間をいただければ …… 」

「 いや待て。 熱だの薬だの、そんな杓子しゃくし定規じょうぎな工業偏重へんちょう主義的処理をほどこした代物しろものを、果たして故郷の土と呼べるのかね 」

「 ですが村長、法律を無視するわけには ─── 」
 
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