ロイヤルの騎士たち

夢末 虹

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第八話 二度目の集会

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 午後三時を知らせる重たい音が街中に響く。ビギニングでは、一時間おきに時計台の鐘が鳴る仕組みになっているのだ。
 それと同時にギルドへ到着した。時間に厳しいユカは数分の遅刻も許してくれない。

「一分遅刻だ」
「すみません」

 そう思っていた矢先、床を見つめることとなった。入り口からテーブルまでゆったりとした足取りで歩いていたのだが、一分遅れてしまった。

「よし、座れ」
「はい」

 頭を上げて椅子を引いた。その際、横に座っているアヤノの視線が気になったが、目を向けると顔を背けられた。

「で、シュウ。うちに戻る気にはなったか?」
「もちろんです!」

 元気な声をユカにぶつけた。ユカの表情からは困惑が見て取れる。

「前の迷いはなんだったんだ」
「前?」
「一言も喋らなかったじゃないか」
「……?」

 必死に記憶の引き出しを探るが、そんな覚えはない。それどころか、ここ一週間のことはほぼ忘れている。

「覚えてないのか?」
「そうみたいです」
「変な奴だな。まあいい、これで全員復帰することは確定した」

 軽く失礼なことを言われたが、ユカは淡々と話を進めていく。

「最初は感覚を戻すために下位地区での調査を行う。これは各自で動いてくれ、その方が効率がいい」
「了解」

 四人の声が揃う。リーダーの発言には反応するのがロイヤルでのおきてだ。

「んじゃ、未開拓の地区の調査はある程度してからってことか?」
「そうだ」

 レンの質問にユカが三文字で答える。

「それ以降のことはその時決める。とりあえず鈍った腕をなんとかしてくれ」

 そう言うと、ユカは席から立ち上がった。

「今日はお開きにする。解散!」
「解散!」

 またも四人が声を揃えた。その様子に満足げな顔を見せながら、ユカは扉へ去って行く。それにタイガとレンも続いた。
 残ったのは俺とアヤノだけ。まだ尻を浮かせてもいない。

「もう大丈夫なの?」
「何が?」
「え?」
「は?」
「いや、前は泣きそうになってたから……」
「は!?」

 思わず声のボリュームが上がる。幸い酒場と化しているギルドは騒がしく、俺の言葉は一瞬にして揉み消された。
 その前というのは俺の記憶にないが、そんなに深刻な状態だったのだろうか……。
 まあ確かに毎朝泣いているような生活をしていれば、それも信じられる。

「あれ?」
「どうしたの?」

 俺はなぜ毎朝泣いているんだろう?

「なんでもない」

 妙な違和感を覚えたが、特に伝える意味もない。

「そう? ならいいけど……」
「ああ」
「でも戻ってきてくれて嬉しいよ! またシュウと調査に行けるのが嬉しい!」
「そりゃよかった」
「あっ」

 突然、アヤノは赤面した。恥ずかしそうに俯いている。

「どうした急に?」
「な、なんでもないの! 違うの!」
「何が?」
「だからなんでもない!」

 ふんっと俺の反対側を向いてしまう。まずいことを言った自覚はないのだが。

「おーい」
「……」

 急に押し黙ってしまう。なんとも理不尽な仕打ちだ。
 アヤノの機嫌を取るのは諦めて、席を立った。もうここにいる必要はない。目的が決まった以上、メンバーの一員として一日でも早く腕を戻すことが重要だ。

「あ、待って」
「ん?」
「私も帰る」
「そうか」

 そう言うと、俺はすたすたと歩き出した。

「ちょ、待ってよばか!」
「誰がばかだ」

 振り返ってアヤノが追い付くのを待つ。

「普通一緒に帰る流れでしょ!?」
「あ、そうなのか? わり、気づかなかったわ」
「この鈍感野郎!」
「うるせえ!」

 反論して足を前に運ぶ。アヤノも真横に並んで歩く。まだ何か呟いているが、全部聞こえないふりをした。ほとんどが悪口だから。
 広場を抜けて、近くの住宅の脇道を通る。人気ひとけの少ないこの道は俺にとってお気に入りだ。表通りは馬車や人の行き来が多い。

「ねーねー」
「ん?」

 先ほどまでの尖った口は見事に戻っている。

「そのさ、今もルナのこと……」

 そこで一度区切る。言葉を続けるべきか迷いのある瞳。

「おう」

 返事をして促す。黙って待つよりも、この方が気も楽になる気がしたから。

「……好きなの?」
「……」

 すまない、まずルナが誰かわからないんだ。素直にそう言うのがベストか。うん、きっとそうだ。

「すまない、まずルナが誰かわからないんだ。」
「は?」

 間抜けな声を出すアヤノ。口をポカーンと開けている。信じられないという感じだ。

「え、待ってどういうこと?」

 明らかに動揺している。俺はカオリに教わった事情を説明した。

「あ、だから今日即答だったのか……」

 納得したような表情。

「なら……可能性あるよね……」
「なんか言ったか?」

 微かに聞こえた独り言。ただ、その意味は理解できなかった。

「ん? なんでもない!」
「そっか」
「ほら、早く帰ろ!」
「あ、ちょ」

 右手を引っ張られて自然と走り出していた。午後四時を知らせる鐘の音に合わせ、夕日に飛び込む。
 笑顔で振り向くアヤノと目が合い、ドキッとした。夕焼けを背景にしたその笑顔は、いつにも増してキラキラしていたから。

「綺麗だな……」

 思わず本音が漏れた。しまった、そう思った時にはもう遅い。

「ば、ばか!」
「痛え!」

 乾いた音が空に轟いた。

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