淵より

加藤

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第一話 再会

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 一冊の本が僕の手から別の手へと手渡され、僕はそれをじっと見守っていた。隣には彼がいて、傍を離れずにいてくれた。また会いましょう。どうか無事で。僕たちは視線を交わして、また別々の道へと歩み出した。
 もし未来を知っていたとしても、僕はあなたに出会う世界を選んだだろうか。
 あなたに出会わなければ、急にどくどくと脈打つ鼓動の速さに死を予感して怯えたり、指名手配犯のようにこそこそ隠れて街を移動したりしなくて済んだ。静かで穏やかな森の奥で、ひとり、何にも心乱されずに生きていけただろう。でもあなたに出会わなければ、漆黒の宇宙空間にただ一つ瞬く金の恒星のような愛も、都市の建物群の中で一つ突出した幹のような友情も、知らないまま千年の時を生きることになっていた。木漏れ日の揺れが胸を締めつける。誰かの寝顔に涙が出る。そんな命の美しさも、なにも知らないまま。
 ルシェルは目を覚ました。
 森の朝は静かだった。遠くで葉のこすれる音がさああと流れていて、鳥のさえずりすら、霞む霧の向こうにくぐもっていた。霧は夜の冷気を孕んで地を這い、やがて淡く溶けるように陽に消えていく。
 シーツから離れると、肌寒いことに気がついた。椅子の背もたれに引っ掛けておいたカーディガンを肩にかける。ルシェルは戸口に立ち、淡い朝の光を受け止めた。
 空気は澄んでいるが冷たかった。木々の間を抜けてきた風が、薄手の長衣の裾を揺らし、銀色に輝く長髪の先を軽く遊ばせては去っていく。髪の隙間から覗く長く尖った耳の先は冷気にさらされ、少しだけ赤くなっていた。静寂が広がる。ここに一人で住むようになってから、この耳を満たすものといえば、風の音と森の囁き、そして薪が爆ぜる音ばかりだった。それから自分の足音。ゆったりとした一人分の呼吸の音。
 里を出てから、どれほどの月日が経っただろうか。
 指折り数えることはやめた。最初のうちは日付を記録していたが、やがて無意味だと悟った。時間を気にすれば気にするほど、この生活は長く続くのだと強く自覚することになるからだ。
 ルシェルは腕を伸ばして吊り戸棚を開け、乾燥させた薬草を取り出した。小さな鍋に水を張り、火にかける。しばらくすれば、ほのかな香りが小屋の中に満ちるだろう。
 机の上には、昨夜書きかけた書簡があった。書簡というよりも、独白に近い。彼が書いたところで、それを読んでくれる者はいない。それでも、言葉にしなければ押し流されてしまいそうだった。
 ルシェルはペンを手に取り、続きを綴った。
 ――なぜ我々はこんなにも排他的な思考に陥ってしまうのでしょうか? 僕には、知識を共有し、この世界に住むあらゆる種族と連携し、みなで平和を目指すことが、里の仲間たちが言うような夢物語だとは思えないのです。ましてやエルフの誇りを穢すなどと、どうして考えられるのでしょう? 我々の誇りとは? 人間を始めとする他種族を排除して知識と長命を誇示し生きる、それが「誇り」というならば、僕にはそのようなものは必要ない。だから――
 ふと手を止める。外で何かが動いた気配がした。
 ルシェルはペンを置き、窓の隙間からそっと森を見た。揺れる葉の間に、影がぐらりと動くのが見えた。獣だろうか。
 目を凝らす。そして静かに立ち上がると、警戒したままゆっくり玄関を開け、外へ出た。
 小屋は森の奥深くの、小さな泉のほとりに立っている。ルシェルはそこから離れ、水際をぐるりと回り込んで慎重に足を進めた。血の匂いがした。それは鋭く、鉄のような臭気を含んでいた。獣ではない、人のものだ。眉をひそめる。
 木の幹に寄りかかるようにして力なく倒れていたのは、一人の青年だった。茶色がかった黒髪が無造作に乱れ、精悍な体には無数の傷が刻まれている。傍らには鋭い目をした大きな狼が寄り添い、主人を守るように佇んでいた。その姿に警戒心を抱いたが、狼は牙を剥くことなく、ただ静かに青年を庇っている。まるで友だった。
「目を覚ましてください」
 ルシェルは青年に近寄り、額にかかる髪をそっと払った。
 すると、鋭い金色の瞳がうっすらと開かれた。
「……誰だ」
「あなたを助けようとしている者です。傷が深い。動かないでください」
 青年は苦しげに喉を詰まらせた。ルシェルは迅速に薬草を取り出し、治療を施し始めた。彼は抵抗することなく、ただルシェルの手元をじっと見つめていた。薬草が沁みるのか、時おり痛そうに歯の隙間から息を吸ったりしていたが、それでも大人しく治療を受け続けている。
「お前……エルフか?」
「そうです」
 答えを聞くと彼は黙った。
 その間、ルシェルは彼の見てくれをちらと見て再確認した。鍛え抜かれた四肢に、日焼けした肌、逞しい肩にかぶさった白狼の毛皮、傍らには相棒の大狼が控えている。今は地面に落とされている手の近くには短剣と弓矢があり、普段はそれらをしっかり身につけているであろうことは簡単に読めた。彼は狼族と呼ばれる一族の者だ。
 手が止まった。狼族は大狼と共存し、森を侵略し、獲物を狩り、時にはエルフたちと対立してきた者たちだ。
 一瞬の思考ののち、しかしルシェルは表情を変えず、処置を再開した。目の前の青年が敵であるか否か、それは今問題ではない。ただ一人の負傷者として適切に手当を施すだけだ。
「動かず、傷が癒えるまでここに留まってください」
「人間を助けるのか」
 狼族の彼は痛みに耐えながら、唸るように言った。
「エルフのくせに変わった奴だな」
「よく言われます」
 その答えを聞くと、彼は口の端を歪めるようにして下手に笑った。その微笑がルシェルの胸の奥をかすかに締めつける。このときはその疼きの正体をまだ知らなかったが、すでに疼いたということは、もうここにあったのかもしれなかった。
 彼が深く息をつく音を聞いて、ルシェルは安堵した。応急処置を終えて手を休めた。彼はそのまま目を閉じて、首を垂れた。主人の無事そうな姿を見て安心したのか、狼は音もなく走り去っていった。
 彼はハルドと名乗った。
 筋肉で重い彼の体に肩を貸し、一時的に塞いでいる足の傷が開かないよう気をつけながらなんとか小屋に到着すると、ルシェルは彼に椅子を用意した。ハルドはそこにどっかり座り、「悪いな」と呟いた。
 太陽の位置がいつの間にか高くなっていた。ルシェルは暖炉で揺らぐ火の様子を一瞥してから、鍋に水を汲んで湯を沸かし始めた。戸棚や引き出しに整頓されている薬草を取り出し、適切な量を見極め、湯に加える。ハルドは手際の良さに舌を巻くようにため息し、痛む足を庇いながら姿勢を変え、テーブルに肘をついた。
「お前、いつもこんなふうに他人を助けるのか」
 建前や儀礼のようなものが一切ない、率直な言葉だった。
 ルシェルは手を止めないまま、聞き返す。
「どういう意味ですか?」
「俺みたいなやつでも、何の見返りも求めず助けるのかってことだ」
「僕は薬師ですから。傷ついた人を治そうとするのは当然のことです」
「それが狼族でも?」
「今のあなたは、ただの傷ついた人です」
 ハルドは口を結び、何度か首を縦に振った。
「そりゃ、ご立派なことで」
「嫌なのでしたらこの飲み薬を捨てることもできますが」
 そう言い、ルシェルは、優しげな薄緑色の湯気を立て始めた鍋をハルドに見せた。
「それは?」
「痛みを緩和する効果があります。今のあなたには必要不可欠では?」
「そのとおりだ」
「では、嫌味を言わずそこでじっとしていてください」
 ルシェルは鍋に向き直った。
 その細い背中を眺めながら、ハルドが言う。
「エルフは薬を作るのがうまいって聞いたが、ほんとなんだな」
「そうですね。僕たちが創薬するものはいわゆる魔法薬です」
「俺たちみたいな魔法が使えない人間には作れない薬ってことか」
 低く呟かれたその言葉を聞くと、ルシェルはぴたと手を止めた。しかし何と返すべきなのかわからず、結局何も言わなかった。
 薬の調合を終えてカップに注ぎ、ハルドに手渡すと、彼はそのツンとした匂いを嗅いで眉をひそめたものの、もう文句は言わずに全て飲んだ。この人はエルフの出した物でも何の疑いもなく口にするのだな、とルシェルは包帯を片付けながら思う。思えばこの包帯だって、彼はやめろとも言わずに大人しく腕や脚に巻かせてくれたのだった。
 肩越しにハルドを振り向くと、彼は心底苦そうに顔をくしゃくしゃにしながら、空のカップをくるくる回して遊んでいた。かわいい人だなと思う。
「しばらくここで安静にしていてください」
 そう言うと、ハルドは目を丸くして口を尖らせた。
「ここに泊まれって意味か?」
 深く頷く。ハルドは首を左右した。
「そこまで世話かけらんねえよ」
「だってあなた歩けないでしょう」
「這って移動する」
「冗談のつもりなら滑っています」
 にこりともしないルシェルを見て、ハルドは「はいはい」と渋々言いながら肩を竦めた。
「エルフ様様、だ」



 数日が過ぎた。看護の甲斐あって、ハルドの傷は少しずつ快復しつつあった。始めは横たわるか座るかしているだけだった彼も、今では松葉杖を使いながら歩行できるまでになっている。
「お前の薬はほんとによく効くな」
「当然です。僕は薬師ですから」
 ハルドは苦笑しながら、ルシェルの差し出す薬草茶を受け取った。
「助かる」
 その呟きは妙にルシェルの胸に響いた。一人で暮らすようになって忘れていたが、元は他人の役に立ちたくて薬師になったのだった。こうして調合した薬によって活力を取り戻していく誰かを見守る時間ほど、幸福で満たされるものはない。
 ハルドは森の動物たちの扱いに長けていて、狼だけでなく、小動物たちも次第に彼を恐れなくなっていた。さすが狩人といったところか、狩りの腕前に驚かされることも多く、彼が作った簡素な獣肉の料理を口にしたときは、その味の素朴さに思わず微笑んだ。
「あなたは料理が得意なんですね」
「旅の最中に鍛えられただけだ」
 狼族の男は料理などしない、という偏見を脳から追いやる。
 ルシェルはスープの椀を両手で包み、手のひらを温めながらふんわりと微笑んだ。
「おいしいです」
 ハルドは驚いたように目を見開いたあと、ふっと小さく笑った。
 香辛料の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。火と湯気の熱気で暖められた部屋は空気が柔らかく、食後の脳をぼうっとさせた。指が若干むくんでいる。
「旅をしているのですか」
 ルシェルが聞くと、ハルドはこくこくと頷いた。
「一人になってからは十年近く経つかな」
「そんなに長い間、一人で旅を?」
「ああ」
 それだけ答えて、彼は黙った。テーブルの上の鍋敷きに置いたスープの揺れを眺めながら、頬杖をつく。
 狼族は一つもしくは複数の家族単位で構成された集落で暮らし、移動と定住を繰り返す生活を送っていると書籍で読んだことがあったし、実際にこれまで関わったことのある彼らは例外なくそのように生きていた。一人でいる場面は見たことがない。事情を深く聞いてもいいのか迷ってルシェルも黙ったが、結局「答えたくなければ何も言わなくていいのですが」と前置きし、静かに続けた。
「なぜ一人で?」
 ハルドは下唇を突き出してしばらくじっとしていたが、やがてぶつりと答えた。
「くだらねーって思って森を出てきただけだ」
「くだらねー?」
「あぁ」
 彼は口をへの字に曲げて「くだらねー」を大いにその表情に出しながら、低く言った。
「強い男が一族を治めて、弱い男と女と子どもはそれに付き従う。男は強ければ何やったっていい。女に乱暴しようと、子どもを馬鹿にしようと、なんだって許される。逆に弱ければ何もできない。女は綺麗なら他はどうでもいいし、子どもは駒。……そういうの全部、くだらねえと思った。だって全部同じ人間だろ?」
 ルシェルは言葉を選びかねた。
 静かに彼の金色の瞳を見つめる。金星のようだ、とぼんやり思った。明るく、熱く、近くて遠い。
 それから、今は引き出しの奥深くにしまったまま、ハルドの前では一度も取り出したことのない書きかけの書簡のことを思い出した。ルシェルはテーブルの影で拳を握る。むくんで少し丸くなった指がぎゅうと隙間を埋めて、普段とは違う感覚がした。
「ここにいてもいいんですよ」
「は?」
「あなたが望むなら、この森で生きる道もあります」
 ハルドの瞳が大きく揺らいだ。テーブルの隅に置いたランプの光が、彼の表情を淡く照らしている。
 その顔を真正面から見つめながら、ルシェルはゆっくりと言葉を続けた。
「無理に答えを出さなくてもいいです。ただ、あなたが傷を癒やし、心を落ち着ける場所がここにあるのなら、それでいいのではありませんか? どうせ僕はずっとここにいます。この生涯、あと何百年と」
 ハルドはまたしばらく黙った。鍋から立ち上る湯気の向こうで、彼の口元がわずかに緩んだように見えた。そして、
「お前はなんでこんなところに一人でいるんだ?」
 と、何気なく問う。
「エルフの里はもっと南だろ? エルフが里を離れて一人で暮らしてるなんて、見たことも聞いたこともない」
「それは」
 ルシェルは視線を落として言いよどんだ。彼には、その先を言葉にして続ける準備がまだ整っていなかった。
 その様子を見ると、ハルドはすぐにさっぱりと言った。
「ま、なんだっていい。片付けるか」
 ハルドは松葉杖を使ってのっそり立ち上がると、明日は何の肉にする? と何の気なしに背後に聞きながらずんずん歩いていった。途中で杖を放り出し、多少よろつきながら歩き続ける。やがて洗面台に到着すると、持っていた木のボウルを水に浸した。キッチンはルシェルの身の丈に合わせてあるため少し狭そうに、猫背になって食器を洗う。
 その背中を、ルシェルはずっと見つめていた。



 薬の効果か、ハルドはその後あっという間に傷を消した。松葉杖も用なしとなり、あっけなく焚き火の燃料となった。全回復とはいかないものの、順調だった。
 ルシェルはこっそり、この人は本当にこのままここにいてくれるのではないかと期待し始めていた。元々一人で生きていきたくてここにいたわけではない。孤独を好むことと、孤独に慣れていることは違う。だから椅子で本を読みながら、たまに横目で外を確認し、重そうな斧で淡々と薪を切るハルドの姿を眺めては、何も言わずに薄い唇をきゅっと結ぶのだった。
 ここで彼と時間を共にするたびに、自分の中の強張った部分が着々と溶けていくのをルシェルは感じていた。
 本に書かれていることが全てではないという当たり前のことを、僕は今突きつけられている気がします――そのように日記をつける。彼は狼族ですが、食糧調達の際にしか力を振るわず、基本的には寡黙で穏やかです。その食糧を前にしても律儀で、食事の前後には必ず何かに祈りを捧げています。エルフが信仰する自然の神とは別の存在でしょうが、僕は彼のそういうところを美しいと思っています。また手先が器用で、今日は小さな木彫り細工の狼の置物を「いらないからお前にやる」と言って僕にくれました。小屋に飾り、生涯大切にするつもりです。この日記を彼に読まれでもしたら、僕は置物を放り出してこの小屋から脱走するしかないですけれど。
 そんな静かな時を過ごしていたある夜、森の静寂を破る複数の足音が響いた。
 窓際で書簡を書きつけていたルシェルは敏感にそれを察知し、小屋の窓から外を覗いた。見慣れぬ男たちが森の奥へと進んでくる。大きな弓矢を背負い、銀色の狼の毛皮を羽織った逞しい体格だ。その装いはハルドと似ていた。
「ハルド」
 ルシェルは外を見たまま、慎重に声をかけた。
「あなたの仲間ではありませんか?」
 ハルドは暖炉の前で短剣を磨いていた手を止め、バッと顔を上げた。
「まさか」
 表情が険しくなった。彼はすぐに小屋の扉へと向かい、外へ出た。
 先頭にいた大柄な男は、ハルドの姿を見るなり大口を開けて声を上げた。
「ハルドか? お前、こんなところで何をしている?」
 彼の後ろには、三人ほどの男が立っていた。皆、鋭い視線を向けてきている。
「お前が消息を絶ってからどれほど経ったと思ってる。探し回ったんだぞ。ザカ様も心配してる」
「すまない。だが、俺は大丈夫だ」
 ハルドは、心配そうに玄関先にやって来たルシェルを背に隠すように立ったが、狼族の男たちは目ざとくそれを嗅ぎつけた。全ての視線がルシェルへと移る。その目には、明らかな警戒と敵意が宿っていた。
「まさか捕まってんのか?」
「違う」
 ハルドは鋭く言い放ったが、仲間たちの疑念は晴れない。
「何をされてる? こいつに何を吹き込まれた?」
「こいつは俺の命を救ってくれた。それ以上でも、それ以下でもない」
「信じられねえな」
 ルシェルは静かに彼らを見つめた。一歩前に出る。
「誤解です。僕は彼を捕らえているわけではありません」
 男たちの表情は変わらなかった。
「エルフは俺たち人間を見下してる。信用ならねえ」
「ハルド、お前は俺らの森に戻るべきだ。こんな場所に長くいると、まともな判断もできなくなるぞ」
 ハルドの表情が揺らいだのを、ルシェルは見逃さなかった。
 彼は首だけで振り返ってルシェルと目を合わせ、男たちに向かって「考えさせてくれ」と呟いた。
「何を迷う必要がある?」
 男が一歩踏み出し、ルシェルを睨みつけた。
「このエルフが魔法か何かでお前を惑わせてるんじゃないのか?」
 ルシェルは眉根を寄せた。
 ハルドが彼を守るように前に出る。
「馬鹿なことを言うのはやめろ」
 空気が張り詰めた。男たちは観念し、ハルドの両腕を掴んで無理やり引き倒した。まだ完全に回復していない身体では、ハルドが全力で抵抗するのは難しかった。もがく体を、仲間たちは躊躇なく押さえつける。
 ルシェルは駆け寄ろうとしたが、狼族の一人が短剣を抜き、鋭利な刃の先端を鼻の先に突きつけた。
「こいつは俺たちの仲間だ。お前のものじゃない」
 ルシェルは喉を詰まらせたが、すぐに言った。
「確かに彼は僕のものではありません。でも、あなたたちのものでもない。彼は自分で決めるべきです」
 狼族の男たちはルシェルに向かって罵倒を続けた。
 土の地面に膝をつかされたハルドが、黒の前髪が落ちてきている金色の瞳を鋭くルシェルのほうへ向け、一心に見つめていた。腰に括り付けた短剣がチカリと光る。森の木々の間からこぼれる月の光が睨み合う空間に嫌に綺麗に落ち、流れ、涼しげに踊っていた。
 その瞬間ルシェルは、今までこの小屋の扉に立っていた様々な瞬間の自分が今この自分に重なるような、奇妙な感覚を覚えた。そしてその中から進路を選び取る心地で、そっと頷いた。
 ハルドは瞬時に動いた。腕を押さえつけていた男を後ろに蹴り上げ、地面に倒してしまうと、すぐに立ち上がって肘で残りの二人を薙ぎ倒した。
 男たちが呻きながら起き上がろうとしている間に、ハルドはルシェルの腕を引いて走り出した。木々や夜の鳥たちが目にも留まらぬ速さで過ぎて行く。ハルドが腕や短剣で背の高い草を切り倒し、突進するように進む。ルシェルも懸命にその後を追った。
 二人は道なき道を一心不乱に走った。やがて森が徐々に開け、月光に照らされた銀色の草原に出た。
 足を止める。遠くからは、狼族の男たちが追ってきている足音が聞こえる。
「このまま森を出たら、もうここへ戻って来られなくなるかもしれない。お前は戻るか?」
 ハルドが上がった息のまま言った。
「あいつらはしつこい。俺は狼の森に戻るつもりはさらさらないが、お前にとってあそこは家だろ? 荒らされたりするかもしれない」
 ルシェルは乱れた呼吸で胸を大きく上下させながら、ハルドを見上げた。
「そうですね。あそこは僕の家でした」
「だったら」
「でももう、家だった場所以上の意味を見出せません」
「は?」
「一緒に行きます」
 このままここでハルドを見送る場面を考えた瞬間、胸が締めつけられるように痛んだ。
 彼と出会ってから、ルシェルの日常は骨格を変えてしまった。静寂に包まれていたはずの世界が、彼の存在によって色づき、温かさを帯びた。彼の声を聞くたびに心が弾み、彼の隣にいるだけで安らぎを感じた。少し丸まった背中を、土の匂いがする指を、忘れてしまうかもしれない未来がくることが怖くなった。
 家だったあの場所と彼を天秤にかけたとき、重く沈むのは確実にハルドのほうだった。
「あなたの旅に同行させてください」
 ハルドの見開かれた目が揺れながら、ルシェルをじっと見つめた。
 月明かりが片方から差し込んで、彼の鼻の影や目の窪みをくっきりと浮かび上がらせていた。その胸を打つ光景を見つめ返しながらルシェルは、ああこの人は、宇宙だ。と思った。美しいクレーター。金星を持つ星雲。この人と辿る天の川ならば、淵の深さもきっと愛おしい。



 夜の冷気が、肌を刺すように冷たい。
 ルシェルとハルドはルシェルの小屋のあった森を出てから、何日間も旅を続けていた。昼は陽の光に照らされながらのんびりと進むことができるが、夜になるとぐっと寒さが厳しくなる。今夜もまた、風が冷たく、凍えるような夜だった。
「今日はここで休むか」
 ハルドがそう言い、細い川の脇にある木々の影でテントを張った。途中ですれ違った陽気な行商人から購入した旅準備一式だった。地面に敷いた毛布の上に座ると、昼間の疲れがじわりと足に広がる。
 焚火の炎が揺れ、輪郭のぼやけた橙色の光が二人の影を地面に落としていた。火の温かさは心地良いものだが、それでも風は容赦なく体温を奪っていく。
「寒くないか?」
 ハルドが隣のルシェルを見た。
「少し。ですが、大丈夫です」
 彼はルシェルを観察するように見つめたあと、ふっと笑って、自分の毛布を持ち上げて広げた。
「寄れよ」
「え?」
「寒いだろ。近くにいれば、少しは温かい」
 心臓が変な方向に跳ねたのをルシェルは感じた。
「ですが……」
「遠慮すんなって。旅の途中で風邪なんか引かれたら困る。ふらふらしながら自分用に薬作ることになるぞ」
 そう言いながら、ハルドは半ば強引にルシェルの薄い肩を引き寄せた。ありがとうございますと小さく呟いて、ルシェルは彼の隣に身を寄せた。
 静かな夜だった。焚き火の燃える音だけが、ぱちぱちと響いている。
 ハルドの一挙一動に胸の奥が温かくなるのを感じた。焚き火のせいだけではない、優しいぬくもりが血管を染みわたっていく。
「体温が低すぎる」
 すぐ横でハルドが言った。
「エルフは皆こうなのか?」
「確かに、僕たちは平熱が低い種族だと言われますね」
「死んでるのかと思った」
「生きてますよ」
 ふふと小さく笑い、ルシェルは膝を抱えた腕に頬を落とした。
 川面に白い月光が反射してチカチカ揺れていた。大小様々な石や岩が転がる河原が、焚き火の熱と明かりを受けてのどかな顔でそこにいる。足元の草は少し湿っていて、夕立の名残りを控えめに示していた。
「あなたは故郷を出てきたと言っていましたね」
 焚き火から控えめに火の粉が舞う。
 ハルドは低く「ああ」と答えた。
「今後もこのまま、あてもなく旅を続けていくつもりですか?」
「そうだな」
 言い、ルシェルの丸まったうなじをチラと見やる。
「俺は、な。帰る場所もなければ行く当てもない、そういうのが楽だ」
「自由を満喫しているのですね」
 ルシェルは抱え込んだ膝を少し動かした。
「自由には責任がつき物です。素敵な生き方だと思います」
 静かな肯定にハルドは黙り、ただルシェルを見つめていた。
 そうして夜は更けていく。
 ハルドは旅に慣れていた。どの影にテントを張れば安全に一晩を越せるか、どういった茂みで狩りをすれば良い肉が手に入るか、銭の持ち合わせがないときの物々交換のコツ、心地良い宿の見つけ方、それら全てを熟知していた。
 だからそのあたりのノウハウは彼に任せて、ルシェルは専ら薬師としての務めに集中した。例えば宿屋に病の客がいれば安価で診たし、立ち寄った村に医者がいなければ薬を売った。
 旅を続けてしばらく経った日、二人はいくつか森を抜け、比較的大きな村へと辿り着いた。これまで立ち寄った集落よりも人の数が多く、道行く者たちの賑やかな声が耳に届いてきた。
「栄えている村ですね」
「このあたりじゃ一番大きいらしい。少し休んで、補給もしておこう」
 ハルドが周囲を見渡しながら言う。村の入り口には木製の柵が設けられ、見張りの者たちが槍を手にして立っていた。
 宿を確保する前に、まずは市場を覗くことにした。並んでいる品々は、ルシェルの暮らしていた森では見かけないものばかりで、興味深かった。香辛料や乾燥肉、新鮮な果実が所狭しと並び、人々の活気に満ちた声が飛び交っている。
 通りの奥にぽつんと建つ小さな宿屋が目に入った。看板の灯りは優しく揺らめき、まるで旅人を招くように温かい雰囲気を醸し出している。中はこぢんまりとしていたが、居心地の良い空間だった。暖炉の火がパチパチと小さく音を立て、木の家具には丁寧に磨かれた跡がある。
「いらっしゃい」
 カウンターの奥から、柔らかい声がした。現れたのは、白髪混じりの穏やかそうな人間だった。
「お二人さん、旅の途中かい?」
「ああ。泊まれる部屋はあるか?」
「あるとも」
 宿の主はゆっくりと微笑んだ。
 案内に従ってそっと部屋へ足を踏み入れた。木の温もりに包まれた小さな空間で、窓には厚手のカーテンが引かれている。扉を閉めると外の騒がしさが嘘のように遠のいた。久しぶりの屋根だった。安堵の息を吐くと、ハルドもふっと肩の力を抜いた。ルシェルは窓の隙間から外を見やり、ゆっくりと腰を下ろした。
 翌日は雨が降っていた。
 粒の細かい水滴が早朝からしとしとと染みるように降り続いていて、村中の空気を湿気でじっとり重くしていた。木造の屋根に雨水が当たって跳ね返る音は、森の奥では決して聞くことのなかった種類の音色で、ルシェルは起床してしばらくそのリズムをただ聞いていた。隣の寝台ではハルドがまだ寝ていて、深い寝息も聞こえてきていた。
 静かに窓を開けると、小雨の落ちるたたたという音が大きくなった。ひんやりとした微風がルシェルの髪をなびかせる。まだ薄暗い村は人気が少なかったが、もう起き出して店を開ける作業を始めている商店もあり、村全体がゆるやかに目を覚まし出しているようだった。
 布ずれの音がした。振り向くと、ハルドが寝返りを打ってこちら側に顔を向ける体勢になっていた。そっと歩み寄って掛け布団を肩にかけてやる。
 玄関先の待合スペースまで下りていくと、店主がルシェルの顔を見るなり「あんた、薬師だって言ってたね?」と声をかけてきた。どうやらこの宿の近くにある民家の子どもが、突然高熱を出して苦しそうにしているという。重い疫病かもしれないから診てやってほしいとの依頼があった。
 ルシェルが必要な物を用意しに急いで部屋へ戻ると、ハルドも起きてきたところだった。事情を話すとついて来てくれるという。
 子どもは古びた布団に寝転び、息をするのもつらそうに浅い呼吸を繰り返していた。すぐに処置をして薬を用意すると、早速多少楽になってきたのか子どもが礼を言う。最初はエルフが来たことで警戒していた家族らも、最後には感謝の意を述べてくれた。
 その足で市場へ向かい、食糧を調達することにした。
「なぜこのあたりの村には、医療という概念がないのでしょう」
 ルシェルが、店の前に干した果実を雨に当たらないよう避けて並べ直している商店を眺めながら、小さく言った。
 ハルドはその隣で、手持ち無沙汰に腰の短剣に触りながら辺りを見回している。
「薬師も医師もおらず、十分な薬もない、ましてや病床も。どうして?」
「お前がそれを聞くのか?」
 ハルドは少し棘のある言い方をした。
「良い薬を作れるのはエルフたちだけだろ」
「でも里には、街へ薬を卸したり、売人をして暮らしているエルフもいます」
「そんなの高すぎて買えるわけねえ」
「では、医学書は?」
「こういう村にそんな大層な本があるように見えるか? あっても字が読めなきゃ排便の後に使う紙と同じだ。字を勉強して読もうとする金があるなら今日の夕飯を買う。明日着る服を買う。そうやって生きてんだよ」
 それを聞くと、ルシェルは固く口を結んでじっと押し黙った。
「お前みたいに森で偶然見つけた人間を治療したり、金も取らずに村の子どもに薬をやるようなエルフは、他にいない」
 雨が徐々に強まってきた。
 ハルドがルシェルの腕をぐっと引き、雨避けのため、閉まっている店の屋根の下へ移動した。ルシェルはほうと息をついた。濡れた髪が頬に張り付き、湿った長衣が太ももに張り付き、気持ち悪かった。視界の端でハルドが上着を脱いだのが見えたので、ルシェルはその方向に顔を向けないようにした。
 墨をこぼしたように暗く曇る空を見上げる。
「僕は、知識は共有されるべきだと思っています」
 落ち着いた声でルシェルが言う。まるで、今この瞬間にこの言葉を話すことを一人で何十年間も練習してきたかのように、滑らかで微妙に機械的な喋り方だった。
「エルフ族は、百年程度しか生きることのできない他種族と違い、自然の神に選ばれた神聖な種族。その知識や魔法を他種族に明かすことは、一族の誇りを穢す。我々は他種族と交わらず、森で血統を守りながら千年を静かに生きるべき。……里で、そう教わってきました」
 ハルドが髪を掻き上げた。水の粒が黒髪の先から鎖骨に落ちて、そのまま肌を伝っていった。
 ルシェルは話し続けた。
「だから僕たちは、人間を始めとする他種族との関わり合いを極力避けながら、知識と長命を誇示し生きています。でも僕は、それが正しいことだとはどうしても思えない」
 空の灰色を見つめながら話すルシェルの横顔を、ハルドはじっと見た。
「あるいは、あなたのように旅を続ければ、僕のこの考え方が正しいかどうか確かめることができるかもしれません。もっと外の世界を見て、色々な種族の人と出会い、学ぶことができれば」
「……」
「ハルド、あなたの旅路に――」
 ルシェルは雲から目を離して、隣のハルドをぱっと見た。
 ハルドは雨水に浸った服を肌着含めて脱ぎ払っていて、上半身の素肌を晒していた。健康的に日焼けした肌が水分を弾いて瞬いている。鍛え抜かれた胸筋はバランス良く隆起していて、腹筋の窪みをちょうど水が垂れていくのが見えた。心臓の位置から左肩にかけて、タトゥーが彫ってある。黄金の瞳はルシェルを射貫くように見たまま、しっとりした髪は狼の毛並みのように流れ、前髪が目の上に少しかぶさっていた。
 ルシェルは、話の続きを言おうとして大きく息を吸った格好のまま、数秒間かちんと固まった。
「俺の旅路に、なに」
 ハルドが不思議そうに言う。
 ルシェルは急いで目を逸らした。気を取り直して再び話そうとしたが、何を言おうとしていたのかすっかり忘れてしまった。
「ええと……。……帰り、いえ、戻りましょうか? 宿へ。ええ」
 くるりと背を向け、ルシェルはそそくさと歩き出した。まだ雨は続いているのに、構わずずんずん先を行くその姿を追い、ハルドも早足に歩いた。
 部屋に到着すると、宿の主が二人分のタオルを用意してくれていた。ありがたく全身を隈なく拭く。ルシェルはどぎまぎしたまま着替え、椅子に落ち着いたが、やがて意を決したように立ち上がった。
「あなたに打ち明けないといけないことがあります」
 寝台に腰掛けて髪をガシガシ拭いていたハルドが、手を止める。
 ルシェルは少しだけ距離を保って、その隣に座った。
「僕は、あなたに惹かれているのだと思います」
「は?」
「正直に言うと、あなたに……ふ、触れたくなる瞬間もあります」
「待て待て」
 ハルドはタオルを放り投げ、一度腰を浮かせて座り直した。距離を詰め、真正面からルシェルを見る。
「急にどうした」
「僕がこういった状態のままこうして二人で旅を続けていたら、あなたに迷惑がかかるかもしれないので、今後どうするかを話し合いたいのです」
 ハルドは口を半開きにしたまま瞬きを繰り返し、戸惑った様子を見せていたが、ルシェルの表情が真剣そのものだと判断すると、「わかった」と首肯した。
「じゃあ、まずその、迷惑ってやつが何なのかを説明してくれ」
 ルシェルは頷いた。
「エルフは従来、エルフ同士であれば古いセクシュアリティの価値観に捉われず、里の中で恋愛や性愛に基づいた行為をします。それは当然、双方同意の上で行うものです。だから僕も、あなたが僕の感情を受け入れようとしない限り、あなたに対してそういった感情を示しませんし、性的同意を得られない限りそういった行動を取りません。ですが、もしあなたが、旅の同行者が自分に対してそういった情を持っていること自体が嫌な場合は、僕はあなたとは別々の道を行かないといけなくなり、つまり」
「お前ってクソがつくほど真面目だな」
 ルシェルはむっと口を結んだ。
「真面目は悪いことですか」
「そうは言ってねえだろ。そういうところがいいって言いたいんだよ」
「いい?」
 今度は、ルシェルがぽかんとする番だった。
「……いい?」
 繰り返す。
 ハルドは片口を上げてにやりとした。
「同意を得る、ね。こっちもとっくに同じ気持ちかもしれないって考えなかったのか?」
「同じ気持ち……?」
「ちなみに俺たち狼族は、一族の繁栄、血縁関係が第一だ。他種族と関係を持つのは裏切りになるし、同性の相手なんてもっての外、子孫を残す気のない奴は最悪殺される」
 ルシェルは瞬時に眉根を寄せた。
「だから、もし高貴なる我が一族の文化の通りに生きるなら、俺はお前と添い遂げられないわけだけど。でもそれってさ、くだらねーよな」
 さああという穏やかな雨の音だけが空間を支配した。湿度が高く薄暗い室内で向き合っていても、ハルドがいるだけで周囲がからりと照らされるようだった。
 そうだ。この人はこういう人だった。と、ルシェルは思う。納得できないことには従わず、今の自分がどうありたいかを迷わず選ぶ。だからこそあの日、ハルドはあの森にいたし、ルシェルはそんな彼と出会ったのだ。
 ハルドの手がゆっくり伸び、湿気で首に絡みついていたルシェルの銀髪をそっと避けた。彼は、少し首を傾けたその姿勢のままルシェルの口元を見つめると、ふっと視線を上げた。
「キスしていい?」
 今や雨音よりも、耳元で低く鳴り響く自分の心音のほうがうるさくなり、ルシェルは深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「ちゃんと確認してくれるのですね」
「お前の真似だよ。性的同意」
 ハルドが笑う。ルシェルは目を伏せながら首を伸ばし、ハルドの唇に自分の唇を押し当てた。彼はこんな雨模様の日でも体温が高いのか、触れ合う距離にまで近づくと、纏っている空気まで少し温かいような感じがした。触れ合うだけのキスが何度かあった。髪に触れていたハルドの手がルシェルの首に回り、うなじから後頭部に移って、ルシェルの頭を支える。彼は角度を変えて口付けを深めた。
 ルシェルが膝の上でぎゅうと拳を握ると、その上にハルドの手のひらがかぶさり、力を抜かせるように指を解かせた。同時に、食むように唇を唇で挟まれると頭がぼうっとして、体の芯がぴりぴり痺れて、全身がふやけるような感覚に溺れた。息が上がる。
 薄く目を開けると、至近距離でハルドと目が合った。
「……お前、自分が今どんな顔してるかわかってる?」
 何も言えないでいると、彼は低く続けた。
「俺とヤりたくてたまらないって顔してる」
 ルシェルは唾液を飲み込んだ。
 小さく震える手でハルドの腕に触れ、そこから上に滑らせて肩、胸まで移動する。筋肉の弾力があった。ハルドの肌は想像よりも固く張っていて、温かかったが、手のひらに吸い付くような滑らかさも持っていた。
 そのルシェルの様子をじっと見ていたハルドが言う。
「図星?」
 ルシェルは視線を上げた。
「はい」
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