24時間フィットボクシングがきっかけでKoiが始まる5秒前

三日月李衣

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24時間フィットボクシングがきっかけでKoiが始まる5秒前

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「ねえ、私とニンテンドースイッチでフィットボクシングしない?」
 たくさんのゲームソフトとゲーム機に囲まれたおもちゃ箱みたいな部屋で僕の目の前にいるサラサラの黒髪ロングのポニーテールの美人の同級生の真崎静(しずか)さんにフィットボクシングをしないかと、誘われた。僕は憧れの同級生の静さんにハツラツな笑顔で言われて、僕は「ええ?」と、戸惑った。
「私と二十四時間フィットボクシングやろうよ! 良い運動になって体力付くよ!」
「に、二十四時、間? どうしてなの?」
「星野シオンくん。今日は親が出張で二日間家開けてるの。明日は開校記念日で休みだから、明日の夜までフィットボクシングやろうよ」
「真崎さんの家に泊まれってこと? でも明日の夜までボクササイズするの?」
 僕の名をハツラツで愛らしい声で明日の夜までフィットボクシングをやろうと、お願いされて運動神経が鈍い僕は二十四時間もボクササイズなんて出来るのかと、静さんに問いかける。
「大丈夫よ。星野くんなら出来るよ」
 静さんにグイグイと渦潮みたいに引き込まれて、僕は静さんとニンテンドースイッチの人気エクササイズのゲームであるフィットボクシングをすることになる。

 時を遡って、桜の花びらが舞い散る東京の都立高校の春の新学期。高校二年生になった僕はクラス替えで高校のマドンナである真崎静(しずか)さんと同じクラスになった。
 真崎静さんはサラサラつやつやの黒髪ロングで背が百六十八センチのモデル体型でスポーツ万能で男女問わず人気のある美人だ。
 美人なのに決して奢らず、裏表のない明るい人で先生たちからも信頼されている。
 ごく普通で何も持っていない僕は静さんと同じ教室で一年間過ごすことになる。

 新学期が始まってから一週間後、隣のクラスの幼馴染であるメガネのオタクの林が僕のクラスの教室に入ってきた。
「星野ー! お前のクラスに高校のマドンナの真崎さんと同じクラスで良いな!」
 林がニヤニヤしながら僕に話しかけてくる。
 窓際の席に座っていた僕は、離れた席で他の女子と楽しそうにおしゃべりをする静さんを見つめながら、
「う、うん。君こそクラスに可愛い子いるだろ?」と頷く。
「いやー。いねえよ。性格ブスばっかで、お先真っ暗さ」
 林がガッカリしたような顔で性格ブスなんて言うから、僕もちょいと嫌な気持ちになる。
「いくら性格ブスでもオタクだったら話し合うかもよ」
「いや、うちの性格ブスの女子たちはイケメン声優ばっか追っかけているから、クソだ。
 何でブスはイケメン声優たちを追っかけするんだろうな。イケメン声優なんて、容姿が良くてイケボでハロー効果のおかげで人気があるだけだろ。」
「そうだよな。林は怪獣オタクだもんな。ゴジラとかウルトラマンの怪獣オタクだもんな。女の子はカッコよくてきれいなものが好きなんだよなー。しょうがないか」
「お前もゲームオタクだろ。毎日ゲームして楽しんでるもんな。最近買ったゲームあるか?」
「ああ、最近はファイナルファンタジー7のリメイク版買ったよ。ティファちゃんが可愛くてなー。あんな健気な子いたらいいのになー」
 僕と林はハハハと笑いながら、オタク話をしていた。
 その向こうで僕のクラスの女子たちが机でワイワイおしゃべりしていた。その中に静さんも女子たちの輪に入っていた。
「ねえねえ、静は立川の男子バスケットボールのチームの嵯峨島選手のファンなんだよね?
 あたし、来週に有明の試合観に行くんだ。あんたも行かない?」
「ホント? 私も観に行きたいー! チケットある?」
 静さんが大きな目を輝かせて推しのバスケットボール選手が出場する試合に行きたいと、友達の金髪ギャルメイクの女子に言う。
「私も行きたいよ。あんたらだけじゃずるーい!」
 自分も行きたいとねだる三つ編みのメガネ女子に金髪ギャルメイクの女子が、両手を合わせて「ごめんねー。チケット二枚しかないんだ。今度三枚チケット予約するようにするよ」と、謝る。
 楽しそうにガールズトークをする静さんの姿を見て、
「真崎さんって、スポーツ好きだよね。女子テニスやってて関東大会優勝したことあるんだよなー」と、僕は羨ましそうに言う。
 僕はヒョロガリで背もそんなに無い。背が高くてモデルみたいなカッコいいスタイルの静さんと比べると、僕は冴えない男だと感じる。
「お前もなんかスポーツすれば? ドラゴンボールみたいに格闘技やるとかさ? 那須川天心みたいに強くなれば、女子にモテるぞ?」
「そうなんだけどなー。格闘技したいけど練習きつそうだから嫌だなー」
 林に格闘技すればモテるとか、面白そうに言うけど僕は体力ないから無理だし、どうすれば静さんに近づく事が出来るのか、知りたいよ。

 一学期が終わりそうになり、僕は静さんに一度も声をかける事が無かった。僕は休み時間はニンテンドースイッチでゲームをして時間を潰していた。
 パズルゲームばかりやっていて、家ではファイナルファンタジー7のリメイク版を一人でプレイしていた。
 クラスには友達がいないし、林も新しい友達と遊んでいるからつまらない日々を過ごしていた。
 今日の昼休みも教室で一人ゲームしていた。
 ニンテンドースイッチでスイカゲームをしていた僕は、果物を集めて大きくしてスイカにしようと操作していた。なかなかスイカにならなくて、モーと怒りたい。
 そんな時、僕の鼻にさわやかな石鹸の香りが漂ってきた。
「ねえ、そのゲーム、面白いの?」
 裏表のないさっぱりとした声で僕に話しかける声が聞こえる。
「え?」
 僕は顔を上げたら、目の前には静さんの姿があった。
「星野くんはニンテンドースイッチでゲームしているんだね。今、何のゲームしてるの?」
 静さんがにこやかに微笑んで僕に話しかけてくる。僕は憧れの静さんに声をかけられて、
「あ、ああ。す、スイカゲームプレイしているんだ」と、声を震わせて言う。
「スイカゲーム!? 私もスイカゲームやっているんだ。私、結構得意だよ」
「ほ、本当かい?」
「私もプレイしてもいい?」
 静さんに煌めく瞳で見つめられて、僕は「は、はい!」と、ニンテンドースイッチを静さんに貸してあげた。
 静さんはニンテンドースイッチでスイカゲームをやっていた。彼女の操作さばきはシュバババと速くてどんどん果物を大きくさせてスイカを何個も作って消しまくっている。
 昼休み時間が終了のチャイムが鳴って、「うーん! すごく面白かったよ。ありがとう」と静さんにお礼を言われる。
「そ、それは良かったよ」
 静さんに笑顔でお礼を言われて、僕は嬉しくて胸をドキドキしていた。だってこんなかわいい子からお礼言われるなんて夢にも思っていなかったから。
「今度、私の家に行かない? 今週の日曜の次の月曜は開校記念日だから二日遊べるね。
 私の家にゲームいっぱいあるから、一緒に遊ぼうよ」
 突然、静さんから静さんの家に遊びに来てと、誘われて僕は「え、ええ!?」と、眼を点にする。
 僕は憧れの静さんの家に遊びに行けるなんて、ともしかしたら脈ありか! と飛び上がりそうになる。
「い、良いの?」
「うん。良いよ。私はゲーム好きな人を家に呼びたいし」
「お、親は怒んない?」
「私の両親は今、外国に出張に行ってて、家には私一人だけ。好きなだけゲームしていいよ」
「ほ、本当に良いの?」
「じゃあ、約束だよ」
 僕は静さんの家で静さんと一緒にゲームをすると、静さんと約束した。
 次の授業が始まり、僕らはいつも通りに授業を受けていた。僕は可愛い静さんがゲーム好きだなんて、スポーツ少女のイメージが強くてギャップが良い子だなと思っていた。
 僕は楽しみで仕方ない。家に帰っても静さんの事ばかり考えていた。こんな冴えない僕に声をかけてくれる女の子がいるなんて、とお風呂に入ってもご飯食べても、部屋でファイナルファンタジー7リメイク版をプレイしている時も、静さんの笑顔が離れられない。
 それまで待つんだ。静さんにガッカリさせないように気を引き締めていこうと、僕は夜空の星に誓う。

 ついに日曜日になった。静さんの家に遊びに行く日が来た。
 僕は顔を洗って、髭と眉毛をそって清潔感ある顔に整えた。父親の髭剃りシェーバーと眉毛ばさみを借りたから、父親に感謝しないとな。
 服もシャツをアイロンでしわを伸ばして、ピンシャキにした。パンツも黒の細身のパンツでカッコよく決めた。
 静さんに褒められたくて、僕はオシャレした。
 洗面所の鏡に映る僕は、ちょっとイケメンになった感じかな。
「これで良し!」
 僕は家を出て、静さんと待ち合わせしている品川駅前へ歩いて行った。
 
 日曜日の東京都品川駅前は、東京都民と海外からやって来た観光客がたくさん駅へとやって来る。
 品川駅前で待ち合わせする僕は、静さんはどんな格好で来るのかなと、頭の中で思い浮かべていた。白のワンピースか華やかなピンクのワンピースとか、それともマニッシュな格好で来るのかなと、僕は頭の中で思い浮かべていた。
「星野くーん!」
 ピンクのシャツに長い脚が生える黒のスキニーパンツをまとった静さんが僕に声をかけてくる。
「静さん」
 僕は静さんの方へ向かった。
「お待たせ! 待った?」
「い、いや。今来たところ」
「私、この日を楽しみにしてたの。今日はいい天気で良かった」
 滑らかな肌を引き立たせるピンクのシャツを着ている静さんは、僕に太陽の様な明るい笑顔で接してくれる。
「あ、星野くん。今日はいつもよりおしゃれだね」
「そう?」
「眉毛シャープでカッコいいね。男らしくなって良いね」
「本当? う、嬉しいな」
「じゃあ、私の家に行こうか」
 僕と静さんと一緒に静さんの家まで歩いて行った。

 品川駅から歩いて十分、住宅街に入った僕らはすごく大きな一軒家の前に来た。
 高級そうな一軒家の門の表札には真崎の表札が書かれていた。
「ここが私の家」
「す、すごく大きな家だね」
 静さんがこんな家に住んでいるなんて、相当お金持ちの家の子だなと、僕はすごいと思っていた。
「暑いから家の中でゲームしようよ」
 静さんにグイグイと押されて、僕は初めて異性の家に入ることになる。
 
 静さんの自宅にお邪魔した僕は、今までにない世界を目の当たりにする。
 玄関がとても広くて靴が無くてスッキリしていて、白い壁には訳の分からない抽象的なアート作品が飾られていた。高級な舶来品の花瓶に入れられた綺麗なお花が飾られていて、静さんの実家は本当にお金持ちなんだなと、感じる。
「私の親は、東京の外資系のIT企業で働いていて、毎日忙しいの。でも、お給料は良いよ。日本の企業で働いたら一軒家買えないからね」
「良いなあ。外資系企業かー。羨ましいー」
 僕の両親が外資系のIT企業だったら、僕の実家ももっと広い家に住めるのになーと、羨ましくなる。
「私の部屋は二階だよ。さ、上がって」
 僕は静さんに言われて、二階へ通じる階段を上がった。
 二階に上がり、ドアノブにしずかと書かれたお花のネームプレートが吊るされていた。
 静さんは、そのドアノブをかけてドアをキイと開けた。
「入ろ」
 静さんに手を握られて、僕はドキッと顔が熱くなる。は、初めて女の子に手を握られたと、内心興奮する僕は、静さんに連れられて静さんの部屋の中に入る。

「うわぁ!」
 静さんの部屋の中に入った僕は、思わず大きな声を上げた。
 大きなテレビにゲーミングパソコンが置かれたデスク、ニンテンドースイッチやⅩBOX、プレイステーションやスーパーファミコンなどのレトロゲーム機、色んなゲーム機のソフトがずらりと置かれてある。
「私は小さい頃からゲームオタクで、親もゲームオタクでよく親とゲームしてたの」
「本当? 僕と同じゲームオタクで仲間だね」
 僕は同じゲームオタクの静さんと、意気投合する。
 静さんはテレビの電源を着けて、ニンテンドースイッチの電源ボタンを押す。
「私は最近は、フィットネスゲームが好きでこれ、プレイしているんだ」
「?」
「じゃーん! ニンテンドースイッチのフィットボクシングを休日にボクササイズやっているの!」
 テレビの画面に任天堂のフィットボクシングの画面が軽快な音楽と共に現れた。
「おお、ニンテンドースイッチのフィットボクシングかー。ボクシング好きなの?」
「そう。ボクササイズは有酸素運動だから、気分転換になっていいよ」
 フィットネスゲームにハマっている静さんは、生き生きとした笑みを浮かべて僕に言う。
「あなたはフィットボクシングやったことある?」
「うーん。ないねえ」
 僕はフィットボクシングのゲームをしたことが無いと、首を振って言うと静さんはフーンと言って「じゃあ」と、僕の顔をジーッと見つめる。
「私と一緒に二十四時間フィットボクシングやらない?」
 静さんから僕にもう一つのJoyーConアタッチメント渡された。
「え、ええ!?」
 僕は驚いた。二十四時間もフィットボクシングをやろう、だなんて、思いもしなかったから。
「どうして、二十四時間なの?」
「星野くんはいつも座ってゲームばかりしていると、体が固まってしまうよ。体を動かして、健康になろうよ」
「僕は、運動あまり得意じゃないんだ。ましてやボクシングだなんて」
「大丈夫だよ! 最初は初心者コースから始めるから、すぐに慣れるよ」
「でも」
「もし、私と二十四時間フィットボクシング出来たら、あなたの願いを叶えても良いよ」
「え?」
「約束するよ」
 静さんが笑いながら僕の願いを叶えてあげると、言われて僕は戸惑う。二十四時間フィットボクシングできたら、僕は静さんに告白できるのかな? と下心が入る。
 僕はしばらく考えて、静さんにこう言った。
「本当なら、僕は頑張ってみるよ」
 僕がフィットボクシングするよと、言うと静さんはウンと頷いた。
 静さんはJoyーConアタッチメントで画面を操作して、フィットボクシングのトレーナーを選んだ。静さんが選んだトレーナーは、金髪の細マッチョのイケメンでしかもイケボボイスの男性声優が〈おう! 俺と一緒にボクシングやろうぜ!〉と、男らしい声で言ってくるから、僕の事なんかどうでも良いのかなと、ガッカリする。
 静さんがJoyーConアタッチメントを操作して、初心者ステージを選択した。
〈さ、まずはウォーミングアップだ!〉
 イケメンのトレーナーが、拳を構えてジャブを繰り出す。
「星野くん。JoyーConを持ってジャブを繰り出して!」
 静さんがJoyーConを持って、ジャブを繰り出しているのを見て、僕もジャブを繰り出した。
〈次はフックだ!〉
 画面のイケメントレーナーがイケボで、フックを何発か繰り出してきた。僕と静さんもフックを何発か繰り出す。
 静さんは慣れたフォームでフックを繰り出していて、僕はすごいなあと感じていた。
〈次はジャブ二回、フック二回、アッパーだ!〉
 僕と静さんは画面のイケメントレーナーのボクササイズの通りに腕を動かす。ボクササイズは初めての僕でも少しずつやり方が分かってきた。

 一時間くらいかるめステージを終えて、僕の体がポカポカと暖まってきた。座ってゲームばかりしていた僕は、体を動かすゲームをしてなんか楽しいかもと、感じた。
「まだ一時間しかやっていないよ。あと二十三時間やるよ!」
 まだまだ元気の静さんが僕にあと二十三時間やろうと、次のレベルのステージを選択する。
 いつも通りけステージに入り、僕と静さんはボクササイズを開始した。
〈右ジャブ二回、フック二回、左ストレートだ! ファイト!〉
 画面のイケメントレーナーの熱いボイスを受けながら僕と静さんはそれの通りに動きを繰り出す。結構肩に来る。四時間くらいやって僕の顔が汗でびっしょりになる。息も荒くなる。
〈今、諦めるのか? お前はまだまだそんなものじゃないだろ!?〉
「う、うう……」
 フィットボクシング始めてから五、六時間くらい経っている。普段体を動かさない僕の体は悲鳴が上がっていた。
「どうしたの? 疲れたの?」
「は……はあ、結構肩に来るね……」
「まだ頑張れるでしょ? あなたの願いを叶えるために頑張るのよ」
「うう……はああ……」
 体が熱い僕はジャブやフックを繰り返し、汗が滝のように流れて水分がなくなっていくのが分かる。それなのに静さんは全然疲れを見せずに、軽やかなパンチを繰り出していた。
 す、すごい。しなやかな体からパンチやキックを繰り出す静さんの姿はとてもカッコよく見える。
〈君は頑張れる! お前の力はまだそんなものではない! もっとパンチを繰り出せ!〉
 画面のイケメントレーナーのイケボの声援を受けながら、僕は熱さでふらついた体を必死に立ち上がって、パンチやキックをした。
 僕たちはボクササイズをして、九時間以上経っていた。静さんが、「少し休憩しましょう」と、僕に飲み物を差し入れするために部屋を出た。僕は床に座り込み、ハアハアと息を切らしていた。部屋の外はすっかり夜になっていた。フィットボクシングを二十四時間やらなければ僕は家に帰る事が出来ない。もし、二十四時間フィットボクシング出来たら、静さんとお付き合いできる願いを叶えてくれるなら、と邪な考えが僕の頭の中でグルグルと回る。
「星野くん!」
 静さんが部屋の中に戻ってきた。
「は、はい」
「アミノ酸とクエン酸入りドリンクです!」
 静さんが、大きなタンブラーにキンキンに冷えた飲み物を僕に渡してくれた。
「あ、ありがとう」
「体の疲れと水分補給ができるドリンクだよ。さあ、喉乾いているでしょう? 飲んで」
 静さんにそう言われて、喉が渇いてしょうがない僕はすぐにアミノ酸とクエン酸入りのドリングをゴクゴクと飲んだ。
 ドリンクはキンキンに冷えて、サッパリとした味でのどの渇きを潤してくれる。久々に水分をとって汗が流れて乾いた体の中に水が入り込む感じがした。
「お、美味しい」
「良かった」
「じゃあ、また始めようか」
 静さんが汗を手で拭いながらJoyーConで画面を操作して、おもめモードを選択した。
〈よう! このモードはかなりハードだけど、君ならできる!〉
 イケボトレーナーのイケボでそう言われても、僕はもう肩が痛くて、足も痛い。
〈まずは右ストレート! 左ストレート! フック二回! ダッキング! ファイト!〉
 うるさいな! いくらイケボで応援されても、こっちは体のあちこちが痛いんだよ!
〈どうして諦める? キミの力はそんなものではないぞ! 諦めるな!〉
 もう! うっさいな! お前を殴ってもいいか? と叫んでやりたいよ。
「どうしたのよ? もうやめたいの?」
「静さん……は、あ、あ……」
「星野くん! 頑張って! キミならできるよ!」
 静さんが長い腕でボクササイズをやって、爽やかな笑顔と甘い女の子の香りが漂って、疲れている僕に一時の癒しがやって来る。
「はあ! はあああ!」
 僕はひたすらパンチとダッキングを繰り返した。窓の向こうは深夜の丑三つ時になりそうで、あっという間に時間が過ぎていた。
「まだだ! 僕は……ぼくはぁあああああー!」
 ひたすらパンチを繰り返す僕の頭の脳内ホルモンが、ドーパミンだがエンドルフィンだか良く分からないけどドバーッと溢れてきて、気持ちよくなっていく。
 僕の目の前が強烈な光と星空が現れて、僕は天に舞い上がるほど、体が軽い。
 もしかして、これがランナーズハイとかかい? もう僕の脳と体はハイになっている。
 僕はひたすらパンチとキックとダッキングを繰り返して、快感フレーズ状態だ。

「……星野くん……星野くん!」
 静さんが僕を呼んでいる。僕の目の前が眩しい光があふれている。僕はどうしたんだ?
「星野くん……しっかりして!」
 静さんが僕の手を握って、呼んでいる。
「う……」
 僕は眩しい光に包まれながら、目を開ける。
「星野くん!」
 僕が目を開けると静さんが心配そうな顔をして、僕を呼んでいる。
「あ……あれ? ぼ、僕はどうしたんだ?」
 僕はゆっくりと起き上がる。あんだけ体を動かしたのになんか体が柔らかくなったような気がする。いつもゲームやって肩こり気味だった僕の肩がスムーズに動かせるようになっている。
「大丈夫なの? 二十四時間フィットボクシングして気を失って」
 僕は静さんに慈悲深い眼で見つめられて、思わず照れる。
「え? ぼ、僕は二十四時間フィットボクシングやっていたの?」
「覚えてないの? 星野くんは二十四時間フィットボクシング出来たのよ!」
「……ほ、本当!?」
 嘘だろ? 運動していない僕が二十四時間フィットボクシング出来たのか? 窓から見える正午の太陽がサンサンと照らされているのが見える。
「僕は二十四時間フィットボクシング出来たのか」
 静さんがうんうんと答える。
「星野くんはフィットボクシング初めてなのに、二十四時間できて凄いわ……」
 静さんにギュウッと僕の体を抱きついて、僕は思わず興奮して天国に行きそうになる。
「もうおもめのコースを全てやり遂げて、本当にあなたはすごいわ」
 静さんにキラキラと輝く目で褒められて、僕のマインドゲージが一気にMaxに伸びた。
 僕はもうこれはチャンスと思い、静さんの手を握り
「え、え……じゃあ、僕の願いを叶えてくれるのかい?」と、迫る。
「うん」
「どんな願いでも良いよ」
 うるんだ瞳で見つめる静さんにそう言われりゃあ、僕は言うしかない。
「そ、それじゃあ……」
 僕は背筋をピンと伸ばして、一呼吸して
「あの、実は僕はずっと静さんのこと好きだったんだ……いつも明るくてスポーツ出来て、憧れていたんだ。僕は静さんとお付き合いできたら僕の冴えない人生に光りを与えてくれるかなあと、思って。もし良かったら、僕とお付き合いしてくれませんか? 僕は浮気もしないし、暴力振るわない! 一生静さんを愛します! お願いします!」と、静さんに僕と付き合って欲しいと、真剣な愛を告白した。
 静さんは僕からの告白を聞いて、一瞬目を伏せる。もしかして駄目かもと、僕は動揺する。
 しばらく静さんは黙ったままで、僕はもう一度告白し直そうかなと思うが、そこは我慢する。
「いいよ。私も君の事好きだったんだ」
 静さんがうるんだ瞳で僕の手を握り返す。
「あなたはいつも好きなゲームを楽しんでて、好きを大切に生きる人でカッコいいと思っていたんだ。私も好きなゲームを一緒に楽しめる人とお付き合いしたかったんだ」
「ほ、本当かい?」
「好きだよ」
 静さんが僕の顔に近づいて、チュッと僕にキスをする。
「僕も好き」
 僕も静さんにキスをお返した。
 僕は同じゲームオタクの静さんと楽しいKoiが始まった。
 僕の未来はとっても明るい。好きを大切にしてよかった。
 フィットボクシングありがとう。
 
 
 
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