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「うま! ただのジャガイモなのに、なんでこんなに美味しいの!?」
「ジャガイモばっかり手に入るから、ジャガイモの扱いに慣れてるんですよ……」

ジャガイモしかないのかと文句は言われるが、手持ちの食材がジャガイモしかない。【デイリーボーナス】が【レジェンドデイリーボーナス】に切り替わってしまったから、出るアイテムも変わってしまった。

ジャガイモは、ちょっと遠出する必要があるが、草原に自生しており、掘れば出てくる。食べ飽きてはいるが、ジャガイモのおかげで、飢え死にしなくて済んでいるようなものだ。

ニンジンは「下界の飯も悪くないな!」と食欲旺盛な女神エレノアが全部食べてしまった。仕方なく、ジャガイモ尽くしの料理を作っているのだが、女神エレノアは上機嫌で、もりもり食べた。

「あんた、良い旦那さんになれるんじゃない?」
「予定はないけど、ありがとう……。すみません、ちょっと気になるんですけど、なんでマイ箸とマイ皿を持っているんですか?」
「必要だから、創った。どう? これさ、可愛いでしょ~?」
「そんなことにスキルポイント使わないでくださいよ!」

女神のスキルポイントは貢物をすればするほど増えるらしい。ジャガイモを食べさせたから、少しだけスキルポイントが増えたのに、せっかく増えたポイントがきれいさっぱり使われていた。

ユーリイはぷっつん切れて、こう言った。

「僕は敬虔な女神様の信者ですからね。お供え物をして、今日あった出来事を、お姉さまに御報告を……」

「待った……! 待ったあああああ!! もうしない! もうしないから!!」
「……今度からスキルポイントを使う際は、僕に一言言ってくださいね。おかわりが欲しいなら、まだいっぱいあるので、食べてくださいね」

ガタガタ震えだす女神エレノアを哀れに思い、ユーリイは少しだけクールダウンした。

食事を終え、ユーリイは孤児院の自室にエレノアを招いた。エレノアの姿はユーリイにしか見えないようだったが、それでも寝泊りする場所は必要だろうと思ったからだった。
年長であるユーリイの部屋はそれなりに広く、エレノアが寝るスペースぐらいはあった。

「殺風景な部屋ね。……これは何?」
「ああ、それはお恥ずかしながら、小説ですよ」
「へー こうゆうの好きなんだ? 私も好きだよー」
「漫画と小説を読んでるって言ってましたもんね。どんなのが好きなんですか?」
「悪役令嬢系だよ! それ以外は勝たん!!」
「へんな言葉も覚えちゃって……」

ユーリイは前世のことを懐かしく思った。前世は前世で楽しい人生だったからだ。

「小説を書いている途中でこちらに来てしまったので、つい書いてしまうんですよね。続きを待っている読者様もいただろうに、せめて完結してからこっちに来たかったですね」
「ちなみに、どんな作品を投稿してたの? 作者名は?」
「え? いや恥ずかしいんで無理です」
「続き書いてあるなら、代理で投稿してあげるよ。こっちに来てかなり時間が経っているだろうけど、時を司る神に友達がいるから、そいつに頼めば時間を遡ることも出来るし」

女神エレノアの提案に、ユーリイは目をパチクリさせた。

「本当ですか? こちらに骨を埋める覚悟でしたので、それが出来るなら助かるんですが。紙もどんどん貯まっていくばかりだったので」
「今回の件は全面的に私が悪いしね。そのぐらいはしてあげるよ」
「えーと、たしか作者名は……、厚切りブロックって名前にしてましたかね」
「お肉好きね……」
「はい……」

だからこそ野菜しか食べれない生活は辛いものがある。前世では両親がキャンプが大好きな人達で、近所の激安店で肉をいっぱい買ってはバーベキューをしていたから、なおさらだ。
きっとエンゲル指数は高かっただろう。

「って字小さ!?」
「紙も貴重品なんで、そんなに使えないんですよ。友人が生産スキルを持っているので、ご厚意で作ってくれるんですけど、何時までも甘えていても悪いし、そろそろペンを折ろうかと思っていたところなんです」
「へー」
「まぁ、こうゆうところに住んでいると、創作意欲が湧くというか……気が付いたら羽根ペン持ってますね。たまに挿絵とか表紙も描いたりするんですよ」
「ねぇ、それちょっと見せてよ」

食い気味にエレノアが顔を近づけるので、ユーリイは眉を八の字にした。

「ええ……なんかちょっと恥ずかしいなあ」
「いいから見せてってば」
「下手の物好きというやつですよ。下描きも着色も出来ないから、一発描きに近いですし」

ユーリイは描いた絵をエレノアに見せた。エレノアはその絵を見るとプルプルと肩を震わせ、土下座した。

「神いいいいいい!!! なんでもやるから、もっと描いて!!!」
「え、ちょっと、神様は貴方でしょう! 土下座はやめてくださいよ!!」

神エレノアのユーリイへの態度は百八十度変わったのだった。

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