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天眼

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Aエイ……貴方は男でもいいんですか?」
「男というかCシーがいい」
「その性欲、どこかで発散してきなさい!!」

そして俺は部屋を追い出された。どこに行けと。
町に行ったら俺の姿を見ただけで、人間は失禁するのだ。

「どこで抜けばいいんだ? Cシーで抜きたいんだけど」
「私はだめです! 自分で考えて下さい!!」と言われた。

まるで猫が毛を逆立てるように、Cシーは扉をバタン、と閉めた。

「冷てぇなあ。2回も抱かせてくれた仲じゃん」
「聞こえてますからね!? それ父上や他の兄弟には、絶対に秘密にして下さいよ!!? ばらしたら殺しますからね!?」
「おー殺せるもんなら殺してみな」
「私を脅す気ですか!?」

般若の表情をしたCシーが、ドアの隙間からナイフを飛ばしてきて、眉間に刺さった。避けようとしたが間に合わなかった。恐るべき早業だ。
ぴゅーと噴水のように出血した。
おお、痛い。表面とはいえ、俺の皮膚を切り裂くとか、中々良い業物じゃないか、このナイフ。なんでさっさと襲われた時にやらなかったんだろう? 足止めぐらいにはなっただろうに。

俺はナイフを取ると、ヒーリングをした。

「ヒステリックだよなあ。こうゆうとこ、無自覚に女なんだよな、あいつ。あーでも可愛い」

あいつにとっては葬りたい過去の1つなのかもしれないけど、俺はCシーが好きだし、傍に置いて、ずっと抱いていたい。
気持ちを落ち着かせたくて城の中をうろうろ歩いてから、ハートリアの部屋を訪れた。

「久しぶりね、Aエイ。……どうしたの?」

ハートリアは突然訪れた俺を温かく迎えてくれた。ハートリアは俺の母親だ。たまに様子を見に訪れるので、交流は続いている。
俺だけでは抱えきれなくなった気持ちを彼女に吐露し、俺はふて寝した。ハートリアは、何も言わず、ポンポンと頭を撫でてくれた。

翌日、俺は気晴らしに、城の外へ行ってみることにした。

「ん? Cシーじゃないか。何をしているんだ?」

今日は良い日だ、Cシーに2日連続で逢えるなんて。しかも珍しいことに、人間の女に変化してる。

Aエイ。……貴方にやられっぱなしは嫌なので、そろそろ本腰いれて、新しいスキルを入手しようかと思いましてね。ほら、あそこの人間。良さそうなスキルがあったので、コピーしようかと」
「へぇ~ どんなスキルだ?」

Cシーのこういった向上心は見習うべきところがある。俺もCシーも、まだまだ強くなれるだろう。

「ほら、あそこの帽子を被ってる人間が持っているやつですよ。大したことのないスキルですが、まだ入手していないスキルは全部コピーしたいんですよね。それだけ選択肢が広がるということですし。……あ、Aエイも欲しいです? 欲しいなら私がコピーしてからにして下さいね」
「ところでどうやってスキルコピーしてるんだ?」
「気になります?」
「ああ、まあな……いや教えたくないなら別にいいぞ」

天眼はCシーにとって特別なスキルだろう。Cシーが不利になるような情報が含まれるなら、こちらとしても望むところではない。

「いえ、Aエイなら言いふらさなければ別に問題ありませんよ。どうせ貴方からは取れないんですし」
「言いふらすとか、そんなことするわけねーだろ」

……けっこうCシーにはやばいことやらかしてるはずなのに、まだ信頼されてるんだなあ、と嬉しくなった。
この信頼をぶち壊したくなくて、俺はもがいているのかもしれない。

「じゃぁ見ていてください。相手が男だったら、この姿が楽なんですよね」
「ああ、そのために変化したのか……」

俺は黙ってCシーがすることを見ていた。すべてが終わるまで手を出さなかったことを褒めて欲しい。
まずCシーは誘惑のスキルを使って、その男を虜にした。
喋りかけながら、唇が触れそうな近距離で、ずっとCシーが男の目を見つめているので、頭が爆発するかと思った。

「ふふ、他にも方法はあるんですけど、これがいちばん楽で……」
「他の方法ってどんなんだ?」
「天眼で相手を魔法陣に3時間ほど閉じ込めればコピーできますよ。でも時間も魔力もかかり過ぎますから、面倒なんですよ」
「他の方法にしろ」
「なんで貴方に指図されないといけないんですか」

しまった、Cシーに喧嘩を売りたいわけじゃない。機嫌を損ねたみたいで、Cシーはプイとそっぽを向いた。

「なぁCシー、もしかして兄弟にも使ったことあるのか?」
「そりゃありますよ? でも許可も頂いてますし、人間の姿ではした事がありませんよ。何か問題でも?」

これはだめだ。絶対、勘違いする兄弟が出てくる。

親父殿が確立した伴侶制度、俺が使う日は来ないだろうなあと思っていたが、他の男に盗られない内に、Cシーを伴侶にしたいという気持ちが、一段と強くなった。

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