上 下
6 / 112

格下※C視点

しおりを挟む
父上やAエイに比べると、私は一回り体格が小さい。私のスキルは便利ではあるが、Aエイのスキルと比べると器用貧乏に近いものだ。基礎ステータスの伸びは、真似のしようがないので、それ以外の部分を伸ばしていった。

Aエイの、その強さに助かったことは多い。まだ私が弱かった時、窮地に立つと、きまって「俺の兄弟に何するんだ」とAエイは駆けつけて助けてくれた。危険予知というスキルの賜物らしいが、その対象は1匹だけにしか指定出来ないらしい。
「私ではなく、父上にすればいいのに」と言ったら「親父殿は俺より強いのに助ける必要ないだろ。レアスキル持ちの兄弟の中で、お前がいちばん危うい。単独行動も多いしな」と言われたのは、記憶に新しい。

今も危険予知の対象は私であるらしい。「Cシーが死んだら、俺の仕事が増えるだろーが」と、私を陰から見守ってくれているのは知っていたが、その強さに、優しさに、いつの間にか依存していたということなのだろうか。
Aエイの居ない世界が考えられなかった。

女として犯されたとしても、Aエイを私は殺せない。
私にとって、それだけ長兄は大きな存在だった。

(人間の女に変化しているということを、あまり重要視していなかったのは、迂闊でした……)

男と女ではあるが、Aエイの女の趣味の悪さは有名で、私はそうゆう対象から外されているだろうと、安心しきっていた。

女として抱かれるだなんて、死にたくなるほどの屈辱なはずなのに、Aエイへの嫌悪感は一切なかった。むしろAエイの体温は心地よく、もっと触れていたいほどだった。
人間だった頃の名残なのだろうか。Aエイと体を重ねた時、私の体は歓喜に満ちた。女を抱くより、強い快楽に飲み込まれた。

(私は女なのか? それとも男なのか?)

ディーが言うように、性別なんて関係ない、と思っていたが、どちらかというと女であるような気がする。男として生きている時間のほうが長いのに、である。
それが意味するものを察して、私は頭を抱えた。

(私は、もしかしてAエイに惹かれているのか……? 女として…? 兄弟なのに……?)

はっきりと、そう自覚して、私は頬が熱くなるのを止められなかった。
だからAエイに手を握られた時に、振り払って、逃げたくなったのだろうか。気が付いたところで、やり場のない想いだ。思い返せば、私はずっとAエイを意識していた。

最初は復讐のためだった。

けれど、復讐を晴らす日が近づくにつれ、気持ちの落ち込みは酷くなった。魔王に復讐したところで、お母様やお父様、どんなに悪戯をしても優しかったメイドやコック、私の遊び相手になってくれた精霊たちが戻ってくるわけではない。
私はゴブリンになったし、あの幸せだった日常が戻るはずもない。
私が死に物狂いで強くなったのは、父上とAエイに、認められたかったのだ。隣に並び立つに相応しい、強者として。

(私は……)

快楽に濡れた目をしたAエイの顔を思い出す。昼間は私が目立ち過ぎだとAエイは文句を言っていたが、Aエイだって通りすがりの女が振り返るぐらいには精悍な顔立ちで、とやかく人の事を言えないと思った。
傍目から見ると、さぞや目立つ2人だったろうな、と思う。

「こちらの気持ちも知らず、幸せそうな顔をして……」

あれだけ暴れまわったからか、安らかな眠りに落ちたAエイの満足そうな寝顔を見て、複雑な気分になる。

「……魔力、全然回復しない……」

Aエイの吸魔スキルの効果が、まだ続いているらしい。私はため息をつくと、お風呂に入ることにした。Aエイに抱かれた痕跡を洗い落としたかったのもあるが、1人になりたかったからだ。

湯舟に入って、ぼんやりしていると、

「なんだ、これ…… とまらない……」

ぼろぼろと涙が零れ落ちてきたが、ぜったいAエイには弱みを見せたくなかったから、Aエイが寝ていてよかった、と思った。

(今はまだ、妊娠していないようだけど……)

やはり1番気になるところは、そこだった。何度も何度も鑑定スキルで自分の状態を確認し、腹に手を当てる。

今回、こんなことになってしまった原因は酒の飲み過ぎであり、事故みたいなものだ。だが、これでAエイの子を妊娠してしまったら、しばらくの間は人間のままで、行動が制限されてしまう。それだけは避けなければいけなかった。

(そういえば、美里みさとが、ピルが云々言ってましたね……。何か堕胎薬みたいなものを持っているのでしょうか……)

もう寝ているかな、と思ったが、至急の用件であったため、私はお風呂からあがると美里みさとに連絡をした。突然の電話に美里みさとは驚いていたが、どうしてそんなものが必要なのかと深くは聞いてこなかったので、助かった。

「疲れた……」

今度は絶対別々の部屋で泊まろう。
そう思いながら、よろよろとAエイが寝ているベットの横に潜り込み、気力と体力の限界だった私は目を閉じた。


しおりを挟む

処理中です...