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旅のお伴 ※勇者視点

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「シアに似たハーフゴブリンとか産めない? それだったら愛せる気がするんだけど……アグリアスみたいに、ポーンと産まれないかなあ」
「なんで貴方にハーフゴブリンを渡さないといけないんですか。ハーフゴブリンだったら、次こそ私が育てるんですから……!」
「まぁ、俺としたら、シアが抱けるなら、それが一番なんだけどさ? 妥協案だよね」
「それこそないですね。死にたいんですか?」
「まだ死にたくないねえ」

そんな会話をシアとしたのは10年ほど前の話だ。
身辺整理をしたから、奴隷商人として足を洗い、俺は身軽になっていた。再び奴隷商人をするのか、それとも何か別の事を始めるのか悩んだが、シアとAエイに救われなければ、死んでいた命だ。しばらくエルサドで療養してから、思い切って、前々からしたいと思っていた長旅をする事にした。
この世界は大陸が8つあり、ミゲルが支配しているのは、その内の1つに過ぎない。お隣の大陸には行ったが、それ以外は訪れたことがなかった。

世界は広い。

俺は、色々な経験を積んで、エルサドに戻った。

「シア、ひっさしぶり~!」
「もう死んだのかと思っていましたよ。この10年、どうしていたのです?」
「あ、もうそんなに経ってた? けっこう忙しくてさー。……でも、シア不足で干からびそうになったよ」
美里みさとと同じような事を言わないで下さいよ……」

エナジードレインは凄い。
1度シアの精気を吸っただけで、かなり長持ちする。

(これで、シアが俺の伴侶だったら最高だったんだけどなぁ)

シアの精気と、他の女の精気は雲泥の差だった。単純に俺の体と相性が良いのかもしれないが、何しろ愛の女神の精気だ。
普通の女では、比較にならないのかもしれない。

「そういえば美里みさとのファンクラブ入ったよ。500万人目だった。凄くない? 特別にシアの等身大ダッチワイフ作って貰ったんだけど、中々良い出来栄えだったよ」
「それ、持ってきて頂けません? 八つ裂きにするので」
「ハハ、使用済みだから、だめだねー」
「何に使用したんですか、何に……!?」
「何って、ダッチワイフだし、勿論……」
「もういいです、何も言わないでください!」

顔を真っ赤にして怒るシアが可愛すぎる。毎日Aエイに抱かれているだろうに、何時まで経っても初心なままだ。

「ん? その子って、もしかして……」
「可愛いでしょう! 私の娘です!」
「おっきくなったねぇ。前に見た時は、よちよち歩きしていたのに」

シアは赤毛の髪の毛の女の子を抱き上げた。推定10歳ぐらいだろうか。髪の毛は肩より上のところでカットされている。
Aエイが不貞腐れたような顔をしているのは、その子供が原因なんだろうか。どうせシアが構ってくれないとか独占欲が原因なんだろうなあと思いながら、「これいる?」と言って、俺はその女の子に虹色の飴をプレゼントした。ゴブリンだったら味の違いは分からないだろうけど、ハーフゴブリンなら殆ど味覚は人間と変わらないはずだ。

「これ、なぁに?」
「美味しいよ。少し舐めてごらん」

女の子は、おそるおそる口にして、「美味しい……! これ、どこで売ってるの?」と目を輝かして喜んだ。「これはね、ある大陸にある村長から頂いたものでね……」俺は求められるままに、旅の話をした。

「すっかり長居しちゃったね。そろそろお暇するよ。また今度来る時に、お土産持ってくるね」

10年ぶりの商談も終わり、俺は何時ものように出ていくつもりだった。

「私もお兄ちゃんに、ついてく! エルサド出て、色んなとこに行きたい!」
「……は?」
「何を言っているのですが!? まだ貴方には早いですよ、ジェシカ!」
「また子供扱いして! 私、もう13だもん! 早くないよ!」

その後、色々あって、俺はその赤毛の子を連れて行く事になってしまった。

ジェシカは「行かせてくれないなら、家出してでも行く!」と言い出して、最終的にシアの許可をもぎ取った。

「もっと手元に置いて、育てたかったのに……!」と、めちゃくちゃシアに恨まれたのには困ったが、何時も1人で旅をしていたから、ジェシカとの旅は、凄く楽しかった。

ジェシカと旅を始めて数年後、ジェシカに猛アタックされて拒み切れなかった俺は、ジェシカを伴侶にしてしまった。その頃にはジェシカはナイスバディでロングヘアな美人さんに育っていて、顔はシアにはあまり似ていないけど、正直な話、見た目はドストライクだった。

性格はAエイ似だった。何事に対しても探求心が旺盛だったので、俺は引きずれるように、あちこちへ連れ回された。そして、恋愛に対しても情熱的で、伴侶になって欲しいとのジェシカの申し出を断っても、諦めないでアピールしてきた。

でも、気になることが1つだけあった。

「俺を伴侶にしても、子供出来ないよ? 本当にいいの……? ジェシカなら、もっと良い人いると思うけど」

ハーフゴブリンとはいえ、ジェシカは、これだけの美人さんだから、引く手数多だった。

「私はリョータがいればいいの! それともリョータは私じゃ不満ってわけ!? やっぱりお母様がいいの??」
「いや、そうゆうわけじゃないけど……」

ジェシカは、俺の言葉に頬を膨らませて抗議した。共に過ごす時間が長くなるにつれ、すっかりジェシカには頭が上がらなくなっていた。

「……俺でいいなら、ジェシカの伴侶になるよ」
「嬉しい! お母様は私が説得するから、安心してね!」
「うーん、そこが一番の難所だね……」

こうして俺は最初で最後の伴侶を得たのだった。







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