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生活

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シアは親父殿好みの美しい女だ。
親父殿が伴侶にする、と明言したのには、アルファベットへのけん制もあるだろうが、その下に見え隠れするのはCシー自身への執着もあるだろう。元々親父殿はCシーを目に入れても痛くないほど溺愛していた。
最近、親父殿はCシーを心配してか、エルサドに頻繁に来るようになったが、あれは子を見る目じゃない。女を見る目だ。伴侶になれば、手元に置いて、抱くこともあるかもしれない。

(どうやって、俺はCシーと伴侶になったんだ……? プライドの高いあいつが俺を受け入れて伴侶にするなんて、相当な苦悶があったはずなのに……)

ステータス上は、驚くほどに強い生き物なのに、無理に曲げたらポキリと折れてしまいそうなほど、儚い存在に見えた。

(俺がCシーを女にするとか……。あの気の強いCシーをどうやって……?)

若い女に興味のない俺が目を奪われるほどだ。

親父殿が真っ先に手を上げたように、Cシーと離縁すれば、すぐに他の男が狙うことは明白だった。そして一度他の男の伴侶になれば、いくら俺の記憶がよみがえったとしても、真面目なCシーは復縁を断る可能性が高い。

(だめだ、それだけは……)

まだ自分自身の気持ちさえ、よく分かっていなかった。いっしょに居て居心地が悪いのは、女として意識してしまうからに他ならなかった。兄弟に対して、そのような意識を持つということが信じられなかった。記憶が無くなってから、ずっと気持ちは揺れており、今ここでCシーを手放せば、後悔するのは目に見えていた。

(……なんであいつと伴侶になった期間の記憶だけないんだ?)

歯がゆい。むしろ逆のほうが良かった。他がなくても、Cシーと伴侶になった、その期間の記憶さえあれば、問題なく過ごせていたはずだ。

嘘でいいから、記憶があるふりでもすればよかった。そうすれば、俺はすべてを手に入れたままだったのに。

Cシーと伴侶になる前の俺も、こんな感じだったんだろうか……)

俺がCシーに執着するなら、余程体の相性が良かったのだろう。Cシーの艶やかな姿を想像してしまって、ごくり、とのどを鳴らした。

(あーぁ、2度も、こんな扱いの難しいやつを好きになるとはなぁ……)

俺の強みはステータスの数値の高さだった。そのステータスがスキルの影響で同じになっている現状、無理にCシーを手籠めにすることは出来ない。

以前の俺なら出来たんだろうけど、すんなりCシーが俺の伴侶になったとは思えない。何時記憶が戻るのかわからないのだから、いちから関係を構築し直したほうが早いのかもしれない。

(そーするか?)

ここ最近は、まともにCシーを見ることさえ出来なくなっていた。そんな俺に配慮してか、Cシーもシアに変化することはなく、淡々と俺に接するようになった。

そうして記憶を失った、あの日以来、シアを見ることはなくなった。Cシーとの関係を築き直せば、シアを見れるようになるかもしれないし、絵に描かれていたような笑顔も見れるかもしれない。ここ最近は、Cシーが笑うことも減ったような気がする。

Cシーの表情……。暗いもんなあ……)

あのワイが注意しに来るほどだ。なるべくCシーに配慮して生活をしているつもりだが、俺が思っている以上に、Cシーは傷ついているのかもしれない。

独りで悶々とするよりも、少しでも早く行動に移したほうが良い気がして、俺は立ち上り、Cシーを探した。

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