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暗闇の歴史
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「こんなところに水晶が……女たちが喜びそうだな」
透明度の高い、大きな水晶が壁面を埋め尽くしているのを見て、俺は感嘆の声をあげた。鑑定をすると、水晶の質は高いようだ。何かに役立つかもしれないし、ここは地図にチェックしておいたほうがいいだろう。
「私は水晶よりお酒が欲しいですねぇ」
「ルシー。また朝っぱらから酒を飲んでるのか? 少しは控えろ」
「だって、他に飲んでるゴブリン居ないじゃないですか? 腐るだけです。もったいないですよ」
俺の感動が台無しだ。
酒臭い匂いをプンプンさせながら、ルシーが歩いて来た。ルシーは興味なさげに水晶を一瞥すると、欠伸をした。
今居る場所は、暗闇の洞窟と呼ばれるダンジョンの内部だ。
海沿いの断崖絶壁の上にあるため、たまに海鳥が迷い込むぐらいで、あまり人も魔物も近寄ってこない。俺と息子たちはここを住処にしているのだが、この洞窟、奥が永遠と続いており、どこに繋がっているかもわからない。
まるで迷路のようになっており、以前リーダーに聞いた話では即死級の罠が点在しているらしい。
しかし、住処としている以上、どのような魔物が出て、どのような地形なのか把握しておかなければいけないだろう。
何しろ女とセックスしている間は隙だらけだ。
未知の魔物に、背後から襲われましたでは話にならない。
縄張りも広がり、余裕も出てきたので、少しずつ住処を拡張するような形で、危険な魔物のテリトリーは出来るだけ荒らさぬよう探索に出た。
ルシーは治癒魔法が使えるし、ある程度自分の身も守れるので、俺と共に行動している。
洞窟なだけあって、レアな鉱物の宝庫であるようだった。水源もあちこちにある。その成果には目も見張るばかりだが、特に大きかったのは遺跡の発見だ。
足を踏み入れたら、灯篭みたいなものがあり、近づくとあきらかに人工的な光がともったので驚いた。
そして、眼下に広がる光景に恐怖した。
強い怨念を残した魂が無数に浮いていた。
これが見えないとは、何とも幸せなことか。
ルシーや息子たちは、魂は目もくれず、それぞれの興味が赴くものへと足を運んだ。まだ誰も手を付けたことがないと思われる、様々な出土品が見つかった。
錆びのない魔法剣や防具、この辺りでは採れない鉱石、また何点か書物も見つかり、歓声が上がった。
それは、大きな収穫だ。
息子たちの中には鍛冶師など生産に関わる職業のスキルを持つ者もいたが、実際には設備や材料が乏しいため機能していなかった。
この発見が、それを補ってくれるものになるだろう。
だが――
俺は喜ぶ気分になれなかった。
それは、この地域に住むゴブリンの歴史にも関係があった。
ゴブリンの他には何もないこの地域に、たまに冒険者が訪れる。
なぜなのか。
それは我々の精液が強い催淫薬となるからだ。
その事自体に疑問を持ったことはなかった。
ゴブリンとはそうゆうものだと思っていたからだ。
でも違った。
我々はゴブリンの中でも特殊な存在のようだ。
浮いている魂に触れると、彼らが持つ惨劇の記憶に吐きそうになった。
数十年も前に命を絶たれたのに、いまも魂たちは悪夢にうなされている。
彼らはこの近くで栄えていた都市の住人だった。
それが他の国から侵攻を受けた。
その国は特殊な才能を持つ者がいた。
魔物を従属し、操る才能だった。
魔王グスティフ。
侵略者はすべてを破壊し、この国を支配した。
国に住んでいた人間すべてが彼女の好奇心と優越感を満たすだめに実験材料となったのだ。
その支配は勇者が降臨した十数年前まで続いたという。
この洞窟はその中でも、秘密裡に行われる研究所のようであった。
獣人とオーク、人間とエルフ。そうやって交配の過程で出てきたのが、自分たちの種族で、厳密にはゴブリンであってゴブリンではない。
交配によって生み出された種族の成功例ともいえた。
だが幸か不幸か、催淫薬は魔王の興味を惹かれなかったようだ。
ゴブリンは争乱の中で生き残り、洞窟を住処として選んだのだ。
つまり我々は無意識的に守っていたのだ。
この遺跡を。
魂となった同胞を。
そこに何があるのかも知らずに。
――つらいかなしいいきたかった
「これは記憶の断片か……?」
死の間際に女たちが何を思っていたのかは分からない。
だが、魔王の女が、腹の出た女たちを笑って足蹴にする記憶の断片が脳裏に過った。
魔王がやっている事は俺がやっている事とたいして変わらない。
だが、なぜこんなに腹が立つのか?
魂に触れることで、感覚を共有してるからかもしれない。
「……全部、食べてやろう」
当てなく彷徨い続ける魂を。それで何かが解決するわけではない。だが、このまま暗闇で漂ってるよりは、マシな気がした。
「お前たちを我が息子として蘇らせてやる」
手始めに俺は、ひときわ輝きの強い魂を食べた。
透明度の高い、大きな水晶が壁面を埋め尽くしているのを見て、俺は感嘆の声をあげた。鑑定をすると、水晶の質は高いようだ。何かに役立つかもしれないし、ここは地図にチェックしておいたほうがいいだろう。
「私は水晶よりお酒が欲しいですねぇ」
「ルシー。また朝っぱらから酒を飲んでるのか? 少しは控えろ」
「だって、他に飲んでるゴブリン居ないじゃないですか? 腐るだけです。もったいないですよ」
俺の感動が台無しだ。
酒臭い匂いをプンプンさせながら、ルシーが歩いて来た。ルシーは興味なさげに水晶を一瞥すると、欠伸をした。
今居る場所は、暗闇の洞窟と呼ばれるダンジョンの内部だ。
海沿いの断崖絶壁の上にあるため、たまに海鳥が迷い込むぐらいで、あまり人も魔物も近寄ってこない。俺と息子たちはここを住処にしているのだが、この洞窟、奥が永遠と続いており、どこに繋がっているかもわからない。
まるで迷路のようになっており、以前リーダーに聞いた話では即死級の罠が点在しているらしい。
しかし、住処としている以上、どのような魔物が出て、どのような地形なのか把握しておかなければいけないだろう。
何しろ女とセックスしている間は隙だらけだ。
未知の魔物に、背後から襲われましたでは話にならない。
縄張りも広がり、余裕も出てきたので、少しずつ住処を拡張するような形で、危険な魔物のテリトリーは出来るだけ荒らさぬよう探索に出た。
ルシーは治癒魔法が使えるし、ある程度自分の身も守れるので、俺と共に行動している。
洞窟なだけあって、レアな鉱物の宝庫であるようだった。水源もあちこちにある。その成果には目も見張るばかりだが、特に大きかったのは遺跡の発見だ。
足を踏み入れたら、灯篭みたいなものがあり、近づくとあきらかに人工的な光がともったので驚いた。
そして、眼下に広がる光景に恐怖した。
強い怨念を残した魂が無数に浮いていた。
これが見えないとは、何とも幸せなことか。
ルシーや息子たちは、魂は目もくれず、それぞれの興味が赴くものへと足を運んだ。まだ誰も手を付けたことがないと思われる、様々な出土品が見つかった。
錆びのない魔法剣や防具、この辺りでは採れない鉱石、また何点か書物も見つかり、歓声が上がった。
それは、大きな収穫だ。
息子たちの中には鍛冶師など生産に関わる職業のスキルを持つ者もいたが、実際には設備や材料が乏しいため機能していなかった。
この発見が、それを補ってくれるものになるだろう。
だが――
俺は喜ぶ気分になれなかった。
それは、この地域に住むゴブリンの歴史にも関係があった。
ゴブリンの他には何もないこの地域に、たまに冒険者が訪れる。
なぜなのか。
それは我々の精液が強い催淫薬となるからだ。
その事自体に疑問を持ったことはなかった。
ゴブリンとはそうゆうものだと思っていたからだ。
でも違った。
我々はゴブリンの中でも特殊な存在のようだ。
浮いている魂に触れると、彼らが持つ惨劇の記憶に吐きそうになった。
数十年も前に命を絶たれたのに、いまも魂たちは悪夢にうなされている。
彼らはこの近くで栄えていた都市の住人だった。
それが他の国から侵攻を受けた。
その国は特殊な才能を持つ者がいた。
魔物を従属し、操る才能だった。
魔王グスティフ。
侵略者はすべてを破壊し、この国を支配した。
国に住んでいた人間すべてが彼女の好奇心と優越感を満たすだめに実験材料となったのだ。
その支配は勇者が降臨した十数年前まで続いたという。
この洞窟はその中でも、秘密裡に行われる研究所のようであった。
獣人とオーク、人間とエルフ。そうやって交配の過程で出てきたのが、自分たちの種族で、厳密にはゴブリンであってゴブリンではない。
交配によって生み出された種族の成功例ともいえた。
だが幸か不幸か、催淫薬は魔王の興味を惹かれなかったようだ。
ゴブリンは争乱の中で生き残り、洞窟を住処として選んだのだ。
つまり我々は無意識的に守っていたのだ。
この遺跡を。
魂となった同胞を。
そこに何があるのかも知らずに。
――つらいかなしいいきたかった
「これは記憶の断片か……?」
死の間際に女たちが何を思っていたのかは分からない。
だが、魔王の女が、腹の出た女たちを笑って足蹴にする記憶の断片が脳裏に過った。
魔王がやっている事は俺がやっている事とたいして変わらない。
だが、なぜこんなに腹が立つのか?
魂に触れることで、感覚を共有してるからかもしれない。
「……全部、食べてやろう」
当てなく彷徨い続ける魂を。それで何かが解決するわけではない。だが、このまま暗闇で漂ってるよりは、マシな気がした。
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