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謁見 ※人間視点
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王都が陥落して数日が経った頃。
私は新たな支配者となったゴブリンの王に謁見を許された。
精巧な金細工と宝玉に彩られた優美な玉座には、足を組んだ無表情のゴブリンの王が座っていた。その太い腕には上機嫌な女が、しなだれ掛かっている。
レースが贅沢に使われた、ゴージャスな深紅のドレスを装う、妖艶な女だ。大胆にも、ドレスは太ももが大きく見えるデザインになっている。睫毛は長く、唇の斜め下にほくろがある。
ため息をつきたくなるほどの美貌だ。これほどの美しさがあれば、王都でも話題になっていてもおかしくないが、聞いたことがない。育ちの良さそうな、品の有る顔立ちからして、深窓の令嬢なのか、それとも誰かの愛人となっていた貴族崩れの娼婦なのか。
どこからか遠い場所からゴブリンが攫ってきた女だろうか。思わず想像を掻き立てるような、神秘性が女にはあった。
「ご苦労だったな、楽にするがいい」
ゴブリンの王は視線が合うだけで射抜かれるかのような威圧感がある。
王は喋ることを好まないらしく、謁見する際には王の右腕と名高いCという名前の幹部が代弁することが常だ。
慇懃丁寧で柔らかい物腰の男なのだが、これがまた厄介なことにゴブリンにしては知略に長ける。腹の底まで見透かれるような慧眼を持つのだと、つい先日、友人であるギルドマスターが舌を巻いて帰ってきたのが記憶に新しい。
ただし、私がCというゴブリンを見るのも、王を見るのも初めてである。戦場で垣間見えたのは圧倒的な力で城壁を破壊して突破した、その姿だけだった。
「王はお前が剣の師をなる事を所望されている。拒否権はないが、質問があれば応じよう」
「…なぜ私が選ばれたのでしょうか。他にも、私以上の剣の使い手はおります」
「この国の騎士たちは、護衛対象である王を玉座に縛り、それを囮にして、国から逃げ出そうとしたのだ。忠誠心はどこに行ったのだろうか?」
ひどい話だ。
ふだんから高給取りの我らであるが、その分責任も付きまとう。しかし土壇場になって、彼らは命が惜しくなったのか、身を翻したした。だが、そうする理由が私には痛いほど分かった。みな親もいれば妻も子供も、家族がいる。人間である以上、誰でも死にたくはないだろう。
しかもあの時、王は「私のために死ね」と言って私たちを盾にして、女子供を連れて逃げようとしていた。積年のつもりに積もったものが決壊し、堪忍袋の緒が切れたのだろう。
これは命を懸けて守る価値のある王なのだろうか。私でさえ迷った。王よりも、何の罪もない民を逃がしたかった。
「王の拳は勇者が持つ光の剣すら破壊する。肉体も鋼を通さないほど頑丈なものだ。剣も盾も不要であるが、宝物庫で喋るクソ女――いや、失敬、自称神器に気に入られ、憑りつかれてしまわれたのだ。何度も封印しようとしたのだが、破壊される始末でな」
「宝物庫? 自称神器? まさか国宝のアイリーンですか……?」
国の守り神として宝物庫に安置されていたはずだ。
あの剣は数百年ぐらい前に、英雄ヴァンサが所有していたものだ。意思のある剣で、主は自ら選ぶと言われていたのだが、何十代も前から鞘から出ようとしないので、ただの伝説ではないだろうかと言われていたぐらいだ。
鞘だけでも絢爛豪華な拵えなので、最近では、祭事の時にのみ使われていたはずだ。
「一目惚れだったんだもの。ねぇ、我が主様」
「お前の主になった覚えはない」
「アイリーンってお呼びくださいって言ったでしょう? ふふッ、妾を手にしたら、契約は完了しているのよ?」
「とんだ災難だ。説明を怠った宝物庫の管理者は肉にしてやる」
「彼は功労者よ? 妾に免じて許してあげて」
うっとりとした表情で王を見ていたアイリーンは、不意に目の色を変えた。
「……あらあら、これは……」
王の下腹部を覆っている毛皮を捲り、膨れ上がった肉棒にキスをした。
「は!? お前、何をする!?」
「主様の状態は何もせずとも手に取るように分かるのよ。妾が抜いて差し上げますわ」
狼狽するゴブリンの王を襲う国宝アイリーンの構図に頭が痛くなってくる。Cがクソ女と表現するのも頷けた。
おそらくは昨夜からこの状況に頭を悩ませていたのだろう。
恋に狂ったアイリーンの愚行を見ていると、まるで王がまともに見えてくる。口で王の肉棒を愛おしそうに奉仕していたアイリーンだが、考えが変わったのか口を離した。急遽その胎内に、太く膨張した王の肉棒を埋め込み、いやらしくも巧みな腰使いで快楽を貪り始めた。
「――はぁん! あぁんッ! ……見込んだ通りだわ! やっぱり主様、素敵ぃ!」
さすがの王も理性の限界になったのか、アイリーンの腰を掴むと激しく腰を動かし、その肉体を蹂躙した。王はアイリーンの中に何度も中出しをし、アイリーンの感極まった嬌声が響いた。女と男の、ぶつかり合うような濡場が続く。
性に淡泊な私は目のやり場に困り、視線を床に落とした。
奔放な女であったとは歴史書の一節で読んだことがあるが、まさか万年発情期の痴女であったとは。そんな女を国宝として我らは日夜崇めていたのか。
失意の余り、無神論者になる考えさえ浮かんできた。
私は新たな支配者となったゴブリンの王に謁見を許された。
精巧な金細工と宝玉に彩られた優美な玉座には、足を組んだ無表情のゴブリンの王が座っていた。その太い腕には上機嫌な女が、しなだれ掛かっている。
レースが贅沢に使われた、ゴージャスな深紅のドレスを装う、妖艶な女だ。大胆にも、ドレスは太ももが大きく見えるデザインになっている。睫毛は長く、唇の斜め下にほくろがある。
ため息をつきたくなるほどの美貌だ。これほどの美しさがあれば、王都でも話題になっていてもおかしくないが、聞いたことがない。育ちの良さそうな、品の有る顔立ちからして、深窓の令嬢なのか、それとも誰かの愛人となっていた貴族崩れの娼婦なのか。
どこからか遠い場所からゴブリンが攫ってきた女だろうか。思わず想像を掻き立てるような、神秘性が女にはあった。
「ご苦労だったな、楽にするがいい」
ゴブリンの王は視線が合うだけで射抜かれるかのような威圧感がある。
王は喋ることを好まないらしく、謁見する際には王の右腕と名高いCという名前の幹部が代弁することが常だ。
慇懃丁寧で柔らかい物腰の男なのだが、これがまた厄介なことにゴブリンにしては知略に長ける。腹の底まで見透かれるような慧眼を持つのだと、つい先日、友人であるギルドマスターが舌を巻いて帰ってきたのが記憶に新しい。
ただし、私がCというゴブリンを見るのも、王を見るのも初めてである。戦場で垣間見えたのは圧倒的な力で城壁を破壊して突破した、その姿だけだった。
「王はお前が剣の師をなる事を所望されている。拒否権はないが、質問があれば応じよう」
「…なぜ私が選ばれたのでしょうか。他にも、私以上の剣の使い手はおります」
「この国の騎士たちは、護衛対象である王を玉座に縛り、それを囮にして、国から逃げ出そうとしたのだ。忠誠心はどこに行ったのだろうか?」
ひどい話だ。
ふだんから高給取りの我らであるが、その分責任も付きまとう。しかし土壇場になって、彼らは命が惜しくなったのか、身を翻したした。だが、そうする理由が私には痛いほど分かった。みな親もいれば妻も子供も、家族がいる。人間である以上、誰でも死にたくはないだろう。
しかもあの時、王は「私のために死ね」と言って私たちを盾にして、女子供を連れて逃げようとしていた。積年のつもりに積もったものが決壊し、堪忍袋の緒が切れたのだろう。
これは命を懸けて守る価値のある王なのだろうか。私でさえ迷った。王よりも、何の罪もない民を逃がしたかった。
「王の拳は勇者が持つ光の剣すら破壊する。肉体も鋼を通さないほど頑丈なものだ。剣も盾も不要であるが、宝物庫で喋るクソ女――いや、失敬、自称神器に気に入られ、憑りつかれてしまわれたのだ。何度も封印しようとしたのだが、破壊される始末でな」
「宝物庫? 自称神器? まさか国宝のアイリーンですか……?」
国の守り神として宝物庫に安置されていたはずだ。
あの剣は数百年ぐらい前に、英雄ヴァンサが所有していたものだ。意思のある剣で、主は自ら選ぶと言われていたのだが、何十代も前から鞘から出ようとしないので、ただの伝説ではないだろうかと言われていたぐらいだ。
鞘だけでも絢爛豪華な拵えなので、最近では、祭事の時にのみ使われていたはずだ。
「一目惚れだったんだもの。ねぇ、我が主様」
「お前の主になった覚えはない」
「アイリーンってお呼びくださいって言ったでしょう? ふふッ、妾を手にしたら、契約は完了しているのよ?」
「とんだ災難だ。説明を怠った宝物庫の管理者は肉にしてやる」
「彼は功労者よ? 妾に免じて許してあげて」
うっとりとした表情で王を見ていたアイリーンは、不意に目の色を変えた。
「……あらあら、これは……」
王の下腹部を覆っている毛皮を捲り、膨れ上がった肉棒にキスをした。
「は!? お前、何をする!?」
「主様の状態は何もせずとも手に取るように分かるのよ。妾が抜いて差し上げますわ」
狼狽するゴブリンの王を襲う国宝アイリーンの構図に頭が痛くなってくる。Cがクソ女と表現するのも頷けた。
おそらくは昨夜からこの状況に頭を悩ませていたのだろう。
恋に狂ったアイリーンの愚行を見ていると、まるで王がまともに見えてくる。口で王の肉棒を愛おしそうに奉仕していたアイリーンだが、考えが変わったのか口を離した。急遽その胎内に、太く膨張した王の肉棒を埋め込み、いやらしくも巧みな腰使いで快楽を貪り始めた。
「――はぁん! あぁんッ! ……見込んだ通りだわ! やっぱり主様、素敵ぃ!」
さすがの王も理性の限界になったのか、アイリーンの腰を掴むと激しく腰を動かし、その肉体を蹂躙した。王はアイリーンの中に何度も中出しをし、アイリーンの感極まった嬌声が響いた。女と男の、ぶつかり合うような濡場が続く。
性に淡泊な私は目のやり場に困り、視線を床に落とした。
奔放な女であったとは歴史書の一節で読んだことがあるが、まさか万年発情期の痴女であったとは。そんな女を国宝として我らは日夜崇めていたのか。
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